第21話 まずは歌えないと話にならないよね
「まずは歌えないと話にならないよね」
そう言い出したのは祀だった。
そりゃそうだ。
歌えないアイドルなんて聞いたことない。
「踊れないアイドルもいないですね」
ついでフィーネが言い出す。
確かに踊れないアイドルはアイドルというより歌手だね。
うんうんと頷き返す。
しかし躍りか……私ダンス苦手なんだよなぁ。
一抹の不安が頭を走るが、多分なんとかなるだろうと割りきる。
「で、二人とも歌えるの?」
祀が聞いてくる。
残念ながら私はラップ以外はそこまで歌えない。
出来ないこともないけど、満足いくものが作れない。
フィーネはどうだろうか。
アイドルに憧れていたということは、そういうのも歌えそうな気がするが。
「すみません……アイドル的なものを歌えるかというと微妙です……」
そう答えた。
そうか、聞くのと歌うのじゃ全然違うからな。
そういう祀はどうなんだろう。
私はふと思い聞いてみた。
「ふふーん、聞いて驚け! アイドル的なものは全くダメだ!!」
「自慢げに言うことじゃないよね?」
これは参った、アイドル的な歌を歌える人が誰もいない。
不味いんじゃないかなこれ。
「……ラップじゃだめですかね?」
ふとフィーネがそんなことを言い出した。
そうだな、ラップ主体のアイドルなんて聞いたことないな。
未開拓という可能性もある。
だけど未開拓と言うことはそれだけ難しいわけで、売れない可能性もある。
そう考えていると祀も。
「いいんじゃないかな! ラップアイドル、斬新で!」
と、ノリノリだった。
えぇ、もっとリスクを考えよう?
確かにラップの方が私も楽だし歓迎だよ。
でも失敗したとき面倒じゃないか。
途中からの路線変更ほど面倒はないと思うんだよ。
「フカ……だめ?」
フィーネが上目遣いの涙目で見てくる。
……それは卑怯だよ。
断ったら私悪者じゃないか。
いや暗殺企んでる時点で悪者か?
なんにしても断れないなこれだと。
はぁ、とため息ひとつ。
「仕方ないね、ダメで元々だ。失敗したときに考えよう」
そう私が答えると、フィーネは嬉しそうに抱きついた。
とても嬉しそうにいい笑顔で、ありがとうと言ってくれた。
この笑顔が見られたなら、まあ悪くないのかもしれない。
「ところで心を読んだからできるってわかるけど、二人のラップてどんなの?」
ふと思い出したように聞いてくる祀。
そうか、心は読めても記憶は読めないのか。
若干納得しつつ見てもらった方が早いだろう、そう思った私はマイクを虚空から鎖で引き出し、早速歌いだした。
教える程度
だから軽く流すけれど
ラップ歴は10年以上ですけど
初心忘れるべからず
曇り曇った窓ガラス 拭くように
心をいつも磨き上げ
歯向かう敵を全部腐らすだけ
沢城雪菜がターゲット
選別する武器市場
誤射しない精密自動砲台
トップアイドルの座をさあゲット
軽く即興で流していく。
視線をフィーネに流す。
合わせるようにフィーネが懐から、私が練習用に渡したマイクを取り出す。
憧れたトップアイドル
その座さっと奪い取る
一人じゃできそうにもない
だけれどフカが一緒
不可じゃないミッション
三人で踏み出そう始めの一歩
フィーネも私と同じように即興で流す。
それを聞いて暫し頷き、祀もどこから取り出したのかマイクを手に持っていた。
まさかと思ったが、その予想に答えるように祀もラップを、歌い出す。
YOYO解った二人のレベル
この三人なら絶対いける
ラップアイドル聞いたことない
だから目指せる不可能じゃない
勝利が見えてる行こうじゃない
空に掲げようイカしたマイク!
ニヤリと笑う祀。
つられて私も笑う。
フィーネも嬉しそうに笑顔になる。
三人で円になって手を合わせる。
「後はダンスだね」
「ダンスは時間があれはいけるさ」
「この三人なら絶対やれる!」
祀もさっきのラップで理解したのだろう。
この三人なら大丈夫だと。
唯一の不安要素のダンスも時間があれば問題ない。
私たちは手を空に上げ大きく声を上げた。
「「「打倒、沢城雪菜!!」」」
「……で、グループ名は?」
「後でいいじゃん」