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カルサイトのブレスレット③

「あの子は何に怯えてるんだ」


ロッキングチェアに座って揺られながらバトラは理解できないと天井を眺めた。既にフローラは帰り、ヴィオラは魔宝飾作りを始めていた。人智を超えたところにいる精霊には人の悩みがわからないことをヴィオラは知っていた。それでも人間の価値観をどうしても教えてしまう。


「人間っていうのはね、社会的な生き物なの。他の人たちと折り合いをつけて、時には自分を抑えなきゃいけないときもあるのよ」


「けど、知らない相手と結婚なんてなぁ」


「村の慣習だもの。染み付いた慣習は変えるのは難しいわ」


机の上に転がっているのは同じ種類のいくつもの原石だった。それは指で摘めるほどに小さい。ヴィオラはそれをヤスリで尖ったところを削り、丸く形を整えていく。フーッと息を吹きかけると削られたところから石の粉末がふんわりと舞った。


「けど、あんまりだと思うわ。せっかく掴みかけた夢を諦めないといけないなんて……」


石を光に翳して出来を確認しながらヴィオラは呟く。目を細め、眉頭を寄せながら不満げな表情だ。そんなヴィオラを横目で見ながら、バトラはため息をついた。


「人間ってわからないなぁ」


「私も、わからないわ」


「アンタも人間だ」


「人間が他の人間を完全に理解することなんて、永遠にできないのよ」


バトラはひとつ言いかけてやめた。ヴィオラを傷つけるだけだとわかっていたからだ。人間の理解が難しいバトラも、ヴィオラを慮ることはできた。むしろ彼は、ヴィオラのことしか慮ることはできない。


「理解しようとすればするほど、失望も大きいわ」


ヴィオラはそう呟いてからブンブンと首を横に振った。邪念を抱いたまま魔宝飾を作っては邪念が宿ってしまい、魔宝飾は本来の力を発揮しない。持ち主となる人の幸せを祈り、丁寧に作り上げなければならないのだ。


ヴィオラが加工している石はカルサイトと呼ばれる石で、オレンジやグリーン、ピンクにブルーなど様々な種類がある。中でもヴィオラが今回選んだのはグリーンのカルサイトだ。削って、磨いていけばミントのように淡い緑色になる。


感情を落ち着けるという力が宿るというこの石は、昔から緊張を伴う場で身に着けられてきたものだ。ある御代の王は戴冠式の際、緊張しないようにとカルサイトの魔宝飾を大量に身に着けて式に臨んだと記録に残っている。フローラもきっと、結婚相手の面する時は緊張するだろう。会ったこともない、あまり良い印象の無い相手となれば何を言えばいいのか、頭が真っ白になってしまうかもしれない。


緊張を和らげ、円滑な意思疎通を可能とするためのチョイスだが、明らかにそのために着けていますとアピールすることになってしまう物にはしない。ネックレスやペンダントも、と考えたがそれでは相手の目に飛び込んできてしまう。魔宝飾の力を借りていることがバレてしまうのはフローラも恐らく本意では無い。


それならば、長袖を着たときに隠せるブレスレットが良いだろうと考えた。使う石の量も抑えられるし、お針子をしていたフローラの収入も考えればちょうどいい。


紙やすりでひと粒ひと粒丁寧に、光沢が現れるまで丹念に磨く。丸い面に僅かな凹凸があるのも許されない。完璧な仕上がりを求めて、削っては磨き、削っては磨きを繰り返す。


気がつけば暗くなっていた。太陽は傾き、窓から光は入ってこない。数時間の作業で完成したカルサイトの珠は四つほどだ。明後日の結婚相手との面会までに完成させると宣言した手前、ヴィオラはこのスピードで大丈夫かと焦り始めた。あまりにも完璧を求め過ぎだろうか。間に合わなければ本末転倒である。


確かに加工したカルサイトのストックはある。しかしヴィオラの信条は、オーダーメイド。思いを込めて最初から作ることで魔宝飾に力が宿ると信じていた。ヴィオラはランタンに蝋燭の炎を灯し、食事も忘れてひたすらカルサイトを丸く削った。



グッドハーブ((((如月霜子です!今回もお読みくださりありがとうございます!!


作業を頑張っていても全く終わらないこと、ありますよね〜!私なんてそんなことがザラです(だめだこの人)

そんな時は焦っちゃいけません、経験上ですが。急がば回れって言葉があるように、焦ってしまうときほど慎重に、丁寧になるべきなのです。


フローラの夢の行方は、果たしてヴィオラはフローラにブレスレットを渡すことができるのか、次回カルサイトのブレスレット編ラスト!お楽しみに!

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