【048】代表、お別れをする
ガス坊ちゃんの晩餐会、合流後の歓談も曖昧に笑って乗り切り、無事に閉会を迎えました。
『楽しませてもらった、クロムウェル公爵』
『それはよかった、リリエンタール夫人』
見送ってくれたガス坊ちゃんと挨拶をかわし、お迎えの馬車に乗り込み ―― やったよ! みんな! 格式の高い晩餐会、乗り切ったよ!
「立派だったよ、イヴ」
「お褒めに与り光栄であります、閣下」
閣下に褒められた。
もっとも閣下はわたしのことを、いつも褒めてくださるのですけれど。
その閣下はといいますと、格式の高い晩餐会なんてお手の物。……というか、閣下が夕食を取っている席はそのまま格式高い場になりそう……ん? ということは、わたしはいつも格の高い食卓についているということ?
たしかに閣下は夕食の時は、燕尾服にホワイトタイに着替えて食べている。
わたし? 食べやすい格好しかしていないよ!
「イヴ」
「はい、閣下」
「帰ったら、一杯付き合ってくれるかな?」
「はい! よろこんで」
シャール宮殿に戻って晩餐会の武装を解いてシャワーを浴び、先に準備を整えた閣下がいらっしゃる寝室へ。
好きな人と一緒にベッドでごろごろしながら飲むウィスキーは最高だね!
そこからなんかこう……になったのですが、
「ここで止めておこう」
閣下が困ったように笑い体を離した。
「……」
「イヴ、そんな目で見ないで欲しい」
「あの、でも、もうオリュンポス終わりましたので……」
閣下はわたしの髪の毛を指で遊び、
「お誘いは嬉しいのだが、時間に急かされるのは嫌なのだ」
「?」
「明日、ああもう日付が変わったから今日だが、今日は大統領としての公務がある。これからイヴに触れたら、数時間後の公務など全て忘れ去る」
「は……はあ」
なんか恥ずかしいことを言われている……いや、恥ずかしいことではなく……閣下から耐久レース宣言? されてる?
「これから会談する列強の首脳相手をリリエンタールは黙らせることはできるが、ロスカネフの大統領がそんなことをしてはいけないからな」
閣下は髪を遊びながらこめかみにキスを……。
「そうで、すね」
「初めての夜が明けたイヴを人目に晒すと考えたら、嫉妬で気が狂いそうになる」
「閣下……」
「触れたくてたまらないが……ん……やはりリリエンタールの名で、黙らせるか」
「閣下!」
そんな話をしながら眠りについた。
翌日、大統領夫人としての公務を頑張った。きっちりとした格好をし、不機嫌に見られることなく、だがへらへらしているように見えない微笑を浮かべ、用意された歓迎会を過ごす。
閣下とマッキンリー首相の政治的な会談が行われている最中、わたしは帰国する選手団とサポートスタッフと家族親族と食事会をする予定だったのだが、
「待たせたな、ジョゼ・ゴメス」
〔この日を楽しみにしていた、クローヴィス〕
約束した以上、ゴメス選手が帰国する前に勝負しなくてはならないので、食事会の時間をあてることに ―― みんな「特等席で見せてくれるならいいよ」と。あ、父さんと母さんは「男の人と殴り合いだなんて」っていい顔しなかったけど、わたしの意見を尊重してくれた。
いつも意見を尊重してくれてありがとう。そして心配かけて御免よ……。
そんなわたしと試合をするゴメス選手だが、彼も今日、船に乗って帰るので、できることなら負傷させたくはないが、わたしもこの後も大統領夫人としての公務があるので、顔を殴られるわけにはいかない。
いや、まあ……わたしの顔は頑丈なので平気じゃないかなーって思うんだけど、万が一痣が残ったら、唯でさえ男らしい顔に「勲章」がついて、ますます男らしくなってしまう。これ以上雄々しくなるのは避けたい。
なにより閣下との…………が近づいているので、顔に痣とか裂けた唇とか嫌だ。体も同じく……なので避けまくる所存です。
〔試合は公式ルールに則って行う〕
「了解した」
わたしたちの会話はリトミシュル閣下が同時通訳してくださっております ―― 昨日アウグスト陛下とくじ引きして、当たりくじを引いたとのこと。ちなみに外れくじは猊下のお見送り……それを外れって言っちゃだめなやつ!
