4話 誰だって本当の自分を隠してる。
最近気になる子ができた。僕は最近その子を目でずっと追っている。
彼女は言わば、隠しシークレットコードネーム「眼鏡バイン」。
この前の体育の授業で開催された、男女合同ドッジボールで、僕は彼女を見つけた。それは一輪の花。せわしなく過ぎていく日々に見落としそうになってしまう道端の儚い花。だけど足を止めてかかんでみれば、無限の魅力を持った百合となる。
そう、それが眼鏡バイン。
あの時ぶつかっていなければ、僕が彼女という花を見つけるのにはもう少し時間がかかっていたかもしれない。そう思うだけで・・・・。
僕は自分に絶望しているぅぅぅぅぅ、こんなに僕の目は節穴だったのかと!!
この1年3組と言う、小さな箱の中に紛れている原石を取りこぼすなど!あってはならない!あってはならないんダァっ!あの圧倒的なオーラを放つ二人に夢中で周りが見えていなかった。あぁ神よ。この世には沢山の可愛くて尊い女子がいるっていうのにっ僕は、それを見つけ出し観察してうはうはしなくてはならないのに!!僕は百合をこよなく愛した気高き一匹の豚だというのに!貴方は僕に失望しただろうか?あぁジーザス・・・。
「うん。わかったよ。とりあえず、今日漂白剤持ってきたんだけどまだ間に合う?心の白さを取り戻すことって」
「はっ!!シマちゃん?!聞いてたの?」
「うん、ずっと」
ここ最近、僕は、禁断症状出まくりだ。
この前の一件といい、僕は心が休まらない。あの二人が楽しそうに会話をしてるだけで、あの時絡みあっていた二人を思い出してしまう。僕が頼んだことなんだけど、二人に他意はないってわかってるんだけどっ菫様のスカートから見える白くて柔らかそうな太ももにまたがる小動物みたいな美琴たん。いつもは菫様の方がちょっとだけ身長が高くてそんな彼女に合わせるように視線を上げる美琴たんが、あの時は菫さんが美琴たんに視線を合わせてちょっと上目遣いになっちゃったりしてぇぇぇっ!
っと、僕は頭を振った。今は眼鏡バインに集中だ。
「で、その眼鏡バインだけどさ」
「バインのこと知ってるの?」
「うん。綾川 唯でしょ?」
「ユリンヌ。そんなお名前でしたか、かぐわしきかな。」
「倉敷くんって俺のことキモイって言うけど君も大概だよね」
「男に言われても何も嬉しくないけどありがとう」
そんなどうでもいいような会話を横目に僕の意識は彼女に集中し出す。
綾川 唯、綾川、綾川、綾川、綾川、綾川!!!!
大体なんで苗字に「あ」がつくヒロインって基本それだけで可愛いんだ?!何故なんだ?しかもやっと出てきました巨乳!女子を女子たらしめるもの。女子の神秘。その膨らみに沢山の夢と希望がぁぁ!別に菫様や美琴たんに不満があるなんてことはない。だが大きいとはそれだけで母性を漂わせ、女性だと強く認識させてしまう色香を備えてしまえる強力な武器なのだ!わかるよね!わかるよねぇ?!聖剣エクスカリバーだよね??聖剣エクスカリバーを握った女剣士だよねぇ?!?!?!
「綾川さーん。ここ、どうやって解けばいいのかわかる?」
と、ここで何気ない日常の一コマに目が行く。
眼鏡バインこと、ユリンヌは、どうやら男の子が苦手らしい。前の席のちょっと清楚ぶってるけど明らかに女慣れしてる男に数学の問題の解き方を聞かれて身体を震わせている。
僕は美女スコープもとい眼鏡を着用した。
きゅゅゅゅゅゆゆゆゆゆゆゆゆゆん!(効果音)
*綾川 唯*
彼女は完全なるステルス美女。ダサく目立たないようにスクールカースト最下位を全速力で駆けていこうとしてる。前髪で目元を隠して丸眼鏡にぐるぐるの線を描いてあるような眼鏡を着用、髪はわざと一つに縛って三つ編みにしているようだ、髪の色は少し赤みが強い黒。服装も絶対に着崩しませんと言わんばかりに着用してるがその胸元に押し込まれた宝石を隠し切れないでいる。そう。自分のありとあらゆる主張を隠している。もはや変装だ。ここにステルス美女バイン爆誕といったところか・・・?
