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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第七部・アレクセイルート正面突破編
231/335

【230】少佐、連合軍作戦「ツェサレーヴィチ・ボンバ」について聞く

 閣下はリヴィンスキーとブランシュワキ宮殿で面会するそうです ―― それ以上のことは語られなかった。

 キース中将も詳細を尋ねることはしなかった。

 その理由は聞いても協力できることはないからだと。

 キース中将は閣下がなにをしようとしているのかは理解しているみたいですが、政治に疎いわたしは……わたしに分かるのは、閣下が百万の兵を率いてくるリヴィンスキーに対し、三千の兵士を伴いブランシュワキ宮殿で会って話をつけることだけ。

 キース中将にリースフェルトさん、ヒースコート准将や室長も「勝ち目はある。どう勝つのかは分からないが、あれは絶対に勝つ。だから信頼して待て」と ―― 閣下が上手に交渉をしてくださるのでしょうが……。

 閣下は「出迎えの準備をせねばな」と室長と旧諜報部(メッツァスタヤ)数名を連れて、ブランシュワキ宮殿一帯に様々な罠を張る……もちろん、わたしはなにをしているのか分からない。

 なにをなさるのか、尋ねたいという気持ちはあるが、きっとお忙しいであろう閣下のお時間を拝借するのも……お手伝いできることもなさそうだし、手伝えることがあったらきっと話してくださるはず。

 なにより事前に聞いて、その内容が常人には想像も付かないようなことだったら、わたしが平常心でいられないので。

 わたしはこれでも軍人ですので、閣下が過去に行った作戦をおさらいし、一兵士の立場で考え恐怖を覚えた。閣下の敵なら絶望しかないが、味方の場合でも心臓に悪いものばかり。

 今回も過去と同じだとしたら……事前に聞かされたら耐えられない。だから全てが終わってから教えてもらおうと思う。


 ちなみに閣下の作戦の一例、デニスがキース中将の名前を覚えた「蒸気機関車爆弾」 ―― デニスが覚えている「蒸気機関車爆弾」では分からなかったが、運転士を務めたキース中将に「……といっているのですが、それはなんですか?」と尋ねたら、


「ツェサレーヴィチ・ボンバのことだ」


 教えてもらえたのだが ―― それならわたしも良く知っている。

 ツェサレーヴィチ・ボンバとは、連合軍作戦の一つで共産連邦の軍事拠点の一つを壊滅させた作戦名。

 装甲蒸気機関車に大量のダイナマイトを積み込み、共産連邦の軍事拠点に突っ込ませた伝説の作戦。

 なにが伝説なのかというと、巨大軍事拠点が消え去ったこと。なにせ比喩じゃなくて、ガチで消えた。

 その拠点 ―― ジュキノリというのだが、施設内に油田があり、軍用のガソリンを精製していたのだ……油田を抱えている軍事拠点ですので、その巨大さは分かっていただけることでしょう。

 ジュキノリはそれ以外にも軍隊に必要な物資を作っていた。

 共産連邦の豊富な物資を支える拠点の一つでもあり、重要な施設でもあるので、秘匿されており地図には載っていない。

 場所は周囲を300m級の山々に囲まれた場所で、道路はない。

 通っているのは線路だけ ―― 山々に囲まれているので、当然ながら長いトンネルを抜けなくてはならない。普通の人が住んでいる村があるのは1000km先というまさに秘境。

 そんな秘匿された秘境だが、ルースの皇帝になる予定だった閣下は、ルース国内の軍事施設を網羅しているし、更には弱点も押さえていた。

 ジュキノリの弱点は線路が施設内にまで延びていたこと。

 これはジュキノリの、軍事物資工場にして製油所という性質を考えると仕方ないことなのだが、運搬のしやすさを重視して外からの蒸気機関車が簡単に軍事施設に入ることができる造りになっていた。

 それも各地への輸送を重視して、四方に線路が走っている始末。

 もちろん鉄の分厚い塀などはなく ―― そんなもの、手動じゃ動かせないからなくて当たり前なんだが、そんな未来では考えられないようなセキュリティですが、当時は特に問題視はされていなかった ―― 閣下以外には。

 閣下は皇帝に即位したあかつきには、ジュキノリと外界を結ぶ線路を撤去し、少し離れた場所に輸送駅を作り、道路を整備するつもりだった……ので、その弱点を全力で叩くことにしたのだそうだ。

 「そこを叩けば、ヤコフは癇癪を起こすであろうよ」と。そう言った閣下の表情は完全にルース皇帝だった……とはキース中将。

 キース中将、ルース皇帝なんて直接見たことないでしょうに。もちろん言いたいことは分かりますが。

 こうして閣下の作戦でジュキノリ沿線から共産連邦軍を遠ざけ、大量のダイナマイトを積んだ蒸気機関車爆弾が共産連邦の地を駆け抜けた。


 ちなみに使用されたダイナマイトの総量は2250tという、途轍もない量。


 この蒸気機関車爆弾の一編成を運転していた一人がキース中将なのだが、キース中将はもっとも危険な三番目に乗り込んでいた。

 三番目とは、この作戦は一路線につき三本の蒸気機関車爆弾を走らせるというものだった。蒸気機関車の速度と輸送能力の兼ね合いから、一編成に積めるダイナマイトは250tが限界。

