道中
「ふっ」
掛け声とともにテックは短剣を振り下ろした。
切られた牛のような魔物が断末魔をあげながら、倒れ込んだ。
「うし、おいリュウ、今晩の飯取ったぞ。」
テックは、魔物をかかえ、リュウに歩み寄った。
「おー、ご苦労さん。じゃ、分解しといてくれ。」リュウはやる気のないような返事を返し、再び手元にある本に目をやった。
「はいよ、ところで何読んでんだ?」
「地図だよ。ウォールを出て三日たったからな、大分ネツキに近付いてきた。」
「まじか、あとどれくらい?」
「もう3日も歩けば着くな。」
「そうか。今更なんだが、ネツキにバスで行けないのか?」
テックがそう言った時、リュウは手の親指と人差し指で輪を作ってきた。
テックは旅装備、バス代、自分たちの財布を思い浮かべ、無言で魔物を解体し始めた。
その夜
2人は、小さな丘の上で火を炊き、野営をしていた。
「ふぅー、美味。さすがだ俺、こんな美味いのをとれるなんて。」テックは肉を頬張り満足気な笑みを浮かべた。
「あの臭みの強い肉を食えるようにした俺にもなんか言ってくれ。」リュウは肉を少しづつ口に運びながら少し不満そうな顔になった。
「わかってるわかってる、ありがとよ、リュウ。ふぅー、なぁ風呂入りたくない?。」
「飯の話題早いな終わるの。泉に一昨日入ったろ。」
「うん、一昨日な。俺が入りたいのは今なんだよ。お前獣人なのになんでそんな匂わないの?」
「考えた事ない、髪ふわふわして通気性いいとか?」
「あー、あるかもな」
「はぁ、風呂はないが湖だったら、そっちの奥にあったぞ。」
そう言いながらリュウは少し離れたところに広がる森を指さした。
「まじ?んじゃ、ちょっと入ってくるわ。」
「ほれタオル。俺も行くか?夜行性の魔物もいるだろうし。」
「うんにゃ、昼間であのレベルなら夜行性も大したことない、1人でいいよ。」
「はいよ、行ってこい。」
テックは森に向かって歩き出した。
「おー、まあまあでかい湖だな。」
森に入り、湖の前にきたテックは、思わず感嘆の声を漏らした。湖に月の光が写り、とても幻想的な光景だ。
「うし、入ろう。」
テックはある程度湖を見てから服を脱ぎ、足から湖に入った。
「おー、寒い。だがいい!!」
テックは湖に肩まで浸かり、再び感嘆の声を漏らした。
「いやー、悪くない。この冷たさも慣れればあったかい。何言ってんだ俺(笑)」
少しハイテンションになっていた。
テックはしばらく泳いだり、景色を眺めながら
鼻歌を歌ったりと、湖を満喫した。
「ふぅ、そろそろ上がるか。帰って寝よ。」
テックは湖から上がり、体を拭き、服を着た。
だがその時テックの視界に一瞬何かが写った。
「ん?なんだ?」
テックは自分の周りをぐるりと見てみた。
(何も無い)
次に湖を見てみた。
(ん?あれは?)
湖のちょうどテックと真逆の位置、誰かいる。
よく見ると、女の子だ。足だけ湖につけ、こちらを見ている。
「あの子も冒険者か?俺になんか用かな?」
テックは試しに手を振ってみたが反応はなかった。
「あり、用ない感じかな。大声はダメだよな。魔物うじゃうじゃ出てくるし。」
テックはとりあえず手を振り帰路に着いた。
(誰だあの子?)