10 元仲間 遂に魔王軍と戦う
異世界から召喚された仲間達は研修と魔物退治が課されていた。
アイリの尽力で女子三人の魅了は解けたけど、ハルトとリューイチは女神の魅惑に深く魅了されてしまい、まるで操り人形のようで、女子達からは話し掛ける事さえも厳しかったんだ。
女神のいない隙を狙ってミサキが話し掛けたものの、取りつく島もなかった。
「ハルト ! 火魔法の調整の方法を教えてほしいんだけど…… 」
「君がイーリスの役に立てるとは思えないので時間の無駄になるだけだろう !! それは遠慮させてもらうよ」
アイリがケンタローの心配をしても同じような対応だった。
「ケンタローが僕らとイーリスの邪魔にならないように去ったのは賢明な判断だと言えるだろう !」
生徒会長だった頃のハルトからは考えられない発言だった。
アイリ達は隠れてケンタローを探したけどこの町は広すぎて見付けられなかった。
リューイチには仲の良いイチカが違う方向から取り付いてみたんだが……
「私も女神様の役に立ちたいんだけどさぁ、リューイチは女神様とどれくらい仲良しなの ?」
「おう ! 良く聞いてくれたな。俺は身も心も捧げてイーリス様とは当然ひとつになったぞ。あの方は最高だぜ ! お前らも早くここまで来いよ」
思いもよらない答えが返ってきたのだ。もう、彼等は戻れない所まではまってしまったのかも知れない。アイリ達はコンタクトを取り続けたが進展することは無かった。
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ある日森の中で、テイマーのイチカは怪我をしたダークウルフを助けた。
すると、なぜか使い魔とすることができたんだ。
「わ~~~い ! やったーーーー !! あんたはココアよ !!!」
「バウーン !!」
これまでにスライムや角ウサギでテイムに成功していたものの、なかなか上手く育たず断念していたんだが…
イチカは活発な性格ながら面倒見も良く優しい性格で動物も好きなのだけど、テイマーの要領が分からなかったようだ。
王城にテイマーはほとんど居なくて、そうなると、教えてくれる者も無い。今回はマグレだったとしてもココアは上手く関係を持てた初めての魔物だった。
仲間達の研修は一週間程で終了して、その後は町の外での活動が続いた。ゴブリンやオーク等の魔物は全く寄せ付けず、Bランク相当のハイモンキーやフォレストウルフの群れ、レッドベアも問題なく倒せるようになっていた。
すると異世界の救世主として、いよいよ魔王軍との戦いに派遣される事になったんだ。
ところが、ハルト、リューイチ、アイリの3人が最前線に送り込まれたけど、ミサキとイチカは派遣される水準に実力が達していないと見なされて、王宮に置き去りにされてしまったのだ。
それから2日、何の指示も通達も無く放置された。
しかも、それまでとはうって変わって食事は囚人のご飯じゃないのかと思われるような粗末なものだった。
ミサキはシャイな心配性だから自分の行く末を想像して暗くなっていた。
その心配は現実のものとして彼女に降りかかることになるのだ。
ある時ひとりで居ると、イチカが外へ出た時を見計らってか、突然三人の衛兵がやって来たんだ。
「来い ! 未熟者ミサキ !!!」
「えっ ? どうしたの ? ねえ私、殺されちゃうの ? 絞首刑はイヤよ、せめてむち打ちの刑にしてください !」
ミサキはどちらかといえばMだった。こんな状況でもミサキさん、案外余裕があるね !
「コイツ ! 訳の分からぬことを…
何を言ってるんだ ?
お前のようにこの王国の役に立たぬ奴は出て行ってもらうことになったのだ。さあ行け !!」
二人の衛兵があっという間にミサキを拘束してしまう。そして無理矢理引き連れて行かれる。
「なになになに !?!?
イタいよー、 やだっ !
んんんんっ そんなとこっ !
