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【042】中尉、拳銃を撃つ

 海軍長官の不正の証拠に、行方不明だったはずの海軍中将の発見。

 中央駅にいて解決できるような問題ではないので、本部に帰ることにする。

 幸い本部には室長がいるので、不正の証拠を渡すのにうってつけだ。


「デニス。護身用の銃はあるか?」

「もちろん」


 そう言って腰の銃を見せてくれたのだが、オモチャか? と言いたくなる代物だった。いや、駅員だからそれでいいのだろうが。

 前世の感覚だと駅員が銃? となりそうだが、車両の安全確保のために普通に銃を所持しているのだよ。貨物泥棒や無賃乗車、置き引きを捕まえるのもそうだが、蒸気機関車そのものの乗っ取りを阻止する仕事も。

 ちなみに郵便配達員だって銃を所有しているのが当たり前なんだよ、この世界。あ、断っておくけど、我が国は非常に治安の良い国だからね!


「念のために外の三人を残していく。あとこれを貸しておく」


 右腰に差している予備の銃をデニスに渡す。


「はい。それにしても、軍支給の銃は厳ついよね。反動気を付けないと」


 デニスがわたしの銃を持つと、いつもより銃が大きく見える。……理由は分かるけどさ!

 外で見張っていた兵士たちに指示をだし、オルソンたちを車に乗せて中央司令本部へと戻る。

 そして部下たちに、二人を医務室へ連れて行き治療させるよう命じ、不正の証拠を室長に渡した。ぱらぱらと捲った室長は、こちらを見て笑う。


「ベックマン少尉。アンバード少将にグーデリアン作戦開始を伝えて」

「かしこまりました」


 ベックマン少尉が出来る女性士官の風格で、部屋を出ていった。

 なんか、色々と準備が整っていたみたいだ。


「中尉、協力ありがとうね」

「いいえ。小官はなにも」


 車で二人を本部に連れて来ただけですから。


「中尉も色々と知りたいことあるだろうけれど、どこまで教えてあげられるかを判断するのはリヒャルトだから、帰国するまで我慢してね」


 たしかに知りたいけど、知りたいけど……。知らないほうが良さそうな。


「それでね、中尉。キース少将にグーデリアン作戦を開始したと伝えてきてくれないかな? 海軍に知られると厄介だから、無線使えないし、人を遣るにしても、信頼できる人じゃないとね」

「了解いたしました」


 上層部では話が通っていることなんですね。


「あ、でもカミラ君が帰ってくるまでは、ここに居てね。わたし、全く戦えないから、こんな非常事態の時は、一人きりになるなって言われてるんだよ」


 実は凄く強くても、驚きはしませんけどね。

 数分後にはベックマン少尉が戻ってきたので、わたしはキース少将へ伝言を届けるために車庫へと向かう。ただ伝言を届けるだけなので、一人で大丈夫だろう。


「クローヴィス中尉」


 声を掛けられ振り返ると、先ほど駅に伴った兵士のフーバーに付き添われた、オルソンがそこにいた。

 オルソンは出版社の事務所に取りに行きたいものがあるので、外出許可が欲しいと言ってきた。


「急ぎか?」

「ああ。俺も理由は分からないのだが、プリンシラ(ウィルバシー)中将がアルドバルド准将に説明するのに、どうしても必要だと」

「分かった。ついて来い」


 車で連れていってやろう。

 もちろんキース少将への伝言を終えてからだが。

 ……連れてきた兵士もついてきたんですけどね。さすがに一人で行くのは危険だということで。

 予備の銃も再装備したから大丈夫だと思うんだが。

 車で約十五分ほどの王宮へと向かう。王宮はあちらこちらに明かりが灯されており、国旗・軍旗共々高々と掲げられ、正面の扉は大きく開いている。


 王宮奪還に成功したようだ。


 王宮前に立てられた対策本部テントを覗くとキース少将はいなかった。

 「対策本部は王宮の舞踏室(ボールルーム)に移りました」と教えられたので、兵士とオルソンを車に残し、戦闘の痕が残る王宮へと足を踏み入れた。

 廊下にいくつかの検問がもうけられており、その都度身分証を提示し、ノートに名前と理由を記入する。

 五つほどの検問を抜けて、新たに仮設の対策本部になった舞踏室(ボールルーム)に到着した。

 キース少将は貴族らと深刻な表情で話し合っている。

 伝令がキース少将の所へと走ると、キース少将がその場を離れてこちらへとやってきた。


「なにがあった? クローヴィス中尉」


 耳元に口を寄せて伝える。


閣下(キース)、アルドバルド准将より。グーデリアン作戦開始とのことです」


 キース少将は口元を少し緩めた。


「了承した。クローヴィス中尉、ちょうど良いところに来た。リドホルム男爵を本部へ連れていってくれ」

「え……」

「どうした」

「あの、ちょっと帰りに寄る所がありまして」


 男爵閣下を乗せて出版社に寄り道はできないよな。


「それは構わん。気にするな」


 気にするなといいますけれど。

 キース少将が手招きすると、法曹関係者貴族がこちらへとやってきた。

 なんで法曹関係者だとわかるかって? だって前世でモーツァルトなんかが被っている「かつら」着用してるんだもん。

 あれを被っているのは、我が国では法曹関係者のみ。

 王宮にいて籠城に巻き込まれたのか、それとも事態収拾に必要で呼ばれたのかは分からないが。

 キース少将が立ち寄るところがあると説明をしている。

 いや、男爵閣下を本部に下ろしてから再度向かいますって。


「イヴ・クローヴィス中尉」

「はい閣下」

「俺だよ、俺」


 オレオレ詐欺ですか? 金はありませんよ。


「気付かないか。俺、マルコ・ロヴネルだよ」


 …………うわ! たしかにマルコ・ロヴネル准尉ことオーフェルヴェック少佐だ!

