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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第六部・前世の知識活用編

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【216】少佐、ドレスアップする

「あ、あの……」


 思わず声が出なくなったわたしは悪くない! え? でも馘首になった理由がわたしということは、わたしが悪い?

 容姿の所為で馘首になったんですよね?

 一年少し前ということはわたしが「ユグノー」にナンパされ、引っかかったものの、記憶を取り戻して腹パンで回避しましたが、それと容姿になんの繋がりが?

 リースフェルトさんは片眼鏡を外し、何故か知らんが白い手袋をはめた手で「くぃ」とわたしの顎を掴んだ。

 なんか最近、よく顎掴まれるなー。


「わたしは雰囲気を変える能力だけなら、将来的にはテサジーク侯くらいまではなれると認められていたのですが、諜報員をするには絶望的なほど容姿が良いのですよ。少佐に比べたら十把一絡げですがね」

「それと、馘首になんの繋がりがあるのですか?」


 リースフェルトさんはわたしの顎を掴んだまま、目を閉じて少し右眉を動かしてから ―― 目蓋を開けたらユグノーになっていた。


「ユグノー?」

「ええ、ユグノーです。少佐はこのわたし(・・・・・)を、ご自身がどう評したか覚えていますか?」




 あの日はヴェルナー大佐の視察の同行を終えて別れ、

『そこの金髪のお兄さん、一緒に飲まない』

ってオープンカフェで声を掛けられたんだ。

 男と間違われることに定評がある……女と呼びかけられたことのないわたしは、周囲にも金髪はいたが振り返ってリースフェルトさんと目が合ったんだ。

『いきなりなにかな?』

 知らない人ではあったが、その時わたしは軍服を着用していたので、何か聞きたいことでもあるのかと尋ねると、

『一緒に飲まない?』

 誘われた。だから ――

『誘うのなら女のほうがいいのでは? お前なら声を掛けた女に断られないだろう』

 そう返した。素でそう思ったわけですよ、格好良かったから。




「格好良い……ですね」

「後々テサジーク侯に”ユグノーは美形だったので、引っかかりました”って答えただろう?」

「え……ええ」

「実はユグノーは俺の中では、もっとも平凡な雰囲気だった。それを少佐のような美貌の持ち主が”美形でした”と評したものだから、他人に強い印象を残してしまうと判断され、テサジーク侯から話を聞いたリリエンタール閣下から、ついに馘首を言い渡されたのさ」


 室長にいつそんな返事をしたのか覚えていませんが……多分聞かれたんだろうな。こっちが答えたことすら忘れるくらい自然にさりげなく。


「す、済みません」


 室長の質問にはもっと注意して答え……無理だよねー。


 美形で目立ち過ぎる故に馘首となったリースフェルトさん。その切っ掛けがわたしですか。


「今まで美形と言われるのは、相手の容姿が優れていないので、相対的にそのように見えるのでしょう……って誤魔化してたけど、少佐が笑顔で美形です! って言ったら、覆しようがない」


 ええーわたしの証言、そういう風に取られるのー! そんな意図はなかった!


「そういう、つもりは……なかったのです」

「分かる。少佐に複雑な意図がないのも。だから余計に誤魔化しがきかなかった」


 脳筋が思ったことを、軽い気持ちで口にした結果がこれですよ!


「喋る時あまり深く考えるなよ。少佐の素直な所を、リリエンタール閣下は気に入っているのだから」

「あ、はあ……」


 そんな話をしているとドアをノックする音が ――


「どうぞ」


 わたしが許可を出す前にリースフェルトさんが許可を出し、扉を開けたユルハイネンは、秀麗な顔だちに険を露わにした。


「なにしてるんですか? 隊長」

「この体勢、口説いている以外にないでしょう、ユルハイネン中尉」


 わたしが答える前に、リースフェルトさんが。そして口説かれてねえ!

 そんな話は一切してねえ! 話していたのは馘首問題! そしてリースフェルトさんの再就職先問題であって、口説かれてねえ!


「なにをしているのですか、クローヴィス隊長」


 ”てめえに聞いちゃいねーよ”という態度で、再度わたしに聞いてくるユルハイネン。お前なあ、リースフェルトさんは伯爵設定ですよ。

 もっと口のきき方をだねー……なんか面倒くさいなあ……という眼差しでリースフェルトさんを見つめたら、顎から手を離してくれた。


「良いところだったのに、邪魔が入ってしまいました」


 腰掛けていたテーブルから降りた。


「隊長」

「なんだ? ユルハイネン」

「答えは」

「訪問理由はなんだ? ユルハイネン」


 まずはやって来た理由を述べよ、粗ちん野郎(ユルハイネン)。わたしが顎掴まれていることなんて、報告に比べたら大したことないんだから!