あっ、んっ ! やめてっ ↘↘↘」
それでも衛兵は乱暴に連れ出すのだった。どさくさに紛れて胸や尻もいいように揉まれたり、さすられたりした。
こんな状況で生命の危機かも知れないのにちょっと性的に興奮してしまった。なすがままに、まるで犯罪者かゴミのように扱われた。しかしMっ子にはそれも悪くなかった。
そして城から出ると僅かな金を渡され放り出されてしまった。
「二度と城へ来るなよ !! スラム街か娼館にでも行け !!」
「ううっ、うええっ…… 」
今まででも十分に不安だったのに、更なる突然の出来事に悲しみが止まらなかった。
王城に残されたイチカはイチカで、僅かな時間で突然ミサキが居なくなっても、彼女に関する事はまったく説明されず、不安が増すばかりだったんだ。
ミサキはどうなったのだろうか ? ケンタローと同じく追放されたのならまだ良いけど…… 次は自分の番に違いない。死の予感も無くはない。どうせなら二人一緒の方がまだ良かった。自分の事もミサキの事も心配だった。
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その頃ハルト達は既に前線へ来ていた。王国軍と魔王軍の戦いは王国側がかなり押し込まれた状況で拮抗していて、押したり引いたりの争いが長く続いていると聞いていた。
多くの人が集まっているのは王国軍の軍勢だ。その向こうには赤鬼の軍勢が見え、多くの人々のざわめきに、時折悲鳴や歓声が聞こえてくる。
魔法だろうか ? あちこちで火の手も上がっている。戦場に来たのだという実感を強く感じさせられた。
砦にもたくさんの兵士がいた。アイリは早速、負傷した兵士への回復魔法を頼まれた。
ハルトとリューイチと別れ、衛兵に連れられて行ったのは大きな広間だった。
体育館よりも少し小さい広間にたくさんの人が地べたに寝かされていた。治癒師がいるようだけど回復が追い付いてないのか ? 重傷から軽傷の者まで幅広い人がいる。
「こんにちは、治療の手伝いに来ました、アイリと申します」
「ご苦労様。私はイルマよ。ここは重傷者で、あっちは軽傷者ね !」
「はい、重傷者から、治療して良いですか ?」
「ああ、重傷者の治療ができるの ? それは結構なことね。新米にそんなこたあ期待して無いよ。ハハハッ !!」
イルマと名乗った若い治癒師。できるものならやってみよという、いささか冷たい態度ね ! 確かに重傷者の治療は難度が高いものですけど、そんな風に言われるとやりにくいですわ !
最初に今にも危険な状態のお腹から胸に大きな傷を負った若い男性を治療する。
「グレートヒール !!!!!」
「あの娘、くくっ、アホかいっ !!!!
グレートってあんた女神樣ごっこでもあるまいし。
そんな適当な魔法をつぶやいたところで手や足が生えてくるわけでも……
って、ええっ ????
ええええ~~~ !!
あり得んやろ~~~~~ !!!!」
バカにした態度だったイルマをよそに、アイリが普通に唱えたかなり高度な回復魔法は、金色の粒子が揺らめくと、みるみると若い兵士の重傷だった身体を修復していった。
イルマは目を見開いて固まっている。
それも仕方がないだろう。グレートヒールなどという高等な魔法は治癒師であってもなかなかお目に掛かれるものではないのだ !
アイリは続けて腕が引き裂かれて、出血が止まらない男性を治療する。
「グレートヒール !!!!!」
「はあ~~~~ ?? 本物かよ ?? 連続グレートヒールなんて初めて見たわ !!!」
引き裂かれた腕は元のように戻っていく。
「うわぁー !! 手が !! 手が元に戻って…… 有り難い !! お姉さん、イヤ聖女樣。ありがとうございます !!」
その後も次々と治療していった。
「ううううっ、ありがとう、ありがとう !!」
「ありがとうございます !!」
アイリは30人程の重傷者は全て治療してしまったんだ。
イルマも他の治癒師も呆気に取られている。
「あんなに大きな魔法を何十回も…… 凄い…… とんでもない魔力量だわ ! 無礼なことを言って申し訳ありませんでした、聖女樣 !!!」
治癒師は驚いて崇めるようにしていた。そして多くの兵士からはものすごく感謝された。アイリは戦争に加担することに気が進まなかったけど、人の命を救い、役に立てた事には良かったと思えた。
しかし魔力は殆ど残っていない。ここからは魔力切れとの戦いだ。それでも、危険な状態の人は治療したので慌てる事は無かった。後は少しずつ治療していった。
砦から女神に送り出されたハルトとリューイチは最前線へ出た。
聖騎士リューイチは最前線の赤鬼を斬りまくり、大賢者ハルトは味方を支援しながら大きな魔法を放った。女神に洗脳され、戦争に対する葛藤はほとんど無くなってしまった。
二人の参加で王国軍は若干勢いを取り戻して、戦いは王国軍が少し押している。砦では女神がほくそ笑んでいた。