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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第八部・イヴ・クローヴィス、連合部隊を率いて北東に進軍す編
251/335

【250】少佐、作戦行動の下準備をする

 マルチェミヤーノフによるマーリニキー・ボンバ計画の阻止 ―― 両閣下はこれに携わる全員を一部屋に集め、説明を開始した。

 トップに伝えてそこから部下へで良いのでは? と思ったのですが、連合部隊の場合はとにかく「お前たちにもしっかりと同じ情報を与えている」ことを伝えるのが重要なのだそうです。

 元連合軍の高官であらせられた両閣下が仰るのだから、間違いないのだろう。

 室内にはわたしが故国から伴ってきた部下全員と、シャルルさんにリースフェルトさん。両閣下が伴ってきた部下九割、残り一割は見張りをしながら、蒸気機関車や蒸気船に付いている。

 カガロフスキーとその部下十九名。

 そして何故かデニスたちと意気投合した、アブスブルゴルの一般人五名。


 一般人も巻き込むのですか?


 そう思ったのですが、巻き込んでしまうらしいです。

 会議の主要言語はアディフィン語なのは仕方ありません。

 なにせ半分はアディフィン語が母国語なので。ロスカネフはここでも少数派 ――

 アディフィン語が母国語ではない国には、通訳が付けられました。

 我が国の通訳はフォルクヴァルツ閣下で、カガロフスキー部隊にはリースフェルトさん……なんかリースフェルトさん、カガロフスキーの部下の一人と知り合いっぽいのです。

 リースフェルトさんの過去は知りませんが、ルース人っぽいので……。普段であれば関係を不躾に尋ねたりはしませんが、今回は作戦行動中ですので、後で尋ねることにします。いやーなんか二人の雰囲気が重苦しいというか、再会を喜び合う的なものが一切なく、かといって恨みがましいとかでもなく。リースフェルトさん恨んでいたら、きっとレオニードに対するような態度になるはずだから、恨みはないのでしょう。でもさーなんか蟠りを感じるんだよね。気が重いわー。


『アディフィン語も喋れんとは、馬鹿だなガス』

『煩いぞ、ヒュー』


 クロムウェル公爵にはハクスリー公爵が、きっと通訳してくださるはず……というかクロムウェル公爵要らないんじゃない? いや放置しておくと騒ぎまくって大変なことになりそうだから連れてきたんですけどね。

 連れてきたといえば縛られたイワンもこの場に転がされているが、なんか必要があるのだろう。そんなイワンに通訳してくださるのがシャルルさん。

 そして最後にオディロンの通訳担当がデニス。デニスはアディフィン語は分からないので、フォルクヴァルツ閣下がロスカネフ語に訳してくださったのを、更に訳してオディロンに伝える。


 父さん、デニスを大学に通わせた甲斐があったような……なんだかよく分からないような。実父のオスカーさんが通った法学部に通わせた結果、両閣下に異端審問官の通訳に抜擢されるようになったよ。


[蒸気機関車の理論は古くからありました。蒸気は古帝国時代から使われておりまして、聖典にもそのことは書かれております。エルケルの書、第478章の……]

[弟君よ。会議中は蒸気機関車の話はなしだ。ただ弟君が聖典に詳しいことは、嬉しく思う]



 ヤバイ、オディロンすら圧倒しているわ、うちのデニス。蒸気機関車限定だけど。



【では始める】


 各国の言葉が飛び交う場で、わたしの参謀リトミシュル上級大将閣下……少佐の参謀が上級大将とか意味不明ですが、そういう形になったのだから仕方ない ―― とにかくわたしの参謀が説明を始めた。


【まず今回の作戦は、我々にとって他国であるアブスブルゴルでの作戦行動となる。ロスカネフ、アディフィン、神聖帝国の三国の軍はシャルル・ド・パレの奪還という名目で作戦行動を行っていた。作戦は成功……では作戦行動を継続できないので、シャルル・ド・パレは金に目がくらんだイワン・ストラレブスキーによりアブスブルゴル帝国に売られたため、助け出すために我々はアブスブルゴルに軍を進めたという形を取る】


 イワンに冤罪が掛けられた!

 でもイワンだからいいかー。

 シャルルさんの通訳を聞いたイワンが、猿ぐつわをむぐむぐ言わせながら抗議してきたが、


{これは冤罪だ。一応裁判にかけてやるから頑張って容疑を晴らせ。なあに、お前に信頼があればすぐに冤罪は晴れるであろうよ。信頼があるのなら……な。大義を優先し、決して金に転ばないという信頼があるのなら}


 リトミシュル上級大将閣下がイワンの目を見ながら、わざわざルース語でそう言うと、イワンの勢いがすぐになくなった。

 お前、そんなに金で信義を売ってたのか? たしかに信義なんてなんの役にも立たなさそうだが、いざと言うときには……まあいいけど、だってイワンだし。


【というわけで、シャルル、イワンに売られたということにしてくれ】

【分かりました。惨事を回避するための大義名分でしたら、幾らでも売られましょう】


 こうしてわたしたちは、作戦行動の大義名分を手に入れた。

 続いてはカガロフスキーに「わたしたちと出会わなかった場合、誰にマーリニキー・ボンバ計画を伝えようと思っていたのか」を上級大将閣下は尋ねた。


{内務大臣エスティアーカウニス伯}


 カガロフスキーの口から出たのは、信頼と実績のあるアブスブルゴルの内務大臣の名……らしい。

 いやね、この時代はちょっと離れた国の政治家って、よく分からんのだよ。各国にその名と顔が知られている……という人のほうが珍しいくらい。

 両閣下は珍しい部類にはいるね!