さらに、僕は男に目が行く。
あいつ・・わざとだ。ユリンヌがうまく話せないのわかっててあんなに距離を詰めて話しかけてやがる。
そしてあの舌舐めずりするような目!け、けしからんぞ!イケメンは星に帰れ!そして俺はその星を爆破する!
「綾川さん?そんなに怖がらなくてもいいのに。綾川さんさ、本当は可愛いんだからそんな眼鏡外しなよ・・・」
「・・・っ!!」
男はさらに距離を詰めてユリンヌの丸眼鏡に手を伸ばしかける。その時、僕は気づかないうちに走っていた。可愛い女子は僕が守る!!!!
だが、僕のラッキーボーナスステージはあえなく幕を閉じた。
「唯ー?こっちおいでー」
気づけば机二つ分離れたところで菫様が手をひらひらとしていた。
最早それだけで天使。
「え?菫ちゃん?どうしたの?」
助け船を出された唯は舌舐めずり野郎をひらりと避けて菫様という禁断の花園へ向かう。
グッジョブ!!!!菫様!!!
舌舐めずり野郎はちっと舌を鳴らした。僕はそれを聞き逃さなかった。
あいつ、ちょっとやばい。あれは狼なんてもんじゃない。カバだ。口だけが大きく発達し、全ての欲求を食い散らかそうとするカバだ!
あいつの名前は僕の中でカバ男になった。
そしてユリンヌと菫様を見る。二人は仲良く問題を解き合いっこつつき合いっこしてる。
くぅぅぅぅぅぅっ!!! ハピネス!!!
突然走っていった僕にびっくりしてシマちゃんが駆け寄ってくる。
「ねぇ、どうしたの倉敷くん?」
「なんでもないよ」
素っ気なく返す僕。
「ねぇ、俺、倉敷くんのこと倉敷って呼んでいい?」
「は?」
思わずシマチャンを見る。
「・・俺ら相棒だろ?そろそろ次の段階に進みたいんだ」
・・・・・・。なんなんですかーー?
お前は何なんですかぁぁぁ!?どんな階段登ろうとしてるんですかぁ?!
何でいっつも決め台詞っぽいのを1世代くらい古い感じで言い回すんですかぁ。
と、突っ込んでやろうかと思ったが僕は考え直した。僕にできた高校最初の友達だ。言い回しは変だったけど、そこに他意はないはず。きっと彼は純粋にそう思って言ってくれたんだ。大切にしよう。
「いいよ、友達だし。俺もシマウマって呼ぶよ」
「え"っ"」
「ところで、あいつ誰かわかる?」
僕は、男の名前なんて興味なかったが敵の情報を仕入れるため、カバ男に指を指してシマに聞いてみた。
「あ、鎌田くん?」
カバじゃなくカマか。まぁいい。
鎌田よ、百合の園を脅かす歩く下半身がどうなるか!僕が教えてやろうじゃないかぁ!!
と、ここでもう一度小休止を挟み。愛しの百合園を覗く。
二人が同じ一つの椅子を半分こずつにして座り合っていた。
ほふぁっ?! あれは、半分ずっこ女子!一つのものを二人で使ったり食べたりする百合の可愛さを引き立たせるあれじゃないかぁぁ!!
さらにそこに、美琴たんも乱入。私も教えてーとか。おいでおいでーとかもう可愛い。
もうやだぁ。ナニコレ。やだぁ。。僕は愛の神に再度、堅い堅い忠誠心を捧げた。
ーーーーーーー
「キーンコーンカーンコーン」
授業の終わりを告げる終鈴が鳴る。
「やっと、昼休みやー」
「倉敷、今日どこで食べる?」
昼休み、昼食をとるこの時間!だがしかし!僕には任務がある!この昼休みを使ってあいつに近づく!あの歩く下半身妖怪カバ男に!!
「シマ!実は!」
「聞こえてたよ、昼休みのくだりから」
「はっ?!?!」
こいつ、超能力者じゃないのか?!本当は!!
