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第9話 とりま物理で殴ってみたがムリゲーだった

 扉を蹴破り中に入れば見える人影2つのみ。

 1つは小さく子供のように見え、もう1つはそれを守るように寄り添っている。

 やがてそれははっきり見えるようになり、それこそが私の狙いだった。

 ジョンソン王子と、御堂皇だ。

 ジョンソン王子は小太りで、いかにも王族の子供といった容姿であった。

 対する御堂は見事なまでのイケメンで、そして黒い髪に赤い瞳が特徴であった。

 何より目を引くのは、その背に携えた大剣。

 煌びやかな装飾を施され、だが同時に強烈な力を感じるそれは、彼がどんな戦い方をするのかよく教えてくれた。

 御堂皇の顔はアズラエルから教えて貰ってた。

 ならばジョンソン王子は消極法で分かるものだ。


「反乱軍か、王子は奥の部屋へ!」


「し、死ぬなよミドウ!お前は僕のシモベだからな!!」


 そう言って、ジョンソンはヘコヘコ奥へと走っていった。

 残るは御堂皇のみ。

 私は無言でインヴェクションを虚空へと還す。

 どす黒い粒子となって、インヴェクションは霧散する。


「……いや反乱軍じゃないな、お前何もんだよ」


 皇が、背の剣を抜いて私に切っ先を向ける。

 その目は真っ直ぐで、だがなんとなく私は分かった。

 この目は嘘だ、本当はこんなに綺麗じゃない。

 もっと濁っているはずだと。


「反乱軍だよ、ちゃんと」


 そう私は言い返す。

 皇は疑念の表情をやめない。


「反乱軍にお前のようなやつはいないって聞いたぞ」


 そりゃ新参ですし、ほとんど実戦に出されなかったし。

 皇は剣を向けたまま私を睨み続ける。

 頭の中に、横アクションゲームとかで出てくるボス。

 自分があんな感じに思えた。


「反乱軍の切り札…みたいな者かな、私」


「切り札……なるほどな、何にしても…お前の狙いは王子だろ、やらせないぜ」


 そう言って、御堂は通路を塞ぐように立ち続ける。

 たしかに私の狙いには王子も入っているけど、それ以上に君の命を狙ってるんだよ。

 彼が道を塞ぐのに合わせて、インヴェクションをもう一度展開させる。


「私が欲しいのは王子じゃない……」


 そう呟いて、インヴェクションを構える。

 歪んだ刃が不気味に揺らぐ。

 それに合わせて、擬態化魔法を解く。

 隠されていた角、翼、尾が私から現れる。

 竜のごとく雄々しいそれらと合わせれば、人によってはちょっとした魔王にも見えるかもしれない。

 それを見て驚く御堂、だが言葉を言わす前に私が告げだ。


「君の命だ、【転生者】君」


 更に驚く御堂、その驚愕の様が良くわかる。


「な、なんでそれを…それにその姿…っ!?」


 続きをいう前にインヴェクションを薙ぐ。

 王子を斬らないように威力を抑えて放たれたそれは、車両は一応切れなかったけど、まあ軽く切り傷が出来てしまった。

 だがそれはどうでもいい、塞いだのだ。

 御堂はあの大きな剣で、見事にガードしていた。

 剣には傷一つないところから、あの剣自体がチート相当か、それとも上手く防ぐ技術を持ったチート戦士か。

 そう言えばどんな戦い方をしてくるとかはアズラエルに聞いてなかったけど、検討通りだったから良いか。

 何にしても防いだその様を見て、畳み掛けるように私はインヴェクションを振るう。

 体をグッと捻り、回転力と遠心力を乗せて右。

 インヴェクションがギャウウと独特の音を立て迫る。

 それを御堂は剣を巧みに使い、姿勢を瞬時に低くし、そのまま剣を振り上げた。

 剣閃と剣閃がぶち当たり、火花が飛び散り辺りを朱で照らす。

 その時私は深い疑問を抱いた。


(腐食してない…これは剣がチートか?)


