【095】大尉、将来について語る
わたしは事情や好機が重なり、若くして昇進してしまったため、軍を率いた経験がほとんどないので、部隊を動かせる気がしない。気がしない……じゃない無理だ。
二百人くらいでしょーなどと言われそうだが、二百人の部下を即座に動かせたら天才だから。
主人公ならそれも可能だろうが、わたしはモブ。
むしろモブは兵を華麗に動かしてはいけない、そんなことをしたら主人公のありがたみや凄さが薄れてしまうから。
この世界の主人公はヒロインでしたね。ヒロインに軍事的才能……まあ、きっとあるんだろうな。ヒロインの的確なアドバイスとかシナリオにあったわ! 凄いねヒロイン、さすがだね!
御免、現実逃避してたわー。でもねーいきなり二百名の部下の上に立つってさあ。
「分かっている。だがそれは見返りではなく、上官として当然のことだからな。見返りは別のものにしろ」
以前は教えてくれないと言っていたキース中将ですが、立場とか状況が変わったので教えてくださるそうだ。やったー!
「俺も時間を作って教える」
「あ、ありがとうございます、ヴェルナー大佐」
ヴェルナー大佐はちょっと怖い。ガイドリクス陛下の副官時代、何度かヴェルナー隊に放り込まれたことあるが、まあ厳しい。スパルタってやつだね。軍なんでスパルタでも問題ないんですが。
「これが案だ」
十枚ほどの、結婚後も女性士官が軍を続けられるようにするための計画書を手渡されたので、じっくりと読ませてもらった。
さすがは才能ある高級将校たちが考えただけあって、わたしが前世の記憶でチートするような箇所はありませんでした。
大体わたし自体、前世より今のほうが頭いいからね。その現在のわたしよりも頭脳明晰で経験に富んでいる二人相手に、助言とか無理だよね。
頭脳に関してだが、前世の頭脳では士官学校は無理。今のほうが真面目に勉強しているし、それが身についている。もしかして転生特典……いや、頭はいいが、優れて凄すぎるってわけじゃない。良くいる成績優秀者止まりだから、転生特典じゃないだろう。
「……書類上は完璧だと思いますが。あっ! ありがとうございます」
向かい側に座っているキース中将がコップに水を注いでくれた。それを半分ほど飲む。
「思いますが、なんだ?」
「最終的には出産後の復帰まで目指すのですよね」
「そうだ」
「ご協力したいのは山々ですが、小官の妊娠出産をあてにするのは、些かギャンブルかと。小官が確実に妊娠するとは限りませんし、出産後体調を崩しそのまま退役ということもあり得ます。その際、いかがなさるおつもりでしょうか?」
キース中将たちは閣下を逃さないようにするため、わたしを軍に縛り付ける……という名目で、育てた女性士官たちを結婚退役させないようにするつもりだが、妊娠出産は一筋縄ではいかない。
「それはあるな」
「結婚はいたしますが、リリエンタール閣下が大統領在任中に妊娠出産できるか? と聞かれたら確約できません」
「……まあ、だろうな」
「そうだな」
キース中将とヴェルナー大佐は同意してくれました。賢いので事前に気付けば……と言いたいところですが、この二人独身ですし、キース中将にいたっては天涯孤独なので、あまりこういった話をする相手はいないだろう。
キース中将はその性質上、迂闊にこの種の話題を、軽く女性にふることはできない。同僚もあまりふらないだろうし、男性は妊娠出産に詳しくはない時代だ。
「お二人に伺いたいのですが、小官は分かりますが、それ以外の女性の復帰をなぜお考えなのですか?」
根本的にそこは気になってたんですよね。
わたしを軍に縛り付けておかないと、閣下がロスカネフから去ってしまう恐れがある。聞いたところによると、大統領選挙前というか、去年の十月頃には我が国を去っている予定だったんだって。自分がいると大統領選挙が上手く進まないだろうからって。
その閣下がロスカネフに残っている理由は……わたしなのだそうです。わたしの自意識過剰ではなく、国側の思い込みでもなんでもなく、わたしが軍に籍を置いているから残ってくださり、共産連邦と戦ってくださり、大統領も務めてくださるのだと、閣下から直接聞いた。
