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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第七部・アレクセイルート正面突破編

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【242】少佐、水平に切る

 リトミシュル上級大将閣下と共に、誘拐されたシャルルさんとリースフェルトさんを取り戻すことに ――


「リトミシュル上級大将閣下って、気前いいですね!」

「そうだな、ヤンソン・クローヴィス」


 テンション高いデニス。

 その原因はわたしたちが今乗っている蒸気機関車 ―― アディフィンの装甲武装蒸気機関車にある。

 わたしたちが乗ってきた蒸気機関車は駅に預け、アディフィンの装甲車に乗り換えたのだ。軍事機密とかあるので、普通は他の国の軍人を乗せたりはしないのだが、


「アントンの工場で作ってるもんだから、設計図も性能も全部アントンは知っていやがるから、隠しても無意味ってもんよ!」


 ということで乗れることに。

 正直乗せられたところで、その性能を理解できる人間はデニスくらいしかいませんがね。デニスならスペックを丸裸にすることはできそうですが、うちの弟はその知識を悪用はしないので。

 それにしても、故郷を旅立って三週間。

 デニスのテンションが留まることを知らない ―― 


 さてアディフィン軍を麾下にいれた我々ですが、


「指揮官ってものは、じっくりと後から督戦するものだ」

「前に出て戦う指揮官は格好はいいかもしれないが、指揮官としては二流だ」

「勝ち戦はいいが、負けた時指揮官というものは本領を発揮せねばならない」

「勝ちを奪い取るのではない。勝ちを献上されるのだ。実働部隊の者たちは、そのことを知り作戦を遂行するのだ」


 戦うのは麾下に入ったものたちの役割だとか色々言われ、わたしには何も返す言葉が思い浮かばず、実際の権限はリトミシュル上級大将閣下に奪われました。

 まーリドホルム男爵とかハクスリーさんやネクルチェンコ中尉なども、リトミシュル上級大将閣下に上手く言いくるめられていたようで、


「隊長になにかあったら、リトミシュル上級大将閣下の首も危ういですからね」


 そう言う方向で話が纏まってしまった。

 実戦経験がーとは思うが、外国の部隊と共同作戦を行ったという実績にはなりますし、プラシュマ大佐の実力はリトミシュル上級大将閣下の折り紙付きなので ―― 外国での共同作戦というものを知る機会になると割り切ることにした。


【クローヴィス少佐】


 実働部隊の指揮官であるプラシュマ大佐に声をかけられ ―― リトミシュル上級大将閣下と何を話していたのか? と聞かれた際、わたしのことを隠して「指揮官たるもの後方にいて、前線には立つなと教えられました」とリドホルム男爵に伝えてもらったところ、頭を抱えそれでもオブラートに包みながら「お前が言うな(おまゆう)」って漏らしてたと後で教えてもらった。

 苦労してるんだろうなープラシュマ大佐。

 そんなやり取りをして ―― 


「クローヴィス。ついに作戦を遂行する時が来たぞ」

「上級大将閣下」


 アディフィンの軍務大臣にして上級大将で力のある辺境伯爵閣下の情報収集能力により、イワンたちがどこにいるかを突き止め、ひたすらそちらを目指して、わたしたちは蒸気機関車を進めていた。

 イワンたちは内海周辺を走り、着実にアブスブルゴルの属国で、独立を掲げる過激派がいる国へと近づいていたのだ。

 だがイワンよりもリトミシュル上級大将閣下の政治力のほうが上回り、各国の線路を「上手く」閉鎖させ、路線を変更させイワンたちの進みを遅らせることに成功。

 ちなみに無理矢理停止させなかったのは、無理矢理停車させた結果、シャルルさんがその国で殺害されたら、その国とアブスブルゴルの間で戦争が起こってしまうためです。


「アントン(カイザー)に太いパイプがなけりゃ、シャルル(プリンツ)に万が一のことがあった場合を想定すると恐くて手が出せない。イワンはそのことを知っていて、弱小国を抜けていっている」


 そういうことらしい。

 シャルルさんは閣下が保護しているので、シャルルさんになにかがあったら閣下が動く……属国の独立派の人たちは、そこのところをどう考えているのだろう?

 あ、もしかしてオゼロフみたいに「閣下の名声はたいしたことない」などと思っているとか?

 わたしに独立派の人たちの思考は分かりませんが、ただ独立に対しては理解している。ロスカネフも侵略を必死にはね除けて独立を保ち続けているので ―― 従属より独立という気持ちは分かる。

 でも手段を考えないと、独立どころか……。

 政治的ななにかについては分からないので、今は目の前のことに向き合おう!

 ついに我々はベオグラード近辺で奴らに追いついた!


「アディフィン軍の精強さを楽しんでくれよ、アントンの天使」


 アントンの天使は止めてください、リトミシュル上級大将閣下。人前ではクローヴィス呼びにしてくれるし、何度言っても聞いてくれないので諦めておりますが。


「はい、上級大将閣下」 

「ウィルでいいんだぞ、アントンの天使」


 余所の国の閣下を愛称(ウィル)で呼ぶとか……。

 ウィルと呼ぶかどうかなどはいいとして ―― 作戦は単純で補給しているイワンたちが乗る蒸気機関車の進路をこちらの重機関車で塞ぎ、あとは戦って助け出す!