 そしてジュキノリ突撃に使う線路は三本。

 一本一編成では750tしか……750tでも充分過ぎると思うのですが、連合軍総司令官閣下は容赦せず、一路線に三本を均等に走らせることにした ―― これで2250tになるわけですよ。

 この蒸気機関車爆弾は全部がジュキノリに突撃するわけ。

 先頭を走る車両からつぎつぎと突っ込んでいくわけなので、先頭の編隊と離れすぎたら、逃げる前に爆発し作戦遂行できないどころか死ぬ可能性がある。かといって近すぎてはぶつかって脱線してしまう。

 更に言えば他の路線からも突っ込んでくるわけで、こちらとも息が合わないと、逃げて隠れる前に吹っ飛んで死んでしまう。

 ……前世の時代なら遠隔操作もありますが、この時代はそんなモノはない。


主席宰相(リリエンタール)閣下が指示した通りの速度を、全車両が守って進む必要があった」


 こうしてキース中将が生きてお話してくれていることからもわかるように、作戦は成功した ―― 

 デニスはキース中将の、この距離と速度を均等に保った運転技術を尊敬しているのだそうです。確かに聞けばよくそんな運転できたなーと思う。

 キース中将が言うには、


「失敗して死ぬのは構わんが、主席宰相(リリエンタール)閣下に塵屑を見るような視線を向けられるとおもえば、死んでも死に切れん」


 そうですね……室長もよく仰るのですが、閣下の塵屑とか虫けらとか見るような眼差しって、どんなもんなんだろう?

 見たことないし、そんな視線を向けられたら悲しくなってしまうと思う反面、ちょっと拝見してみたいような。

 キース中将には「お前が見られるわけないだろう」って言われました。喜ぶべきところなのでしょうが、ちょっと見てみたいー。でもそんな視線向けられたら……わたしの堂々巡りはいいとして ―― ジュキノリにまず最初に攻撃を加えたのは、閣下が率いる飛行船(ツェッペリン)団で、上空から次々と爆弾を落とし、拠点を混乱させて山脈を越えて反対側へ。

 上空に気を取られていた彼らは、鹵獲という名の強奪により手に入れた共産連邦の車両が線路を走ってくることに違和感を覚えず ―― 共産連邦側が気付いた時には、既に操縦していた勇敢な兵士たち(儚い詐欺を含む)は、最後の石炭を焚き蒸気機関車から飛び降り、トンネルへとひた走っていた。

 閣下の計算に狂いはなく、全員がトンネル内のくぼみに隠れたところで、爆発が起きた。ダイナマイトと原油とガソリン、さらには武器庫の火薬など連鎖的に爆発し ―― 離れた我が国ですら立ち上った巨大キノコ雲が見えたんだから、爆発の威力は如何ほどか。


「全員嘔吐し鼻血を出した。あれは……できれば二度と経験したくはないし、部下にも経験させたくないモノだな」

 

 トンネルに隠れたキース中将でしたが、それでも衝撃波はすごかったらしい。

 その時わたしはまだ子供で、飴を舐めながら、空を見上げて「なに? あれ?」と父さんに聞いておりました。

 父さんも答えられなかったけどねー。キース中将からお話を聞くと、あの時平々凡々と生きていてご免なさいってきもち……


「なにを言っているのだ。当時のお前は子供だろうが」


 めっちゃ頭を鷲掴みされた。

 痛いです、もう思いませんから、離してー!

 作戦を遂行したキース中将たちは、一晩トンネル内で泥のように眠り、その後山脈の反対側に待機していた飛行船(ツェッペリン)に回収され ―― 上空から見たらジュキノリはなくなっていたそうだ。

 こうして地図に載っていなかった場所は、地上からもその姿を消した。


 ……ちなみに、蒸気機関車爆弾の運転士ですが、軍内にはそれを専門にしている人もいたのだが「走行中の蒸気機関車から飛び降り、時間内にトンネルにたどり着ける足が必要だ」閣下はそのように仰り、足が速くて運動神経のよい兵士を選び、彼らに操縦を覚えるよう指示したのだそうだ。


「あれほどの作戦でありながら、根底は全員生還可能な計画なのが……」


 腹立たしいけれど、そういうところ尊敬してるんだろうなあ、キース中将。もちろん口を挟みませんよ。やっと鷲掴みから解放されたのに、再び鷲掴みなんて!


 ……で、閣下の作戦はこんな感じが多いので、事前に作戦を聞くと心臓が持たなさそうな気がするんです。三十キロくらい走っても、心臓ばくばくなんてしないわたしですが、きっとばくばくしてしまう。


「心配するな。あの人は、絶対に生還する作戦を立て、それを成し遂げる。それだけは疑いようがない」

閣下(キース)

「お前はデビュタントの心配だけしておけ。なんなら、ワルツの練習台になってやるぞ、クローヴィス」


 キース中将が立ち上がり ――


閣下(キース)……ではお願いします」


 最近キース中将、ご自分の運動がてらにわたしのワルツの練習に付き合ってくださるのだ。

 ちなみに踊っているキース中将は儚い……その儚さ、少し分けてくださいませんかね? そうしたらこのわたしにも優雅さが、きっと! ……無理だな。


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