12 スラコとスラミがゴツい魔法吐いたけどコイツら最強じゃね ?
イージーダンジョンを周回してレベル75まで上げたナターシャはグレートヒールの回復魔法で、自分の顔と腕や足、さらに身体全体にあったこげ茶色で大きな火傷の痕をキレイに修復することに成功した。
俺達はバカみたいに感動し喜びを分かち合い、やがていつか居室へ戻った。
今までコイツは火傷の痕を隠すように布を被っていたからね、暗いし表情もあんまし見えなかったんだよね。
足も腕も隠して肌もほとんど見せないし、チビで細くて男みたいな扱いだったし、ベットも広いから半分こして使ってたんだ。
オレからしてみたら弟みたいなもんだよ。
別にどうってことなかったんだぜ !
最近は時々くっついてきたりすることもあったけど、両親もいなくって寂しいんだろうな~、くらいに思ってたんだよ !
ところがだ。火傷が無くなると案外可愛いじゃねえかよおい。おいって、どこに突っ込んでるんだって感じだよな。ああそうさ、ちょっとテンパって支離滅裂で戸惑ってるよ、一人でさ。
あれだ、あれなんだよ。今はストールのような布も被って無いし、照れくさいしな。
極め付きに腕や脚なんかを隠すようにしていた服や布なんかも全部取っ払っちまってやたらと肌を露出ししてるんだ。
女の子があまり無闇やたらと肌を見せたりしたらけしからんぞ ! って、思わず頑固オヤジになりそうだよ。
しかもなんでミニなんだよ、おーい。いったいどこからミニスカート出てきたんだ ?!
女将サーン !!
どうせあのヒトの差金だろ !
俺の部屋に女だ、女の子がいるんだよ。
いやー ヤバい ! こりゃーしばらくは慣れるまで大変だな。弱ったなあぁ。女の子にはまるで免疫が無いんだよーーー !!
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翌日
美少女との慣れないやり取りは、朝から変な汗をかいたり、変な気を使ったりしてしまうけど、見た目が美しくなったとはいえ中身はナターシャそのもので、相変わらずシャイで言葉数も少ないままだ。
それに気が付くと少し落ち着いたんだ。まあ、アレだな ! 弟扱いから妹に格上げってところにしておこうか ?
そういえば、そろそろ買い出しに行きたいんだけれど、イージーダンジョンではレベルは上がっても資金調達できる物が何も無いんだ。倒した魔物はすぐダンジョンに吸収されてしまうからね。手持ちも寂しいものだしなぁ。
色々考えてみたけど、収入を得るためにはレベル上げのダンジョン以外のどこかで魔物を倒して素材を得るか、討伐報酬を得るしかない。俺達はとりあえず朝の準備運動代わりにダンジョンを10周ほどしてから、イージー村の先のエリアへ進む事にしたんだ。
初めて行く土地だ。王都から続く森を抜けたところに位置するこのイージー村。その先には大きな草原が広がり、その更に先には山々が連なっている、マーレ山だ。
俺達はマーレ山を目指して進んだ。
探知のスキルをレベル5まで上げたことで100メートル四方の魔物や人の存在と敵意を知る事ができるようになっていた。
これはとても役に立った。レベルが上がっても強い敵の急襲は恐ろしいし、無駄な戦闘は避ける事ができるんだから。
草むらとかから急に出て来ると弱い奴でも息が止まりそうになるからね。
こんな草原でもゴブリンは現れる。探知のスキルで出てくるのは知ってたからぜんぜんビックリしてないからね !
しかし、オレが倒そうとする前に突然スラコが氷っぽい何かを吐いて、そしてスラミはビリビリする光る何かを頭から出してゴブリンを倒したんた。
今まではそんなことは一度も無かった。これまでも確かに酸をプシュッと出したりして助けてくれたりはしてたけど、これには驚いた。
「はあ ? なんだそりゃ ?」
「ほえ… ?」
「キューキュー、キューキュー !!」
何か褒めてアピールをしているので一応二匹を撫でてあげたんだが…… こうしてると見た目も動きもいつも通りの可愛いヤツラなんだよ !