【そうか。だがローデリヒ(内務大臣)はわたしやフォルクヴァルツと同じく、庶民を見捨てる判断を下すであろう。そして爆破の責任を捕らえたお前たち(・・)に被せるな】

{……}


 カガロフスキーは無言だった。

 自らの見通しの甘さに、思う所があるのだろう。わたしが同じ立場なら、自分一人が無実の罪を着せられるのならばまだしも、部下たちまで巻き込むのは御免被りたい。きっとカガロフスキーも同じ気持ちのはずだ。


【まず中佐(イリヤ)から話を聞いたローデリヒ(内務大臣)はお前たちを捕らえ、すぐさま皇帝一家を安全な場所へと避難させる。鉄道が使われるという情報から、馬車を使用しての避難になるだろう。皇帝一家を無事避難させるまでは、交通渋滞を避けるために公表はされない。その間に爆破は行われるであろう。一切の避難誘導もなく、注意喚起もなく、遊んでいる子供たちが青空の下、吹き飛び、生き延びた母親の前にぽとりと千切れた腕が落ちるような光景が広がる】


 そうなるでしょうね。

 どの国の軍人たちも頷いている。わたしも頷きはしないが、お偉方がそのような判断を下すのは分かる。その後の惨劇も。


【マルチェミヤーノフに砂一粒ほどの知能があれば、ローデリヒ(内務大臣)の身辺に息のかかった者を配置しているだろう。アブスブルゴルは階級差による貧富の差が激しいので、買収に転ぶものは多い】


 我が国でもそういう事件ありました。

 そのせいでオディロンという怪人がやってきて、騙された人をぶっ殺しまくるという事件が。


【爆破は回避されず、ローデリヒ(内務大臣)はお前たちに責任を押しつける。お前たちの失敗はヤンヴァリョフに帰属する。マルチェミヤーノフにとっては、ヤンヴァリョフを失墜させることができる】

【爆破が失敗することは?】

【おそらくない。とりあえずあいつ等は、首都で爆発させれば良いだけだからな。ツェサレーヴィチ・ボンバほどの精密さが必要なわけでもない】


 プラシュマ大佐の問いに上級大将閣下はそうお答えに。

 そして腕を組み ――


ローデリヒ(内務大臣)の周囲にマルチェミヤーノフの息がかかった者がいるかどうか? それを確認する時間はないし、確認する必要もない。まず中佐(イリヤ)、お前は当初の予定通りローデリヒ(内務大臣)の所へ行け。心配するな、身元がしっかりとした人物の紹介で会うのだ。お前が拘束されることはない】


 身元が怪しいどころか、実はマトヴィエンコの息子です……なカガロフスキーだけでは、罪を被せられますが、


【ヒューバート】

【お任せください】


 カガロフスキーと一緒に行くのは、ヒューバートさん。

 ブリタニアスの大貴族にしてババア陛下さまの大甥で、植民地王国の王でもある……伯爵でしかないエスティアーカウニス内務大臣を潰すかの如き配置。


【これで爆破阻止が失敗したとしても、責任を取るのはローデリヒ(内務大臣)だ。みんな、気楽にいけ】


 カガロフスキーに名前を出されたばかりに、うっかりスケープゴートにされてしまった内務大臣。ですが事前に「こいつ(ローデリヒ)は皇帝一家を逃がすために、庶民を見殺しにしたあげく、カガロフスキーに罪を被せる、いかにも貴種らしい貴種」と上級大将閣下が語り、心にそれを植え付けたので、誰の心にも憐憫の情は浮かばない。

 リメディストが成せる技ですね。

 恐いわー。


【ああ、そうだ。共産連邦の奴らは知らんだろうが、こいつはヒューバート・オブ・ハクスリー。植民地大陸において、一国を所有するブリタニアスの大貴族だ】


 通訳を通してヒューバートさんのことを知った共産連邦の兵士たちは「くわっ!」って顔して見てた。ブリタニアスでオブが付くのって王族とごく一部の公爵だけですからね。それは共産連邦の兵士も知っていたらしい。

 カガロフスキーだけは「何故、小国ロスカネフの少佐が、一国の王を連れて歩いているのだ」とわたしに視線を向けてきたが……儚い詐欺を働くことこの上ない上官の計らいだよ!

 

{小官とオブ・ハクスリーにはなんの繋がりもないので、かえって警戒されるのではありませんか?}


 わたしに色々と聞きたいことがあるであろうカガロフスキーは、それらの疑問をぐっと堪えて、作戦について尋ねた ―― お前聞きたいことだらけで大変だな。


【心配するな、ヒューバートはカニエーツ・ツェサレーヴィチ(リリエンタール)の元で政治を学んでいる。そのことは上流階級では知られている……アウグスト、ローデリヒ(内務大臣)は上流だったか?】

【貴族としては上流なのではないか?】

【まあ、多分知っている。おそらくな。そのくらい知らなければ、内務大臣は務まらんだろう。多分な】


 酷い……でもきっと両閣下にとっては「こいつ、貴族として上流だったっけ?」レベルなんだろうなー。


ローデリヒ(内務大臣)に話が通らなかったら、五世(皇帝)にでも会え。出来るだろう? ヒューバート】

【リリエンタール閣下のお名前を出せば、玉座から転がりつつ駆け足で出迎えてくれると思いますよ。でも皇帝に会うの面倒なんで、内務大臣で済ませます。それで構いませんよね?】

【そこはお前の裁量に任せる】


 余所の国の主君とはいえ、レオポルト五世の扱いが軽い。いや、わたしもシャルルさんのことや皇太子のことを聞いているので、そのくらいで良いとは思いますが……それにしても軽い扱いだ。


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