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たくさんの謝罪のうちのひとつ

作者: ぺの

傷つけるようなことばかり言う。わざとではない。でも、口から出る前に、「きっと傷つくんだろうな」と思いながら言う。たぶん、わざとやるより罪が大きい。

「あなたが幸せになるには私と別れた方がいいと思う」

「私はあなたを幸せにしない」

「あなたが別れようとしないのはここまで一緒にいてしまったからだ」

「いまさら別れたらまわりにどう説明すればいいか分からないからだ」

「だから別れるなら早いほうがいい」

 こんな趣旨の言葉を何度も何度も浴びせかけた。こういうことを言う時に限って、ヒステリックに声を荒げたことはあまりない。反論をひとつひとつ論破して淡々と言い含めるときと、涙で反論を封じてラジオのように垂れ流すときと、おおむねそのふた通りだ。

 傷つくと分かっていてもその主張を繰り返すのは、本当は傷つかないと思っているからだ。

「そんなこと言わないで」

「別れるなんて言わないで」

「好きな人に別れるなんて言われたら傷つくよ」

 反論はいつもワンパターン。繰り返されるから、次に言うとき「きっと傷つくんだろうな」と思うだけだ。そうして、もう一度同じ趣旨の言葉を言い続ける。ワンパターンの反論を、たった一つだけの主張を、私は信じていない。言葉にしているから、私も額面通りに受け止める。あなたがそう言うのだから、きっとそれは事実だ。でも、私は私の真実に従ってその言葉を信じていない。

 別れた方がいいと思うのも、私があなたを幸せにしないのも、私の真実だ。あなたが言葉にする事実が、あなたの真実とは限らない。あなたの真実が、私には永遠に分からない。だから、私はあなたの言葉を信じない。ずっと、信じないまま一緒にいる。信じていないのに、隣にいる。

 それをずっと、申し訳なく思っている。


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