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ピンクトパーズのリング①

「あの!魔宝飾技師のヴィオラさんですか!?」


「え……えぇ、そうよ。私がヴィオラよ」


「折り入って、お願いがあります!」


「な、なに、かしら?」


「この魔宝飾を、リメイクしてください!!」


ヴィオラは桃色の髪をシニヨンにした、もうすぐ二十代になろうという少女に気圧されていた。



❋❋



「まあ……よくできたネックレスねぇ」


ヴィオラはお客の少女から指輪を受け取ると、ガラス張りの屋根から差し込む太陽の光に翳した。ネックレスに付いているのは少女の髪色と同じ、美しくカットされた桃色の宝石だった。それを取り囲むように透明な小さい粒のような宝石が付いている。ヴィオラの目から見ても、なかなかうまくできている代物であった。


「けど勿体無いと思うわ。こんなに素敵なものをリメイクだなんて……私にはとても……」


「いえ!ヴィオラさんは天才的な感性と腕をお持ちになっていると聞いています!むしろヴィオラさんにしか頼めないと思って、ここまで来ました!」


「ここまで……って貴女どこから来たの?」


「港町のペルラから」


ペルラは水の都と呼ばれる、シンシア王国でも王都を凌ぐほどに美しいとされる街だ。街中を運河が通り、ゴンドラや通船が行き交っている。それだけでなく広い砂浜があり、一年を通して国内からも国外からも観光客が絶えない。ペルラでは良質の貝殻や珊瑚が産出されたり、シーガラスが砂浜に流れ着いていることでも有名で、ヴィオラも何度か訪れたことはある。しかし、このテランの森からはかなり離れた場所にある。ここまで来るのに一週間はかかるはずだ。


というか、自分の名前が遠く離れたペルラまで知られていることにヴィオラは驚いた。


「……こんなに時間をかけてまで、どうして私がよかったの?ペルラには他にも魔宝飾技師がたくさんいるでしょう?」


「ペルラの魔宝飾技師はみんなお高くとまってて、なんだかイヤな感じなの。そんな時に、テランには素晴らしい腕を持った魔宝飾技師がいるって聞いたものだから、会いに来ちゃったって訳ですよ!」


確かに、とヴィオラは頷く。王都やペルラなど、王侯貴族のお抱えや輸出用の魔宝飾を作る魔宝飾技師は自分の立場を過信して横暴な態度をとったりする者が多い。そういった魔宝飾技師に対して嫌悪感を抱く者がいてもおかしくはない。


「それにしたって、私に会いに来るなんてかなりリスクが高いと思うんだけど」


「だとしても、私はこれをリメイクしてもらいたいんです。私は自分の勘を信じるタイプなので」


彼女は直感で行動するタイプだ。ヴィオラもそういうタイプは嫌いではない。何より、リスクを恐れず自分に頼みたいと思ってもらえたのが何よりも嬉しかった。


「それで……このネックレスを何にリメイクしてほしいのかしら?」


「結婚指輪です!」


「あら、じゃあ近い内に結婚を?」


それにしてはずいぶん若いけど、と思ったがヴィオラは口にしないでおくことにした。少女は「ちょっと違くて」と後頭部を掻く。


「私、いつか結婚した時にペアリングを相手と付けたいと思っているんです。だから……その……そのネックレスのピンクトパーズを二つに割って……指輪を作ってもらえたらなって」


なるほどと思ったが、ヴィオラは「割る」という言葉に少しばかり顔をしかめた。この少女が結婚という夢を抱いているのはわかった。しかし一度加工された宝石を再度割って加工し直せば宝石そのものの価値が薄れてしまう。宝石は大きければ大きいほど、価値があるものだからだ。


「……できなくないけど、そのネックレスは元々誰のものなの?これだけ大きなピンクトパーズ……」


ネックレスにつけられているピンクトパーズはヴィオラの人差し指の第一関節程度の大きさだった。かつては異国の皇族にのみ所持が許されたというピンクトパーズだ。相当高価であるのは確かである。


「……それ、おばあちゃんのネックレスなの。もらったの」


「!そんな大事なものを、壊して、それでリメイクしてもらおうっていうの!?」


さすがのヴィオラも思わず怒りの感情が出てきた。人から貰ったものを、大切にするどころか壊して作り直してもらおうだなんて、ヴィオラにとっては論外な話だった。この魔宝飾はきっと、代々大切にされてきたものなのだろう。ダメだとヴィオラは思った。けれど少女は反論する。


「だって、おばあちゃんだって、自分のおばあちゃんから貰ったものをリメイクしてもらったんだもの。私の好きにしていいって、言ってたもの」


「もしかして、元々はもっと大きい石だったのかしら……」


「おばあちゃんが貰ったときは、ティアラだったって言ってた。ティアラについてたのを半分にして、おじいちゃんとペアのネックレスにしたんだって」


もしかすると彼女は異国の皇族の末裔だったりするのかもしれない。そんな憶測がヴィオラの頭の中を駆け巡った。皇族のみに所持が許されたピンクトパーズを、割って加工し割って加工しを繰り返し、所持者を増やしているのだろう。そういう考えならば納得がいく。


「わかったわ、貴女の一存じゃないことがわかったので、リメイクさせていただくわ」


「本当に!?ありがとうございます!!」


少女はオルコットと名乗った。




グッドハーブニング!如月霜子です!!今回もお読みくださりありがとうございます!!


さて、今回はまた変わったオーダーがやってきましたね。ヴィオラもこれには難色を示していましたが、依頼主なりの理由があることを知った以上はしっかり仕事をやりますよ!


それでは今日はこのへんで!明日をお楽しみに!

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