第15話 マリアの独白
反乱軍中央広場、昨日の大宴会が余程凄かったのが、改めて分からさせられる。
なぜならこの惨状が全てを物語っていた。
あちこちに散らばる酒瓶と酒樽、キレイさっぱり食べられて、何も乗ってない皿の山。
そして酔いつぶれて爆睡中のヤーさんの山。
あちこちに転がった木彫りのマイク、そして漂う酒と吐瀉物の臭い。
正直…きつい、なぜみんなこの状況で寝れるんだか…
そんなこと思いながらも、私はオヤジさんを探す。
しばらくこの臭いのきつい広場を見渡すと…いた。
端っこの方でうずくまってた。
胡座をで座って、口からよだれを垂らして、ぐがぁーと豪快にイビキをかいていた。
…女性だよね?
疑問符が頭に浮かぶが、起こすのは悪いなと思いながらも起こす。
別れも言わずに行くのは寂しい、だからせめてお世話になったオヤジさんには伝えたい。
肩を触り、ゆっくりと揺らす。
するとオヤジさんは不満げに目を開け始める。
「んん…あんだぁ……まだ眠いんだよ…クサリ?」
「オヤジさん、おはよう」
起きるオヤジさん、すごく酒臭いけど、伝えたいからそれは我慢して口を開こうとした。
「なんだぁ…湿気た面してんな、何かあったのか?」
そのタイミングでこんなこと言われた訳だから、一瞬詰まってしまった。
表情筋の死んだ私でも、どうしてと言った表情になったのかもしれない。
だって続くオヤジさんの言葉…
「2週間ちっとしか過ごしてなくてもな、大体わかんだよ…何人腹にひとつもふたつも抱えたやつ見てきてると思ってんだ」
そう言えば忘れかけてたけど、反乱軍の人達の大半はもともとオヤジさんことマリアさんの部下。
すぐにこんなに集まるわけないし、ここに至るまで相当長い時間があったんだろう。
そう考えたら、オヤジさんがリーダーに選ばれるという人望にも納得だ。
「で、なんなんだ」
不満そうに伝えるオヤジさん、私は自分が転生者ということは伏せておいて、フィーネと一緒にこの場所を離れることを話した。
私たちは遠い場所へ行くって、多分もう会うことなくなるだろうって。
話せば話すほど、オヤジの表情が険しくなっていく。
でもここで怖さに引っ込んじゃダメなんだ。
突き放すように私は告げた。
「お世話になりました…」
「……」
無言、お互いのあいだに広がる静寂。
正直辛いこの空間。
もうこのまま立ち去ってしまいたい…
どうしたらいいかわからないこの状況、先に口を割ったのはオヤジさんだった。
「行けよ…」
「え?」
私が聞き返してしまうと、オヤジさんはますます不機嫌な顔になって、鬼の形相でこう叫んだ。
「行けよどこにでもよ!行っちまいな!!」
頭をハンマーで殴られたような、重く低い声が響き渡る。
それに私は怯えるように走り出した。
やっぱり怒るよね、そんなこといきなり言われたら。
もう少し時間を置くべきだったか…そんな思考が駆け巡る中、走り出す中、ぼそっと聞こえたその声で、私はそんな思考を投げ捨てた。
「ったく、てめぇの決めることに文句あるか。自信もって言って欲しかったぜ…」
「……ありがとう、オヤジさん」
もう結構離れてる、ステカンストだからこそ聞こえた距離。
多分私の呟きは聞こえていない。
それでも、言わなきゃいけないと思ったんだ。
そうして、私は広場をあとにした…
「馬鹿野郎が」
私はクサリを見送る。
でっけぇ体してちっせい肝っ玉だ。
ここを去るとか言った時は確かに驚いたが、そんなもんあいつが考えて決めたことだ。
あたしはいつもそうだ、そいつが考え抜いて決めたことなら文句ねぇ。
クサリの目もそういう、悩みに悩んで選んだ回答のように見えた。
だからあたしは突き放した。
ああいうのは下手に大丈夫とか言うと、余計に離れられなくなって、踏ん切りつかなくてそのまま移住しちまうタイプだ。
ガツンと拒絶しなきゃいけねぇ、例えいて欲しくともだ。
あいつが来てから反乱軍は変わった。
絶望一直線から、希望が見えた。
このままゆるゆると全員死ぬのを待つのが、反撃の一手を繰り出せるほど立て直せた、そしてその刃は届いた。
政府の油断と慢心から生まれた、無謀に近いお粗末な作戦を突き崩して、王子を捕らえて、国の政権を握った。
クサリが、そしてフィーネの嬢ちゃんがいなかったらできなかった事だ。
クサリ、あたしはあんたに王になって欲しかったんだぜ。
普段何に対しても無気力そうなあんただが、真面目な時は真面目って分かってるからな。
有能で無気力怠惰な王様が、今の国には必要な気がした。
自分が楽するために全力尽くして仕事を終わらす、そんな王が。
でも、そうは行かなかったな。
さて、私は次に誰を王にするか考えねえとな。
もちろん自分は論外、あたしに政治は無理だ。
この中で頭の切れるのは…参謀か?
あのハゲメガネに国の王ができるのか不安だが…試してみようか。
「あーめんどくせぇな、これ子分共に説明しなきゃいけねぇのかよ」
鬱陶しく思いながらも、あたしにはふっと笑みが浮かんでたと思う。
憎たらしげに私は、もう見えないクサリへと呟いた。
「あばよ、クサリ…また会うことがあればな」