表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

第3話 馬車チェイス

異世界【アクアマリン】、その中心港町の【コバルトブルー】。

 夕焼け差し掛かるそこに、私は変身魔法で角翼尻尾を隠して歩いていた。

 アズラエルから聞かされた依頼を達成するためだ。

 依頼内容はこうだ。


 「水と美の世界【アクアマリン】の首都コバルトブルーにて勃発している革命に、転生者【御堂皇(みどう すめらぎ)】が政府軍として参戦しています。しかし彼はその動乱の隙に王を暗殺、罪を反乱軍に擦り付けて、国王代理補佐として前線にいます。革命が失敗に終われば、ゆくゆくは国王に選抜されるでしょう。ですが、この革命自体も彼が仕組んだもの。自作自演のヒーロー劇で、王者の座に付こうとしています。この国の王は、他の異世界にもありますが【エデン】と呼ばれる宝珠を手に入れれますが、この【エデン】は神殺し【アダム】と【イヴ】と呼ばれる一対の剣を生み出す宝珠でして……あとは言わなくてもわかりますね」


 つまり、最初に貰った依頼は保身。

 神殺しの武器を手に入れさせないために殺すのか…

 初っ端から神様個人の欲望ですかい。

 世界が危ないんじゃなかったの?

 いや、神様を殺して神様の座に付くとか考えてた場合は世界が危ないか。

 どっちにしても、そんな野望を抱えた転生者を転生させた他の神様は何を考えていたんだろう?

 それは一旦置いておき、この街はなかなか面白い…いや面白いというか…


 「アスファルトとにサイレンのついたシロクロ馬車…なにこれ……」


 本当にそれしか言えない。

 そのシロクロ馬車は、なんか暴走してるっぽい馬車をおってるし…

 アスファルトあるのに馬車なのか、そもそもサイレンしっかり鳴ってるし。

 なんというか、アンバランスだ。

 西洋ファンタジーな見た目の港町を走るのがこれとか…

 せめてアスファルトが石畳で、馬車にサイレンが付いていなければ。

 ……いやそれもどうでも良いんだよ。

 反乱軍と接触しなきゃいけないのに。

 政府軍に入るのはほぼ不可能だし、反乱軍に加わった方がかっこよささそうだし。

 しんどそうだけど、結論だけいえば御堂を殺せば私は依頼達成、マイホームことコールドWARに一旦帰れる。

 単独で出来ることなんでたかが知れてるからね、1人で探すより軍として探した方が効率的だ。

 問題はどうやってその反乱軍に入るのかというお話だけど。

 反乱軍がどこで兵を募集しているのか分からないんだよね、アズラエルに聞いておけばよかった…

 ……まって、さっきの爆走馬車、まさか?

 気になって追うことにした。

 ステータスカンストのこの肉体なら、馬車なんてあっという間に追い抜ける。

 人目につかない路地裏に入ったあと、建物の屋根に向かって跳ぶ。

 おー、アニメとかでよく高く飛び越えているの見るけど、実際自分でやると結構足裏に来るな。

 地面を踏み砕く感覚。

 ゲームの中だと、そこまで感覚再現してないから分からなかったけど。

 とりあえず感動は今置いといて、辺りを見回す。

 いた、やっぱり馬車だからか、それとも視力が跳ね上がった私が凄いのか、そんなに離れているように感じない場所で、パト馬車と追いかけっこしてた。

 カーチェイスならぬ馬車チェイスか…

 何にしても、反乱軍の手がかりになりそうな馬車である以上追わないわけには行かない。

 夕焼けによって、綺麗に茜に染まった建物の屋根を飛び越え走る。

 全力疾走する程じゃないかな、軽く流す感じでも既に追いつきそう。

 分かってたけど、この体スペック高すぎ。

 流石5年かけたステータスカンスト、神様完全再現してくれて本当にありがとう。

 あっという間にサイレンの音が大きくなる。

 もう眼前にはパト馬車と暴走馬車……まって、パト馬車増えてない?

 あぁ、応援を呼んだんだ。

 当たり前か…さてここに来てもう1つ私は問題が浮上したことに気づく。


 「どうやって接触する?」


 走りながら考える。

 そう、見つけて並走するまでは良かった。

 こっからどうやって接触する。

 考えるが、中々出てこない。

 そんな時パト馬車の天井が開いて、警官ぽいというか騎士ぽいというか。

 とにかくそんな感じの人物が飛び出してくる。

 ……あ、そこ開くんだ。

 そんなこと思ってると、その人物は炎を手のひらに生み出して、暴走馬車に打ち込んでいる。

 それは正しくマシンガンの如く、結構外れてるけど。

 おー!馬車を車に、人物を警官にしたら正しく映画のカーチェイスだ。

 生でこういうの見ると、流石にテンション上がるね。

 そして上がったテンションのおかげで名案が浮かぶ。

 建物の屋上端まで体を寄せ、次の建物に飛び乗るタイミング。

 そうここ!

