第5話 外に出たら、獣人少女を拾うようです
反乱軍に入ってから少したった。
流石にすぐさま王手という訳には行かないみたいだ。
むしろ反乱軍は劣勢状態、いつひっくり返ってもおかしくない状態だった。
ここまで酷くなったのも、ほとんど転生者【皇】によるものだと考えると、やっぱり転生者=チート能力で間違いなさそうだ。
自分もそうだしね。
「クサリの姐さん、これの解除お願いしやす」
「ん、はーい…」
考えていた時、唐突に声をかけられ見てみれば、ヤーさんの仲間さんこと反乱軍兵が、何かの箱を持ってくる。
それは頑丈に鎖と南京錠で固定されており、どう足掻いてもあかない。
だけど、私はそれを無視して開けれる。
自分の指先に、体の奥そこから湧く力を込めて触れる。
すると南京錠と鎖が錆び始めた。
最後にはボロボロに錆びたそれは、ついには割れてしまった。
これが私がメインにしてる腐敗属性の効果だ。
腐敗属性は【状態異常蓄積値を蓄積させる必要があるが、発動と同時に現存HPを9割損壊。及び猛毒状態にさせる】という凶悪な状態異常。
スカイウォーオンラインでは、毒は【遅効毒】【猛毒】【劇毒】【腐敗】の4種類があり、腐敗が最も凶悪。
遅効毒は普通の毒、RPGによくあるじわじわ減ってくあれだ。
猛毒はだんだん削り速度とダメージが増加していく毒。
遅効毒と比べて、放置してると死ぬ確率が格段に高い。
なんせスリップダメージが、猛毒の方が10倍近く高いからね。
劇毒は蓄積させる必要があるけど、蓄積完了と同時に発動、HPを5割損壊させる。
そして腐敗は猛毒の効果と劇毒の効果を併せ持っている。
そう、腐敗とは全ての毒の上位互換……の筈なんだけどね。
凶悪な状態異常なためか、対策が取りやすくてね。
スカイウォーオンラインでは屈指の産廃と言われてるんだよね。
私もこれを実用可能レベルまで持ってくるの本当に大変だった…
そんな産廃を使ってる理由は3つ。
1つ、産廃だからと油断させれる。
2つ、あるスキルと組み合わせると凶悪になることをあまり知られていないから
3つ、これが1番強い要因なんだけど……カッコいいから!
腐り崩れゆく死体を背に、その場を離れるとかカッコよくない?
私だけかな?
あぁ、それから腐敗のみ道具や武器にも状態異常を与えられて、蓄積させられた武器や道具は、今の鎖みたいに錆びて崩壊するんだ。
ぶっちゃけ腐敗と言うより腐食と言った感じだけど、ゲームでは腐敗表記だったから腐敗って呼んでる。
「姐さんありがとうございやす!」
「いいよいいよ、それじゃね」
そんなちょっとした振り返りをしていると、反乱軍兵さんは例の箱を持って行った。
離れていく背に向かって、私は手を振って見送るのでした。
「さてと……」
そう呟いて、私は歩き出す。
こんな過酷な反乱軍だけど、仲間になったばかりとは言え、私は切り札扱いだ。
オヤジさんことマリアさんが私の力をかってくれて、そのまま虎の子扱いに。
おかげでこの通り暇だ。
手伝おうとしても、皆私に気を使う。
私に希望を抱いてる。
私なら何とかしてくれるって。
まあ、初日にあんな派手なことしたらそりゃそうだと思うけど。
だからって何もさせてくれないのはね…
そんなことを考えながら、私は反乱軍基地の外へ出た。
基地の外、つまり古城の外はやっぱり爽やかな潮風が駆け抜けている。
水平線から見える小さな船や、陸の方角から見える国城など。
革命中とは思えないな…
とてものどかな風景が広がっていた。
転生前の世界には絶対ない景色だ。
環境汚染で空は常に暗く、海は黒い、草木はすべて枯れ果てていた。
そんな世界で暮らしてきたから、こんな綺麗な景色はゲームの中だけだと思ってた。
それが今や眼前に広がっている。
星空の時も思ったけど、やっぱり素敵だ。
「ラップの一つでも歌いたくなるな…ん?」
そうやって、早速歌おうかと思っていた時。
視界の端に映る影。
それをよく見てみようと視線を向ければ、それは人だった。
海に人が浮かんでいた。
それだけなら別にいい、その人からは血が流れていた。
更にはその血に誘われたのか、周辺にはサメらしき背鰭が。
「見ちゃった以上、助けなきゃ」
このまま見殺しにしたら、私の心に嫌なものが残る。
私のために、浮かんでいる人を助けることにした。
誰も見ていないことを確認したあと擬態魔法を解除、翼を広げて海へと飛翔する。
世界がものすごい速さで私の後ろへと流れていく。
時間にしてコンマ数秒で、私は浮かんでいた人を、鷹の如く掴みあげ、そのまま急浮上した。
サメなんて海から飛べやしない。
空に飛んでしまえばこっちのものだ。
しばらく回遊していたサメだが、しばらくして獲物が横取りされたとでも思ったのか、徐々に姿を消して行った。
それを確認したあと、私は反乱軍基地に着地。
もちろん人目がない場所にだ。
そこで擬態魔法をもう一度かけたあと、助けた人をみる。
随分と長いローブを被っていて、顔すら見えなかった。
とりあえずローブを剥がなければ、傷の状態がわからない。
失礼承知でローブを剥ぐ。
そこに見えた顔と、【頭】に付いていたそれに、私は少し面食らった。
「ワービーストの、女の子?」
それは可愛らしい顔をした、頭に犬耳の生えた少女だった。