「鎌田くんだろ?僕が言うのもなんだけど彼はスクールカーストトップだよ」
「な、なんだと?!」
「ちなみに俺もイケメンだからカーストは・・・」
「くそぉう!!!カースト底辺民の僕とシマじゃ会話も許されないっていうのか?!」
「え"っ"」
それでもやってやる!俺の百合を壊されてたまるもんか!唯ちゃんはもう、俺のこの物語のヒロインなのだから!眼鏡バインと綺麗系美女が織りなすちょめちょめを!眼鏡バインと小動物系美女が織りなすあはんあはんを!俺は絶対は叶えてみせる!!
「もう、すっごいこと全部駄々漏れてるから。誰かセメント持ってきて」
二人は早速行動に出た。鎌田を見つけるのに時間はかからなかった。鎌田は屋上で複数人のパリピ共とご飯を食べていた。ここで、僕の選択肢にパリピの輪に入りながら鎌田と話すという選択肢はなくなった。パリピ怖い。
「くそ、放課後だな。さ、我々もランチと洒落込もうじゃないか。な、シマくん。」
と屋上のドアの隙間から覗いていた僕の後ろにいたはずのシマがいなくなっていた。
「よっ!鎌田くんっ!」
と、そこにパリピの輪に当たり前のように入っていく男が一人。
なぁぁにやってんですかー!嶋崎くぅぅううん!?
「あ、嶋崎じゃん。どったの?」
なんだよ、どったの?って、流行ってんの?は?お前の頭がどったの?
「ちょっと、話があるんだけどいい?」
軽いノリで交わされる会話。僕にはできない高等術をシマは難なくこなしていく。あいつコミュニケーションモンスターかよぉ!!口から生まれましたとか言ってる口だろ絶対!だがシマくん!グッジョブ!
そんなやりとりをドアの隙間から覗き見ていた僕はふと、ピンク色の声が聞こえてきた。
「ゆいちゃんっておっぱい大きいね」
なっ?!?!?!
「だめだよっ美琴ちゃんっ」
「え、なんで?女の子同士じゃんっ」
「私、女の子同士でも触られるの恥ずしいよ・・」
ふぁぁぁっ?!?!?!?!
「えー?なんでー?私はゆいちゃんくらいおっきくなりたいなぁ」
「んー。私は美琴ちゃんくらいが好きだなぁ」
をいをいをいをいをぉい!なんちゅー会話してるんだ!み、見たい。声のする方へと僕はそろりと足を進める。
ガチャ。
「あ、倉敷!鎌田と話つけてきたよ。放課後待っててくれるって!」
「・・ちっ」
「なんで?!?!」
ーーーーーーーーーーー
「で、俺になんか用?」
放課後。静まり返った教室に三人はいた。鎌田はニコッと僕に愛想笑いをする。僕はこいつを今日、駆逐する!!
「僕の百合を汚すなぁぁぁぁぁぁぁ!」
豚は吠えた
「・・え?」
「ちょ、倉敷・・?」
「僕の百合園にその下半身丸出しの格好で入ってくるなと言っているぅぅ」
さらに豚は吠えた。
「何言って・・・」
下半身と呼ばれたカバは口を大きく開き目を白黒させシマは頭を抱えた。
「ユリンヌは僕がこれから愛でる大切なお花だぁぁあ!!!」
豚三連発。
「待って。ユリンヌ?ゆいちゃんのこと?」
「そうだ。君が話してるとその唯ちゃんは凄く困ってるんだ。だから変に距離を詰めて話しかけたりするな」
「困ってる・・?」
「そうだ!下半身!下半身は下半身の国に帰るんだ!!」
僕はあの尊い三人を愛でる為ならいくらでも悪役になってやる。こんなイケメンにこれからも言い寄られ続けたらさすがのユリンヌも好きになっちゃうかもしれない!!!そんなこと絶対阻止だ!!!
と、そこで、僕は目を疑った。奴が涙目になっていることに。
「そんな・・下半身だなんて。俺・・僕はただ、友達が欲しくて・・」
おろ・・?鎌田は弱々し声でふるふると肩を震わせている。
「僕。ただ、女の子の親友が欲しかったんだ」
親友・・・?ていうか。こいつ・・よく見たら。
「お前、なんか可愛い顔してるな?」
「・・・っ!!!!」
赤面する鎌田。
へっ?
