表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

カルサイトのブレスレット①

『お誕生日おめでとう、さぁ、プレゼントよ』


『お前がずっと欲しがってたものだぞ』


目を開くと、視界に飛び込んできたのは大ぶりの孔雀の羽根を使った片耳タイプのイヤリングだった。丸く加工されたマラカイトも羽根の根本に付いている。目玉のような模様に魅了されてからずっと、これを身に着けたくて仕方なかった。


『ありがとう、パパ、ママ!』


『ただの魔宝飾じゃないのよ。この中にはね、精霊が宿っているの』


『せいれい?』


『お前を守ってくれる精霊さんだ。今はまだ眠っているみたいだから起きるまで待ってるんだぞ』


『うん!』


それから私は待ち続けていた。眠っているという精霊が目を覚ます時を。毎日のようにイヤリングを着けて、あなたと私はずっと一緒なんだよと感じてもらうために。何年も何年も待った。


そして、彼が私の前に現れたのは、私が魔宝飾技師養成学校に入る日の朝の事だった。まるでその瞬間まで、ずっと羽根の中で成長を続けていたかのように、彼は私よりもずっと背が高かった。


『あなたが、精霊?』


『アンタが、ご主人?』


お互いの最初の会話はこんなものだった。会いたくて堪らなかった存在とようやく言葉をかわす事ができたのに、ちゃんとした言葉が出てこなかった。ただ、呆けることしかできなくて。やっと絞り出したのはごく普通の挨拶だった。


『よ、よろしく……お願い、しま、す?』


『なんで疑問形?』


『なんか、現実味なくて』


そう言って頭を搔くと、彼はズイッと一気に私に顔を寄せた。突然のことに驚いて私は思わず後ずさりをした。青と緑の層に分かれた美しい虹彩が私を見つめてくる。


『……名前、くれ』


『え?』


『名前が無いと、オレは正式にアンタのものになれない。名前をくれ』


そんなことを突然言われて困ってしまったことを覚えている。アレコレ名前を考えたこともあったが、それもこれも全て子どものときに考えた、センスの欠片もない名前ばかりだったからだ。


ふと、私は養成学校の受験勉強で学んだ言葉を思い出した。これならきっと彼に似合う。


『バトラキオン……長いから略してバトラはどうかしら。異国の古代語でマラカイトって意味なの』


彼はバトラ……バトラ……と口の中で何度も言葉を転がした。気に入ってくれるかどうか、私は胸がドキドキした。軽く俯きながらもチラチラと彼の様子を眺める。


『あぁ、いいな、悪くない。バトラ。うん、いい』


満足気に笑う彼の姿が、なんだかとても印象的で。何つっかえていたものが綺麗サッパリ無くなったような気分になった。


『これからよろしくな』



❋❋



ヴィオラは原石を丸い粒の形に加工する手を止め、ロッキングチェアに座ってゆらゆら揺れながら本を読んでいるバトラに目を向けた。彼は本当に不思議な精霊だった。


バトラが魔宝飾から姿を現すまで十年はかかった。通常魔宝飾に宿る精霊が持ち主の前に姿を現すまでは約一年と言われている。十年かかることが当たり前だと思っていたヴィオラはその事を知ったときに驚きを隠せなかった。


姿を現すまでの期間が長かったことだけではない。バトラの風貌も他の精霊たちとは一線を画していた。動物形態の時は小さな孔雀の姿のバトラ。それは他の精霊たちとは変わらないが、人間形態になったときの服装や髪型の雰囲気が大きく異なっている。


基本的に魔宝飾の精霊たちの服装は、素材の産出場所の服飾文化に合わせたものになる。そのため精霊たちの服装は同じシンシア王国内でも、大きく異なるが芯は同じだ。


しかしバトラの服装はシンシア王国のどの地域にも存在しない服装であった。深い緑と青のカラーリングはいかにも孔雀の羽根の精霊と言ったところだが、ユルユルのベルトを幾つも重ねて腰に巻いていたり、シルバーのアクセサリーをジャラジャラ付けていたり、髪型はオスの孔雀が羽を広げた時のように派手でとにかく派手派手である。


けれどどこにも属さない、バトラのそんな雰囲気がヴィオラは好きだった。色んなイレギュラーを抱えたバトラはきっと特別なのだと、ヴィオラは思ってやまなかった。


「……何、何こっち見てんの?」


「ううん、なーんでもない」


視線に気がついたバトラがヴィオラを見たが、ヴィオラははぐらかしてしまった。こうして自分の側にいてくれるのは彼だけ。過去に置き去りにしてきたのは立場や財産だけでなく、人間関係もそうだった。こんな田舎くんだりにやって来る知り合いなどいないだろう。けれどヴィオラはその方が良かった。


(あんなところ、もう二度と戻るものですか)


視線をバトラから目の前の作業机に戻し、原石を研磨する音が静かに響く。ロッキングチェアのキィキィとした音との二重奏だ。沈黙の五線譜から奏でられる生活音という曲は穏やかな時間の象徴だった。


作業する手を進めていると、アトリエの玄関に設置された呼び林が鳴った。お客さんだ。ヴィオラは手を止めて、アトリエへと向かった。



グッドハー((((如月霜子です!今回もお読みくださりありがとうございます!


今回から新しいお話に入ります!どんなお客さんかはお楽しみなのです!サブタイトルから予想してみてください!


この世界観だとバトラの服装は説明するのが大変難しいのですが、一言で言うならば彼のファッションはパンクロックです。パンクロックな孔雀。派手×派手で派手派手です。彼がどうしてそんな恰好をしているのか、それが明かされるのはまだまだ先になりますね……。


では今回はこの辺で。またあしたお会いしましょう!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