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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第五部・暗殺を阻止(二回)編

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【141】隊長、迷惑者を撃つ

 翌日、ボイスOFF(ウィルバシー)と話をしたところ、殴られたり蹴られたりは、あんまり(・・・・)なかったようです。

 ボイスOFF(ウィルバシー)当人曰く「軍人ならこのくらい当たり前では」と……元貴公子、意外と殺伐とした環境で生きてきたのかな? 乙女ゲームの攻略対象なのに殺伐……もしかして、攻略対象だから殺伐なの?

 微妙に綻びがないと、ヒロインに心を癒やされて……とはなりませんものね。

 だとしたら酷いわー。攻略対象だからって、酷い過去を用意されるなんて!

 そうだ、幼少期に記憶を取り戻して、攻略対象の心が傷付かないよう上手く立ち回る小説とか読んだことある。それはそれで良いよねー。もちろん、それは大貴族に生まれた場合のみであり、風景以下のモブには無理な芸当だ。


「お人好しなんだな」

「済みません、隊長」


 それで昨日ボイスOFF(ウィルバシー)とアルバンタインの間で生じた出来事だが、室長が言った通り、アルバンタインが「国王暗殺一味だけど、実は知らせるために来た。取り次いで欲しい。あと兄にも会いたい」と接触してきたのだそうだ。

 ボイスOFF(ウィルバシー)も一瞬疑ったのだが、根拠もなく疑うものではないと思い直しアルバンタインを、彼の兄の元へと連れて行くことに。

 その途中で暗殺者一味に取り囲まれ、どこぞへと連れて行かれたんだって。


「お前を実行犯に仕立て上げようとしたのか」

「そのようです」


 ボイスOFF(ウィルバシー)を誘拐した理由なのだが、国王を暗殺したら必ずや犯人を挙げるじゃないですか。それはもう、国の威信に関わ……国王が暗殺された時点で威信じゃなくて遺臣のほうが「イシン」として正しそうですが、それはさておき、犯人を意地でも挙げるわけですよ。その追求を回避すべく、スケープゴートを用意するのは、良くあることらしいのだ。

 その役に選ばれたのが、不遇な状況にあるボイスOFF(ウィルバシー)というわけ。偽聖職者スパイも、不遇(それ)を理由に接触してくるらしいけど、


「お前、そんなに不満を感じて生きているようには見えないのだが」


 ボイスOFF(ウィルバシー)は過去は吹っ切り、そんなに不満はないように思えるんだけど。


「はい。昨日総司令官閣下にも、それについて聞かれました」


 心の奥底に不和の種がないかを確認していたのですね、キース中将。


「なにかあるのか?」

「……別れた妻のことが心配なくらいで、今の生活に不満はありません。仕事に関しては様々な経験ができて、本当に楽しいのです」


 少し浮かれた感じの声で楽しげに語りやがります。ボイスOFFという呪文を心中で唱えながら更に話を聞くことに ―― アルバンタインとその一味に捕まったのが一昨日の深夜で、そこからずっと監禁され、気付いたら単独で現れたネクルチェンコ少尉に救出され、そのまま司令本部へと連れて来られたので、以降のことは分からないそうだ。


「それにしても、本当に大変な目に遭ったな」

「はい」

「わたしの所感だが、人を信用する軍曹の姿勢は、好ましい。それで迷惑を掛けてしまったとしても、無闇に人を疑うよりはずっと良いと思うぞ」

「隊長……」


 こんな状況ですが、前向きに生きているお前は立派だと思うよ ―― 

 前向きな部下から報告を受けた二日後、その前向きな部下(ウィルバシー)と共に、親衛隊隊員らの夏期休暇の調整を行っていた。

 ボイスOFF(ウィルバシー)は「夏期休暇とは、このように調整して取得するものなのですね」と興味深げ。基本貴族が優先だし、貴族は重なっても下っ端が補うので、調整しているなど知らなくても当然だろう。

 そんな書類仕事を続けていると、


「隊長、良い時間ですので、ご一緒に」

「分かった」


 ボイスOFF(ウィルバシー)からトイレに行きましょうと誘われたので席を立つ。

 トイレに一緒にいくのかって? うん、決まり……でもないけど、とにかく連れだってトイレにいかなくてはならないのだ。

 あまり基本事項にも大前提にもしたくはないのだが、男がトイレに潜んで、やってきた女性を襲うという事例は珍しくはない。

 それを阻止するために、女性は連れだってトイレに行ったほうがいいのだそうだ。

 『隊長を襲う物好きなんていませんよ』なるユルハイネンの意見に、わりと同意なのだが、キース中将から『絶対に副官、もしくはユルハイネン以外の小隊長を伴うように』と命じられているので、大体副官と一緒にトイレに行く。