 え、え……あ、諜報部ですもんね。どこにいたって、不思議ではないですよね。


「男爵閣下でいらっしゃいましたか」

「ああ、詳しいことは道すがら。ではキース少将、父に伝えておきますので」

「クローヴィス中尉、中央司令部に到着し次第、夜間外出禁止令解除を通達しろ」


 キース少将直筆の命令書を受け取り、准尉で少佐で男爵な諜報部員と共に舞踏室(ボールルーム)を後にした。

 途中で「女王 レイプ、複数」などという囁きが聞こえてきた……多分、こうやって噂として広まるのだろう。


 なんともやるせない。


「どこかに立ち寄るんだろ、中尉」

「その予定でしたが、まずは男爵閣下を本部へお送りいたします」

「立ち寄ってくれていいよ」

「ですが」

「俺な、中尉の護衛なんだ」

「……はい?」

「うちの国でいま最重要人物って中尉だよ。護衛が付くのは当然だろ」


 ちょっと意味が分かりません。


「まあ、詳しい説明は後日な。下手に喋ると俺が消される」


 なんですか、その物騒な話は。


「では寄り道してもいいと?」

「ああ」

「リドホルム閣下とお呼びすればよろしいのですね」

「面倒だろうが、それで頼む」


 来た時と同じく検問で身分証を提示し、ノートに本部に戻る旨を記入して王宮を出ると、空が白み始めていた。

 この二日間仕事したわー。さあ、最後にもう一仕事しよう。


「車はあっちに停めてい……」


 男爵に説明をしながら、無意識に右手が動く。

 腰に差している銃を抜き、わたしが乗ってきた車に近づく人物に照準を合わせる。

 全ての兵士の顔を知っているわけではないが、あれは違うと身を切るように冷たい空気が告げる。

 やはりそいつは拳銃を構え ―― 乾いた音が、凍えた朝に響き、砕けた拳銃の破片が硬い雪の上に散らばり落ちる。


「すげえ……」


 男はこちらを見……って、セシリアじゃん!

 拳銃を破壊された、軍人コスプレしたセシリアが走って逃げようとしたので、ぱぱん! と二連発で両足を撃ち、雪の上に転がるコスプレセシリアに駆け寄り、背中に膝を乗せて腕をねじり上げる。

 お前死んだんじゃなかった……あれ? これ男じゃないか?

 セシリアはわたしと違って、一目で性別が分かるし、見た目無理はあったが女学生の格好できたくらいだから、こんなに筋肉はないはず。


{離せ! 離せ!}


 ん? こいつが口走っているのはルース語ではないか。

 一気に緊張が走る。


{こいつを殺さないと、姉さんが殺される}

「男爵閣下、なんと言ったか分かりますか?」


 一緒に駆け寄ってきたリドホルム男爵に尋ねる。わたし、簡単なルース単語なら分かるのだが、文章になると……。諜報部なら、そっちにも詳しいでしょうからね!


「殺さないと姉が殺されると言っている。中尉、こいつは、あの行方不明の子供たちの一人だ」


 セシリアの弟、イクセル・プルックか!

 でも姉のセシリアは既に死んでいるし、何故姉が殺害されると……。いや、待て! それを考えるのは後だ!


 いまこいつは命令であるオルソン、もしくはフーバー兵士の射殺に失敗した。


 たとえ成功したとしても、こんなに軍人がいる中での発砲となれば、問答無用で射殺される。殺すのに最適な場所だ。

 イクセルに命令を下したやつは、イクセルを殺害するために、この場で射殺するよう命令を下した。だからここにはイクセルを撃ち殺す射手がいる!


「全員動くな! 動くと撃つぞ!」


 イクセルの背中に足を乗せたまま ―― まだ王宮周辺の警戒態勢は解けていないから、高い位置からの狙撃はない。

 イクセルを射殺するのが目的だから、車の向こう側に射手はいない。

 絶対この中に紛れて……かちゃりと拳銃を構えた音。

 距離はあるが、わたしの真後ろだ。振り返る時間はない。向こうが構えたということは射手とわたしの間に兵士はいない。

 ならば手段はただ一つ。

 左手で右腰に差している拳銃を抜き、音がした方向を撃つのみ。

 乾いた音のあと、誰かが倒れた。味方を撃っていないことだけを願う。銃を構えたまま倒れた人物に駆け寄ろうとしたら、エンジン音が高らかに鳴り、一台の車が走りだそうとしていた。

 わたしの立ち位置からでは、距離の問題もあり、運転手は狙えない。


「フーバー、オルソン、降りろ!」

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