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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第八部・イヴ・クローヴィス、連合部隊を率いて北東に進軍す編
250/335

【249】少佐、北東へ進軍を開始する

 抜き差しならない状況だと思うのですが、


【わたしの意見は、見捨てるだな】

【わたしもアウグストに同意だ、クローヴィス少佐】


 両閣下の意見は何もしないだった。アブスブルゴル帝国は両閣下にとって隣国ではあるが、故国ではありませんので特に動くつもりはないと。

 為政者な立場からするとそうでしょうねえ。


【戦争が!】

【起こりはしないから、心配するな中佐(イリヤ)

【アブスブルゴルの首都が壊滅し、属国が反旗を翻したとしても、大戦にはならない】

【な……ぜ】


 カガロフスキーの声に力はないが、目の前の両閣下がそのように仰るのだから……と思っているのが分かる。

 わたしもこのお二人がそう仰っているのだから、そうなんだろうなとは思う。


【ツェサレーヴィチ・アントンが、戦争など起こそうとしないからだ】

【知らぬであろうが、戦争というのは中々起こせぬものなのだよ。亡国の王太子(シャルル)一人が殺害された場合は大戦につながるが、アブスブルゴル首都に住む十万人近い庶民が殺害されても、戦争は起きない。お前にとっては残念なことであろうが、世界はそう(・・)なのだ】

【アブスブルゴルすら滅びない。精々人が大勢死ぬだけだ。そして世界の大勢は変わらん。中佐(イリヤ)、世界を変える戦争を起こせる人間というのは、そうそういないのだよ】


 アブスブルゴル帝国の首都にはおおよそ五十万の人が住んでいるので、被害は甚大ですが、自分たちの国に被害が及ばない限りは手は出さないのが両閣下の決断のようだ。

 内政干渉という言葉もありますし、戦争は起こらないと断言しているところから、無数の戦争回避方法が両閣下の脳内にはあり、それを実行する能力がおありなのでしょう。

 大量の無辜の市民が死ぬ ―― と言ったところで、殺すのは共産連邦ですし、殺されるのはアブスブルゴルの人たちですので、両閣下にはなんの関係もない。

 冷酷というのは簡単だが、その冷酷さの中に正しさを感じる。

 カガロフスキーは両手を力一杯握りしめ、怒りからだろう震えているが、なにも言わない。

 両閣下の意見を覆せるほどの弁舌を持ち合わせておらず、また政治的な交換条件を持ち出すことができないのだろう。

 ただ庶民的な感情としては分かるんですよ。

 大勢死ぬのは庶民ですので、助けたいという気持ちはね。


【これはあくまでも、わたしの意見だ】

【隊を預かるクローヴィス少佐の意見は?】


 両閣下に振られたわたしは ―― 当然庶民ですので、同じく庶民を助けたいと思います。


【マルチェミヤーノフにしてやられるのは腹立たしく、更に言えばヤンヴァリョフに市民を助けようとしたという名声を与えるのも癪です。マリエ(閣下と)ンブルク一門(シャルルさん)はともかく、アブスブルゴル皇族は好きではありませんが、アブスブルゴルの民に今のところ恨みはありませんので、できる事ならば救出したいです】


 そういった気持ちを隠すことなく伝えた。

 どうせ下手に繕ったところで、両閣下には読まれてしまうでしょうから、それならば最初から助けたいのだと全面に押し出す!

 ここで反対されたとしても、シャルルさんの救出とイワンの捕縛は終わっているので「それではここで!」と別行動を取り、閣下の徽章のお力を借りて……


【そうか。では全面的に協力しよう】

【少佐は連合軍参謀長という、虫けらでもできる役職についていたヴィルヘルムと共に作戦を決定するがいい。政治的な事柄や兵站はわたしに任せろ】


 あっさりと許可が出た!

 カガロフスキーが「なんでだ?」と驚愕の表情でわたしを見ているが、わたしだって吃驚だよ!

 そして虫けらでもできる参謀長って……いや、キース中将からも似たようなことを聞かせていただきましたがね。

 リトミシュル上級大将閣下は連合軍の参謀長官だったのですが「アントンの参謀長とかいう、生まれたての赤子どころか、白骨死体でも務まる役職」と言い放ち、フォルクヴァルツ閣下と一緒に前線に行ってしまったのだと ―― 主席副官(アーダルベルト)閣下は殴る蹴るの暴行を加え、リトミシュル上級大将閣下を元帥にして総司令官だった閣下の元へと引きずっていったと。

 儚かったであろう主席副官(アーダルベルト)閣下、当時わたしと同い年くらいですよね。その年で、どうして辺境伯爵閣下とか選帝侯閣下を殴る蹴るする度胸があったのですか? それとも恋人を失ってまだ時間が経っていないから自暴自……ないな。儚い詐欺だけど、そういうことはないだろう。


【なにを驚いている中佐(イリヤ)。クローヴィス少佐は我々に良きものをもたらしてくれるから引き受けるのだ】

【政治家を動かす時は、それ相応のものを提示できなくてはな。正義を履行するのには莫大な金が掛かるのだよ】


 カガロフスキーの動揺を弄ぶかのように両閣下はそのように仰る。……で、カガロフスキーが「ロスカネフ如きの小国が、一体なんで両閣下を動かしたのだ」といった視線を向けてくる。そんな目で見るんじゃない!

 わたしだって分からんわ!

 ……はっ! もしかしなくても、閣下?!

 後々閣下になにか無茶な条件でも持ちかけるおつもりですか!

 それは困る!

