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【015】少尉、写真を見る

「軍人さん、手紙出してもらえませんかね」


 話を聞いた四十代後半くらいの女性から、手紙を投函して欲しいと頼まれた。

 ポストなる代物はこの辺りにはなく、郵便配達人に手紙を預けるしかないのだが、そもそも郵便配達人は郵便物がない限りこない。


「街に出た友達が、たまに手紙をくれるのよ。ある日届いた手紙に写真が同封されててねえ。なんだろう? って思ってたら、また手紙が来て”間違って仕事の写真を同封しちゃった。あとでわたしか知り合いが取りに行くから、それまで持ってて”って。でも誰も中々こないのよ。ここは王都からも遠いから、都合がつかないに違いないと思って、こっちから送ってあげようと思ったんだけど、郵便配達人が来なくてねえ」


 ポストがない所だから、滅多に手紙も来ないんだろな。


「構いませんよ」


 そのまま首都まで運んでポストに放り込めばいいだけの、簡単なお仕事だな。


「ありがとうね、軍人さん」

「いいえ」

「これ、お願いね」


 渡されたのは写真一枚。

 いやいや、ちょっと待って。


「あの、住所は」

「住所……ああ、封筒の裏に書かれてるあれね」


 女性は逞しい足取りで引き出しから手紙を取り出し、持ってきた。


「……”セシリア・プルック”さんですか」

「そうよ。わたしの幼馴染みで、王都で記者やってるの」

「幼馴染みなんですか」

「ええ。あの子のほうが二歳年上だけどね」


 セシリアは三十二歳アラサー……ごめんなさい! ごめんなさい! 五十に手が届くころかなーとか、農村部の女性は苦労しているから老けて見えるから、もうちょっと若くて四十代かなーとか思って、ごめんなさい!

 お詫びといってはなんですが、セシリアの死の真相解明、少しは努力します!


 セシリア・プルックがこの村出身だという証拠らしきものを手に入れ、わたしたちは帰りの軍用特別車両に乗り込んだ。


「最後の手紙の内容に、とくにおかしなところはない」


 写真に同封された手紙も借りてきた。

 普通、手紙貸すか? と思われそうだが、ベッキーさんは気にせず手紙ごと貸してくれた。

 それというのも、ベッキーさんは文字が読めないので、セシリアから届いた手紙は全て神父に代読してもらっている。

 だから人に手紙を貸すという行為に、抵抗がないのだ。

 だが大事なものではある。だからあとで送り返しますよ……セシリアの訃報とともに。

 簡単な頼みごとだと思ったのに、なによりも難しい仕事になってしまった。


「セシリアの仕事とこの写真、なにか関連はあるのか?」


 セシリアが目的を持ってまぎれ込ませたと思しき写真は若干古いもの。どこかで見た覚えのある人物なのだが……。


「その写真の人物が誰かもわからない」


 ノアも誰の写真か分からないとのこと。


「貴族なのは明らかですよね」

「貴族だろうなあ」


 アレリード曹長が言う通り、写真の構図がもう貴族以外の何者でもない。

 首元までぴっちりしている軍服っぽい服を着て、細身の剣を床につき両手を乗せている細身の男性。

 白黒写真なので髪や瞳の色合いは分からないが、明るい感じの色調ではないが、黒ではないことは分かる ―― わりとよくいる色調だ。


「何処の国の軍服だろう。なんか最近見たよう……ああ! アディフィンの幼年学校の制服だ!」


 つい最近行った、アディフィン王国の幼年学校の生徒の制服だよこれ。


「アディフィンですか?」

「そうだ。滞在中、身の回りの世話に何人か派遣されてたんだ」


 王宮に滞在していたから、それなりの身分の者が必要で、幼年学校から調達したものと思われる。


「でもこれ、幼年学校の生徒だとすると、最上位学年、もしくは卒業時に撮影されたとしても十五歳なんだよな」


 二十を越えて見えます。

 もしかして二十歳越えて幼年学校にいた生徒? そんなのある……はずないよな。幼年学校は士官学校と違って、入学年齢に幅を持たせていないもんな。


「アディフィンの幼年学校のことでしたら、リリエンタール閣下がお詳しいかと」


 アレリード曹長の言葉に納得しかけたが、気付いた!


「アレリード曹長。詳しいもなにも、これ閣下だ!」


 三十八歳の閣下が十五歳前後のころの写真だ、そりゃあ古いわ!

 写真をのぞき込んだアレリード曹長も”あああ”って表情になった。


「プルックの仕事にリリエンタール閣下に関係するものはあるのか?」

「……そう言えばセシリアは、シャフラノフ王朝の隠し財産についても調べていたな」


 セシリア・プルックは一体なにを調べていたのだ?

 そしてこの写真。被写体が閣下だとして ――


「プルックの手紙には、この写真を取りに行くのはセシリア本人、もしくはケビン・ウィッカーと書かれていたのだから、この写真になにか情報が隠されているのだろうが……お前たち、リリエンタール閣下と会って話せるような伝手はあるのか?」


 ケビン・ウィッカーとはノア・オルソンのペンネーム。

 写真を同封して郷里の友人に手紙を送った時点で、セシリア・プルックは自分が危険な状態にあることに気付いていた。

 そして自分の死後、ノア・オルソンが探ってくれることを信じ、海軍司令部に赴く前にベッキー宛に、最後の手紙を投函した ―― 消印が行方不明になった翌日なので、最終の回収時間後に投函した。これは職場を出た時間とも一致する。


「リリエンタール閣下なんか、会えるわけないだろう」

「そうだろうな。だがノア・オルソン。お前はセシリア・プルックが命がけで残した情報をこの写真から読み取らねばならない。頑張れよ」


 ノア・オルソンに残したものなので、二人にしか分からないだろう ――


 車中でオルフハード少佐に上げる報告書を書いていると、アレリード曹長が部屋を訪れた。この優秀な曹長は、必要以外はわたしの部屋には来ないので、なにかあったのだろう。


「クローヴィス隊長、これを」

「……誤報ではないのか?」


 アレリード曹長から手渡された新聞の一面を飾っているのは、隣国フォルズベーグに関する記事。立憲君主制を宣言したという内容ではなく――フォルズベーグ王族殺害の記事。

 新聞によると立憲君主制を宣言するために、王族全員が会場である広場に揃い、集まった民衆の前で宣言している最中、暴徒に襲われ、国王と第三王子が死亡。第一王子は病院に運ばれたが重体。

 詳しい情報を新聞社はまだ掴めていないようだが、立憲君主反対派の仕業らしいと書かれている。


「我が国はスムーズに移行できたのだがな」


 移行から議会成立まで、とくに混乱はない。

 そりゃあ議員になれなかったやつが、議会前で大騒ぎ程度のことはあるが、概ね良好。


「リリエンタール閣下の手腕が大きいかと」


 そうだよね。十三年前アディフィン王国が立憲君主制に移行した時、実務を一手に担ったのがリリエンタール閣下で、まだ立憲君主制が珍しかった時代ながら、混乱なく移行し、治世は滞りなく、国家転覆のような混乱もおきず。それで閣下の名声は更に高まった……どころか、不動のものとなった。

 この前アディフィン王国に立ち寄った時、面会した首相が「帰国して首相になってくれ」と言っていたなあ。神童と名高かったらしいリリエンタール閣下、二十歳過ぎてもただの人になってないあたりが凄いわ。


「やはりそうか。閣下をお守りできて良かった」


 そんなリリエンタール閣下の死亡フラグを撃ち抜けたのなら、顔に三十針超の傷跡が残ったところで問題はない。


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