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【025】少尉、悪役令嬢を推す

「少尉! あの女に感じた違和感、この女と同じものよ! 少なめだけど!」


 悪役令嬢(シーグリッド)の言う”あの女”はおそらくイーナ。そして”この女”と言いながらセシリアの写真を指さす。

 セシリアは寮に忍び込むために制服を着た。

 イーナは……


「もしかして、年齢詐称?」


 同年代の女の子たちと、一緒にいる姿を見たことがないから、はっきりと言えないが、そうだ! あれは十代の女の子じゃない!


「そうよ! あの女、老けてるのよ。見た目が老けてるんじゃなくて、なんていうか……分かるでしょ? 少尉」


 分かる。美魔女とかもてはやされて、若い子の格好している中年女性とか覚えあるわ。

 でもやっぱり、若く見えるのと、若さそのものはまったく違う。


「確かに……若さが……」


 手入れによる髪の艶やかさと、若さによる輝きは違うよねえ。肌もまた然り。


「絶対にあの女、わたしたちより、三、四歳は年上よ!」


 この世界、富裕層とそれ以外の外見年齢の差は激しい。職種も大きく関係し、例えば都市部で記者として働いていたセシリアと、農婦として外で働いているセシリアの二歳年下の幼馴染みだったベッキーさんでは、年下の後者の方(ベッキーさん)がずっと年上に見える。


「ヴァン・モーデュソン。わたしは貴族女性に詳しくないのですが、たしか貴族の中には四十過ぎても二十代に見える方がいらっしゃるとか。貴族女性ならば、かなり年齢を偽ることも可能ですよね」


 わたしの言葉に悪役令嬢(シーグリッド)が絶句する。


「え、なに……少尉はあの女、もっと年上だと思うの?」


 さすがに四十代だとは思わないが、三、四歳程度じゃないと思う。


「おそらく」

「なんで?」

「小官ですらヴァン・フロゲッセルに違和感を覚えたのです。小官は二十三歳。おそらく二十歳と少しならば、小官はなにも感じなかったはずです」


 自分より若い子なら、あの違和感はなかったはず。


「え、なに……二十五歳とか?」


 十七歳の悪役令嬢(シーグリッド)にしてみれば、二十五歳とか年増だよね。わたしはあと二年でその年齢だけど。


「おそらく三十歳前後」

「うそ! 十歳以上も年上だって言うの?」


 男爵家の兼ね合いもあるから、イーナと入れ替わることができるのはエリーゼだけ……でも、親はなぜそんなことを?


「まずは報告しましょう、ヴァン・モーデュソン」


 邸には室長しかいなかったが、室長に話せば全てに連絡が行くから問題ないだろう。


「年齢詐称ねえ」

「はい」

「たしかに年齢より若く見える女性はいるねえ」

「はい」

「イーナ・ヴァン・フロゲッセルの出生証明はあるけれど。そうだねえ、その出生証明の子と入学していた子が、同一人物だという証拠はないもんねえ。うんうん。諜報部にも、そんなのいっぱいいるしね」


 「諜報部~」のくだりは聞かなかったことにしたい!


「室長。ヴァン・モーデュソンに、証拠とまでは言いませんが、ヴァン・フロゲッセルが取っていた行動を再現してもらおうと思うのですが、見ていただけますか?」


 そう考えると、不自然な仕草が幾つもあったと悪役令嬢(シーグリッド)が証言している。それらの仕草を諜報部員に見てもらえば、信憑性の有無というか、可能性あるかもね、くらいまで持っていけそうな気がするんだ。


「いいよ」


 室長の副官ベックマン少尉も邸内にいた。彼女は仕草から外国人スパイを見分けるのが得意なのだそうだ。


「あの女の仕草を再現してほしい?」

「はい。それも特に、女として腹立たしい仕草を」

「いいわ!」


 さすが悪役令嬢(シーグリッド)。イーナが攻略対象の前で取っていた行動のみならず、授業中に取っていた仕草をつぶさにやってくれた。よくもまあ、こんなにも覚えているものだと――ありがたいし、感謝しているけれど、あなたは学校で一体なにをなさっていたのだ悪役令嬢(シーグリッド)

 絶対授業聞いてなかったでしょ、悪役令嬢(シーグリッド)

 まあ悪役令嬢(シーグリッド)はハイスペックだから、授業なんて聞く必要ないのかもしれないけれど。


 悪役令嬢(シーグリッド)の協力により判明したのだが、やはり年齢を誤魔化す仕草が多かったらしい。指の節々の年齢を誤魔化すように少し曲げたり、首のたるみを誤魔化すため小首を傾げていたり。この二つはわたしも覚えている。

 わたしは見たことはないが、頬に手を当てて少し斜めになったり、笑みをたたえている口元が、まっすぐではなく、唇を少し口内に。これで唇の皺を引っ張っていたらしい。


「見事なあざとさです。殿方が気付かないのも、仕方ありませんね」


 ベックマン(カミラくん)少尉が頷く。

 そうなんだ。男子生徒が気付かなかったのは、この仕草を「可愛い」と感じてしまうため――実年齢知ったら、驚くだろうよ。

 あと金がないと言っている割には、爪は綺麗に塗られていたそうだ。

 年齢は指先によく出る――手の老化、恐い。


「ではそろそろ、ヴァン・モーデュソンを連れて行きます」


 悪役令嬢(シーグリッド)の疑いは晴れていないので、これからまた監禁場所へと連れ戻(ドナドナ)される。

 済まない悪役令嬢(シーグリッド)。あなたが共産党員と関係ないのは分かっているが、本当に証明する手段がないのだ。

 モブの無力な平民少尉でごめんよ。


「カミラ君。ヴァン・モーデュソンからもう少し色々なことを聞けそうだから、ここで拘留するよ」


 室長が悪役令嬢(シーグリッド)の重要さに気付いてくれた! 室長、この子、悪い子じゃないんです! ただの悪役令嬢(シーグリッド)なんです! きっとまだまだ何か知ってるはずです! わたしの一推しです!


