第17話 黒歴史演奏会
フィーネと共にコールドWARに入ってから数日。
神様からの依頼は以前来ない。
どうやら殺してほしい転生者はまだ見つからないようだ。
だったら早くスローライフ生活を送らせてくれと思うんだけどね。
そんなことを思いながらコールドWARの船長室、つまり私のマイルームで、私はベットに寝転がっていた。
私のマイルームはかなり凝って作った。
改めて見直して思う。
部屋の最奥に大型のパイプオルガンが立ち、その神々しくも威圧感を醸し出している。
その手前には黒塗りのテーブルと安楽椅子があり、テーブルの上にはオーディオレコーダーと羽根ペン&インクが置いてある。
右の壁には、大きな絵画が飾られており、その絵画は…絵画というよりスクリーンショットは、私のある思い出を撮ったもの。
私と【とある竜人】が、互いに肩を組み合い、微笑んでいる、それが写っていた。
それを少し懐かしいと思いつつ、左の壁にはインヴェクションが額縁に飾られ、その下には黒塗りのタンス。
金の金具を取り付け、その上、左にアシッドスピアがトロフィーのように飾られている。
右にはモダンなランタンが置かれ、暖かな光を演出する。
最後に床は木製のタイルで作られ、その上に青いカーペットが引かれていた。
「うん……久々に弾くかな」
真っ先に目に付いたパイプオルガンを見てそう思う。
こう見えて私は昔…大体3年くらい前に、趣味で小型ではあったけどパイプオルガンを引いていた。
叔父さんがパイプオルガンの奏者だった、練習用のを引かせてもらってた。
まあ、あまり上手くはなかったけど、ゲームの中では楽曲を読み込ませるだけで、本当にそう引いてるように思わせてくれた。
ここはゲームではないから、同じように楽曲読み込ませて弾けるかは疑問だが…
「…取り敢えずやってみよう」
そう思い、私はオルガンに手を置いた。
私、フィーネがこの船に来てもう数日。
私は今、船の甲板中央広場にいる。
お星様が綺麗に光ってて、ずっとそれを眺めてるの。
いくら見てても飽きはしないよ。
フカは、私と同じ転生者。
何となく予想はしてたけど…実際知った時は驚いたし、もし私が助けろと言われた転生者と違ったら…嫌だった。
だけど、運命はイタズラで、私とフカが離れることは無かった。
勝手に連れてこられたけれど、その点には神様にありがとうを伝えたい。
フカに命を助けられて、こんな可愛い服を与えられて、撫でてくれて、なんというか…ずっと私はフカに与えられてばかりだと、気がついちゃった…。
それにしても、最近フカは暇そう。
私もそうだけど。
神様からの依頼がやってこない、それは誰も殺さなくていい。
それはそれでいいのだけれど、フカは何故か不満そうだった。
フカは…人を殺したいのかな…
いや、そんなことは無い。
だってフカは優しいもの、本当に人が殺したくて不満になってるなら、私はあの時見捨てられてるもの。
……ううん、分かってる。
フカにはなにか事情があるって。
誰かを殺してでも果たしたいことがあるって。
「……でもそれって…なんなんだろう」
ふとこぼれた。
そう言えば私は、フカのことほとんど知らない。
私の命の恩人で、転生者で、鎌と腐食使いで、いっつも気だるげな顔。
そしてラップが大好き、それくらいだ。
「んー…ん、何?」
そんな考えてる時、私の獣耳に聞こえるものがある。
それは音色、空気が震え、鉄が奏でる。
管楽器のような…でも管楽器とはまた違う。
弾くように奏でられる、爽やかに、星空に合う、素敵で、とっても…
「綺麗な音色…」
私はその正体を確かめたくて、歩み始めた。
この姿になってから、耳はかなり良くなった。
おかげでどこから聞こえてくるかすぐに分かっちゃった。
私は音に繋がれ、引かれる様にその場所に。
そこは船長室、フカの私室だった。
そう言えばフカの私室には入ったことがなかった。
この船はとっても大きい、よく迷う。
それもあってかフカと一緒でないと、自分の居場所を見失うことが多かった。
現に私はここから甲板中央広場まで帰れるかと言われたら無理。
帰り道わからないよぉ…
でも、今それは置いておく。
この綺麗な音色はフカの部屋から響いている。
ならもしかして、私はそのもしかしてを見たくて、扉をゆっくりと開けた。
青いカーペットが私を出迎え、壁にある武器と絵画。
中央に座す黒塗りのテーブルと安楽椅子、でももっと目を引くのは最奥のパイプオルガン、あれが音の正体。
そしてそれを演奏するのは…フカだった。
集中した…とは言いきれない、いつも通りの寝ぼけ眼で指を弾いて鍵盤を奏でてる。
それはまるで巧みに美しく舞踏する踊り子のように、フカの指は舞い踊る。
指に合わせて体も揺れる。
体から伝達するように翼と尾も揺れて、まるで蜃気楼のように…だけれどもフカはそこにいて幻じゃない。
着ているいつもの服も、中世の貴族っぽいのもあってか、まるでその時代にやってきたみたい。
目をぱちくりさせて、見れば見るほど、フカの動きと、それによって奏でられる音に魅せられていく。
音が踊り、鉄管が震え、空気が伝える。
指が走り、鍵盤が押され、音を複数生み出す。
あぁ、私は今、凄いものを聞いている気がする。
私は、フカの演奏が終わるその時まで、全く動けないで、その音に聞き惚れていた…
ふぅ…何とか行けた。
うろ覚えで、昔叔父さんに教えられた曲を弾いた。
ゲームと同じように、楽曲を読み込ませてみたけどやっぱりダメで、結局自分で弾いたけど…
「下手だな…」
叔父さんに言わせばそうだろう。
いやプロと比べる時点でおかしいか?
それでもいくつか音を外したし、うろ覚えだから飛ばした部分もあるし。
かなり酷いなぁ…
ラップ風にいうなら、【ライムを踏めても、フロウが無い】
音を出すだけなら誰でも出来る、奏でられてない。
自分でそれはよく分かっていた。
あぁ…やっぱり向いてないなぁ。
こんな転生することが分かっていたら、ゲーム内でも楽せずに、パイプオルガンの練習もっとしたのに。
そう考えてると、拍手の音が響く。
パチパチパチと、音のする場所は真後ろ。
私は振り返り、そこを見てみると…フィーネだ。
フィーネが手を打ち、満面の笑顔を見せていた。
「聞いてたの?」
そうだとしたら恥ずかしい。
いやまって、フィーネは犬のワービースト。
鼻はいいことは知ってた、耳もいいのは忘れてた。
どこにいたのかはおおよそ予想がつく、とすれば、この音楽がどこまで響いたかわかるわけで…
「甲板中央広場まで響いたの……」
頭を抱える。
は、恥ずかしい…こんな酷い音をそんな所まで…
そうだった、コールドWARに他人を招待したことなんてなかったから、どこまで音が響くかなんて調べてなかったねそう言えば。
「もっと聞きたい!」
恥ずかしがってる私を他所に、フィーネは私にせがむ。
あんな音を聞きたいって言ってくれて、少し嬉しさと恥ずかしさが襲ってくる。
うぅ、なんか未体験な気持ちだ…
でも、せっかく聞いてくれると言ってくれたし…
聞かれてしまったと考えたら、少し吹っ切れた気がする。
よし、それじゃあ弾こうか。
気持ちを切り替えて、鍵盤に向きあい、演奏を始めるのであった。