表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/335

【026】代表、大会に備える

挿絵(By みてみん)

①グリュンヴァルター公国

②バイエラント公国

ノーセロートと神聖帝国の間のピンクの点みたいなのが終末の聖地

白いところにピンクがあるのは塗り間違いではなく飛び地です

 オリュンポス(オリンピック)のシンボルマークですが、


「さすが新進気鋭の前衛芸術家よね」

「うん。あんなの思いつかないよ」


 同期たちはセレドニオ君のデザイン画を見て「さすが芸術家」と感心しきりだった。

 わたしにとっては目新しくもなんともない「輪が五つ」なのですが、それが存在しない世界においては「スポーツの国際的な祭典=輪が五つ」というのは、全く発想できないものらしく……言われてみればそうだった。

 そういうものだと思って見て育ってきたから不思議に思わないが、初めてシンボルとして描かれたら「? おお……芸術ってやつね」になって当然だ。


 こんな感じで選手が到着してから、シンボルを作っているようなレベルの大会ではありますが、大々的に広告を打ち、オリュンポス(オリンピック)開催責任者が唯一許可を出した賭け屋(ブックメーカー)が、これまたシンボルを使うことを許された百貨店と提携して賭けを開始し、けっこう盛り上がってきた。

 選手たちのデータが載った新聞が飛ぶように売れている。ちなみに新聞社の方から新聞に掲載されているデータをまとめた「選手名鑑」が、出場する国一つにつき一冊配られた。

 我が国だけは十冊ほど手元にあります。閣下が差し入れてくださったのだ。


 賭けですが社交界ではすでに大口購入の外れ券で、クロムウェル(ガス坊ちゃん)公爵家の晩餐会に招いてもらえるというのが広まっているので繁盛しているらしい。

 その晩餐会の出席者のメインは既にほとんどが決まっており ―― アウグスト陛下やリトミシュル閣下、神聖皇帝に新首相、アディフィン国王に大統領などそうそうたるメンバーが名を連ねていた。

 これは出席したら箔がつくだろうし、彼らの取り巻きとしてやってくる政財界の人間と面談して、パイプを作れたら最高だ。


 あ、わたしと閣下も出席するよ。ただまだ発表していないだけ。わざと空白を作って「ただいま交渉中」って焦らしてる。


 これほどの人を集めるとなると、ガス坊ちゃんではまだ力不足。ほぼ閣下が集めて下さった ――

 閣下はオリュンポス(オリンピック)を大々的に成功させたい……「イヴが出場する大会だから、成功させたいのだ」と仰って、着実に大々的にしております。

 その最たるものが「人集め」

 閣下がこのブリタニアスで休暇と外遊を交互に入れることで、多くの各国首脳が集まってくるという仕組み。

 なんかね、色々な思惑とか外交のなにかとかあるんですよ!

 わたしが聞いて理解できた範囲だけですが……すっごく狭そう? 言うなよ!

 今回の閣下の外遊はロスカネフ王国の対岸三国を周り、ブリタニアスを訪問。ここで外遊と休暇を交互にいれて、オリュンポス(オリンピック)最終日の馬術をロスカネフ大統領として観戦してから、ノーセロート王国で首脳会談をして教皇領へと向かう。

 教皇領にて教皇猊下と面談を終えると、長期休暇に入る予定です。


 普通に考えたら隣国フォルズベーグの隣、大国であるアディフィン王国にまず向かう……のだが、ただいまアディフィン王国はリトミシュル閣下の切り崩しで大変なご様子。バルツァー連邦共和国が出来上がるのは時間の問題。

 その時アディフィン王国が残っているかどうか……というレベルらしい。


「あれはバカですが、一国を奪うくらいのことは簡単にやってのけます。ましてや相手は格段に落ちる相手」


 執事のベルナルドさんがそのように仰っていた ―― 消えて無くなる可能性のある国家と下手な条約を結ぶ危険は避けるという形で、閣下は初の外遊先を対岸の三国に選んだ。

 その対岸ドネウセス半島の三国の一つ、バルニャー王国でちょっと騒ぎが起きたのですが、閣下はあそこにマルチェミヤーノフ派の屑野郎ニジンスキーがいることをご存じで、


「競技中に故国付近で共産連邦の残党が騒いだら、イヴが競技に集中できないであろう? キースが勝つと分かっていても」

「あ、はい」


 そのまま自由にしていても良かったらしいのですが、わたしが気にするのと、


「なにを言っているのですか。あなたの力を持ってすればあの程度の小者、妃殿下に気付かれないうちに片付けることは可能だったでしょう。違うのですよ、妃殿下。この人、自分が妃殿下の応援に集中できないのが嫌だったんですよ。だから通りすがりに、邪魔をするなとばかりに潰したのですよ。あのニジンスキーなんてのは、本来ならこの人が直接手を下すような相手じゃありませんからね」


 閣下が応援に専念するためだったらしい。

 たしかにニジンスキーなんて、閣下自ら潰すような相手じゃないよなあ。閣下と対面といったら五百万の戦線軍に守られた書記長クラスだろうから。それでも書記長は負けたけど……。

 月に太陽をぶつけて消し飛ばすが如きの、完全なオーバーキルでしたが、閣下が後顧の憂いを片付けてくださり、ブリタニアス君主国に到着し、ここで閣下は政治的な活動を行っている。