そういえば、イケメンと言われるだけあってその整った顔はもちろん中性的な顔はよく見ればどことなく少女に近い愛らしさを感じるが・・・。
「あーし・・・」
え”・・?
「あーし、可愛い子が好”き”なの”よ”ォ”ォ”」
こいつは、カバでも鎌田でもなく、カマだった。
言葉をなくした二人の空気に耐えられなくなったのか鎌田は教室を逃げ出す。
「鎌田くん!!!」
シマが後を追いかけて教室をでる。
「え”っ・・」
僕はあっけにとられ一人残された教室に仁王立ちする。すると、そこに。
ガラーっ
教室の扉が開く。
「・・・。」
「唯・・さん」
ユリンヌがいた。顔をいつものように俯かせて教室に入ってくる。
「鎌田くん、だからあんなに執拗に話しかけてくれてたんだ・・」
聞いていた?!
やばい!聞かれた!色々聞かれた!散々怖がられてるのに!
「ごめん!唯さん余計なことしちゃって!」
僕は頭を下げる。
「ううん。いいよ。・・・・私、男嫌いだし」
・・・・・ん?あれ?なんか最後の方声が・・。
「そ、そうなんだ」
「うん。・・・・・臭いし、キモいし。」
・・・・・・・っん”?
ユリンヌは三つ編みと眼鏡をクイッと取る。眼鏡で隠されていた大きなどこか陰りのある瞳が露わになる。ばさっと解かれた三つ編みが緩いウェーブを残しながら肩下まで妖艶に流れ落ちる。窓から流れる光に照らされたその姿はまさに一枚の絵だった。
「だから助かった」
「え・・・」
そこで菫様がユリンヌを探しに来たのか教室に入ってきた。
「あ、唯。何してんの?帰ろ。美琴も・・・げ。倉敷・・」
ユリンヌの横まで来ると僕に気づいて白目になる。
っと、その時だった。菫様の腕をぐいっとひっぱるユリンヌ。
「ちょっ!」
ぐいっと引き寄せられた菫様はそのままユリンヌに唇を唇で塞がれた。
「・・んっ!!!」
ここで、僕フリーズ。ロード・・・・・。
はぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁぁあああっ?!?!
ぷはっとユリンヌは唇を離す。柔らかそうな潤った唇から漏れ出す吐息が色っぽくて僕は目を釘づけにした。そしてユリンヌはそれを嘲笑うように意地悪そうに横目で僕を見る。
「これ、ささやかなお礼」
「ちょっ!!」
菫様は顔を真っ赤にさせてユリンヌを見る。
「いいじゃん。キスくらい。減るもんじゃないし」
「あんたね!その眼鏡と髪ほどくと性格変わるのどうにかなんないの?!」
いつもの余裕たっぷりで落ち着いている菫様からは想像できないほど彼女は動揺して、ユリンヌの肩をポンポンとたたく。
「あれにお礼したの」
ユリンヌは意地悪そうに笑うと僕を指差した。
「・・・また、お前か」
菫様が開眼する(白目)。
「こういうの、見たかったんでしょ?じゃねっ」
清々しく微笑むとさっきの妖艶な美女はなりを潜め彼女は颯爽と教室を出て行った。
ご開眼されたままの菫様は最後に僕に別れの挨拶として言葉をくれた。
「最っ低。」
ここで一呼吸。スゥ。はぁっーーー。
すっごいの出てきたんだけどォ!!
すごいんだけどォォォ!
待て、待て、待て、待てぇええ!
僕はいつの間にか顔を真っ赤にして鼻血を流していた。アダルトな百合が僕をまた豚たらしめる。
僕が道端で見つけたのは純粋で清い百合の花ではなく、とびっきりの小悪魔だった。
ガラー。
後ろで教室のドアが開く音がした。そこには自分をさらけ出したことで人畜無害なイケメンへとなった鎌田とシマがいた。
「倉敷?鼻血ふきなよ」
「なに、あーた。その緩んだ顔」
あぁ。世界は神秘に満ちている。