ゴメス選手が語った通り、ボクシングの公式ルールに則っての試合なのですが、わたしは見えなくても一応女性なので、上半身裸というわけにはいかないので、黒く染めたメリヤスのタンクトップと、軍用ズボンを着用しています。
そこはゴメス選手は拘らず、閣下が絶対に譲らなかった。わたしとしては、ハーフトップブラみたいなものに、ハーフパンツでも良かったのですが、閣下がふくらはぎと、腹部に執拗に所有印を刻んだので……閣下、無言の訴えでした。
特設リングは港に作り公式審判員も喚び、セコンドもつけている。
ゴメス選手のセコンドは、金メダルを取った時と同じ布陣。わたしの方はというと、トロイ先輩とオディロン。
うん、オディロン・レアンドル。修道士の格好をした……いや格好をしているじゃなくて、実際修道士なのですが、筋骨隆々の大男修道士がリングサイドでスクワットしている姿は異様です。
スクワットを教えたのはわたしですけど。
教えたというよりは、わたしのトレーニングを側でみていたオディロンが真似し始めたので、腰を痛めないように少しだけやり方を教えてやった程度ですが……あいつ、わたしと同じくトレーニングしたら、それがそのまま筋肉になるタイプ。
修道服の裾を「ぶおん、ぶおん」言わせ、風を斬っているオディロンの側で、遠い目をしているトロイ先輩に詫びたい……いや、あとで詫びる。
トロイ先輩はオディロンの脅威をキース大将(当時中将)襲撃事件で目の当たりにしているので、遠い目もしたくなるだろう。
扱いが非常に難しいオディロン。リトミシュル閣下からは「アントンと教皇が言い聞かせたから大丈夫」とは聞いておりますが、オディロンは万が一ということがあるので、この試合でも危険な場面を作らないようにします。
負けそうになったらゴメス選手が殺される……わたし、ゴメス選手を殺したいわけではなく、そんな試合をするつもりはなかったのだが、今更言っても仕方ない。
グローブをはめて、リングにあがり、
『レディース・アンド・ジェントルマン!』
リトミシュル閣下が何故かショーでも始めるかの挨拶を。
それが終わってから、ゴングが鳴り ―― ゴメス選手がパンチを繰り出してくる。
うん! 容赦ない試合と同じパンチだ!
もちろん避けたけどね! 大丈夫、この速さなら避けられる!
これでも同期には「発砲された弾丸避けられるよね」といわれるくらいには、動体視力と反射神経が優れているので。
オディロンに視線を向けると「この位は大丈夫ですね、台下」と ―― 視線はそうなのだが、リング脇でしている垂直跳びの跳躍力おかしいぃぃ!
……などと、よそ見をする位の余裕はある。
「弱点に気付いた」
五ラウンドが終わって休憩に入っているところで、トロイ先輩にそう告げる。
「弱点?」
「ゴメス選手は体力がない」
五ラウンドが終わったところで、ゴメス選手はかなり肩で息をしている。
この時代のボクシングは十五ラウンド制。まだ三分の一しか終わっていないというのに息が上がっているのだ。もともと一ラウンドKOタイプの選手なので、あまり体力がないのだろう。
「…………そりゃ、クローヴィスに比べたらな…………」
休憩時間が終わったので、肩を回しながらリングの中心へ。さて、そろそろ試合を終わらせようじゃないか!
ステップの速度を上げ、フェイントになるパンチを多数繰り出し ―― 足がついてこなくなりスリップしかかったところで、鳩尾にパンチ!
手応えから「完璧だ」と分かるパンチで、ゴメス選手も腹を押さえてふらふらと。その腹斜筋に覆われている横腹にキック! 足下がよろついていたゴメス選手は吹っ飛び……試合は終了!
