第4話 オヤジと呼ばれてるみたいだけど、どう見ても女
のんびりとしていると馬車はいつの間にか止まっており、中から人が出ていた。
そしてその容姿を見て、私はあんぐりと口が開いた。
アロハシャツにゆったりロングジーパン、これだけでもファンタジーとかけ離れていたが、1番驚いたのはその顔つき。
どう見てもその道の人だ、つまり【ヤ】で始まり【ザ】で始まるやばい人だ。
え、反乱軍って言ってたよねあの刑事もどきの騎士。
みんなどう見てもヤーさんだ、操縦者さんくらいだ普通の格好。
普通というか、ファンタジー世界の馬車引きと言った風貌だけど、ファンタジー世界なんだからこっちの方がフォーマルのはず。
すると1番身長の大きなヤーさんが声をかけてきた。
「嬢…ちゃん?んん、とりあえず嬢さんで」
疑問形がつくのは仕方ないけど、それは失礼じゃないかい?
言い直してたけど。
まあ190という自分よりデカい相手にちゃん付けはね。
そして改めて告げてくる。
「本当にどうにかしちまうとは思ってなかった…感謝する!」
ヤーさんにこんなふうに言われながら頭下げられると、なんか怖い。
そう思うが続けてくる。
「ところで、助けてもらっといてなんだが、嬢さん何者だ?」
まあそれが普通だよね、私だってそうする。
だから普通に答える。
「一応答えたけど、鎖腐華だよ。助けた目的は反乱軍に入りたいから、これだけだけど」
「反乱軍にか?嬢さんみたいな貴族っぽい子がか?」
そう言われて、私は自分のした事服装を見てみる。
…なるほど貴族だ。
フリルのついたカッターシャツにフィッシュテールスカート、それらを覆うように袖通したロングコート。
さらに言えば髪は腰まで届く長髪だし、色は紺だけど毛先は翡翠のグラデーションだし。
これは変人か、貴族かの2種類だ。
「一応貴族じゃないよ」
先にそう断っておく。
それを聞いてそれもそうかと呟く皆。
まあファンタジー世界の貴族って、強くてかっこいいか、汚くて残念かの2択だからね。
これは後者の方がフォーマルな感じかな、この反応を見る限り。
何にしても、ヤーさん達は私の反乱軍に入りたいという要望をきかせると、互いで相談し出す。
…やっぱり偉い人通さないと、勝手に入れることは出来ないのかな?
しばらく相談してたけど、やがて私に伝える。
「悪い、オヤジ通さねえと分からねぇ。だが、なるべくいい結果が出るように、俺達も手伝うわ」
オヤジ?リーダーのことかな。
ますますヤーさんぽいなと思いつつも、反乱軍に入ることが目的なんだ、ここで断っても意味が無い。
私はその話に乗った。
すぐにあの話を公開することになった。
馬車に乗せられてたどり着いた場所は古城。
しかしその中身は綺麗に改装されていて、見た目の割にはしっかり機能していた。
問題はその整備をしている人達。
全員やっぱりヤーさんだ。
刺青ではなくタトゥーだけど、ぶっちゃけあんまり変わらない気がするのは、私が任侠ものを見ていなかったからだろうけど……
何にしても怖いものは怖い。
ゲームや映画、アニメで見たことはあっても、本物なんて初めてだ。
雰囲気が違う、怖くてたまらない。
表情筋が死んでる私の顔は変わらないが、今この時ほどそれに感謝したことは無かった。
そして連れてかれた最奥、所謂玉座の間にて私は出会う。
ヤーさん達がオヤジと呼んでいた人物と。
その人物は女性だった……はい?
オヤジだから男性じゃないの?
ふつうそれならオフクロじゃないの?
その容姿は、いかにも任侠の女って感じで、姐さんと呼びたくなる、赤い髪にポニーテールが印象的だった。
なぜそんな女性がと、少し疑問が疼くがすぐ吹っ飛んだ。
「おいあんた、うちの子分が世話になったな」
腹の底まで響いてくるような低く太い声。
女性とは思えない…
一瞬で恐怖が心に蔓延る。
「あんたが助けてくれなきゃ、うちの子分どもはしょっぴかれて、明日の朝には首が晒されてたかもしれねぇ…感謝する」
そう言って、彼女は大きく頭を下げた。
当然周りのヤーさん達も頭を下げてくる。
なんか、ものすごく申し訳ない気持ちになる。
「恩売って、反乱軍に入れてもらおうと考えで……打算的なものだから気にしないで、頭上げて」
急いで大丈夫と言葉に出す。
するとオヤジと呼ばれている彼女が、頭をあげたあと、鳩が豆鉄砲食らったような顔になって、そう思うと今度は大きく笑い出した。
「自分からそんな、普通隠すこと言うやつ初めて見たぞ!気に入った!」
そう言って私になにか投げる。
それを私は受け取りみる。
【リベリオン】と書かれた手帳だった。
「証明書だ、反乱軍へようこそ…と言っても、構成員はほとんどあたしら【マリア・クルーザーズ】だけどな」
そう言ってまた、部屋全体に響き渡るほど大きく笑った。
んーこんなあっさり入れると思ってなかった…
なんか焼印とか押されそうな気はしたけど…だってそこらヤーさんだらけだし。
…まって、マリア・クルーザーズということは。
「オヤジさんの名前はマリア?」
「おうそうだ、マリア・サラムカ。それがあたしの名前だ、恩人、あんたは?」
彼女は相変わらず大きな声で聞いてくる。
聞いてきたなら応えよう。
私も彼女を見習って、おおきい声で伝えたい。
「鎖腐華、以後お見知りおきを」