 そう、普通の武器なら、腐敗属性付与率の非常に高いインヴェクションをモロに受けようものなら、あっという間に錆び果ててしまう。

 しかし彼の剣は錆びるどころか輝きを増し、その威力を増している。

 彼が切り上げた剣を床へと叩き付ける、爆音が鳴り響き、衝撃波のような物が地を走る。

 流石にこれは当たらない。

 インヴェクションを左に薙ぎながらサイドステップを刻む。

 当然それで終わるわけないだろう、相手はチート転生者だ。

 叩き付けで発生するだろう隙を強引にかき消す速度で剣を持ち上げ、鋭く早い突きを繰り出す。

 しかし本命はその後、突き自体は距離も離れているため当たるわけないが、突きのあと遅れて光が打ち出される。

 いわゆる光波だろう。

 インヴェクションを引き戻して切り上げる。

 かき消すことは出来たが、追撃とばかりに私の懐に奴がいた。

 大剣でこの距離は大剣の良さであるリーチを潰しているけど、両手の使えなくなった今の私には、出の遅い大剣より、近づいて殴る方がいいと思ったのかな。

 綺麗にアッパーカットが、私に炸裂した。

 目の前に星が飛ぶ、と同時に頭頂に衝撃が走る。

 そして気づけば空が見える。

 どうやら今の一撃で私は電車の外へと天井を貫通して飛び出したようだ。

 普通それ顎砕けない?

 何度も思うけど、この体やっぱり相当凄いな…

 自身の体に驚きつつも、吹っ飛ばされたせいで列車から離れていくのが見える。

 このままはまずい。

 インヴェクションを車両の窓に引っ掻ける。

 そしてそのまま引っ張る。

 私の腕力が強いのか、凄まじい速度で列車の窓へと突撃する。

 1度やってみたかったんだこれ。

 思いつつ、列車の窓へと真っ直ぐに足を伸ばして……


「ダイナミックお邪魔します!」


 蹴りによって窓が砕け、中にいる御堂…に当たることは無かった。

 残念なことに違う場所にいた。

 そして【ダイナミックお邪魔します】を外して隙の出来た私に、御堂が剣を振る。


「うおおおおおお!」


腐敗神の脇差(アブソート)…」


 叫ぶ御堂の剣が当たる前に、私は鎖を目の前に召喚、一気に引き抜き、取り出す1本の刀。

 アブソート、これまた腐敗属性持ちで、付与率の高い……うん、産廃なんだ。

 でもかっこいいじゃない日本刀とか。

 名前英名に聞こえるけど、そこは気にしない。

 そしてがっちり御堂の剣を防げてるので、そこも気にならない。

 私にはもう1つ【手】があるから、このまま反撃に移れる。

 そう、尻尾という手が。

 流石に尾での反撃は考えてなかったのか、土手っ腹に良いのが入る。

 でも特に食らってないようだ。

 うぐっとは言うけど、私がやられたみたいにホームランにならない。

 そのまま耐えられた。

 うーん、やっぱり肉弾戦で勝てるものじゃないや。

 調子に乗って挑むものじゃなかった。

 やっぱり殴り合いはしんどいし勘弁だ。

 反省反省と自身に言い聞かせて、御堂に切り払いを繰り出しつつ下がる。

 彼の方も同じように下がる。

 鍔迫り合いでは動かないと知ってるからだろう。


「やっぱり、お前も転生者か!」


 御堂皇が叫ぶ。

 特に隠す必要も無いし、私はそうだと答えた。

 すると御堂皇の目が変わった、綺麗なものから汚く濁ったものへ。

 やっぱりこっちが素か。

 御堂は私へこう話し出した。


「なら、なんで俺を襲うんだ。メリットなんてないし、襲う理由が分からない」


「反乱の切っ掛け作って、王様暗殺した」


 そう突き出してやれば、少し驚くが開き直る。

 嘲笑う声が響き出した。


「そうだよ、だけどこれはこの国、あるいはこの世界のためだ。知ってるか、この国の前国王は博打好きでな……国税の殆どを博打にスってた。挙句足りなければ加税するクソだ。息子もそうだ、親父みたいに金を湯水の如く使いやがる。放っておけば皆飢え死に絶える。だから俺が変わってやるんだ、新しい指導者に」


 ふーん、別に神の世界を襲うとかないみたい。

 なら神様殺す必要なかったんじゃない?

