犬
身体中から冷や汗が出る、涙さえ出そう、そんな感覚を、少年リュウは感じていた。
ライオンのたて髪のように逆だった髪、緑色の目、小麦色の肌が特徴的な少年だ。
今は、そのライオンのような髪が、シナっと
垂れ下がっている。ような感覚を覚えている、
リュウは。
だが、それほどまでに目の前の存在が
出している存在感は強力だった。
だが、リュウの中は、そんな奴への恐怖などで
埋まって染まりきっていた訳では無い。恐怖は、確かにある。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。だが、今の彼には…
「さぁ、始めようぜ、犬」
こいつがいる。
テック、リュウの友人でこの話の主人公。灰色の髪に、黄色の目、肌は少し白っぽい少年だ。ちなみに、実力は折り紙付きだ。
「戦うのだな、私と」犬は、低く、ゾッとするような声で言ってきた。
「なにか不満でも?」
「ない。が、あまり良い選択ではないな!」
「茨」が、テックに向かって飛んでくる。
「ふっ」テックは、リュウを抱え、足に力を込めて跳躍した。
「茨」は、そのままテックのいた場所を叩いた。
だが、「茨」は地面を軽くえぐるだけで、あまり威力はない。
「あっぶねぇ。けど威力は無い、やっぱ不意打ちか?」テックが言い、リュウが返してくる。
「だろうな。匂いを嗅いだが、毒の匂いとかもしない、本当にただの茨だ。打ち込む力も強くない。」
テックは、近くの岩の上に降り、リュウを肩から下ろした。
「俺は行くが、何かあいつについての情報はないか?」
「無い。俺は、アイツを見た瞬間にあいつの目が光って斬撃でやられた、お前も知ってるだろうから、もう情報は無い。」
「ラジャー。んじゃ行くわ、隠れてろよ。」
「はいよ」リュウは、そう言って岩から降り、岩の陰に身を隠した。
テックが、犬の前に立つと、犬は話してきた。
「別れの挨拶は済んだか?」
「ああ、行ってくるって言ってきた。」
「意味は違うが、まぁいい。」
テックは、短剣を構えて走り出した。「茨」に飛び乗り、犬に近づいていく。
そして、「ふっ」という声と共に短剣を振った。しかし、「甘い」
犬はそう言い、「茨」で自分の前を守った。
短剣は弾かれる。だが、
「オラァ」テックはポーチの中から、
油を取り出して、「茨」にかけた。
そして、後ろに跳躍しながら、マッチを投げた。「茨」に火がついた。
「?!」犬は驚いたような声を上げ、火から離れた。
次の瞬間、犬の後ろ足が切れた。
「な?!」
そこにはテックがいた。微かに息が切れている。
(この小僧、私の「茨」を燃やし、道を開くためにマッチを使ったのではなく、その炎を陽動にして…)
サッ
犬は他の「茨」に飛び乗った。テックが2発目を繰り出してきたからだ。
「ちっ、今のでやれるかと思ったんだがな。」
テックは小さく舌打ちすると、跳躍して、犬と同じ「茨」に乗った。
(この小僧中々出来る。まさかこんな奴がいるとは。剣士も武闘家もいないぬるい時代だが、
まだまだいるではないか。)
(こいつすげぇ、マジで。こういうタイプの
魔物は、接近戦に弱いはずなのに、普通に動ける。こいつ、もしかして…)
「中々やるな、小僧。私も少し本気を出そう。」
犬はそう言うと、「茨」から降り、三本の足で綺麗に着地した。
(やっぱり、元々接近戦タイプかよ)
テックも降り立った。
「それじゃ、やろうか!」
犬は、そう言った瞬間テックに肉薄してきた。
攻撃そのものは、噛むだけだった。
(なんだ、これだけ…)
ぐふっ
テックは、自分の腹に鋭い痛みを感じた。
そこを見てみる。そこには…
(な?「茨」?!ってことは)
テックが周りを見ると、「茨」がテックの周りに蛇のようにニョロニョロうねっていた。
「何だよ、正々堂々やるみたいな展開じゃん、さっきの。やらないのか。」
「何を勘違いしている。私は、お前に本気を出すと言っただけだ。お前を人間として、
おもちゃとして見てることは変わらない。
正々堂々、戦う義理は無い。」
「お前と互角のやつをまだおもちゃ扱いかよ」
「当然だ。互角だろうとなんだろうと、お前が人間なら。人間という生き物なら。私の評価は何も変わらん。」
「ねじ曲がりすぎだろ。」
テックは文句を言いながら、短剣を抜いた。
まぁたイライラさせやがった。許さん。