わたしの反則負けです。
勝たなかったのか? 一介の軍人、それも女がオリュンポス金メダリストにすぐさま勝っちゃったら、オリュンポスの意義が危うくなるから……勝負を受けた時には気づかなかったんだよ! だから作戦を変更した。
リングに転がるゴメス選手はびっくりしていたようだが、
〔圧倒的な強さだったよ、クローヴィス〕
「勝ったのはお前だがな、ゴメス」
勝ちを譲ったことに怒るわけでもなく……意図を理解してくれたらしい。この辺りはガス坊ちゃんより察しがよかった。
こうしてわたしは反則負けいたしましたが、何故か知らないがリトミシュル閣下に手首を持って掲げられ ―― 二人とも勝者! みたいな感じになりました。
ゴメス選手の顔をのぞきみたら、別に不服そうではないので上手くいったのだと思います。
「楽しかったぞ、ゴメス選手。他の皆さんもお元気で」
〔エンペラトリースも!〕
そのままゴメス選手たちを見送りました。
「イヴ、寒くはないのか」
彼らを見送って少しすると、閣下がお越しになった ―― その時のわたしの格好は、ボクシングの試合をした時のまま。
「全く」
海風は涼しいものですが、七月後半で我が国よりも平均気温が高い国ですので、寒さなど全く感じません。むしろブリタニアスは暑いくらいです。
「閣下、失礼ながら妃殿下は北国出身で、寒さにはお強いかと」
「分かっている、リーンハルト」
閣下は分かっていらっしゃる……のだが、気になるようでフロックコートを脱ぐと、わたしの肩にかけて下さった。
「イヴの素肌を見ていると、わたしが我慢できなくなるのだ」
「閣下!」
ぽ、ぽふー……突然そんなことを閣下が囁き……言葉が出てこない……。
「姉ちゃん! お土産楽しみにしてる!」
ゴメス選手たち新南大陸の選手たちが乗った船が出航し、次はロスカネフ周辺の極北に向かう船が出る。
「父さんと母さんとデニスたちをよろしく頼むよ、カリナ!」
船に乗り込み甲板から手を振る妹 ―― デニスが肩車をしている。
バランスを崩すと危ないなあ……だが、よくよく見ると蒸気機関車君たちが、デニスとカリナの洋服の端を掴んだり支えたりしてくれている……ありがとう。
ところで君たち、実家に帰らなくていいの?
成人男性ですので、俺は新天地で一山当てるぜ! というのも良いのだが……帰国したら聞いてみよう。
答えが返ってくるかどうかは知らないけれど、気づくと蒸気機関車の話になっちゃうんだよねえ、彼ら……もちろんわたしの弟も含まれております。
「任せておいて! 姉ちゃんがいない間のロスカネフは、カリナが守るから心配しなくていいよ。リヒャルト義兄さま、姉さんとベルさんのことよろしく!」
わたしの妹が頼りがいあり過ぎる。カリナが手を振っていると、船の大きな汽笛が鳴り響き ――
「このリヒャルト・フォン・リリエンタール! 非才ながらフロイライン・クローヴィスのご期待にそえるよう、全力で取り組ませていただく! まあシャルルは、いつも通り適当にだが」
閣下は大きな声でカリナに答えてくれ、カリナも聞こえたようで両手を振り……「まあシャルル……」のあたりは、小声だったので聞こえなかったっぽい。
閣下の斜め後にいるアイヒベルク閣下が額に手を当てて「閣下……」と呟いていた。
「もうすぐ船の用意が調う」
ロスカネフ大統領としてのブリタニアスでの仕事を終えた閣下は、これから次の外遊先であるノーセロート帝国に向かう。
両国間はエスカレテネ海峡を通れば三十㎞くらいしかないので、今日中に到着できる。
ノーセロート帝国かあ、初めて行く国なので楽し……めるかどうかは知らないが。
ほら、色々あるからさ……閣下とベルナルドさんが。
「こちらです、大統領夫人」
「はい」
大統領夫人としてお見送りされるので、黒のタンクトップに黒いフロックコートを羽織った姿のままではまずいので、港のすぐ側の建物の一室を着替えように借りている。
そこへと向かいデザインは詰め襟で長袖のシンプルなものながら、鮮やかなロイヤルブルーのドレスに着替えた。
「船に乗るのですから、靴は軍靴でも」
ドレスの裾は引きずっているので、足音に注意を払えば大丈夫では? と、護衛のディートリヒ大佐に視線を向けたら、
「ヒールに履き替えて下さい、大統領夫人」
口調は丁寧で笑顔でしたが”やめろ”と ―― ロスカネフの一団はほぼ全員帰国した。帰らなかったのは、わたしの護衛を担当するディートリヒ大佐とハインミュラー中尉。
大佐は分かるのですが、なぜピンクまで……。
そのピンク……ではなくハインミュラーはわたしと閣下が休暇中、先にアディフィン入りしてアディフィン王国とバルツァー共和国の動勢を探る仕事も任されたのだそうだ。
ハインミュラー、アディフィン語使えないよね?