 停止させる場所は補給所になっている炭鉱街。イワンたちはそこで石炭と水を補給する ―― ように仕向けた。

 普通の蒸気機関車ではぶつかっても、この装甲車両を押しのけることはできない。

 装甲武装蒸気機関車からプラシュマ大佐率いる部隊が続々と降り、イワンたちを包囲する。


「でもプラシュマ大佐が率いるものでもないよな」


 プラシュマ大佐の下には実働部隊の小隊長が五名もいるのだから、プラシュマ大佐は後ろで総指揮を執るべきで……お前が言うな(おまゆう)……ではなく、上官のリトミシュル上級大将閣下の薫陶が行き届いているのだな、うん。そういうことにしておこう。

 イワン対プラシュマ大佐ですが、実戦経験豊富なプラシュマ大佐に軍配があがるのは、決まっていたこと。

 ルース語とアディフィン語が入り乱れ、格好に統一性のないイワン側が崩れ投降してくる。

 このままアディフィン優勢で勝ちが決まる……


【うわああああ!】

【離れろ!】

【逃げろ!】

【隊列を乱すな!】


 だったのだが、突如アディフィン軍の包囲網が崩れた。

 リトミシュル上級大将閣下ほどの方が信頼している部隊が崩れるって?


「なんだ?」


 何事かとジャンプして彼らを崩した先を見ると、そこには二人の男性が。一人は黒髪で青い瞳の持ち主で、手に松明を持ちもう片腕は、男性の首に巻かれている。

 首を絞められている形になっている男性は、灰色で癖が強い髪で、手入れされていないのが一目で分かるほどぼさぼさになっているし頬が痩けている……が、髪の隙間から覗く琥珀色の瞳。ああああ! リースフェルトさんだ!

 リースフェルトさんは両手足を縛られ、黒髪で青い瞳の男に引きずられている。

 それだけならば、アディフィン軍が乱れることはないが ―― わたしは佩いている剣の柄に手をかけ、距離を取ろうとしているアディフィン兵士の肩や腕を乱暴に掴み、


【邪魔だ!】


 放り投げるようにして道をあけてリースフェルトさんたちに近づく。

 リースフェルトさんの首を腕で締め上げている黒髪の男は、荒んだ雰囲気が強いが……陛下と閣下の両者に似ている。

 「ここが似ている」とはっきりとは言い切れないのだが、そこかしこに雰囲気があった。

 乙女ゲームのスチルの面影があると表現すべきか……あれがアレクセイらしい。

 アレクセイ当人には思い入れはないが、閣下と陛下に似ているという事に、言葉にしがたい感情がわき上がってくる。

 

 身内に縁の薄いお二人にとって、数少ない身内だというのに ―― わたしが殺さなくてはならない。


 有害な身内は必要ないと仰るでしょうが……アレクセイはリースフェルトさんの首を締め上げながら、リースフェルトさんの体に括り付けたダイナマイトの導線に火を付けやがった。


【近づくな! 近づくな! 近づくと撃つぞ! 俺は誰にも殺されん!】


 松明を捨てて腰から拳銃を引き抜き、わたしに銃口を向けた ―― つもりらしい。あの銃口の向きでは、どうやってもわたしには当たらないので、気にせず柄に手を乗せたまま近づく速度を速める。


【きさま、これが見えんのか!】


 見えないのか? って言ってるっぽいが、当たりもしない拳銃を前にして歩みを止める筋合いはない。銃口を向けられた程度で足を止めるような、甘い教育はされてないんだよ!

 わたしは駆け出しながら柄にかけた手に力を込め、途中で松明を蹴り飛ばしリースフェルトさんの前で引き抜き薙ぐ。剣の上には六つの火が付いたダイナマイトの欠片が乗っている。


【もう松明を捨てたから、後ろ側のダイナマイトには火は付けられんだろう】


 ちりちりと燃える導火線を、アレクセイの目の前に出してやったが、なにが起こったのか理解できない感じだ。

 わたしは剣を振り、導火線を後ろにいるアディフィン軍へと投げてから、アレクセイの首筋に剣の刃をあてた。ぴったりと頸動脈に当てた刃から、微かに鼓動が伝わってくる。

 アレクセイ本人も首筋に当たっている刃に少しでも力が入ればどうなるかは分かっているようだ。


【その人を離せ】


 リースフェルトさんを解放するよう伝えたが ―― アレクセイは青い瞳に狂気のようなぎらつきを宿し、リースフェルトさんの首を絞めていた腕に力を込め直す。

 お前……投降するチャンスを作ったというのに無駄にしたなー。

 アレクセイが拳銃を握っている手首を掴み、銃口を空に向け、首筋にあてていた剣を外し、下から上へとかけ肋骨の隙間をぬって剣を突き刺す。

 腕に筋肉以外の臓器を貫いた感触、それと共に剣に血が伝い落ちてきた。

 そして力の抜けたアレクセイの体が、わたしの腕にのしかかってくる。同時にリースフェルトさんが地面に崩れ落ちた。

 アレクセイの体から剣を抜き、横たわらせてから、リースフェルトさんの拘束を解いていると、アディフィン兵がめっちゃ叫び出した。


【強えぇぇぇ!】

【大天使!】

【あの剣捌きはなんだ?】

【見えなかった! 見えたか?】

【大天使だ!】

【なんだあの強さは?!】


 はっきりと聞き取れないのですが……所々で大天使呼ばわれされているような……止めなさい、アディフィン諸君。ここには過激派聖職者がいるのですよ。


「ご無事でしたか? 大佐」


 首を絞められたリースフェルトさんは、しばらく激しく咳き込み、


【お前たち、作戦に戻るぞ!】


 それを打ち消すようなプラシュマ大佐の司令が響き、アディフィン兵たちは隊列を直して蒸気機関車の中へと向かった。


「どうぞ、リースフェルトさん」


 デニスがコップに水を入れて持ってきてくれたのだが、外に出ちゃ駄目だって姉さん言っただろうが!

 だが水はありがたいので、受け取って渡すけど。

 コップを受け取ったリースフェルトさんは、三分の一ほど水を飲み、首を押さえ声を絞り出した。


「イワンが……殿下(シャルル)を、この手前の……駅で……」


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