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第13話 涙と告白

 宴会が終わり、簡易睡眠部屋のベットの上に仰向けに寝転がる私。

 日数にしてわずか2週間とちょっと。

 あっというだったなぁ、こんなに早く転生者を見つけ出して…


 「…やっちゃったんだからなぁ」


 ボソリ呟く。

 私は自分がおかしくで自分勝手だとわかっている。

 自分の平穏のため他人を殺している。

 そして殺しても特になにも思うことがない。

 おそらく私は心が壊れてるのだろう。

 自分に害を成すものは殺して、平穏を奪い取る。

 そう考えると最低と思う反面、それでもいいかと言う思いがある。

 昔はこんなんじゃなかったと思うんだけどな。

 何時からだろうか……

 そんな面倒なことを考えていると、ガチャリと扉が開く。

 視線だけ向ける、薄い木造扉を開けて入ってきたのは……

 フィーネだった。

 私はほっと一息付き、体を気だるげに起こした。

 よく見るとフィーネは枕を胸に抱いていて、私の元へとゆっくり歩いてきていた。

 とてとてという効果音が聞こえてきそうな、そんな歩き方で、やがては私の膝の上に座った。

 ここ2週間で理解出来た、フィーネの定位置だ。

 フィーネは何故か私の膝の上がお気に入りみたいだ。


 「どうしたの、フィーネ?」


 私はフィーネに問う。

 こんな夜中にフィーネが部屋を訪れるのは初めてだったからだ。

 しばらくフィーネは沈黙を保ってたけど、枕をぎゅっと抱き締めて、頭上の私へと視線を向けて答えた。


 「私、フカに伝えなきゃいけないの…」


 その目は真面目なもので、同時に不安と恐怖があった。

 そこまでして、私にフィーネが伝えたいこととは。

 私はフィーネが怖がっているものが分からない、だけれども怖がっていることはわかる。

 ならやることは一つだけだ。

 彼女の頭に、ぽふっと手を置いて撫で始める。

 ゆっくりと、髪を解くように。

 滑らかな髪が指を透き通っていく。

 撫でれば撫でるほど、フィーネはゆっくりと落ち着いていった。


 「…ありがとうフカ」


 「いいよ、で……伝えたいことって?」


 落ち着いたフィーネに、ゆっくりと聞く。

 それでもフィーネはしばらく黙り込む。

 その伝えたいことの重要性が、それだけで伝わってきていた。

 一体どれくらいの時間がたっただろうか?

 恐らく数秒しか経ってないのだろうが、私にはそう思うほど、長く長く感じた。

 ようやくフィーネはそれを口に出した。

 それは私が認めたくなかったものだった。


 「私…この世界の人じゃないの」


 それはフィーネが転生者であると予想するには十分すぎる言葉。

 恐らく初めてあった時、フィーネが語ろうとしなかった理由の一つ。

 そんなグルグル渦巻く私の思考を置いて、フィーネの話は続く。


 「気が付いたら真っ白な人が目の前にいて、ある人の助っ人をして欲しいって言われて、問答無用でこの姿にされて……そして海にいた。目が覚めたらいきなりサメに襲われて、やけくそになって、何故か使い方のわかるあの武器(メメント・モリ)を振り回してたら…力が抜けて意識を失って……」


 そう言って、少しだまる。

 恐らく神が私か、それとも別の誰かかに助っ人としてフィーネを送ろうとしたんだろう。

 でも、転生先が悪くない?

 海としか言ってないけど、恐らく海のど真ん中だよね。

 殺す気満々じゃないか、普通死ぬよねそんなところに放り出されたら。

 神は何を考えて、フィーネをそんな場所に。

 そしてサメに襲われて…と言ってるけど、多分あの時の酷い傷の正体が分かった気がした。

 メメント・モリだ、恐らくメメント・モリの効果をその時知らなかったんだろう。

 振り回したと言ってるし。

 メメント・モリのHP最大値減少効果で、ギリギリまでHP最大値を削ってしまったのだろう。

 そしてサメとの戦闘が終わった判定を貰って、減ったHP最大値が回復。

 このせいで急激に体力が減ったと勘違いしたのだろう。

 そして、流れに流されて私の元へ…か。


 「そしてフカに助けてもらったんだ。怖かった、目の前に大きな人が立ってるんだもん。襲われるって思った」


 そりゃそうだね、あの怯え方はそういう風なものだったし。

 私だって普通は驚くよ。

 目の前に190の人がいたらさ。

 まあちょっと傷ついたけど。


 「でも違った…フカは私を助けてくれた、優しくしてくれた。涙が止まらなかった、いきなりサメに襲われて、このまま訳の分からないまま死んじゃうんじゃないかって…怖かった…」


 小さな胸をキュッと抱き締めて、フィーネは話し続ける。

 その怖さはどれほどのものだったか、本人でない私には分からない、だけれども怖かったということは、あの時の抱擁を見ていればわかる。

 あれは、サメに襲われて怖いんじゃなくて、見知らぬ世界にいきなり放り出された上に死にかけたから怖かったんだって、今やっと分かった。


 「あの時、私はフカの質問に答えなかった…言ったら拒絶されると思った。だから…黙った」


 恐らく、なんで海に漂流…と言ったことかな。

 確かに、普通異世界から送られて、サメに襲われてましたなんて信じないよね。

 私もいきなり聞かされたら戸惑ったとおもう。

 今でこそ、やっぱりと思えるけど。


 「だけれども、それでも、フカに付いてくると聞かれた時、嬉しかった。たどり着いたここも、私が見たこともないものばかりだった。沢山いる人、ちょっと臭う油、重要そうな話をする人。どれも新鮮だった、見てるだけで楽しかった」


 そう言いつつ、フィーネの顔が俯いていく。

 それは次に言うことが拒絶させるかもという恐怖からか、あるいは別のことか。

 私にはわからない、だけれども、フィーネが次にいうことに、私は拒絶を起こすことなんてなかった。


 「こんな、私でも、別世界から来た私でも……受け入れてくれる?」


 私はそれに言葉ではなくて、行動で示した。

 フィーネをぎゅっと抱き抱えて、頭をゆっくりと撫で続けた。

 そして、俯いていた彼女の顔を起こさせて、目と目を合わせて答えた。


 「私は拒絶しないよ、フィーネ。話してくれてありがとう」


 私がそう伝えると、フィーネは私の胸に顔を埋めた。

 その声は、涙の音だった。

 ただ一言、何度でも繰り返された。


 「ありがとう」と


 何度でも何度でも、降り注ぐ雨粒のように。

 奏でられる歓喜の雫は、私を濡らして、それでも拒絶なんてしない。

 ただ優しく、彼女を抱き続けた。

 夜の白むその時まで……

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