表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

第12話 勝利と宴会

 御堂が死に、守るものがいなくなった王子。

 その運命は語るまでもないだろう。

 あの後反乱軍は列車を完全包囲し、中に突入後王子を確保した。

 包囲が完了する頃には政府軍の兵力は、私とフィーネとでズタズタで、なんの苦もなく入れたそうだ。

 私としては、フィーネが戦えた…そしてデタラメに強かったことに驚きを隠せないんだけど。

 しかもメメント・モリって、スカイウォーオンラインで出てくるロマン砲というあだ名のあるハンマーだ。

 自身のHP最大値を消費し、その消費した分だけダメージを乗算するという代物。

 素の火力が低い代わりに、そのエンチャントをうまく使いこなせば、シナリオラスボスでさえ一撃で葬ることが出来るモンスターウェポン。

 ただし減ったHP最大値は当然戦闘中は戻らないし、最大値が減るということは死にやすいということ。

 減らした分は、戦闘が終わるまでエンチャントが掛かりっぱなしだが、追加で火力を底上げという手段も取れないため、本当にテクニカルで玄人向けの武器。

 それをフィーネが何故持っていたのか、そして何故扱えたのか、出てくる答えは1つしかないが、フィーネのあの無邪気な反応を見てると、どうしてもこれは違うんじゃないかと否定したくなる。

 そんな私の心情など露知らず。

 現在私がいる場所なんだけど…


「カンパーイ!!」


「我ら反乱軍の勝利と、英雄【フカ・クサリ】と【フィーネ】にカンパーイ!!」


 反乱軍基地中央広場、そこで大宴会が起きていた。

 私とフィーネは隣合う席に座らされて、運ばれてくる料理に唖然としていた。

 肉汁滴る肉厚かつ脂煌めくステーキ、新鮮でシャキシャキと言った食感の期待できそうなほどに輝くサラダ、そして甘い香りが鼻孔を突く黄金に微笑むプリン。

 他にもどこから持ってきたんだというような綺麗で美味しそうな料理の数々。

 反乱軍に、そんな食料貯蓄ないって言ってなかったっけ?

 その疑問に答えるように、私の背後から影が。

 オヤジさんだ。

 ぬっと顔を伸ばすように現れて、ニカッと八重歯の素敵な笑顔になって答えてくれた。


「政府軍の貨物車両にあったんだ。フィーネが見つけたんだぜ!」


「反乱軍の料理人たちは、大半が元国王の料理を手がけたプロの方です。味の保証は絶対です」


 参謀さんも同じようにぬっと現れてくる。

 今日はメガネつけてるんだね。

 そんなどうでもいいこと思いながらも、オヤジさんの耳打ちが届く。


「なんでまだその姿なんだ、皆もう知ってるぞ?」


 その姿とは、恐らく擬態化のことだろう。

 私もフィーネも、まだ擬態化をしている。

 フィーネは知らないが、私は間違いなくバレている。

 なぜならあの時、御堂のアッパーを受けて吹っ飛んだ時。

 間違いなく皆に見られていたはずだもの。

 少なくとも1人以上は絶対に。

 それで正体を明かした方がいいんじゃないかな。

 そうオヤジさんは伝えたいのかもしれない。

 それも一理あるかもしれない、だけれども私はもうこの世界にいる必要が無いから。

 この水の多い世界に転生者は多分いない。

 いるかもしれないけど、神様のターゲットにされていない以上、私は神様に目を付けられた他の転生者を殺さなければならない。

 そうしないと私はのんびりとしたゲーム生活を送れない。

 だから、仮にここで竜人フカとして姿を晒しても、意味無い気がしたんだ。


「最後まで、人間フカとしてあろうと思ったんだ」


「ふーん、まあそれがお前の考えなら別にいいけどな」


 オヤジさんは深くは聞いてこなかった。

 何となく、私の思いを察してくれたのかもしれない。

 そして私の視線は、やがてオヤジさんからフィーネへと向けられる。

 相変わらず私が作ってしまったゴスロリを着て、黒い髪と可愛らしい童顔を見せてくれているけど、その表情は少し不安げだった。

 これだけの大勢の人間に讃えられたいるせいだろうか?

 私自身でさえ、こんなこと無かったせいで、結構心臓が早鐘を打ってるし…そうだ。

 妙案浮かんだりと、一人胸の内に呟く。

 私は、ゆっくり優しくフィーネの頭を撫でる。

 少しでも不安が消えればいいなって思いながら。

 そうして、撫でられてフィーネは表情を和らげてニッコリと笑った。

 …やっぱりフィーネがそうだとは思えない。

 そうだったとしてたら、相当幼い子であることになる。

 そんな子が、メメント・モリというロマン砲を扱えるとは到底思えない。

 いや実際はいるかもしれないけど、フィーネがそうであるとは認められなかった。


「フカ〜?」


 フィーネが疑問の声をあげる、撫ですぎたかな?

 少し反省しつつ、手を離そうとする。

 すると少し寂しそうな表情を浮かべるフィーネ。

 …なんの疑問の声だったんだろう。

 そう思いつつ、結局また撫で始める。

 心地よさそうにするフィーネ。

 ガヤガヤと喧騒に塗れたこの宴会の中で、私たち二人だけ、なんだが変にほわほわとした空気になっていた。


「フカ、好き」


 満面の笑みで、唐突に私に伝えるフィーネ。

 それを見て、私も…多分ぎこちないとは思うけど、微笑んで答える。


「ありがとう、フィーネ」


「よーし、ここでいっちょなんか芸と行きますか!誰か立候補しねぇかー!!」


 私が伝えるのに合わせて、ヤーさんの1人が席を立って叫ぶ。

 宴会といえば芸、そんな印象が私にはあったけど、ここでもそうらしい。

 彼は芸をする人を探し出す。

 しかし数秒もしないで、手が数多に上がった。

 その中から一人、選抜されて出てきたヤーさん。

 彼はなんとその手にマイクを持っていた。

 正確には木彫りだから、マイクの形をした木彫りかな?


「はーい、1番イチゴロウ!フカの姐さんの真似して、歌ってみます!」


 そう言って、彼は歌い出した。

 多分ラップをしてみようとしたんだね。

 結構いい声だけど…ラップでは無いねこれは。

 普通に歌になってる、韻を踏めてないや。

 こういうの聞くと、なんか…教えたくなっちゃうね。

 異世界の人に、ラップの良さを知って貰えたかもしれないし。

 ふと、フィーネと視線が合う。


「フカ〜、行ってらっしゃい!」


 眩しい笑顔で答えてくれた。

 ふふ、そう言われたら行くしかないな。

 私はアシッドピアスではなく、普通のマイクだけ召喚して、席を立った。


「違うねぇ…ラップはこうやるんだよ、イチゴロウさん!!」


 そう叫び、私はラップを奏で始めるのであった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