 それとも予防の殺害?

 何にしても、前国王がそうだったどうでもいいし、彼の指導者になるとかの野望もどうでもいい。

 そう伝えてやった。


「あっそ、どうでもいい」


「…嫉妬してるんだろ、俺に?」


「……は?」


 急に何を言ってるんだこの人。

 呆れた目になるが、彼は勝手に続きを話し出す。


「俺のやろうとしてることは正しい、正義だ!邪魔するなんて、自分が王になれない嫉妬心からしかないだろ?」


 思い上がりも甚だしいなぁ…でもいいやどうでも。

 彼が私をどう思おうが知ったことじゃない、私は彼を殺すのだから。


「思い込むのは勝手だけど、そろそろ本気で行くよ」


 そう私が言うと、強がりと思ったのか、彼は盛大に笑った。

 腹を抱えてとも言えるくらいだ。


「おいおい強がりはよしな、俺も手を抜いてたけど、君は俺より強くない、すぐ分かったよ。例え全力出しても大したことないだろうから降参しな。せっかく2度目の生を散らしたくないならさ」


 降参したところで何になるんだろうね。

 恐らく彼は私の肉弾戦の評価を挙げているのだろうけど、私の本気は肉弾戦じゃない。

 未だ余裕たっぷりで笑いに笑ってる御堂。

 笑えるのは今のうちさ、しっかり見せてあげるよ。

 心の中でほくそ笑み、私はインヴェクションの柄尻を床に叩きつけた。

 軽い衝撃波とともに、虚空から呼び出される物あり。

 それはこの世界で初めて戦闘した時に出したあのスピーカー。

 しかしその数は最初と違い、2台ではなく【8台】。

 更にデザインが、最初のザ・スピーカーと言ったものから、紺色のボディに、翠色のラインで刻まれた鎖と大型鎌。

 そして全体的に竜の頭のような形になっていた。

 また、他の武器と同じように鎖を召喚し、引き抜けばマイクが飛び出る、それもスピーカーと同じでデザインが違う。

 よく誰もが見かける手で持つマイクとは違う。

 虚空から(コード)が伸びて、繋がる。

 コンデンサーマイクと呼ばれ、一般的に知られるダイナミックマイクとは違う高級品と呼ばれる。

 それだけでない、マイクの頭部は円柱になっており、私の声をダイレクトに拾えるようになっている。

 その周りは刀の鍔のように円形に囲われ、持ちやすく柄も私の手にフィットする形に凹んでいる。

 これまた色は紺主体で、毒を彷彿とさせる泡を刻んでいた。

 これが私の本気の装備、スカイウォーオンラインで愛用していた…そして本気で対人戦する時に使ってた物。


「スピーカー【竜の咆哮(ドラゴン・ハウリング)】と、マイク【猛毒の短槍(アシッドピアス)】」


 これを見て御堂、唖然とする。

 それもそうだ、普通全力と言って衝撃波が出たら変身とか超大技とかを期待するよね。

 でも、私にとってはこれが変身なんだよ。


「スピーカーとマイクって、本気か?戦う気あんの?!」


 彼は完全にバカにした様子で大笑いをする。

 まあ、完全に歌う装備だもんねこれ。

 でもね…歌うこと自体が戦う手段の人もいるというのを彼は知らないみたいだね。


「いいこと教えてあげるよ御堂皇、(ラップ)を舐めてると_________




































 _____地獄を見るよ」


 そう言って、私は尻尾でマイクを握り口元へ。

 合わせて指を鳴らしてスピーカーへ、心を込めて伝えた。




 ____DJ、ミュージックスタート_____

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