 ブリタニアスはとにかく首脳が来やすい。

 我が国は北の隅っこで、陸路でやってくる場合は、戦争で荒廃したフォルズベーグや、ただいま王国対連邦共和国なアディフィン一帯を抜けるのも、なんとなく危険。

 そんな時、ロスカネフの大統領がブリタニアスで面会を受けつけている ―― ブリタニアスは島国だが、行きやすい……となるわけです。

 もちろん各国首脳がわざわざロスカネフに来ようとしているのは、閣下が大統領だから。そうでなければ、来る筈もないとキース大将がおっしゃっていました。


 うん、そこは分かります。


 とにかくブリタニアスにいる閣下とトップ会談の運びになるのだが、閣下が大統領として会ってくれるのはオリュンポス(オリンピック)の開催中のみ ―― そう、各国のトップはオリュンポス(オリンピック)開催中、足を運ばなくてはらない。

 これにより、各国の首脳がオリュンポス(オリンピック)を見に来ているという図ができあがる。

 ちなみに現在は各国から事務レベルの人たちが来て、閣下に随行している政府役人たちが予定や会合の内容などの調整を行っている。

 その仕事はかなり大変らしく、駐在武官のアイキオ中佐や補佐武官たちも協力し……てもまだ足りないようだ。

 その忙しさに本国に連絡を入れたが、副大統領ことキース大将からは「経験を積んでこい」と ―― 人員の補給はなかった。だがアウグスト陛下に手伝ってもらえるよう依頼してくださり、引き受けてくださった。

 とはいえ、経験を積む場なので基本は随行員たちが頑張っている。

 さらに閣下は大統領としての他に、王侯貴族としての面会希望もあり、そちらは執事のベルナルドさんが取り仕切っている。

 財界などの大物とも会うらしいが、これらに関してはさすがベルナルドさん、特に問題はないようだ。


「アブスブルゴルはついに閣僚を送り込んできたが、誰も間に入ってくれず困り果てている」


 きっと閣下の予定の全てを網羅しているであろうディートリヒ大佐が、そんなことを教えてくれた。


「閣僚は会って閣下になにを話すつもりなのでしょう」

「貿易に関してだろうな。暴言の撤回云々がもう不可能なのは分かっているから、国の維持のために、通行不可能になったところを解放してほしいと頼みにきているはずだ」

「通行不可能ですか?」

「そうだ」


 ディートリヒ大佐が地図を出して説明してくれたのだが、アブスブルゴル本国は一部が内海に面しているだけだが、飛び地がインブロフ(アドリア)海に面している。

 この海に面している飛び地にある港から輸出入を行っていたのだが、


「閣下を怒らせたことで、運河を使えなくなってしまい、海運業が瀕死の状態なんです」


 閣下所有の運河が使えなくなったことで、アバローブ(アフリカ)大陸の西側を伝う大回りしなくてはならなくなり、困り果てているとのこと。

 ディートリヒ大佐に地図を使って説明してもらったのですが……閣下はこの世界におけるスエズ運河を所有していた。

 前世の感覚でいうと、アドリア(インブロフ)海から地中(デナート)海、そしてスエズ(Bk118)運河から紅海(サッファー)に抜けるルートを使えなくなった ―― うん、経済に疎いわたしでも、ここ使えないとヤバイのは分かるわー。切実な問題という言葉がこれほど適切な場面もないだろう。


あれ(運河)は閣下個人の持ち物だ。気にくわない相手を通さなくなることなど分かっていたはずなのだが」

「そこまで怒るとは思っていなかったのでは」

「なんだろうなあ。バカとしか言いようがない」


 追加というかおまけというか、アブスブルゴル帝国における王制打倒一派の動きが非常に鈍くなっているらしい。

 皇帝の暴言で経済が滞ったのだから、意気軒昂に打倒を叫びそうなものだが、閣下の経済制裁と物理攻撃が容赦なさ過ぎて、


「帝室を打倒したところで、閣下のお怒りが収まるのかどうか、まったくの未知数。主権を手に入れても、経済が動かなければ早晩行き詰まることくらいは理解しているらしく、事態の推移を見守っている状態。けっこうな過激派(テロリスト)まで、大人しくなるほどらしいぞ」


 王政打倒派が縮こまるレベル。


「……」

「いやいや、そんな表情をするな少佐。大体これは始まったばかり、この先更なる制裁が待っているはずだ。俺も全体像は分からないが」

「分かりませんか」

「分からないな。精々分かるのは、閣下が勝つことくらいだ」

「それは小官でも分かりますが」


 ディートリヒ大佐は軽く笑い、


「それが分かっているなら、あとはどうでもいいさ」

「そうですね」


 わたしもつられるように、軽く笑った。


 そうそう、閣下に会えない国のトップといえばフォルズベーグのウィレムを名乗っているセイクリッドと、その側近の名を騙っているロルバス。

 あの二人の顔は閣下もキース大将も覚えているので「他人の空似です」などととぼけたら、間違いなく殴り付けられるだろう……ヴェルナー少将に。

 二人ともそのことは分かっているらしく、セイクリッド(ウィレム四世)は閣下が大統領に就任した前後から、最近仮面をつけているらしい。

 仮面だよ、仮面。

 二次元で仮面が本体とか揶揄されるようなキャラクターだって、国を獲ったら仮面を外すというのに……むしろ「他人の空似」を押し通せよ! 途中で日和るな!

 というか、こうなること想定していなかったの?

 元母国である隣国との外交はどうするの? など思うことはありますが……どうにかなるんだろう。攻略対象のスペックで、フォルズベーグの民を幸せにしろよー。


 そんなこんなで、明日からオリュンポス(オリンピック)が開催されるので、おやすみなさい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