第11話 ちっちゃな犬娘の怒り爆発
腐華が御堂と戦闘をする少し前、列車の外は反乱軍達と政府軍との銃撃戦が起こっていた。
激しい鉄火が巻き起こり、鮮血と木片が海一面に散らばる。
まさしく銃弾の雨。
巻き込まれれば死しかない。
体に当たらなくとも、水上バイクのようなものこと【水牛】が炸裂させられて、これもまた狙い撃ちされる。
鮮血で海が染まっていく。
今の反乱軍の仕事は、腐華が王子を捕らえるまでの時間稼ぎ。
攻撃しつつ生き残る術を選んでも、死人は出続けている。
しかし、それを見て黙っていられないものが一人いた。
その少女は、最初は怯えていた。
ただただ自分を救ってくれた素敵なあの人の役に立ちたくて。
でも反乱軍の皆も自身に良くしてくれた大切な人達。
その人達が傷つき死んでいくのも見たくはなくて。
眠りし獣は目を覚ます。
「……黒壇死告槌」
ポツリと、そんな声がマリアには聞こえた。
その直後、自身の背後に乗せていたフィーネが海へと飛び降りた。
縛り付けておいたのにも関わらず、その縛っておいた紐は引きちぎられていた。
「フィーネ、何やって…!?」
マリアが気づき、振り向いても既にフィーネは海面に。
しかし驚くべきことに、フィーネは海面に立っていたのだ。
それだけでマリアを含む反乱軍、そして政府軍の驚愕は終わらなかった。
フィーネは懐から、とても小さなナイフを取り出した。
柄尻に髑髏のレリーフが作られ、全体的に真っ黒。
しかもおかしなのは、刃渡りが手のひらほどなのに対して、柄が大型の剣並に長いことだ。
それをフィーネは戸惑うことなく、【自身の胸に突き立てた】。
鮮血が彼女の胸から溢れ出す。
吹き出る血潮は、しかし海へとこぼれ落ちることは無い。
全てがナイフへと吸い込まれていく。
全員が呆然とする中、フィーネは突き立てたナイフを引き抜いた。
するとゾルゾルと気色の悪い音を立てて、真っ赤な、そしてグロテスクな何かが現れる。
それはまるで戦鎚、小さく可愛らしいフィーネの体から出てきたとは思えないほど大きな、そしてどす黒く内臓が絡み合って出来たかのような物体。
凶悪な、そして鋭い峰をいくつも生やし、触れることは非常に危険と誰もがわかるその見た目。
自身の体の倍近く長いそれを、フィーネは担ぎ走り出す。
「【黒死告】」
そう呟き、戦鎚を両手で持ち、一気に振り回す。
ブンブンと風を切り、フィーネは高速でべイコマのように回る。
そして、その勢いのまま列車へと突っ込んで行った。
それを見て呆然としていた政府軍たちは慌ててフィーネを狙う。
回るたびに、鮮血のような何かを撒き散らして迫る少女に、政府軍は恐怖を抱いたからだ。
「撃て、撃てぇ!!」
誰が言ったか射撃要請。
それに合わせて鉄火がまたばら撒かれるが、今度は1人にのみ。
フィーネだけを狙って弾丸、そして法魔が放たれる。
その殆どがフィーネに命中するが、彼女は止まらない。
ギャルルンと海面を走り、ついには列車と目の鼻の先に。
それに合わせたかのようなタイミングで列車から爆音。
車両の何台かの上部が切れ飛んでいた。
それに反乱軍、そして政府軍が驚くまもなく、フィーネの戦鎚が列車に到達。
「潰れろっ!!」
フィーネの小さな呟きに合わせて、戦鎚が回転の勢いを乗せて、列車に叩きつけられる。
辺り一帯に衝撃による地震と誤解するほどの振動が発生する。
車両の1つが丸々潰れ、中に乗ってた兵士がどうなったかなど考える必要も無いだろう。
叩きつけによって、フィーネの戦鎚から鮮血が撒き散らされ、それは弾丸のように触れた兵士を八つ裂きにする。
「の、乗ってきたぞ!!」
兵士の混乱をよそに、フィーネはもう一度戦鎚を担ぎ直し、兵士達を睨む。
「皆を殺す……アナタ達嫌い!」
そう叫び、腐華が向かった方角とは反対。
銃撃を続けている貨物車両へと突っ切って行った。
「フィーネって………あの見た目で、あんなに強かったのかよ」
反乱軍の誰かが呟いた。
それには誰もが頷くことになった。
それからはフィーネの活躍もあってか、反乱軍は包囲網を設立し始める。
それは上手く行き、徐々に流れが反乱軍に傾き始めた時だった。
前方車両から再度爆音、空高く何かが飛び出していた。
それは腐華であったと反乱軍が気づくのはそう遅くはなかった。
「フカ!?」
「フカの姐さん!」
全員の驚愕、しかしそれ以上に腐華から生えているものに驚く。
翼に角、そして尾。
明らか人間には無いそれ。
それは腐華が人間ではないことを表していた。
だが、その驚きを表す前に、腐華は何かを車両の窓へと投擲。
その後凄まじい速度で戻っていった。
「なあオヤジ……俺らとんでもないのが仲間になってたんだな」
反乱軍の1人がいう。
それにマリアは何も言うことは出来なかった。