1.プロローグ ~縁と供物~
ある重要な節目の直前に神頼みをする行為はフラグになりやすい、なんてことはよく言われないだろうか。合格発表や入学式の直前など、よくやってしまうのだが……
「――でないと世界は滅びます」
……こう、必ず期待と逆の方向に物語は移らないだろうか。
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何もない空間に一人たたずむ美少女が淡々と語っていた。
そもそも、場所さえ把握していない。
視界ができれば目の前には美少女。穢れを知らない端正な顔立ちで俺に向き直ったかと思えば、この話。
状況がいろいろと脳に圧を強いていた。
あっ、これ無理だ……
脳が決壊する前に、思考に閉じこもることを決めた。
——俺は仲井和人。職業、今春より高校生。昨日は、昨日は……
「聞いてますかぁ? 大事な話なんですよ?」
暗示瞑想に入るや否や彼女から催促が挟まれる。
目を開けると眼下に、体をくねらせ上目遣いで俺を見上げている彼女がいた。
「っ~~!? じゃ、じゃあ、聞くけどっ。ま、まずここはどこなんだ?」
彼女のそれは刺激が強すぎた。思わず、声も上擦ってしまう。
彼女の容姿とその構えは、10人の男がいたらその全員に襲われそうなものだった。
「う~んとね、ここは夢だよ」
『はっ? 何ありきたりのことを?』と俺が疑惑をぬぐい切れないながらも落胆すると、彼女が加えてー
「……えっと、正確にはね、あなたの夢と私の神域を繋げて、あなたの夢に入ってきたんだよ」
ーと、補足になっているのか分からないことを説明する。
「……えっと、ごめん、よく分からなかった。もう一度言ってくれる?」
やっぱりわからないのでもう一度説明を頼む。
どうやら、というかやっぱり夢の世界らしい。どういうわけか彼女と俺で縁ができたらしく、こうして会えるようになったとか。
いや、そもそも、相手は、目の前にいる彼女はザ・二次元ヒロインという感じで、だからこそー
「……いやいや、えっ? 俺こんなに――娘と縁を結ぶ機会なんてなかったはずだよっ!? いつだよ、いつ!? Where!? 」
「覚えてない、の……?」
ーだってこんなテンプレ美少女と接触する機会なんてあるわけないじゃないか!
そう、叫びたかった。が彼女の表情がその……
「いや、待って! その反応待って! お願いだから!」
今にも泣きだしそうだった。なんだろう、悪いことをしていないのに凄く良心に苛まれる。
(ていうか、最後の英語伝わっていたのか)
「…………っと、ごめんなさい! 分かりません! ……だからその顔やめて! 心が持たないから! ……何でもするから許してください~!」
ーだから全力で誤った。ちょっと、()で補強しないといけない単語があった気がするけど。
「……そぅ。うん、でも、いいや。教える。 昨日だよ。あなたが参拝したあの神社。さすがに覚えてるよね?」
「あっ! ああ~~~~。 あの神社! とすると君の名前は……」
「そう、私はアラハバキ。縁結びの神」
機嫌が直った(?)彼女の言葉で思い出した。
でも、たった一度の参拝で夢に来てくれるなんてチョロインではないだろうか。
「でも、なんで俺のもとに? あっ、もしかして俺のお願い叶えてくれるのか!?」
「ううん。違う。 それなら別の人のところに行ってる」
俺が参拝した目的。青春の謳歌の願いはあっさりと切り捨てられた。
そこはもう少し間があってもいいと思うだが。やっぱり機嫌は直っていないようだ。
「なら?」
「あることをあなたに頼むため」
「頼み? さっきもそうだが何のこと話してたんだ?」
そうだ。論点がずれていたが、これが聞きたかった。
「それをさっきから話していたのに。……もぅ」
「いや、俺だって最初から説明してもらえればもう少しまともに振舞えたかな……って、やっぱ何でもありません」
「しかたがないなぁ。 じゃあ、もう一度話すから」
一瞬愛らしい拗ね方をしたかと思ったが、置いておこう。
また彼女は淡々と業務連絡っぽく話し始める。
体感だとかなり長いのでまとめると、
『40年後に新型のウイルスで世界が滅ぶ。しかし、神々の審議では、これから俺が通う高校の生徒から生まれる子供が、その危機を救う。だが、ここには問題があり、縁結びの神々の間では、その生徒たちは自然状態での縁の結びつきが弱く、おそらく子供はおろか、交際までも行かない模様。そこで、この高校に通う予定の俺が、彼らをくっつける。たとえ己の青春を犠牲にしたとしても』とのこと。
「……え~と、つまり、どういうことでしょうか?」
一度では理解不能だった。というか、理解したくない。
いや、青春を犠牲にするってさぁ……
「簡単に言うとね、あなたがやらないと、世界が壊れちゃうってことなの」
意味を全くくみ取らず彼女がもう一度強調する。
だからさぁ…… 分かってるよ。分かってるよ女神様ぁ……
だけど、さぁ……
「ダメ? さっき『何でもする』って言ったよね?」
彼女はさらに追い打ちをかけてくる。
え、それって小突いていいことなんですかねぇ……
「いや、それは分かっているのですが……その、なんと言いましょう、信憑性と言いますか、なんと言いますか……」
『いいえ』とはあの手前、直接言えない。だから俺は当たり障りのない”信頼性”に焦点を当てて論点をすり替えようとしたのだがー
「ふ~ん… 信憑性…ねぇ。 でも、これはしかたのないことだものね。うん。 見せてあげる」
俺は逃げるどころか、その”もしも”の未来を見る羽目になった。
「どうだったかな?」
「これ……本当なのか?」
意識が返ってくると彼女が感想を聞いてくる。
仮にこれが本当だとしたら、最悪だ。
彼女の見せた世界は、よくあるゾンビ映画的な世界になっていた。肉体があれば嘔吐していても不思議ではない。
こんなものを平然と扱っている所を見るとやっぱ神だと思う。
「うん……何もしなければこうなるの」
「……少し考えさせてほしい」
「…わかった。じゃあ、明日の夜にここで待ってる。」
俺はとりあえず保留を告げるしかなかった。彼女もさすがにあれを蒸し返すことはしないようだった。
と、別れの挨拶をしたところで不意に視界が狭くなってゆく。
「……そうだ! あなたに信じてもらえるように一つお告げを下します。」
が、彼女は最後に一言告げてきた。
実に女神らしく。
「明日、あなたの外出の一歩目が……」
最後はぼんやりしていたが、俺の意識は暗転した。
最後の約束がなんだか逢瀬みたいだった、という感想は黙っておこう。
「おう。来たぜ」
「こんばんわ。それで、決めてくれた?」
「ああ。どうせ俺に選択権など無いんだろ。やってやるよ」
翌晩、女神のお告げを身をもって味わった俺は、青春を捧げることにした。
奉納者だから少しくらい配当があっても……とは決して思ってはいない。
「~~! ありがとう! じゃあ、詳細を説明するね。 まずは……」
そして、彼女の笑顔とともに俺の仲人としてのクエストが始まった。
くしくも、俺がこの後三年かけて謳歌するはずだった青春は、高校生活一日目にして理不尽にも未来への先払いとして消えた。




