15 元仲間 長く続いた戦争の停戦と捕虜クルトア姫の努力
戦局は魔王軍が優位に進めていて女神擁する王国軍は相当押し込まれていた。
そこへ、女神と共にやって来たハルトとリューイチが異世界からの救世主として最前線へ送り込まれたのだ。
聖騎士リューイチのパワーとスピードは圧倒的だった。最前線の赤鬼をガンガン斬りまくり、大賢者ハルトは味方を支援しながら途方もなく大きな魔法を放った。
二人の参加で王国軍は完全に勢いを取り戻して、戦いは王国軍がかなり押していた。
魔王軍は最前線の拮抗していたところが一度崩れると、そこから立て直すのは容易なことではなかった。総崩れになるのは何とか防いだものの、じりじりと後退せざるをえなかったのだ。
たくさんの赤鬼が倒された魔王軍は、そこに魔人ホークアイをまわし、補てんの青鬼軍団をサポートとして配備し、魔法で防御中心で戦うのがやっとだった。
後退しながら戦局を立て直すことで、ほぼ以前の国境境界線の辺りまで戻ってしまったのだ。それでも、守りの固い魔人ホークアイは流石で、このあたりで戦線は再び膠着することになったのだ。
とても長い時をかけて戦い続けた両国は、結局元の木阿弥となったことで、国も兵士も相当に疲弊しお互いに莫大な被害を出したのにも係わらず、何も得られず無駄な戦いをしてきたという感があったんだ。
そこで、魔王軍からは戦争を中断してはどうかという意見が出てきていた。魔王軍四天王の一人シャルトアーナは停戦の仲介を、この戦争には中立の立場をとっているエルフの長老ジョルメンテにとってもらう為に動いていた。
長老ジョルメンテは既にエルネ王国のイーリス王女(件の女神樣である)に働き掛けてようやく約束を取り付けていた。停戦の条件としては幾らかの捕虜をお互いから出すことで合意していた。
魔王軍からは魔王の妹クルトアが、エルネ王国からは女神イーリスの弟のルークス王子の名が上がっていた。
この条件を呑むか断るかの是非が魔王の配下の間で紛糾していた。何といってもクルトアは魔王がとても可愛がっていて魔の国でも高い人気があったからだ。
それでも今の戦局はかなりエルネ王国の優勢に傾いていて魔王軍としてはここで停戦にこぎ着けるのはありがたかったのだ。
そして、クルトア本人も停戦し両国に平和が訪れることを心から願っていた。
そんな経緯があって当日を迎えた。
この日は示し合わせたとおり、両軍とも戦闘を中止して最前線の境界線から少し後退したところで待機していた。
陽が天中に差し掛かる前には停戦の証に差し出される者たちが姿を現していた。
先に姿を見せたのは魔王の妹、クルトアだ。小さな身体にカワイイ角が二本、肌は白く一本一本が細く長い銀の髪は、儚い美しさをいっそう際立てている。
この件を任された四天王の魔人シャルトアーナと、副官の炎を自在に操る魔人アルフレイドが付き人としてガードに付いている。彼女らは自らこの役を名乗り出たのだ。
他にもシャルトアーナの配下の者たちは30名ほどが姫様に何かあってはいけないと、サポートしながらガード役として同行していたんだ。
姫君の一団は魔王軍にも見守られながら王国軍からの捕虜がやって来るのを待っていた。
「姫様 !! やはり、あなた様が行かれる程のことではないですよ ! あまりにも危険ですじゃ !! 」
「心配かけてゴメンね。アルタイル ! だけどボクはこの身を差し出すことでみんなに平和な日々が訪れるなら、どんなに辛い目に合っても良いと強く思ってるんだ !! ここまで来たら、もう引き返せないんだからね ! 」
「ええ、ええ ! 姫様のお心は、よう知っております故に… ですがじいは、心配で、心配で…… 」
「ボクは大丈夫だよ !」
「「「姫様ーーーーー !!!! うううーー !!」」」
魔王の妹クルトアはまだ成人前だというのに、配下にずいぶんと慕われているようだ。
すると、クルトアたちの居るところから王国軍の方から女神の弟ルークス王子と付き人4人ほどの姿が見えた。
こちらは魔王軍の一団とは異なり、付き人は女神が指名して決められていたのだ。断ることなどあり得なかった。
そして何故なのか付き人の中の一人に、俺と一緒にこの異世界に来たリュウイチが加わっていた。
クルトアたちはルークス王子の一団がこちらに進んでくるのを確認しながら自分達も同じように敵国の方へと進んでいった。
捕虜と付き人は武器を持たず丸腰だ。事前に決めた約束を信じるしかないのだ。