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天才少女は好奇心旺盛  作者: よる
第一章
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家族団欒

私がリネアとして生活する上で、今のところ困ったことは何もない。


常に整備された豪華な屋敷に庭園、新鮮な食材が使われたおいしいご飯、静かな環境。特に大きな自分の部屋は、考え事をする上で最高だ。


しいて問題点を挙げるとすれば、衣服とリネアの知識量かしら?


まず、衣服。私はもちろんドレスを身につけている。


ドレスの構造は複雑に分かれており、一人で着ることはまず無理だ。西欧文化研究の時に文献で写真を見たことはあったが、やはり百聞は一見にしかず。実際にやるととんでもない労力である。


ヨーロッパ貴族の寝巻きは、中世まで基本裸に毛布といった形であった。その後、今で言うワンピース型の白い布地のパジャマが生まれ、男女共に下にズボンなどを履くことなくその布地のみを身につけていた。私の場合、特にこだわりはなかったのだがお兄様が裸で眠ることに文句をつけたらしく、白い布ワンピースが部屋に置いてあった。


ドレスはそのワンピースの上から身につけるようになっており(着物で言う肌襦袢と裾除けのようなもの)、上半身 下半身 ポケット パニエ等の各パーツを順に身につけていくのだ。


その際パーツを組み合わせたり、上半身の締め上げを行うため動きにくい上に暑く、誰かがいないと着られない不親切設計となっている。いい迷惑ね。


「ねぇ、この下の服だけじゃダメなの?」


「まぁ!!!何をおっしゃいますかお嬢様!!!そんな下着同然の格好で出歩かれたら、伯爵家の品格にかかわりますわ!あんなにドレスがお好きでしたのに、やはり心に傷をお負いですのね......」


的外れなことを涙目で言いながら、お付きのメイドが後ろの紐を締め上げる。すごい力だわ。軽くしにそう。


「確かにドレスが好きだったようね、しかもお嬢様趣味の。」


クローゼットに入っているのはレースやリボンがたっぷりあしらわれたものばかり。基本服に興味はないけれど、毎日これはきついわ。


「さぁお嬢様、できましたよ!今日もとても可愛らしいですわ。」


仕上げにバラの精油を首に塗り、鏡に写るのはかつて本の中で目にした貴族の姿。


お母様譲りの長い銀髪、光の当たり方で金や青に色を変える瞳、お父様に近い肌色。おそらく美人の部類に入るんだろうが....


「よくわからないわね...」


鏡の前に立つ自分は感情がないように無表情。きっとリネアならば、花が綻ぶような笑顔が似合うはず。


私は確かに、理系の天才と呼ばれた。自分の好きなことを突き詰めた結果、失ったもの。





それが豊かな感受性だった。 





まるでこの無表情な顔のように、私の心は死んでいる。



「.......書物庫へ行くわ。開けてもらえる?」


「えっ、お嬢様がっ!?い、いえっかしこまりました...」


私が本を読みに行くことが随分と物珍しかったらしい。そんなことを言われると想定していなかったのか、お付きのメイドは急いで鍵を取りに走って行った。


「そりゃ驚くわよね、前のリネアは一切本なんか読んでなかったし。」


そう、二つ目の問題はリネアの知識量。お母様のおかげで、楽器 詩 刺繍 社交術といったものは完璧に身についている。しかしその一方で圧倒的に勉学ができていない。


元々勉強が嫌いだったようだし、貴族の淑女に教育は必要とされていない。しかも家族のあの溺愛ぶり。学がなくても許される環境だろうが、私は前世で本の虫だったのだ。この家の本を端から端まで読み尽くして、この世界の知識をつけて見せるわ。



—————————————————————————



「まぁ、すごいわね...」


埃をかぶった重厚な扉を開くと目に入る、天井まで伸びた巨大な書物庫。下手な研究機関より圧倒的な蔵書数だ。


しかしここは今はもう使われなくなっているらしい、というのも収納されている本はベルン王国の歴史や魔法の本ばかり。どちらも貴族の男性であれば、国営のベルン王国立高位教育院に通い習うものである。


つまりお父様お兄様には必要のない本たちであり、お母様のように社交界を活動拠点とする淑女にはもっと必要ないものなのだ。


「案内してくれてありがとう、しばらくこもるから下がっていいわ。」


「はい、失礼しますお嬢様。」


最後まで不思議そうな顔をして付き添ってくれたメイドを部屋に戻し、ぐるりと辺りを見回す。見れば見るほど凄い数の本だ。


少しの興奮を胸に、私は一冊目の本を手に取った。



—————————————————————————





コンコンー....


「失礼します、お嬢様。お食事の時間ですが....」


「ん、もうそんな時間?」


初めての書物に心を奪われ、随分と熱心に読み込んでしまったらしい。窓の外を見ればすでに真っ暗になってる。


「このままここでご飯食べるのは....だめよね、わかっているわ。」


「旦那様たちもお待ちですので、お急ぎを。」


不可解なものを見るような目線に耐えられず腰を上げる。私が本を読むことがそこまで不思議なのかしら?


食卓で読もうと読みかけの本を数冊手に取り、私は書物庫をでた。





—————————————————————————





「リネア、一体何をしているの?」


「え、あぁ。本を読んでいますのお母様。」


「リネアが本を!?」


食事の席につき、先ほどの続きを読んでいると案の定3人から驚かれた。どれだけ勉強から逃げていたのかしら。


「どうして今更本なんか...あなたは社交界デビューすれば教育など不要なのよ?」


「そうだぞリネア、嫁ぎ先だって私がまた探してやる。」


「俺の可愛いリネア、勉強なんて偉いな。」


.......リネアが勉強から逃げる理由って、やっぱりこの家族の甘やかしのせいよね。



「私、心を入れ替えましたの。それに一度は婚約破棄をされた身、しばらく結婚のことは考えず今までしてこなかったことを自由にやろうと思います。」


「まぁっ....!!」


「なんと....」


「リネア.....」


なぜか全員口元をおさえてうるうるしてるわ。そんなことをしていると、今日の夕食が運ばれてきた。読んでいた本をそのままに食事を始めようとすると、先ほどとは打って変わって厳しいお母様の声が飛んだ。


「リネア、食事の時に本を読むのは無作法ですよ。食事は家族団欒を楽しむ時間、本は片付けなさい。」


お母様は、私を立派な淑女に育てるためにマナー面に着いてはかなり厳しくしている。


前世では、家で食卓を家族と囲むことなんてなかったし、いつも研究室にこもって本を読んだら実験しながらご飯を食べていた。私には家族団欒というものが想像できないのだ。


「ごめんなさい、お母様...」


普通の家族とはこう言うものなのだろうか?



家族団欒とは、何なのだろうか....














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