 不服そうな態度を隠さないユルハイネンから報告を受け、キース中将の部屋へと出向いて、求められた帰りのルートの細かい説明をする。


「本当にお前は細やかなところまで気が付くな、クローヴィス」

「お褒めに与り光栄であります」


 実際褒められているのかどうかは知らんけどね。

 ”こまけーんだよ!”って遠回しに言われてるのかもしれない……キース中将はそういう言い回ししなかったわー。何時だって直球だったわ。

 わたしが遠回しだと気付かないから……という理由もありそうだけど。本心から言ってくださってるのだろう。だから喜んでおく!


「総司令官閣下!」


 警護を担当しているユルハイネンが、唐突にキース中将に話し掛けた。

 おい、何のつもりだ、ユルハイネン。


「いまわたしに直訴しなくてはならないことなのか? ユルハイネン」

「はい!」


 中尉が中将に直訴すんな!


「聞いてやろう。なんだ、ユルハイネン」

「ありがとうございます、総司令官閣下。小官は先ほど、閣下の命を受け ――」


 ユルハイネンのヤツは、リースフェルトさんがわたしの顎掴んでたことを報告した。そんな下らない報告すんなよ。いや、それは報告じゃねーよ! そんなもん、伝えんな! 他の部下たちも、困った表情浮かべてるぞ。

 キース中将に叱られても知らんぞ! わたしは庇わないからな! キース中将から叱責を受けたあと、わたしからの懲罰が待ってるからな! 五十キロ走させるぞ! もちろんわたしと併走、少しの遅れも許さない。


「クローヴィス」

「はっ!」

「リースフェルトにキスはされたか?」

「いいえ」


 いかなる懲罰を与えるか? を考えていたら、キース中将から質問が飛んできた。即座に答えられてよかった。


「それならば良い」

「総司令官閣下!」


 ほらー脇にいるエサイアスも、何言ってんだよコイツって表情になってるぞ。リースフェルトさんも室内にいるけれど、わたしの後方に立っているので表情分からんが。


「リースフェルトはクローヴィスを口説くために副官になったのだ」


 はい? いきなりなんですか? キース中将。

 リースフェルトさんの表情を見たいが、勝手に振り返るわけにもいかないので。


「それは」

「お前たちに知らせる必要はないので、言っていなかったが、そのリースフェルトはアディフィン王国でクローヴィスを見かけ、その美貌に一目惚れして我が国まで追ってきたのだそうだ。そして情熱を持って主席宰相(リリエンタール)閣下を説得し、副官として送り込んでもらった。そこから先は自分で口説けと家長である主席宰相(リリエンタール)閣下の言葉だ。わたしは主席宰相(リリエンタール)よりその話を持ちかけられ、触れることは厳禁、守らなかった場合は裁判なしで銃殺しても良いのならと、クローヴィスの副官として受け入れた」


 ……そういう設定なんですね。

 初めて聞いたわー。そしてエサイアスとリーツマン中尉の驚愕の表情。室内にいる秘書官も「え?」みたいな表情に。

 ユルハイネン? 角度的に見えませんね。見えなくても構わないけど。

 そして閣下の一門(設定)の伯爵を、裁判にかけないで即処刑すると言うあたりがキース中将……で、本当っぽく聞こえてくるから困る。


「ルース貴族という、何もなくても殴り付けたい男ではあるが」


 物騒なこと言ってるくせして、喋っている表情が穏やか……相変わらず儚い詐欺だ。


「真剣さは買っている」


 ……という設定だと後でリースフェルトさんから聞きました。なんでこんな設定を? と尋ねたところ「全ての事態に対応できるようになっているのです」とのこと。

 なにがどう「事態」なのかは分かりませんが ――


「少佐、キース閣下が軍服以外の正装に着替え、大至急書斎へ来るようにとのことです」


 夕食を取り終え、城内に隊員の娯楽用に作ったバーへ飲みに行こうか? と思っていたら、いきなり呼び出しが。わたしが夜間に呼び出されるのってただ事じゃないよね! 急がなくては!

 今まで出張で使ったことは一度もなかったが、念のためにと鞄に突っ込んでいた、フォーマルを取り出し急ぎ着替える。

 軍服以外で……的な集まりもあったりするんですよ。

 貸衣装でどうにかなる人はいいのですが、わたしは借りられないので。

 スカイブルー生地でつま先が見える程度の丈、裾と胸元を錦糸とレースで少し飾っている、スタンダードデザインのホルターネックドレス。

 厳つい肩を晒したくはないのだが、親衛隊隊長としてドレスを着用するのだから、肩周りがもたついて戦えないでは役に立たないので、腕は自由に動くデザインのものを持参したのだ。

 絹糸で繋いだ真珠のネックレスを身につけ三㎝ヒールを履き、軍服正装時にも着用する革製バルドリックをたすき掛けしサーベルを吊し、何ごとがあっても対応できるよう、白の革手袋をはめキース中将の書斎へリースフェルトさんとともに急ぐ。

 書斎のドアをノックし、


「イヴ・クローヴィス少佐、出頭いたしました!」

「入れ」


 大きな声で告げると、中からキース中将のお声が。何ごとだろう? なにに対しても反応できるようにせねば! と気を引き締めて部屋へと入ると ―― 



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