 両閣下に聞いてみなくては……と一旦カガロフスキーに退室してもらい、


「よきものとは何でしょうか?」


 はっきりと尋ねた。


「アントンの本気」


 そして返ってきたのは閣下の本気。


「リリエンタール閣下にご迷惑をおかけするのは……」


 徽章を使おうとしておりましたが。


「そう言うな、クローヴィス少佐。わたしたちは見たいのだ、あの男の本気を」

「連合軍時代ですらまるで本気を出さなかったアントンの実力を、わたくしたちに見る機会を与えろ」


 そう言えば閣下は、今まで勝ちたいと思ったことはないと仰っていました。

 勝ってくれと懇願されたので勝ってやっただけだと。……両閣下はそのことに気付いていたのか。


「わたしがこの作戦を阻止することで、両閣下はリリエンタール閣下の本気を観ることが叶うのですか?」

「分からん」


 即「分からん」って、リトミシュル上級大将閣下……。


「わたくしたちはカガロフスキーの前では外務大臣と軍務大臣だが、少佐、あなたさまの前では、わたくしたちは馬鹿で名高いアウグストとヴィルヘルムだ。馬鹿というのは感情の赴くままに生きるのだよ。だからこそアントンの本気が見たい。そのためには手段は選ばねえ」


 なんと言い返していいのか……馬鹿で名高い? とんでもない。ただただ圧倒される。

 だが協力していただけるのならば、わたしたちの勝率はほぼ十割じゃないかな?


「では小官は連合部隊を編成しアブスブルゴル帝国の首都リィーンを目指し、北東へと進軍いたします。兵站と各地の有力者の調整はお任せしてよろしいか」


 両閣下が笑顔で敬礼して下さった……まあ、二人とも座ったままだけどね。

 わたし? もちろん立ってるよ。そこはね、階級差だったり色々と。


「年だから立つの辛くてな」

「年だもんなー」


 若い者を置き去りにし、一人ハンググライダーで山越えしてくる選帝侯とその友人が、年だからといっても説得力ありません。


 そんな「自称:年だから」な両閣下と共に、しょぼいツェサレーヴィチ・ボンバ(100t未満)作戦を阻止するために軍を動かすことに。

 一応部下には「行きがけなのでわたしは阻止に向かうが、危険だから帰りたい奴は帰っていいぞ」と事情を説明したが、誰も帰らなかった。


「イワンの背後にいた元帥が仕掛けてきたものなら、我々が阻止するべきでしょう」

「ここで爆発してしまったら、アレクセイ皇子の名は更に貶められます。それは総司令官閣下もお望みではないでしょう」


 たしかに国作りを隠れ蓑にされたあげくに、余所の国の首都に壊滅的な被害を……となれば、地を這っているアレクセイの名は更に汚泥まみれになるわな。

 それをキース中将がお望みかどうかは……望んではいるな。そして阻止したことも褒めてくれるだろう。その後わたしは、鷲掴みから振り回されて脛蹴られるコンボを決められる未来が見える。

 いつの間にわたし、未来視できるようになったんだろー……転生特典じゃないのは分かる。ただの経験に基づく確実な未来だ。だが分かっていても、行かせてもらう! コンボ食らったって十万人を救う一角になれるのだ、行かないという判断はない。


 しょぼいツェサレーヴィチ・ボンバ作戦あらためマーリニキー(小さい)・ボンバ作戦阻止計画だが ―― ツェサレーヴィチ・ボンバを名乗っていたのは、三本の線路を使用するから、分かりやすいということでそう呼ばれていたらしい。

 だがツェサレーヴィチ・ボンバと全く違うのは、全車両の目的地が同じではないこと。各車両の目的地があり、時間も大体同じくらいで爆破させる……となっているらしい。


軍事施設(ジュキノリ)を吹っ飛ばすわけじゃないから、この程度で充分だ」


 ただカガロフスキーたちは、作戦についてそこまで詳しいことは知らないらしいので、情報が必要になってくる。


「クローヴィス少佐の弟を使ってもいいか?」

「ヤンソン・クローヴィスに諜報員の真似事は無理かと」


 我が家のデニスに情報収集なんて出来るのかな……などと心配しておりましたが、伝書鳩により司令を受け取ったデニスは整備を終えた蒸気機関車(ベネディクト)を走らせ、アディフィンの蒸気機関車好きたちと共にアブスブルゴル帝国の路線図を手に入れると共に、蒸気機関車大好き駅員や蒸気機関車好きな一般人たちを見つけ出し、ごりごりと情報を入手してきた。それはもう、本当にえげつないほどに。

 もちろんデニスはアブスブルゴル帝国の公用語であるアディフィン語は使えませんが、鉄道用語だけで事足りた模様。

 情報とともに合流したわけですが、情報提供者たちはデニス、アディフィン兵士と非常に意気投合したのでそのまま付いてきた。それも一人ならまだしも、五人ってどういうことだよ。

 デニス、連れてきちゃ駄目でしょう……。アディフィン兵の皆さんもねえ……。

 そしてつられた情報提供者の皆さんも。


「リリエンタール閣下にノルディンペンタゴン計画の書類を見せてもらったんだ」

【リリエンタール閣下のノルディンペンタゴン計画か。間近で見たいよな。新大陸渡っちゃおうかなあ】

「近々、珍しく大陸で人員募集するらしいよ」

【まじか! 応募する!】


 言語が違うのに、デニスと情報提供者の会話が成立している。もちろん二人とも通常会話はまるで通じないのだが、理解はしていないが分かるらしい。恐いぞ!

 などと色々思うことはありましたが、情報は見事なもので ―― 奴らが使う三本の路線が判明した。

 あとはわたしたち、軍人が阻止するだけだ。

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