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キャッツアイのブローチ①

魔宝飾を求める者は、何も悩みを持った者ばかりだけではない。仕事のために魔宝飾を必要とする者もいる。例えば自然や精霊と一体となり、口寄せをして天災などを告げるシャーマン。彼彼女らは自然の力が込められた魔宝飾を身に着けることでより力を高めて予言を確実なものとする。そのときに作られる魔宝飾は、とにかく人工的なものは徹底的に排除され、必要最低限しか使用されない。鉱石で作られたビーズで作られたネックレスには、細い蔓を編み上げた紐が使われるなど、その排除ぶりは工夫をこらしたものばかりである意味で最も人工的と言えるかもしれない。


そんな仕事で使われる魔宝飾だが、日々使うことで愛着が湧いても毎日使うことで壊れてしまうことが多い。壊れづらい魔宝飾を作るのも、魔宝飾技師たちの研究テーマの一つであった。



❋❋



その日ヴィオラのアトリエにやって来たのは、礼儀正しい若い青年だった。これでもかと言うほど動きがキッチリとしていて、少々機械的とすら思える挙動にヴィオラははたと気がついた。


「もしかして、新人の兵士さんかしら?」


「な、なぜわかったのですか!?」


「動きがカクカクしてて、でもどこか厳しい指導があったんだろうなって思って。それだったら兵士さんくらいしかいないじゃない?」


若き兵士は恥ずかしそうに顔を赤らめる。彼はジューダスと名乗った。


「それで、新人兵士さんのジューダス君はどんな魔宝飾をお望みで?」


「私達兵士は、先行きのわからない仕事です。いつ死ぬか、いつ身体の一部を失うか……全く見当がつきません」


「そうね、たしかに」


「だから、先行きを見通せるような魔宝飾を買ってこいと……兵士長に言われまして」


「待って?自腹なの?」


ヴィオラは目を丸くした。信じられないといった顔をしている。そんなヴィオラの反応にジューダスはさも当然そうに答える。


「えぇそうですよ。自分の身を守るものくらい自分で買えと」


「せめて資金くらい渡してやればいいのに……仕事に必要なものなんでしょ?貴方達兵士は国に仕える……立派な公務員なのよ?」


王城から離れたことで現状を知らないヴィオラは、今何が向こうで起きているのかさっぱりだった。そして新人であるジューダスも、なぜそう決まっているのかよくわかっていないらしい。何もわからない者同士、答えを出すことはできなかった。


「けどまあ……私の仕事は魔宝飾を作ること。頼まれれば、しっかりと作ってみせます」


「ありがとうございます!オルコットに聞いて来た甲斐があったなぁ」


突然出てきた見知った名前にヴィオラは驚いた。まさかジューダスはオルコットの関係者なのだろうか。兄か、友人か、それとも……。


「あの、オルコットさんとはどういったご関係で……?」


「あぁ、オルコットは私の幼なじみで……先日婚約をしたばかりなんです」


「えっ!?婚約!?」


運命の人と出会えたら、とオルコットはそれはそれはロマンチックを夢見ていた。その運命の相手がよもや幼なじみだったとは。これはペルラまで出向いて彼女を祝福してやるべきだろうかと考えたが、ヴィオラはまだこの村周辺から出る勇気は無かった。アーロンのように自分を探している人間に出くわしてしまうかもしれない。


「そう……オルコットさんは運命の人と出会ったのね」


「オルコットもそんなことを言ってました。夢見てる女の子だと思っていたけど、そんな彼女が魅力的に見えたんです」


それはきっと魔宝飾の力のお陰だろう。ピンクトパーズの力が、オルコットを魅力的に見せたのだ。しかもそれは本当の運命の相手にしか作用しない。ジューダスは真実の愛の相手だったのだろう。


「それじゃあオルコットさんのためにも、死ぬわけにはいきませんね」


「そうなんです。彼女のためにも、私は生きねばならぬのです。そしてそのためには、魔宝飾が必要で……」


「とっておきの鉱石があるわ。これなんてどう?」


ヴィオラはアトリエのガラス棚に並べられた魔宝飾たちの中から、猫の目のような石を用いたブレスレットを取り出した。その石を見つめていると、不思議とこちらも見つめられているような気分になった。


「これは?」


「これはキャッツアイ。キャッツアイには先を見つめる力があるだけでなく、魔除けや敵から姿を隠す力があるの。その代わり、とても高価なものなんだけどね……」


「キャッツアイ、ですか……おいくらくらいしますか?」


ヴィオラがキャッツアイの相場を口にすると、ジューダスはギョッとした。やはり価格が高すぎるだろうか。それならば別のものを使った方が良いのではないかとヴィオラは思った。


「……いえ!キャッツアイでお作りいただければと思います!」


「本当にいいの?とても高価なものだけど……それに石そのものの値段だけじゃなくて、加工したり何なりで結構しちゃうわよ?」


「命には代えられませんから」


ジューダスは兵士の目をしていた。そして、愛するオルコットのために生きようとしている。そんな彼に報いるべきだ。


「ではキャッツアイでブローチをお作りします。鎧を上から着ても、壊れにくいように致しますね」


「よろしくおねがいします!」



グッドハーブニング!如月霜子です!今回もお読みくださりありがとうございます!


昨日はまたお休みしてしまっていますすみませんでした……頑張ってはいるのですが、どうも書けない日もあって……。またこれからもがんばりますね!


さて、今回はまさかのオルコットの恋人が登場です(笑)ヴィオラも「もう運命の人と出会ったの!?」と大層驚いたでしょうね。これも魔宝飾の力のお陰でしょうか……。そんな彼は生きるために、高いお金を払おうとしています。自分への投資って大事ですからこれでいいと思います。


それではまた明日!

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