「リリエンタール閣下の城で?」

「駄目かい?」

「室長のご自宅にしてください。リリエンタール閣下の城で拘禁となると、手配が大変です」

「でもさ、カミラ君。ヴァン・モーデュソンから情報を一番上手く引き出せるのは、クローヴィス少尉だよ。でもリヒャルトは少尉を貸してくれないよ? それだと無意味だ。カミラ君、アンバード少将とリヒャルトの城の警備に関して話し合うのと、リヒャルトに少尉の貸し出し申し出るの、どっちがいい?」


 わたしはなにも情報など引き出せておりませんが? そしてアンバード少将とは一体誰でしょう? 陸軍将校なら把握しているのですが……あれですか、諜報部のほうのお偉方ですか?


「アンバード少将にいたします」

「じゃ、よろしくね、カミラ君」


 良かったね、悪役令嬢(シーグリッド)。しばらく閣下のお屋敷にいられるよ!

 悪役令嬢(シーグリッド)に肩入れするわけではないのだが、彼女が軽犯罪を犯してはいるが、無実であることを知っているのはわたしだけ。

 スパイ容疑で殺害されてしまう未来を変えると言っても、法律の壁が。

 イーナから盗んだものだという証明――まさに悪魔の証明だよなあ。


 悪役令嬢(シーグリッド)を邸内の監禁場所に移動する――お城には座敷牢みたいなのが普通に備わっているそうです。お城恐いわー。闇を感じる。


 帰宅された閣下に室長がことの経緯を話し、悪役令嬢(シーグリッド)にメイドが二人つき、監視の女性兵士をつけることにもなった。

 わたしは監視ではなく、悪役令嬢(シーグリッド)と話をする任。

 容疑者である悪役令嬢(シーグリッド)と話ができるのは、わたし、室長、閣下のみ。あとは話し掛けることは許されない。


 なにせ思想犯扱いなので、話をして思想に影響がでると考えられての措置だ。


「たしかに、田舎に住み社交の場にも現れない貴族ともなれば、本人かどうか分からぬな。レニーグラス地方の社交界を牛耳っているのは、ファンボール伯だったな」


 帰宅された閣下と室長がディナー。そして何故かわたしもご相伴に与っております。


「そうファンボールだよ。まだ無断拝借したリストが届いていないから断定はできないけれど、エリーゼ・ヴァン・フロゲッセルという女性が、社交界に出たという噂は聞いたことないね」


 さらっと「無断拝借」って言っちゃったよ、室長。……会話の内容は仕事関係。

 社交界なあ。わたしにとって社交界と言えば夜会。夜会と言えばダンス。夜に酒飲んでダンス踊るもんだから、酔いがさらに回って、庭の隅で綺麗な格好をした男女が共々ゲロを吐く。貴族も楽じゃない。

 警備をしているわたしは、声を大にしていいたい。

 飲んだら踊るな、踊るなら飲むな……と。


「セシリア・プルックの不法侵入に関しては?」

「プルックは学習院の寮で住み込みをしている若い女と、頻繁に接触していた。というか若い女を介してプルックはヴァン・フロゲッセルと知り合ったらしいよ」


 ゲームではいきなりイーナに声かけてたけど、そういう下準備があったのか。


「住み込みと学生が知り合い?」

「ヴァン・モーデュソンの証言通り、ヴァン・フロゲッセルは共同浴室を使用していた。この浴室のお湯を沸かすのが、若い女の仕事なんだ。あと貴族で共同浴室を使う人は、あまりいないね」

「そうか。その若い女はヴァン・フロゲッセルに対して、どう言っている?」

「なにも。まあ、チップをくれる人がいなくなって、悲しい……くらいかな」

「見張りは?」

「もちろん付けているよ。でもわたしが見たところ、あの若い女は何も知らないと思うな」


 室長、かなり仕事なさってますねー。左遷部署の左遷組の暇な管理職じゃありませんよね。

 食事が終わったので、わたしは退席しようと思ったのだが、閣下から声を掛けられた。


「少尉、なにか不自由はしていないか」

「不自由などございませんが、礼服を取りに戻ってもよろしいでしょうか」


 閣下をお守りした功績で、サファイア勲章授与されるときに着る礼服ですよ。


「礼服。ああ、クリーニングにでも出すのか」

「クリーニングもそうですが、入るかどうか確認をしたいなと思いまして」

「入る?」

「小官はこの通り、かなり体が大きいので、現在所有している礼服が入らなくなった場合、誰かから借りるということができないのです」


 言わせないでください! 閣下。

 我が軍でわたしより背の高い女性なんて、一人もいないんですから! もしかしたら国内でもわたしがトップかもしれないんですよ!

 これでひょろひょろならまだしも、身長に見合った肩幅まで所有しているんですから! 太ったりしたら、礼服が!


 更に最悪なことに、わたしは脂肪ではなく筋肉が付くタイプなので、補正下着でどうこうなるような体型じゃないんです。……わたしサイズの補正下着ありませんけど。

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