国としてはわたしに退役されたら困るよなあ。
わたしとしては、わたしが軍に在籍しているだけで閣下にご迷惑というか、多大な責任を負わせてしまうことに、かなり……閣下は「気にする必要はない。したいようにするがいい」と仰ってくださっているので甘えているのだが。
わたしの心情はともかく、そんな理由があって、わたしを退役させるわけにはいかないのは分かる。これはもう国家としては特例としたほうが楽だろう。
だがこの二人は女性士官全員にそれを適用させようとしている。
聞けばガイドリクス陛下の意向も二人と同じなのだとか。
ただ既に国体が立憲君主制に移行した我が国では、ガイドリクス陛下は政治に口を出すことは極力控えなくてはならないので、表立ってはなにも言わない。
思えばガイドリクス陛下は閣下が「初代大統領に」と考えていた人物。きっと攻略対象として恥じないスペックで、政治家としても立派にやっていけたんだろうなあ。
わたしの質問に対する二人の返答ですが「働けるのだから、退役させる必要はなかろう」というものでした。ものすごくさらっとしているというか、なんというか肩肘張ってないって言うか。
「お答え、ありがとうございます」
二人の考えがそうなら、できる限り協力したいよね。
キース中将が注いでくれたコップの水の残りを飲んでいると ――
「主席宰相閣下は、クローヴィスの妊娠に前向きなのか?」
この世界にはない概念「セクハラ」に抵触しそうなキース中将の質問ですが、いまはこれについて話し合っているのですから、まったく問題はありません。そうでなかったとしてもキース中将はハーレム体質なので、問題にならないでしょう。ハーレム体質って、そういうことだよね! 実際不快感まったく感じないから。
「欲しいとは仰っていましたが」
婚約中の処女ではありますが、将来設計の一つとしてその辺りの話し合いはしましたよ。一応そういうの、話し合う必要あるからさ。
もっとも「何名でも良いが、百名くらい生まれたとしても好きな道に進ませ援助し、爵位を授けてやれるぞ」という、事実上子供の数は無制限的なお答えが。
もちろん、無理ですけどね!
上限は無条件解放されていますが、下限に関しては少しばかり。
閣下は一人っ子なので、できる事なら二人は欲しいそうですよ。
父親の前妻や愛人の子を合わせると姉兄が合計で二十人ほどいるそうですが(うち半数以上は死去)前妻の子や愛人の子を閣下は兄姉とは思えないとのこと。
さらには「跡取りを欲しいと考えたことはないので、イヴは気楽に考えてくれ。跡取りが必要ならば、もっと若いころに用意している」とも。
用意ってあたりが……まあ、はい。そこはね。
「イヴの子は可愛いだろうな。楽しみだ」と言われ、わたしの顔が真っ赤になったのは仕方ないことですよ!
「クローヴィス。それは前向きどころではない。主席宰相閣下は心からお前との間に子が欲しいと言っている」
「ええー」
いつも通り穏やかな感じで、軽く話してくださっただけですが……そうなのかなあ?
「他はなにか?」
「わたしに似た子がいいと言われましたが、それは絶対男の子でお願いしますと閣下にお頼みしました」
性別は男性側にかかっているので、閣下にお願いするしかない。見た目がわたしなら男の子で。女の子だと人生かなりハードモードになっちゃうんで!
「女でもいいだろう。むしろ主席宰相閣下は、お前に似た娘が欲しいんだろうよ」
「わたしは運良くリリエンタール閣下に優しくしてもらえましたが……リリエンタール閣下のような方が、そうそういるとは思えないので」
キース中将知ってるでしょう。なぜわたしが閣下のことを好きになったか。女扱いされたからですよ! 閣下に出会うまで ―― 突然キース中将が水差しを手に取った。コップに注ぐような素振りじゃない。
立ち上がり、わたしの隣に座っているヴェルナー大佐に掛けるような動き!
何事ですか! なんですか!




