魔宝飾の歴史
ガレナ地方の南にあるシンシア王国では魔宝飾と呼ばれる宝飾品の生産が盛んだ。その名の通り、魔宝飾は魔力の宿った宝飾品である。
北は山、西は砂漠、南は海、東は森という過酷な環境に囲まれ、おまけに土地を三分割するように二つの川がある。古来より人々はその環境の一部を切り取り、それを身に着けることで自然の過酷さから己を守ろうとしてきた。
山や砂漠の近くに住む者は鉱石を、海の近くに住む者は貝殻や海鳥の羽根を、森の近くに住む者はキノコや花を身に着け、その環境と一体化することで自然の中でも生きていけるようにと工夫を凝らしてきたのである。
いつしかそれは人々の間で文化となり、文明の発展と共に身を守るための必需品から自身を飾るための装飾品へと進化を遂げた。しかし文明が発展しても魔術は残り、精霊や神への信仰も消えなかった。そのため建国されたシンシア王国では近世的な文明と魔術が入り混じり、独特の繁栄を遂げていったのだ。
一般階級の民は貝殻や花など、比較的入手しやすい安価なものでできた魔宝飾を身に着ける。一方王侯貴族たちは宝石や希少種の動物の毛皮など高価なもので作られた魔宝飾を好み、時にその高価さ豪華を競うのだ。
そんな魔宝飾を作るのが魔宝飾技師と呼ばれる職人たちだ。
古代、王国が築かれる前は人々が自身の魔宝飾を作るのが一般的であった。自身の手で作り上げることで魔宝飾との間に特別な関係を結ぶという意味が込められていたからである。
しかし人々が集い、集落から村へ、村から町へ、町から王国が作られていく中で特権階級が生まれ、特に優れた魔宝飾の製作者に自身の魔宝飾を作るよう頼むようになった。特権階級の者たちに気に入られようと良質な魔宝飾を作る人々が増えたのである。
しかしあらゆる人々が魔宝飾技師を目指すようになってしまったがために社会が成り立たなくなるという問題が出てきてしまった。王家はこの事を受け、魔宝飾技師を国家資格とすることにしたのだ。非常に厳しい筆記試験と実技試験を突破した者だけが魔宝飾技師として認められ、彼らは優れた技術と能力を駆使して魔宝飾を作ることを許されたのだ。
そんな魔宝飾技師たちが作る魔宝飾はシンシア王国の主要産業でもある。周辺諸国に魔術や魔法は存在しても同様の文化は存在せず、美しさと実用性を兼ね備えた魔宝飾は人気が高かった。中には「素材となるものを輸出するから魔宝飾を輸入させてほしい」と言い出す国まで現れるほどである。王家は魔宝飾技師に「シンシア王国の民であること」「国外では魔宝飾を作らないこと」などの制限を設け、より一層魔宝飾に特別感を持たせていた。
文字通り国を支えている魔宝飾技師。華やかな生活を約束され、世のため人のために活躍する特別な職である。
けれど忘れてはならない。
魔宝飾の基本はいつでも「自然から不思議な加護を授かる」ためにあることを。
グッドハーブニング!(グッドモーニング・ハロー・グッドイブニングを合わせた造語、おはこんばんちはの英語版のようなものだと思ってください)
どうも始めまして、如月霜子と申します。この話の作者です。
ヴィオラの魔宝飾工房、記念すべき第一話を読んでくださって本当にありがとうございます。第一話と言っても、舞台となるシンシア王国と魔宝飾の歴史をザッと綴ったものになりますが(笑)第二話から本格的にスタートです!
毎日投稿を目標に頑張っていきます。
ここではちょっとした設定や裏話をしていくつもりですので、どうぞお楽しみに!
それでは如月霜子でした、またね!