第16話 新たな世界への旅立ち
オヤジさんに後押しされて私は反乱軍基地の外、フィーネと初めて会ったあの場所に来ていた。
フィーネもそこで待っていた。
「フカ、もう良いの?」
フィーネの心配そうな声が聞こえる。
私はそれに大丈夫って答える。
オヤジさんに別れは告げた、オヤジさんも私が踏ん切り付きやすいように突き放してくれた。
あとは私が飛び出すだけ。
私はフィーネに手を差し出す。
フィーネはそれを取って、しっかりと握りしめる。
離されてしまわないように。
準備は互いにOKならもう戸惑う必要は無い。
空にめがけてアズラエルから貰ったフックショットをうち放つ。
するとある程度したところでなにかにフックショットが当たる感覚が伝わる。
瞬間すごい勢いで巻き取りが始まり、私たちの体が宙に浮く。
これ…肩外れそう…っ!
フックショットはありそうで実在しない物って昔から言われてるけど、今身をもって分かったよ。
ステカンストでこんなふうに感じるんだったら、普通の肉体でやったら壊れるよ。
インヴェクションの鎖によるワイヤーアクションは、自分でスピードとか方角とか、両手で支えられるとかあるから特に問題なかったけど…この片手サイズのはキッツ…
「フ、フカァ!」
「大丈夫、大丈夫だよフィーネ、もうちょっとしっかりつかまって」
弾丸のように私たちは空を飛び、やがて風の抵抗が消える。
視界に映る景色も変わった、青の色が黒へと変化して、辺りに小さな光が散らばってる。
それは黒布にばらまかれた宝石のように…いや私そんなばらまかれた宝石とか見たことないや。
でもそう言いたくなるこの景色を私は知ってる。
初めて拠点に飛ばされた、そうあの時のだ。
それを証明するように、だんだん空を優雅に飛ぶ船が見えてきた。
コールドWAR、私の船だ。
船首の方にフックが刺さってるみたいで、船首目掛けて飛んでいたみたい。
「フィーネ、離さないでよ」
「う、うん!!」
さっきから、手どころか体にしがみついているフィーネにそう伝え、私はフックショットを解除した。
その解除場所は船首ギリギリ。
すかさず擬態化解除し、私の背から大きな一対の翼が広がる。
蝙蝠の様な、否、竜のごとく雄々しい翼をはためかせ、私は宙に舞う。
「ふひゃー!!フカ、フカァ!?」
急に飛行方向が変わったのがよっぽど怖かったのかな。
フィーネが可愛らしい悲鳴をあげている。
心配そうに私の名前を何度も連呼して、目をぐっと瞑っている。
まあ地上が見えないからね、下に見えるものは青一色。
つまり海しかないんだ、怖いのも仕方ない。
私はもう少しフィーネの怖がってる姿を見てみたいと、加虐心が湧いてくるけど、必死でそれを押さえつけて、船へと乗り込んだ。
2週間ちょっとしか離れてなかったのに、ここに戻ってくるのが久々に感じる。
「フィーネ、もう大丈夫だよ」
しっかりと私自身の足が地面についたことを確認して、フィーネに伝える。
フィーネはしばらく目をつぶったままだったけど、やがて片目を開けて、そしてゆっくり足をつけた。
半信半疑か、何度か足踏みを繰り返して、ようやく落ち着いてくれた。
「怖かったぁ…」
涙目で答えるフィーネ、落ち着かせるために私は彼女の頭を撫でる。
フィーネは、私が頭を撫でるとすぐに落ち着いたりしてくれる。
ほかの人がするとすごい嫌そうになのに、なんでだろうか?
あんまりそこは考えないようしておき、声を上げて彼に伝える。
「アズラエル、戻ったよー!」
「おかえりなさい」
「うわっ!?」
声を開けた瞬間、即真後ろから声が響く。
へんな反応しちゃったけど仕方ない。
その声の主は、まあ知ってたけどアズラエルだ。
流石にここで擬態化する必要は無いし、彼はいつものハリボテっぽい翼を生やした天使の姿になってた。
フィーネも、こっちの姿の方が見慣れてるのか、アズラエルをまじまじを見たあと、うんうんと頷いていた。
「さて、神に変わり感謝申し上げます鎖腐華。あなたのおかげであの世界は救われ、神々も大いに助かりました」
そう言って頭を下げるアズラエル。
私はそんな彼に大丈夫と伝える。
「イマイチ世界救った実感ないけど…国もね」
「あのあと、もし仮に御堂皇が王になってた場合、今回よりも酷い反乱が起こると思います、そしてその反乱を力でねじ伏せていたでしょう。彼はそういう人種ですから」
自分たちで転生させたのに、そういう人だと分かってて転生させたの?
神の考えることはわからない。
私を転生させた神様も大概何考えてるかわからないけど。
何考えてるか分からないといえばアズラエルもだ。
なんで彼の翼はこんなボロボロなんだろう。
疑問符が頭に浮かぶけど、仕方ないと考えて放っておいた。
多分答えてくれないだろうし。
「さて、まだ神からの次依頼はありません。しばらくの間、この船でお暮らし下さい。では私は雑務がありますのでこれで…」
そう言って、アズラエルは地下牢であったときのように、光の粒子のように消えていった。
「フカ?」
フィーネが疑問の瞳を私に向ける。
私はフィーネの擬態化魔法を解除する。
素敵の獣耳と尻尾が、久しぶり顔を見せる。
「…ようこそフィーネ、私の牙城へ」
「……っ、はい!!」
こうして、私とフィーネの長い長い、転生者殺しの幕が上がったのであった…