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第10話 ラッパーモードで負ける気はしないので

 私の指を鳴らす音と共に、スピーカーが唸る。

 流れる音はジャス、しかしそれにギターの音は一切ない。

 ピアノとラッパ、そしてサックスとドラムの音が、列車の排気音と混ざって独特の、疾走感のあるリズムを産み落とす。

 それは正しく最初から混ざり合うのが運命だったかのように、軽やかに、そして滑らかに、私のラップを演出するBGMとなる。

 リズムをとるため、私は自身の足を何度も踏み直す。

 タン、タン、と床を鳴らして、部屋一体に反響する。

【何をするつもりか知らないが無駄だ】だと言った様子で、呆れ、嘲笑う表情を浮かべ立ちつくす御堂皇を置いて、私は(ライム)を刻み出した。




 ____________さあ、行くよ。





 人生の勝者と思い込んでる貴方に苦笑さ


 これから貴方はすぐに負傷者


 背負いに背負ったそのカルマ


 償う時が今来たのさ





 御堂がぐらりと揺れた。

 目が飛び出るほど驚き、胸を苦しそうに掴んでいる。


 「な…なんだ、体が痛い…苦しい?! お前、何をした!!」


 やつの言葉を無視して、私はラップを続ける。




 まずは爽快に


 HPを損壊


 いつになるだろうね命の全壊


 残るものはお前の残骸


 ここからはガチンコ 分かってるのかいガキンチョ

 

 お前にぶち込んでやるよ全力の最強


 そして私に刻まれる気分は最高!




「まさか……その歌か!」


 体の異常が私のラップだと気づいた彼は、あの大剣を私へと向けて突っ込んでくる。

 力任せにそれを振るうけど、インヴェクションを空いている両手で掴み、防ぐ。

 爆音が響き、衝撃波が列車の窓ガラスを破砕するが、私は気にせずラップを終わらさない。




 腐りきった大地でさえ咲く華


 それは可憐でとても美しいが


 綺麗なものにはトゲがある


 私の名前は鎖腐華


 名乗り遅れてすまないが

 

 そろそろBPM上げていこうか




 「がぁあああ!!?」


 御堂の体が腐り始める。

 腐敗属性が発動した。

 ラップによって蓄積された付与値が、定量を超えた証だ。

 しかしすぐさまその体が元に戻る。

 その時、彼の手には輝く何かがあった。

 その何かには見覚えがあった…

【ユニコーンの聖血】。

 HP全快に状態異常全快のラストエリクサーのような消費アイテム。

 スカイウォーオンラインにあった、対腐敗属性の切り札。

 だけどそれは1人1個しか所有できない。

 そもそもあれを持ってるということは、彼がスカイウォーオンラインのプレイヤーであった可能性が浮かび上がった。

 ゲームでは1個しか持てないけど、ここは現実。

 しかも相手がチート転生者なら、複数持ってる可能性もある。

 これは自由にさせると長期戦になるかも。


 「はぁ、はぁ……それで終わりか?ぶっ殺してやる!!」


 口調が変わった。

 大剣を何度も力任せに振るって、私を斬り殺そうと迫る。

 でもね、私だって伊達にこの戦い方を【本気】にしてるわけじゃないんだ。

 この戦い方の弱点なんて把握済みだ。

 ラップを歌ってる時は動けないという弱点がある。

 つまり魔法攻撃なんかの遠距離攻撃には弱いんだ。

 それをカバーする方法もあるけど、接近攻撃ならそれをする必要は無い。

 要は近づいてくる前に、ラップを区切ってしまえばいい。

 普通の歌ならできない途中切り。

 だがラップならできる。

 それを可能とするのがラップ(喋るように歌う)だからだ。

 何度も、何度も切り刻んでくる刃。

 しかしそれを防ぐことに関しては負けない。

 何度も言うように、この戦い方に慣れてるからだ。

 数十合打ち合い、火花が散り合い、余波で車両の壁が吹き飛んでいく。

 その最中、根負けしたのか一際大きな振りで彼の大剣が唸りをあげて迫る。

 そのタイミングでインヴェクションを切り上げ、ガギィンと大剣を押しのける。

 大きく怯み、隙が生まれた御堂。

 それを逃がさない、インヴェクションを彼の首に引っ掛けて、引く。

 ガンッと音を立てて、彼は私の足元に跪く。

 防御力の高さも予想通り、だからこそできるインヴェクション引き寄せ。

 倒れた彼の頭に、私は思いっきり足を乗せる。

 ズガンと音を立てて、彼は顔面から床に叩きつけられる。


 「ぶべ!?」


 変わった悲鳴をあげる彼を、動けないよう頭を踏み続け、マイクを再度自身の口元へ。

 トドメを刺してやる。

 私は【ユニコーンの聖血】を使わせないように、手足に鎖を打ち込み封じた。

 息を吸い、歌詞(リリック)に魂と殺意を乗せた……




 開廷、裁定、最低、際限なく流し込んで苦痛を再現


 再生するまもなく死へと直進


 止まることない超特急


 抑えきれない殺害欲求


 ばらまくゴア表現まさにB級


 これで終わりだ御堂皇


 国王へ行った大きな裏切り


 潮時見逃し迎える命日!!




 大爆音の高速ラップが終われば彼の体が一気に腐敗臭に塗れる。

 同時に彼から絶叫が響き渡る。

 その顔を見ることは出来ないが、恐らく激痛に歪んでいるだろう。

 彼の体は四肢から急激に腐っていってたからだ。

 言葉にさえならない悲鳴は鳴り止まない。

 ようやく言葉として聞き取れるようになったのは、半身の血肉、そして骨が朽ち果てた頃だった。


 「嘘だ…俺がこんな……こんな最後」


 最後まで聞く必要はなかった。

 苦しみを続けてやる必要も無い。

 私はインヴェクションを彼の首元に先込み、一気に引き抜いた。

 鮮血が舞い、首が飛ぶ。

 しかしそれもすぐに腐敗して、風に飲まれて消えていく。

 終わったな。

 それを確信して、私はインヴェクション…そしてマイクとスピーカーを虚空へと戻した…

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