宿にて
「なん、だよこれ」
血だらけの部屋、横たわった女性、謎の音。
テックはそんな状況を見て、思わず呟いた。
別の物語ならば、今頃、廊下の角でニヤリと笑う人がいそうな状況である。
テックは部屋の状況を頭の中で整理し始める。
(この服装、この宿の人か。腹辺りから血が出てるな。だが、この血の量は…)
テックはその瞬間、戸の陰に隠れた。
すると、
シュッという音と共に何かが伸びてきて、先程いた場所の床に穴が空いた。
(あれは、タコ足?)
その伸びた何かを見て、テックはそう感じた。少し色が紫のようで、吸盤は小さく、数は多いが確かにタコ足だ。
(うねうねと色々な方へ動いている。もしかして俺の居場所を見つけられてないのか?)
と、そこで廊下の先の階段から男が降りてきた。
「ふぅー、いやー、飲んだ飲ん…」
男は初めは恍惚とした表情を浮かべていたが、
そのタコ足を見た途端、顔が驚愕の色に染まった。
「な、なんだそれ、おいあんた、大丈夫か?」
次の瞬間、タコ足がその男の方へ先端を向けた。
「は?おい、待っ…」
「馬鹿逃げろ!」
タコ足はそのまま恐ろしい速度で男へ近づき、
そのからだを貫いてしまった。
「が、はぁ…」男はそんな声を漏らして後ろに倒れてしまった。
「おっさん!」
テックが近寄ろうとした時、タコ足が恐ろしい速さで戻ってきた。
「やっべ?!」
テックは目の端で逃げられそうな場所をみつけ、足に力を入れた。
だが、
タコ足は、再び元の場所でうねうねし出しただけで、特に何もしてこない。
(何だ?襲ってこない?まあまあでかい声出しちまったが。)
いつまで待ってもタコ足は動かない。
(少しずつなら動けるか?中の女の人や、あのおっさんも心配だ。)
テックは、壁に背をつけ、タコ足を見ながら少しずつ男の方へ行った。
(おっさん大丈夫かな?)
そーっと男に触れてみる。
(ん?何だ?傷口から血が出てない?!こんな穴空いてんのにどうなってんだ?!)
テックはその男の空いた腹に試しに手を入れてみる。
(ん?なんだ?吸盤かこれ?)
男の傷には、上から下まで吸盤のようなものがついていた。その吸盤にさえぎられ、血が出て来てない。
(吸盤を取り付け、出血を抑えた?でもなんで…)
テックがそう考えながら振り向いた時、タコ足が部屋に戻ろうとしていた。
(だー、やべぇ、逃がすか!おっさん大丈夫だろうし。)
テックはさっきの部屋まで走った。
(あの女の人をどこかに連れていく気だ。まずい。)
テックは先程の部屋の前に立ち、部屋を見て見た。するとそこには
「さーて、仕事仕事。あ、お客様どうなさいましたか?」
そのようなことを呟きながら質問をしてきた、
先程の倒れていた女がいた。
「は?」
テックは思わず頭に疑問符を浮かべた。