「現地で覚えろと、ヴェルナー閣下からのご命令です」
「……」
鬼教官は健在だった。うん、そういう人だった、ヴェルナー少将。
お前も知ってるよな、ハインミュラー。そうだよな……諦めろ。でもヴェルナー少将はできないヤツには、はっきりと「使えねえな」と言って使わないタイプなので、期待はしているのだと思うよ。
期待に添えなかった場合は「屑が。面見せるな」って言われるか、無言でサンドバッグにされるか、容赦ない言葉責めと共に暴行されるかだけど…………ちょっとだけ、ハインミュラーに優しくしてやろう。
アディフィン語は教えてあげられないけどな!
自動翻訳機能ナシ同士、頑張ろうぜ!
着替えて部屋から出ると訪問者があった。
『リリエンタール夫妻のお陰で、オリュンポスを成功させることができました。改めて礼を言わせてください、ありがとうございます』
オリュンポス関係の仕事を終えたガス坊ちゃんが、再びお礼を言うべくわざわざやってきた。
『今回の成功をもって、中佐に昇進することになりました』
『良かったな』
オリュンポスの成功で昇進するの? 大会役員が昇進するというのは聞いたことはないが、そもそも運営側のことは何も知らないので、良くあることなのかもしれない。
なんにせよ、とにかくおめでとう。
『リリエンタール夫人は二種目制覇したので、大佐になるのですよね?』
『多分な』
ゾンネフェルトと不愉快な仲間たちが、ごちゃごちゃ言っていなければ、なれると思います。もっとも騒いだとしても、キース大将が叩きつぶしそうですが。
士官学校時代の成績はゾンネフェルトに後塵を拝し、有力者の血縁もいないのにキース大将強いからなあ。見た目は儚いけど。
『なかなか追いつけないものだ』
『クロムウェル公爵が本気を出したら、すぐ追い抜かれるさ』
『そうだといいのだが……』
海軍中佐昇進したガス坊ちゃんは、新北大陸ブリタニアス領の海洋警備隊隊長として赴任するらしい。
警備隊隊長という役職だが、率いる規模は我が国の海軍よりも多いのは……もはや、お約束と言っても良いだろう。
国力の差ってヤツですよ! うちの国に、こんなデカイ港ないしさー!