 不自由極まりないのだが、わたしが連れだってトイレに行くなら「俺も護衛を受け入れよう」と ―― ぞろぞろトイレまで親衛隊員が付き従うのを我慢するとキース中将に言われたら、隊長のわたしとしてはその条件を飲むしかない。

 ちなみにわたし、キース中将をトイレの中まで警護はできません。気にしないと言っているのですが「俺が嫌だ」と拒否されてしまって。


「だが慣れない」


 人気のない廊下をボイスOFF(ウィルバシー)と共に歩く。本当は無言で済ませたいのだが、そうも行かないのが上官と部下というもの。


「隊長はいずれ、いつも誰かが控える生活になるのでしょうから、今から慣れていたほうが」


 貴族は羞恥心というものが、平民のそれとは違うので、トイレまで人がついてきても、別に何とも思わない。貴人の護衛をしている時は楽だったのだが、自分がその立場になることを想像すると辛い。


「閣下に”嫌です”と申告したら、トイレへの付き添いなしにしてもらえるだろうか」

「伯爵閣下(リリエンタール)が付いてきそうですが」


 それはもっと嫌だ。そんな話をしながらトイレへ。あ、勿論トイレは男子トイレですよ。なにせこのフロアは、男子トイレしかないので。

 トイレに入ると、個室のドアが閉まっていた。

 ボイスOFF(ウィルバシー)と顔を見合わせて、頷き合う ―― 個室にいるのは不審者だ。

 わたしは銃を構え、個室に照準を合わせ、準備は整ったと合図を送る。

 ボイスOFF(ウィルバシー)は再び頷き、


「何者だ! 出て来い」


 不審者に投降するよう大声で叫ぶ。

 隊員の誰かがトイレにいるんじゃないの? ははは、お嬢さん、要人警護担当者というのは、トイレに行ける時間も厳密に決まっているのだよ。

 それ以外の時間に用を足したい場合は、きっちりと隊長(わたし)に申告し許可を貰い、戻ってきたら直接隊長(わたし)に報告するよう義務付けられているの。

 親衛隊員で自由にトイレに行けるのは、隊長特権を所有しているわたしだけ。

 部下のタイムスケジュールを知っているわたしは、トイレで部下と鉢合わせするのを避けるため、時間を見計らってボイスOFF(ウィルバシー)とトイレに行ってるのさー。

 庶務の軍属たちはこのフロアのトイレの使用は禁止、キース中将がトイレにいるなら、他の隊員もいる筈だが一人もいない ――  というわけで、今トイレに入っている親衛隊員はいないと、隊長であるわたしは断言できる。



「早く出て来い!」


 ボイスOFF(ウィルバシー)が再び叫ぶと、鍵が開く音がし、ドアが開いた。ボイスOFF(ウィルバシー)がわたしの前に立ち盾になる。

 邪魔といえば邪魔なのだが、副官なので、そこは酌んでやるのが上官というもの。

 体を屈めてボイスOFF(ウィルバシー)の体に隠れるようにし ―― 肩口に銃口を置き警戒する。

 個室から出て来たのは身長低めな(・・・・・)女性少尉(・・・・)。何故か軍服が裂けている。作られた”襲われました感”に溢れている。これは!


「貴様なにものだ!」


 ボイスOFF(ウィルバシー)が声を掛け、女性少尉 ―― 多分スカーレット・チェンバレンだろうが、そのおかしな格好のチェンバレンはいきなり叫び声を上げ、


「誰か助けて!」


 トイレから逃げだそうとした……ので、ふくらはぎを「バンッ」と撃たせていただいた。

 衝撃で倒れたチェンバレンは驚き、そして痛みに叫び声を上げる。


「ひっ! あ、あづい、熱……い゛……痛いよぉぉぉ゛ぉ゛ー!」


 知らんがな。

 トイレの床で悶えているチェンバレンの腕を掴みねじり上げ、背中に膝を落として固定する。


「ぎやあああああ!」

「スタルッカ軍曹!」


 ボイスOFF(ウィルバシー)が駆け出す ――


「不審者だ!」


 不審者というより、キース中将を狙った性犯罪者だがな。やれやれ、トイレに潜んで襲われたごっこされるとか、ハーレム体質というのは大変なものだ。


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