よしよしと撫でていたら、スラコがヒールで俺の手の傷を治してくれた。
「ひょっとして、昨日のナターシャの回復魔法を見て覚えたのか ? スゲーな !」
ちょっと二匹を鑑定してみた。
「はあ ? おいおい、まてまて !! 何でお前らレベル85やねん !!」
「私と一緒… 」
「あああっっ、お前らもレベルアップしてたのかぁーー !!!!」
おまけに、さっきのは氷魔法に電撃魔法のようだ。
何てことだ ! コイツら、スラコとスラミは世界最強のスライムかも知れへん !! こりゃヤッッバイな !!!
……でもま、いっか ?
慌てても仕方がない。とにかく一回気を落ち着かせて、その辺にいる魔物を全部倒し魔石を取り出していった。
しかし、ゴブリンなんかをいちいち倒してると効率が悪くてしょうがないって事に気が付いた。魔石を取り出すだけでかなりの手間だ。
ゴブリンばっかりなら100匹でも200匹でも倒せるけど、そんなにたくさん倒したところでろくにレベルも上がらないし、いちいち魔石を取り出していたらそれだけで日が暮れてしまうだろう ?
そこで、隠密のスキルを発動して高位種だけを倒す事にしたんだが、これは意外と快適だった。
やがてバッファローが現れ、それもすぐに倒した。コイツの肉はなかなかに旨いようだ。鑑定先生が教えてくれた。ホントに鑑定先生にはたくさんの恩恵をいただいた。もう、足を向けては寝られないね !
オレたちは途中で休憩をとり、昼食に少しバッファローのお肉を焼いてみることにしたんだ。
魔法で火をおこし軽くあぶってみた。くわああーー ! 良い匂いだ !
「美味しいぞーーー !! 異世界で焼肉が食べられるなんて…… うううっ…… 」
牛肉だ。最高 !! 塩コショウでも、無いよりましだが、あーーーーーーー タレが欲しい。焼肉のタレがー !!
「ウマー… 」
ナターシャも気に入ったようだ。
俺たちは夢中で焼きまくってしっかりと食いまくったんだ。
スラコとスラミもいつもと同じく喜んでいる。
スラミは皮や骨も何でも食べてくれる、究極のゴミ処理施設なのだ。スゴく助かっている。最強で究極の仲間だぜ。
するとあろうことか、焼肉の最中に突然ワイバーンがやって来たんだ。
どうやら横に置いていた血の滴るバッファロー肉を、上空から狙ったようだ。奴らは空から突然に現れて、獲物や家畜を襲ったり、時には荷物を奪ったりする悪知恵のはたらくモンスターなのだが……
しかしワイバーンよ、相手が悪かったな !! 俺の探知のスキルの探索範囲はかなり広い、とっくに危険が知らされていたのだから……
舞い降りたワイバーンに身構えると、一歩踏み込んで横っ腹にボディーブローをくれてやった。
もう一発入れようと思ったら、すでに天に召されていた。
「スゴい… 」
「これは確かにスゴいけど…… ケンカする時は気を付けような ! こんな調子で軽くパンチを放ったらケンカ相手が天に召されていたでは、ただ事では済まないからね ! これからは俺もナターシャも簡単に怒ったりしたらまずいよな ハハハッ !!」
「うんうん… 」
だけど、これは棚ぼたと言うかなんと言うべきか ? 楽に凄すぎる獲物がとれてしまったぞ。これぞレベルアップのたまものだ。
ワイバーンの素材がどれくらいなのかは分からないけど、オレの身体の2倍以上あるこれだけの大物だ、それなりの値にはなるだろう。
しかも何ならバッファロー肉を釣竿にぶら下げて歩いたら、けっこうワイバーンの大漁になるかも知れないしね !?
焼肉のついでにワイバーンの尻尾を少し切って焼いてみた。
「うん、コレもいけるぞーー !!」
「うん… 」
こいつもバッファローよりも油は少ないけどなかなか旨いぞ。うん、甲乙つけがたい !