『二週間後には新大陸に向かう』
『そっか』
ガス坊ちゃんも忙しいな。
『仕事は現地が長い副隊長任せで、わたしはロックハート総督から軍事や統治について、実地で習うことになっています。お世話になります、リリエンタール閣下』
隣に座っている閣下は、鷹揚に頷かれた。
『ではロックハート総督も、新大陸に戻るのか』
『ああ。かの総督はこの辺りでの仕事は終わったそうだからな』
えっとそれは……アブスブルゴル帝国攻略終了ということですかね……ガス坊ちゃんには聞きませんが。
『そっか。新天地で面白いことがあって、気が向いたら手紙でも送ってくれ』
こうしてガス坊ちゃんと握手をし ―― 赴任後のガス坊ちゃんから、毎月手紙がくるとは思わなかったが、なかなかに楽しいので気づけば文通を。
こうして多くの濃密な思い出が出来た国、ブリタニアス君主国から次の外遊先、ノーセロート帝国へ ―― ブリタニアス出立ギリギリのところで、閣下が神聖帝国皇帝夫妻に紹介してくださいました。
それはもうゼークト首相が頑張ったらしい。
何をどう頑張ったのかは不明だが、ガーデンパーティーで見かけた時より五歳は老けてたよ、神聖帝国のゼークト首相。
盛大に「クリフォード公爵殿下、妃殿下、任期満了後のお越しをお待ちしております」という大歓声を受けながらブリタニアスを旅立ち、その日のうちにノーセロート帝国の港に到着。
<わざわざ皇帝陛下が出迎えてくれるとはなあ>
小国の大統領を大国の皇帝、夫婦で出迎えてくれたよ……夫婦で出迎えることは、港を発つ前に神聖帝国皇帝夫妻から聞いてはいた。
ほらエジテージュ二世の奥さんって、神聖帝国皇帝の第二皇女、すなわち閣下の姪なので。
<お初にお目に掛かります、リリエンタール閣下>
<Bk118運河が欲しいか?>
<…………>
<好きにするがいい。ただ一つだけいっておく。いまのわたしは、攻め込むのも吝かではない>
わたしは閣下とエジテージュ二世の会話は全く分からなかったので、あとで教えていただいた。
Bk118運河に関しては、いままで共産連邦の利用を禁じていたが、大陸縦断貿易鉄道計画が再開されることにより、一部の利用を許可したため使用料が増えるので、取り戻したいと……考えているのはエジテージュ二世と僅かな人たちだけらしい。
「わたしはエジテージュ二世の父親で、戦争の名人と謳われたエジテージュ以上に戦争上手と言われているので、戦って勝ちたいという欲求を持っている。その切っ掛けとしてBk118運河占領がもっとも無難なのだ」
エジテージュ二世の父親は、何回か戦争に負けて、最後は流刑地で病死……というのは有名な話。
「戦争ですか」
「わたしに負けたら、その地位を失うというのに、全く……父親に似て命を賭けた勝負事が好きな男だな」
閣下はそれはもう見本のような冷笑を浮かべられ……それを格好良いと思ってしまう、わたしはきっと末期というやつだろう ―― あとで考えたら、閣下はご自身から攻めたことはほとんどない。ベルナルドさん救出のためにノーセロートに攻め入ったことはあるが、あれはベルナルドさん救出のためだから……いやまあ、攻め込ませるように持って行くことはしていますがね。
「どうした? イヴ」
晩餐会から帰ってきておきながら、わたしはお菓子食べてます……色々あったんですよ。
「大統領夫人として、言ってはいけないとは思いますが、早くノーセロートでの外遊を終わらせて、閣下との休暇を楽しみたいなと」
金メダル取るぞ! という目的もあり、ブリタニアスまでは気合いが入っていたのですが、それが終わったら気が抜けてしまって。
わたし如きの社交レベルで気を抜くなんて、調子に乗りすぎですが、緊張が切れてしまったものは仕方ない。
「わたしもイヴと同じ気持ちだよ。早く終わらせて二人きりになりたいな」
「閣下……わたしもです」
「首脳会談など、取りやめにしたいな」
など閣下は仰っていましたが、政治家として大統領として、圧倒的な駆け引きで様々な条約を結ぶことに成功なさいました。
「これからのことを考えたら、時間など掛けたくないからな」
予定より一日早く諸々のことを終えて、”余裕があるのでしたら、是非とも舞踏会に”と引き留めるノーセロートの皇帝エジテージュ二世を無視し、わたしと閣下はノーセロート帝国を去り、無事休暇に入った。
閣下がお持ちの地中海に浮かぶ島に建つ、こぢんまりとした島の邸で……




