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【195】少佐、公式サイトからヒントを得る

 いまのわたしには見ることは叶わないが ―― 乙女ゲームの公式サイトを開くと【トップ】【ストーリー】【キャラクター】【システム】【ギャラリー】【サウンド】【スペシャル】【ダウンロード】というメニューが出てくる。

 そこでキャラクターを開くと、主人公と攻略対象、そして脇役が載っている。……で、攻略対象のページを開くと、そこには軽いプロフィールが書かれている。

 確実に書かれているのは名前とキャラクターボイス(CV)、簡単なキャラクター説明そしてイラスト。この四つは絶対。それ以外には、誕生日や特技、身長や体重、好きなものや嫌いなものなどが記載されている。

 百合の谷を越えてに関して言うと、身長や体重、そして「血液型」などが記載されていた。

 ゲームプレイ時はさらっと流したのだが、この世界には血液型は存在していない。

 単にわたしが知らないだけか? 医学界では既に周知の事実なのか? と思い、エサイアスに尋ねたところ、やはり血液は「血液」という括りでしかないとのこと。

 そう、プロフィールにはこちら(・・・)には存在していないものが書かれていたのだ。

 だが身長や体重に使われていたcmやkgなどの単位記号は存在している。

 ということは、ABO式とRh因子を持つ血液型は存在し、発見されるのを待っている状態と考えられる。

 いつかは発見されることだから、発見を早めたって問題はないはず。

 なにせこれから戦争が起こるのだ。

 負傷兵たちの生存率をアップするためにも、輸血という医療技術を確立したい! あと三ヶ月強で安全な輸血技術が確保できるわけないだろうと言われそうだが、そっちじゃないんだ。

 わたしが目指しているのは、輸血の危険性の周知だ。

 蒸気機関車が走り、無線があり、湿電池があり、ガス灯があり、注射器のあるこの時代。血液を血管に送り込むという概念は存在し、行われている……けれど、危険極まりなかったりする。

 前世の記憶があるわたしにとって輸血というのは、血液型が合致しているのが当然というか、そうしないと死ぬということを知っているが、この世界では優秀な医者ですら輸血というものは「何故かは分からないけど、成功したり失敗したりするもの(エサイアス姉談)」という程度の認識。

 血液に種類があるという概念がないので「血はどれも赤いので全部同じ」括りで輸血してしまうという、怖ろしい状況。

 前世なら紛うことなき医療ミスですが、この世界では「運が良ければ助かるよ」的なものでしかないのだ!

 幸いなことに「何となくだけど血のつながりのある人のほうがいいっぽい」というイメージはあるらしく、近親者同士での輸血が基本なのだそうだが、それだってかなりの確率で危険だ。

 ……で、戦場で負傷すると、近くに近親者はほとんどいない。

 となれば、戦地で戦友から血を分けてもらうという流れになり……半数以上は死んでしまう。

 輸血が必要な怪我なので、どのみち死んだよと言われればそれまでだが、輸血に協力してくれた健康で善良な兵士の体力も減るんだ。

 血液を分けて生き延びたらテンションは上がるが、血を分けたのに死亡したら、血が失われたこと以上の疲労が襲ってくる。

 健康な兵士には戦ってもらわないと困るから、無駄な出血は避けたい。

 わたしがなにを言いたいのかというと、血には種類があり、異なる血液を輸血すると死んじゃうから、ちゃんと検査して輸血しようね……当たり前過ぎることなのだが、この世界では知られていないので、そこを解明してもらいたいのだ。

 ゆくゆくは輸血をする方にシフトしてもらいたいが、今は「血液型というものがあり、違う種類の血液を混ぜると死ぬ」ということを、シュレーディンガー博士級の人に証明してもらい、世界に浸透させて欲しい! 

 ちなみにABO式以外にRh因子をも挙げたのは、Rh-のキャラクターが二人ほどいたので。二人とは陛下(Rh-A)とアレクセイ(Rh-B)ですけどね。

 公式サイトで眺めていた時は「親戚だからね」で済ませたわけだが……他の攻略対象の血液型も、ちゃんと覚えておけば良かった。

 漠然と全種類が揃っていたことは覚えているのだが、誰が何型だったかは自信がない。ボイスOFF(ウィルバシー)が何型か覚えていれば、血清とか抗体が……攻略対象をサンプルに出来たのに! そして陛下はサンプルにできないので、出来ることならアレクセイをとっ捕まえてRh-を!