 ここで建物ではなく、暴走してる 馬車 に 飛び乗る 。

 風を切る音、屋根が揺れる音。

 ズタンッと天井に上手い具合に飛び乗れた。


 「な、なんだ!?」


 「サツに飛び乗られたのか!?」


 わお、やっぱり乗っかられた方はパニックになってる。

 そしてパニックになってるのは、こっちだけじゃないか。


『こちら第4班、現在3番区を追跡中!反乱軍の馬車に何者が飛び乗った、反乱軍の応援の可能性あり!』


 あら、良かった。

 これは本当に反乱軍の馬車だったみたい。

 良かった、なら接触はある意味成功か。


 「もしもし、聞こえてる?」


 分かったなら行動。

 足元の馬車天井を叩く。

 当然操縦者がこちらを向く。


 「な、なんだお前は!」


 馬を走らせながらこちらを向き、そして吠える。

 器用だこの人…

 こほん、それはどうでもいいや。


 「助けて欲しい?」


 「なに?」


 「私を反乱軍に入れてくれたら助けるよ」


 そう伝える。

 すると操縦者は鼻で笑って答える。


 「この状況わからんのか、よっぽどの化け物でもない限りどうにもならん。逃げ道もいずれ潰されるだろうしな」


 「それでも逃げるの」


 「他の奴らの逃走の囮になれるからな」


 あ、なるほど。

 この馬車囮か、多分なにか盗んだね。

 それを載せてると思わせて逃げてるのか。

 なるほど、マフィア物のゲームにありそうなシーンだったのかこれ。

 ますます美味しい状況。

 犠牲になる気のこの人達を助ければ、評価は鰻登り……ということはないだろうけど、反乱軍には恩を売れる。

 つまり、入れる可能性が上がる。


 「じゃあやっぱり助ける」


 「デカ女、正気かてめぇ!?」


 馬車の中から声が聞こえる。

 他にもギャーギャーと声が聞こえる。

 どうやら思った以上に中に居たみたい。

 なら目撃者が増えてより美味しい。


 「正気だよ、この程度、私にとっては造作もないよ」


 ちょっとカッコつけて寒い事言ってみる。

 まあ操縦者の冷めた「こいつダメだ」という諦めの目が辛いけど。

 口先だけの謎の存在と思ってるのかな。

 まあ、口先だけじゃないこと教えてあげるけど。

 私はあるものを虚空から呼び出す。

 それは鎖、その端を掴み、一気に引き抜く。

 するとジャラジャラと音を立てて、鎖は鞭打ち先端にあるそれを、私の手の中に持ってくる。


 「召喚魔法!?……って、なんだそりゃ」


 操縦者が呟く。

 正確には召喚魔法じゃなくて、武装精製魔法だけど。

 重要なのはここからだ。

 鎖が持ってきたそれは、【ラップ】をする人間は絶対持ってるものだ。

 この世界にはないみたいだけど。

 そう、それはマイクだ。

 マイクロフォン、音声拡張器。

 アズラエルに試した時は、アカペラ+マイク無し。

 ならミュージック+マイクありならどれだけの威力になるかな?

 マイクだけでなく、大型浮遊スピーカを2台精製する。


 「さてと、どうなるか…DJミュージックスタート!!」


 私の声に合わせて、スピーカからラップに使えるようにカスタムされた曲が流れる。

 サイレンが混ざっても違和感のない、いやサイレンさえ音楽の1つにして、ピアノを主軸にしたラッパとドラムの音が響く。


『な、なんだ?』


 困惑する騎士達を置いて、私は軽く歌い出す。




 いきなり登場、して悪いと思ってるがライム


 まずは聞いていけよ、私の自慢の轟くラップ


 アスファルト走る、火花散らす馬車チェイス




『う、歌かこれは?』



 ここにいる全員にmy name紹介


 鎖腐華さ、名前を公開


あんたら待ってる深い後悔


パト馬車一同と攻守を交代


地獄へ一直線、悪夢へ招待!




『ぎゃぁぁああああ!?』


 ラップが終わると同時に、パト馬車達がめちゃくちゃに走り出す。

 そりゃそうだ、私のラップは腐敗属性持ち。

 モロに聞いた彼らは、一気に体が腐り始める。

 巻き添えでパト馬車引いていた馬まで腐ってしまったのは可哀想と思うが。

 しかし、グロいなー。

ゲームで慣れてるとはいえこう言うゴア表現をマジで出来るとは。

規制なしだとこうなるのか。

そんなことを関心しながら、私は走り続ける馬車の上で、到着までのんびりしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