コスモスのリース②
『こんな魔宝飾見たことないわ!もしかして、貴女のオリジナル?』
『えぇ。貴女と旦那様がうまくいきますようにって』
『ありがとう!大切にするわ!』
かつて抱き合った友は今どうしているだろうか。ヴィオラはコスモスを根本から植物用のハサミでカットしながらそんなことを考えていた。ヴィオラがコスモスのリースを作るのは初めてではない。デザイン止まりだったそれを作ることを決めたのは、友人の結婚が決まった時だった。
異国人との結婚だったため周囲の反対が伴ったが、ヴィオラは彼女が選び、そして幸せになれるならと背中を押すようにコスモスのリースを作った。もうずっと前の、二人の友情が壊れる前の話だ。
ヴィオラは手で頭を押さえた。ここ最近、ずっと彼女のことを思い出してしまう。過去は全てあの場所に置いてきたはずなのに。そのための夜逃げ、王国めぐり、田舎暮らしのはずなのに。考えないようにしなければ、いつか自分はまた彼女に引き寄せられてしまうだろう。自分で選んだ別離なのだ。今更合わせる顔もない。
(私を死んだと思ってくれればいいのだけど)
そうすればきっと諦めがつくだろう。いや、ヴィオラは一度死んだのだ。かつて養成学校で学友と切磋琢磨したヴィオラはもうどこにもいない。新しい自分を生きているのだから、古い自分はもう死んでるのだ。仮に彼女が自分を探していたとしても、古い自分がいないことを知れば諦めてくれるはずだ。
「あっ……」
ジャキンと根本を切ったコスモスを拾い損ねて、花の部分が植木鉢に敷き詰められた土に落ちる。少しでも汚れてしまったものは使えない。ヴィオラは落ちたコスモスを諦めた。いつかきっとこの落ちたコスモスはこれから咲くであろう花の栄養になってくれるはずだ。無駄なものなど無い。
リースを作る分のコスモスを刈り終えて、一輪一輪に「枯れずの魔法」をかけていく。するとコスモスの時は永遠に止まり、枯れることも無くなる。生きながら死んでいるようなコスモスの花に、ヴィオラは思わず自分を重ねた。
ここでの生活は楽しい。少し離れて暮らしてはいるが、村人ともうまくやれている。のんびりガーデニングをしたり裁縫をしたりして、ゆっくりと陽の光を浴びて過ごせている。何よりも幸せなことだ。
けれど体は生きているのに、心の内側にいる古い自分が死んでいるのが、どうしても気になる。気にしないようにしていても、気になってしまう。
(いけない、邪念が入るわ)
今はただ、オーダーを受けた男性の家庭の幸せを祈ってコスモスの茎を編み込まなくてはならない。「枯れずの魔法」をかけたコスモスを持って、ヴィオラはガーデニングハウスからプライベートルームへと向かった。
❋❋
「あとはテラン村だけか……」
アーロンは借りている宿の部屋で、机に向かって地図を眺めていた。
これまで幾つもの村を訪れてきた。しかしどの村にも『フィアルカ』はいなかった。それどころか魔宝飾技師の目撃情報もない。当たり前だ。魔宝飾技師の殆どは王都か異国と貿易が盛んな港町に住んでいる。田舎に長期滞在する魔宝飾技師は滅多にいない。かつては多くの魔宝飾技師が田舎や秘境まで出向き、未知の素材を求めて旅をしていた。しかし王都や港町にいればたくさんの珍しい素材が流通している。リスクを犯すことなく素材を手にすることができる便利さに溺れていった。
「けど……フィアルカなら……」
アーロンはフィアルカのことを思い出す。フィアルカは王都にいる時でも度々、与えられた王城の一室を抜け出して外へ素材探しをしにいっていた。そんなことをする必要は無い、リスクを犯すなと女王から言われていたが彼女の探究心は止まることを知らなかった。魔宝飾技師として天性の才能を持ったフィアルカは、流通している素材では満足できなかった。
彼女はそういう人間だった。彼女を王都という狭い鳥籠に飼うことは難しいのだとアーロンは思っていたが、女王にそんなことを進言することができるはずがなかった。女王は王城や王都での生活が何よりも素晴らしいと思っているからだ。アーロンも快適な生活は嫌いではない。しかしフィアルカを養成学校時代から側で見てきた彼にとって、フィアルカの魔宝飾技師としての哲学は理解できるし実践したいものだった。
そんなフィアルカだから田舎にいると踏んだ。
「テラン村にいなければ……諦めるしかないのか……」
女王はフィアルカが生きている証拠を突き止めた。外出時に見かけたというフィアルカが作ったらしき魔宝飾が何よりの証拠だ。彼女はきっとテラン村にいる。王都から最も離れた場所だ。あり得ない話じゃない。
「君には戻ってきてもらわないと困るんだ……」
アーロンは小さなロケットペンダントの蓋を開け、写真を見つめた。
グッドハーブニング!如月霜子です!今回もお読みくださりありがとうございます!
昨日は!ななななんと!閲覧数の最高記録を更新しました!!!ひとえに皆さんがお読みくださってるおかげです!本当にありがとうございます!!
これからも毎日更新していくので、是非読んでくださったら嬉しいです!
そしてブックマークも4件に増え、滅多にブックマークが増えないという小説家になろうで一気に2件も増えて嬉しい限りです。私にできるのはひたすら更新するのみ……精進していきたいです。
それではまた明日!