「さて、クローヴィス大尉。聞かせてもらおうかな」


 閣下はコーヒーカップをソーサーに置かれ、わたしに話すよう促す。

 レモンと蜂蜜のシャーベットを食べている時点で、思い浮かんだのだが「すぐに思い浮かぶとはさすがだが、とりあえず料理を楽しもうではないか」と閣下に言われ ―― 5cmほどの厚さがあるシャトーブリアンステーキを堪能させていただきました。閣下は「いくらでも焼かせる」と仰ってくださいましたが、これは大量に食べる部位ではないと思うので「またの機会にとっておきます」ってことで、おかわりはしなかった! 褒めろ! 


「はい、閣下。小官は血液について詳しく調べて欲しいと考えております」

「ほぅ、血液か。クローヴィス大尉のことだ、具体的に調べて欲しいところがあるのであろう?」


 ふー。ここからが難しい。上手く説明できるだろうか?

 いや、説明せねば! そして危険性を認識してもらわないと。キース中将の身辺を守る親衛隊隊員として!

 ……どういう意味かって? そりゃあ、万が一になった時には輸血という手段を取るわけですよ。キース中将に重傷を負わせるつもりは微塵もありませんが、唐突になにかが起こりキース中将が大出血し、生命が危険な状態ともなれば医者は最終手段として輸血を行うのですが、キース中将には身内がいないので周囲のものから輸血を行うことになるわけですよ。

 血液型も分からないこの状況で、全く血のつながりのない部下からの輸血 ―― 死ぬ確率が跳ね上がる。この時代、天涯孤独って本当に大変なんだよ。

 閣下はご親戚は多数いらっしゃるので……王族なので血がもらえるかどうかは分からないから、やっぱり血液型を確立したいね。

 できればわたしと閣下、同じ血液型ならいいなあ。そうしたら、何時でも輸血できるので。きっとわたしなら400mlなんて余裕ですから。

 

「…………と、同僚のウルライヒ少尉から聞きました」


 現在の輸血状況についてまず語らせてもらった。エサイアス(ウルライヒ)が医者の息子で、医学知識が豊富なことは省略させてもらったが、きっと閣下のことだからご存じだろう。実際、聞かれもしなかったしね。


「ハインリヒ」


 壁側に立っていたシュレーディンガー博士に、閣下が声を掛けると、一歩前へと踏み出す。


「はい」

「クローヴィス大尉の知識に間違いはあったか?」

「いいえございません。付け加えますと、以前輸血により大勢の患者が死亡したため、輸血が禁止になっている国があることくらいです」


 きっとこの世界でも羊かなにかの血を人間に輸血した人がいるんだろうなあ。

 前世では確実にいた。ジャン・ドニという医者が山羊の血を人間に輸血して、患者が死亡し裁判にかけられた。まあその裁判でドニ医師は無罪になったんですけどね。

 とりあえず赤い血なら、どんな種類でも輸血できるんじゃない? という認識は止めような。っていうか止めて。


「ここからは素人考えなのですが、それでもよろしいでしょうか?」

「構わない。好きに話してくれ、クローヴィス大尉」

「それでは……小官が考えるに、血液は見た目や匂いに違いはありませんが、幾つかの種類があり、種類が違う血液を輸血されると、血管内にて異変を起こして死に至るのではないかと」


 血管内で血液が凝固しちゃうんだよねえ。知ってるけど、説明できないこの難しさといったら!


「血に種類……か。クローヴィス大尉の言う”血の種類”とは貴族や王族や平民といった、世間一般で言われている種類のことではないのだな?」

「はい」


 そうだった! この時代に「血の種類」って言ったら、階級のことだー! いいえ、違います、そっちじゃないです、ガチの血液の種類です。青い血とかそういうことじゃないんです。

 閣下がシュレーディンガー博士のほうをご覧になる。


「顕微鏡にて幾つもの血液を見ましたが、どの血液の血球にも違いはありませんでした」


 血球が違ったら、それは違う生き物になっちゃうと思います。

 そういう違いじゃないんです、シュレーディンガー博士。


「その顕微鏡に見えぬものはないと言い切れるか? ハインリヒ」

「それは……日々顕微鏡の性能は良くなっており、それにつれて新たな発見がありますので、ないなどとは言い切れません」


 思考を誘導するのって難しいなあ。わたしの柄じゃない。でも知っている以上、ABO式とRh因子をシュレーディンガー博士に発見してもらいたい。


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