第2話 拠点
神様に上空に落とされてから暫くして、私は気がついたら空を見上げていた。
しかしその空は星まみれ。
満天の星空とはこの事か。
環境破壊が進んで、雲が全てを隠してしまった元の世界とは比べ物にならない綺麗さだ。
暫くそれを眺めて、1曲頭に浮かんで、誰も聞いてないのに私は歌い出した。
この感動をラップで表現したかった。
満天、キラキラ星
柄にもなくドキドキ
ラップ創造の動機
輝く夜空いい調子
わかってほしい同志
この思いは本気
感動、言葉に積める
星々にへと送る
即興で組み上げて、伝えるものなくとも表現する。
うん、すごくスッキリした。
寝転んだままラップを歌ったことは無かったけど、案外これはこれで気持ちいいね。
さて、いい加減現状確認しようか。
少し気だるげに私は起き上がり辺りを見回す。
なるほど、神様が私の【船】に送るといった意味がようやく分かった。
その理由は簡単で、ここが凄く見覚えのある場所だからだ。
【スカイウォーオンライン】で私のマイホームであり、空戦で使用することも出来る空挺。
【コールドWAR】。冷戦の意味を持つこの船は私の自慢の船だ。
船というか空中戦艦になってるけど。
そもそもコールドWARの名前を与えた理由も、私がある【戦い方】をするから、火薬も銃も載せてない為、必然的に熱くなることがないからだし。
耐久性防御力全振りの不沈艦、そんな船。
見た目にも凝っていて、これぞファンタジーの空中戦艦と言った風貌。
課金要素の見た目パーツを買って、1ヶ月かけてデザインしたのは伊達じゃない。
当然だが5年かかったステータスのカンストに比べれば屁でもなかったけど。
しかしこれを拠点にしろか。
神様も粋なことしてくれる。
少しだけ感謝するけど、やっぱり殺し合いを任されると考えると憂鬱になる。
だって面倒くさいじゃん。
生死をかけた戦いなんてさ。
ゲームなら強敵とか燃えるけど、リアルで強敵とかダルいだけさ。
やらなきゃスローライフ送れないから殺るけどさ。
「で、神様の依頼っていうのはいつ来るの」
改めて送ると入ってたけど、そもそもどうやって届けるんだろうか。
少し疑問に感じた、丁度そのタイミング。
星空から何かが降ってくる、それは天使?
ハリボテみたいな羽だな、それが本当の天使の姿なのかな。
特に気にしなかったが、どうやらこっちに落ちてくるみたいだ。
このままだと私は巻き添えを食う。
すっと体をそらす。
合わせて天使が空挺の甲板に叩きつけられる。
ゴシャッと嫌な音とともに頭から行ったね。
でも何事も無かったかのように復活してきたし。
それは私を見つけると、一目散に向かってきた。
おーう、金髪碧眼イケメンくん。
さっきから今までの人生では縁の欠片も無かったイケメンとよく会うな。
「貴女が鎖腐華ですね、申し遅れました。私貴女に神からの依頼を伝える、また貴女様の生活をサポートする【アズラエル】です」
アズラエル、死の天使だったっけ?
そんな彼が私に神様からの依頼を伝えてくれるんだ…
生活もサポートすると言ってたけど、執事みたいなことしてくれるってことかい?
「だいたいその考えであっております」
…君も心を読むのかい。
少しため息がこぼれる。
まあいいや。
「それで、依頼を持ってきたのかい?」
あまり乗り気にはなれないけど、やらなきゃ帰れないのは変わらない。
割り切ってさっさとやってしまおうと考えをシフトした。
すると天使ははいと答えた後、こう繋げた。
「ですが、その前に貴方が力を使えるのか見せてもらおうと思いまして」
…なるほど、たしかに貰ったはいいものの使いこなせれば意味が無い。
この体の力を扱えるかということだろう。
そこは大丈夫だ、この体は私のもう一つの体だった。
今でこそ本当の体になってしまったが、使いこなせると思う。
試しに1つやってみよう。
「じゃあ、アズラエル。そこに立って?」
「…こうですか?」
私が指示した場所にアズラエルが立つ。
私から少し離れた場所だ。
よし、適正距離に入った。
これでダメなら修行だな…
私は大きく息を吸って、ある願いを込めた詩を告げた。
「神様なんで、こんなトラブル
私にプレゼント、大迷惑
だけどアズラエル、貴方には感謝を
私なんかの、世話してくれるの
流石は天使、心はホーリー
試しに打つけど、受けてくれる?
貴方に届け、回復の韻
綺麗サッパリ、消えなさい傷」
そうして歌い切れば、アズラエルは不思議そうな顔して、自分の体を触る。
そうしてまた不思議に私を見つめた。
「なんと、身体中の怠惰感が消えた気がします」
「よーし」
回復のラップを作ってみたけど、良かった効いた。
ちゃんと使いこなせてるみたいだ。
そう、私の攻撃はラップだ。
正確には音波攻撃、ラップを歌う必要はホントはない。
でもこうした方が私は楽しいし、必殺技って感じがするから好き。
下手の横好きであるけれど。
「なるほど、貴女はやはりラップで戦うのですね…確かにこれなら、厄介者の多い転生者達にも通じるかも知れませんね」
そういったあと少し笑い、その後キリッと表情を変えた。
「それでは、改めて依頼を伝えましょう…」