ワイバーンの尻尾以外はドサッとアイテムボックスにしまった。
昼食を終えると、それから歩みはかなり進んだ。魔物の出現がグッと減った気がした。ゴブリンどころかウサギや鳥などの反応も無いんだ。気持ちが悪いほどだ。
するとやがて、赤いヘビのレッドパイソンが何匹も現れた。
「うわっ、ヘビ… 」
そして更に進むと水辺に出た。すると、そこにはものスゴく大きな赤いヘビがいたんだ。うわ~スゴい。さっきから赤いヘビがやたらと出てきたのはコイツのせいだったのか。
コイツは…… グレートレッドパイソンだ !!!!!
デカイなんてもんじゃないぞ、俺達全員をラクラク丸呑みできそうなくらい大きいんだ。
果実酒の酒樽の3倍くらいだろうか、イヤイヤ10倍以上か ?
「すっげーーー !!!」
「うわぁ… ムリ⤵⤵⤵ 」
ナターシャはどうも苦手なようだ。
「良いよ、任せて、離れてなさい !」
「だ 大丈夫… 」
俺の後ろに隠れながらも健気に上目使いで巨大な赤ヘビをチラチラ見ている。
何でも軽くこなすこの娘にも可愛いところがあるんだな !
「ううっ…」
ビビる娘に気をやり、ほんの少し油断をしたところを狙われた。
ほんの一瞬目を離しただけだというのに、そのオレの向いた視線の反対側に回り込みながら一気に丸呑みにしようと迫った。
どデカイ胴体だが動きはとんでもなく速い。これでは並の冒険者ならどうしようも無い強さだ。姿を見たものは全て呑み込まれてしまうだろう。
「あっ… あぶ… 」
ナターシャが声をかける前に探知のスキルのお蔭で赤ヘビが動き出すのは察知していた。
なんとかスレスレで大きく開いた口をかわした。
赤ヘビもとんでもないスピードだが、オレ達もかなりのレベルアップでとてつもないスピードを身につけている。それでも今のは肝を冷やした。どこかでレベルがあがったことへの心の奢りがあったのかもしれないな。しっかりと気を引き締めていこう。
すると、おまけに火魔法まで吐いてきた !!
「うわぁーー ! スゴいなあぁ !」
そう言って感動しつつ、今度はささっと避けた。
大丈夫。集中している。スピード勝負ならこちらに分がありそうだ。
一応相手を鑑定してみる。
やはり各ステータスでオレのほうが勝っているようだ。赤ヘビはどちらかといえばスピード特化で火魔法と酸攻撃が要注意のようだ。
そうこうしているうちにスラコとスラミがブリザードとサンダーボルトの魔法をくらわせていた。
赤ヘビの身体が余りにも大きいせいで大きなダメージを与えることはできないようだけど、少し動きが鈍くなったような気がした。
チャンスだ ! 切り込もう。
「そんなに良い剣じゃないから斬れるかどうか心配だなぁ。大丈夫かな ?」
そしてそう言い、心配しつつも縮地のスキルで一気に間合いを詰めると、奴の首目掛けて剣を一閃、シュパッッッと振り抜いた。
ドーーーーーーーーーーン !!! ゴロンッッッ……
グレートレッドパイソンの首がごろっと落ちて意外にもあっさりと勝負が着いた。
「ふうっ、良かったぁ !!」
「キュー キュー キュー !!」
スラ達は微振動で喜んでいる ?
コイツらの援護のおかげで楽に倒せたんだ。ありがとう。ちゃんとお礼に撫でてあげよう。
「うわぁ… グロい… グロすぎ… 」
ナターシャは目を手でおおい、見たり、目を背けたりしている。どっちなんだ ?
反応はそれぞれだが、赤ヘビをアイテムボックスにしまった。
魔石はこぶしくらいの大きさだった。今まで見た中で一番デカかった。
メチャクチャ大きい奴でもアイテムボックスに入っちゃったよ !
いったいどれだけ入るんだろう ?
当然レベルアップもしていた。
「さあ、もう十分だね ?」
「うっ うん… 」
「ここの場所、この水辺の大きな木を目印に覚えて転移で王都まで戻ろうか ? 赤ヘビ売って買い物をしよう !」
「うん 行く !」
「良ーーし、行くよ !」
現在 ケンタロー レベル 88 ナターシャ レベル 86