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コスモスのリース③

カサリ、カサリ、と花弁が触れ合う音がする。「枯れずの魔法」をかけてあるので花びらが外れることはないが、ヴィオラは慎重にコスモスの茎を編み込んでいった。家庭の雰囲気が明るくなるように、黄色やオレンジ、薄い赤といった暖色系の花を使っていく。


コスモスの茎は細くとても折れやすい。蔦のように頑丈ではないため、手指の動きの繊細さが求められる。あらかじめ輪っか状にしておいた、蔦でできたリースの土台にコスモスの茎を巻きつけていく。茎の先端を萼の方で結べば、緑のリースにコスモスが華やかに咲き誇った。


残ったコスモスも順調にリースに巻きつけていく。余分な茎はハサミで切り落とし、見た目を整えていった。


「うーん……これだけじゃちょっと地味ね……」


コスモスの色味は温かで、飾ってあるだけできっとその場の雰囲気が和らぐことだろう。しかし何かが物足りない。かつてコスモスのリースを作ったときはこれだけで満足していた。満足できなくなったのはきっと自分が魔宝飾技師として成長したからなのだろう。


「暖色系でまとめてみたけど、なんだか同じ色ばかりでパッとしないわ……シメてくれる色が欲しい……」


ヴィオラは未完成のリースを持ってガーデニングハウスへと向かった。あらゆる花が咲き誇るそこで、コスモスと組み合わせてもコスモスの良さを損なわない花を探すことにしたのだ。


あれもだめ、これもだめ。咲いている花を片っ端からリースに合わせてみる。


ふと、ヴィオラの目にとまったのは、茎の先端に咲く小さな白い花だった。リモニウム、またの名をスターチスとも。この花の花言葉は「変わらぬ心」だ。変わらぬ心を以てして、家庭の幸福をいつまでも続けられることができれば。ヴィオラはそう思い、すぐに必要な分の白いリモニウムを刈り取り、「枯れずの魔法」をかけた。


急いで作業机に戻り、コスモス同士の空いたスペースにリモニウムを挿し込む。すると暖色系ばかりだったリースに、ほんの少しの涼やかさが追加された。小さな花なので、コスモスを邪魔しない。これは良いぞとヴィオラは一人頷いた。


満足できない気持ちから新しい発見もあるものだとヴィオラは思いつつ、最後の仕上げに飾るための紐を括り付けた。ピンクのサテンリボンだ。暖かくも可愛らしい印象になり、ようやっとこれで満足した。


「どうか彼が奥様といつまでも変わらず、仲良くいられますように……」


ヴィオラはそっと、祈りを捧げた。



❋❋



ヴィオラは完成した魔宝飾を届けるため、テラン村へとやって来た。家庭不和が原因なだけに、女性であるヴィオラだけでは何かと誤解を招きかねない。今日は滅多に外に出ないバトラを連れて来た。


夫婦の家は小川沿いにある水車のある家だ。刈り取られた小麦を粉にするのが夫婦の仕事だった。


外では妻と思しき女性が洗濯物を干している。今回の依頼者である男性の姿は近くの畑で作業をしていた。二人の間には、距離だけでない他のなにかに区切られているように感じた。


「こんにちは」


「……?あら、どちらさんですか?」


男性の妻は女性のヴィオラでも、思わず見惚れるほどの美人だった。パッチリとしたふたえの瞼に、腰まで届くつややかな黒髪をひと括りにまとめている。農作業をしているはずなのに肌は白く美しい。童話の中で下働きを強いられている、見た目は質素でも気高い王女を思わせた。


(まあ、こんなに美人さんと結婚できてラッキーな人……)


ヴィオラは一度咳払いをしてから、微笑み直した。


「私、テランの森に住んでいる魔宝飾技師のヴィオラと申します」


「まあ!魔宝飾技師さん!?どうしてウチなんかに……」


「実は旦那さんから受注を受けまして……」


「うちの人から……?何頼んだのかしら」


あなたぁ、と女性が夫を呼ぶ。ヴィオラの姿を確認した男性は農具をその場に置いて、二人の方へとやって来た。


「ヴィオラさん、先日はどうもありがとうございました」


「いえ、こちらこそお忙しいときにすみません」


親しげに話をするヴィオラだったが、あまり仲良しそうにしてはならない。誤解を招いてしまう可能性がある。世間話などせず、早く本題に入らなければ。女性は軽く夫を睨んでいた。誤解対策に連れてきたはずのバトラは近くの小鳥と会話をしていて使い物にならない。


「それで……こちらがご依頼されていた魔宝飾になります」


「おぉこれが……!ありがとうございます」


「あなた、一体何を注文したの?」


ヴィオラから渡された箱を開き、男性は妻に魔宝飾を見せた。箱の中には色鮮やかなコスモスに加え、白く小さなリモニウムがアクセントになったリースが仕舞い込まれていた。それを差し出された女性は驚くばかり。


「な……なに、よ……?」


「ヴィオラさんにしか頼めないと思ったんだ。ステラ、いつまでも君と一緒に幸せでありたい。あの頃のように、もう一度」


ヴィオラはそこで引き下がった。魔宝飾にできるのは二人の関係を後押しすることだけだ。余計な口出しはいらない。


「コスモスは家庭の幸せ。君と一緒じゃないと、幸せにはなれない」


「っ……パーシー……!」


ステラは目に涙を浮かべ、パーシーに抱きついた。関係の後押しは成功したのだ。ヴィオラは満たされた気持ちで、アトリエに帰ることにした。


何の手伝いもしてくれなかったバトラを引きずりながら……。

グッドハーブニング!如月霜子です!今回もお読みくださりありがとうございます!


いや〜ご夫婦の関係が修復されて本当によかったです!ヴィオラも魔宝飾技師として絶えることない成長を遂げることができて何より何より。


作家はキャラクターを動かすのが仕事の一つですが、不思議なことにキャラクターがひとりでに動き始めることがあるんです。今回もヴィオラは何かに満足できず、リモニウムを使うことを決めました。時としてキャラクターは作家の意図を超えてくるんですよね。不思議なものです。


それではまた明日!あ、問題は解決しましたがまだ続きます!

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