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【013】少尉、モブキャラクターの末路を知る

 中央駅に到着して、すぐに曹長を駅長室へと向かわせた。

 念のために切符も調べる――貴族子女たるヒロイン一行がお忍びで蒸気機関車に乗ったとすると、二等車両の座席を買ったはず。

 三等車両は長方形の小さめ切符で、車中で車掌が半券を受け取り判子を押す。

 一等車両の切符は、上官からの指示で買ったことがあり、手続きが非常に面倒。

 公的な身分証明書なども必要で、未婚の貴族令嬢が一人で買えるようなものじゃない。

 同行者が買ったなら、その限りではないが、そこも曹長に調べるよう指示を出している。

 二等車両は三等車両より雑多ではなく、一等車両ほど面倒ではない。


「デニスのお姉さんですよね?」

「そうだ」


 駅長を曹長に任せて、整備士のスコットの所へと行き、昨日、一昨日と可愛らしい女性を見かけなかったか尋ねた。


「亜麻色のセミロングで、瞳は大きくオレンジ色。華奢な体付きで、身長は本官のこのくらい」


 一度会っているので、ヒロインの身長は知っている。わたしの胸の辺り。


「申し訳ありません。見てません」


 義理弟(デニス)が書いてくれた、スコット含む職務中でも女を追うことに余念のない愉快な仲間たちにも確認したが、誰も見ていなかった。

 ヒロインは故郷へ帰ってはいない――

 だが「もしかしたら」ということもあるので、ヒロインの実家へは……ん?


「少尉。怪しいヤツを捕まえました」


 まだ名前も知らない部下が、三十半ばくらいの男の腕をねじり上げて連れてきた。

 茶色のハンチング帽に、チェック柄のシャツ、ネイビーの毛糸ベスト。

 ベージュのスラックスの裾が、ふくらはぎの中程までの長さのブーツにイン。

 首からさげているのはカメラは蛇腹(スプリング)タイプで、かなり大きい。

 見るからにこの乙女ゲームの記者だな。

 この乙女ゲームでヒロインに情報提供キャラクターが存在し、このゲームではとある雑誌の女性記者がそのポジションにいる。

 攻略対象が学園内だけではなく、貴族とはいえ軍に所属している高官――なので、学生なのに軍高官のスケジュールまで調べられちゃう、スーパー情報源を持っている眼鏡っ子……と比べて妙に説得力があった。

 あくまでもゲーム内においての説得力だけど。

 ヒロインに協力している女性記者、名をセシリア・プルックというのだが、そのセシリアもこの記者と似たり寄ったりの格好をしていた覚えがある。


「この男、なにをしていた?」

「フロゲッセルのことを嗅ぎ回っておりました」

「イーナ・ヴァン・フロゲッセルのことをか?」

「はい」


 それはたしかに怪しいな。ヒロインについてなにか知っているかもしれない。……が、そろそろ蒸気機関車に乗り込まなくてはならない。これが最終便だから乗り逃がすわけにはいかないのだ。


「連れていくぞ」


 記者っぽい男を、拉致することにしました。

 横暴? 憲兵と書いて横暴と読むから問題ない!


 蒸気機関車に乗り込み一等車両へ。

 リリエンタール、ガイドリクス両大将のパワーで一等車両三室での往復旅。途中はちょっと違うが、普通路線区域は一等車。

 おまけに女はわたし一人なので、なんと一室を一人で使える!

 ちょっとベッドでごろごろしてから、わたしの部屋に全員呼び、アリシアおばさんが持たせてくれた料理を広げて、自己紹介を含めた会議を行う。

 わたしにとっては全員新顔なので、顔と名前を一致させ、当人たちの能力を、ブルーノから貰ったメモ帳に、記者っぽい男から奪った万年筆で書き留める。


 狙撃ができないヤツに狙撃命令出すような真似を避けるため、能力リスト化は必須だ。


 ちなみに記者っぽい男は、荷物の全てを人質ならぬ物質として奪い、廊下で見張りをさせている。

 ほらいま、他の部屋を空にしているから。

 本来なら部屋には必ず一人待機させ、敵の侵入を防ぐのだが、せっかく見張りにできそうな男がいるので。もちろん部屋に鍵は掛けているが。


「さすがに全員で食べると、一瞬だったな」


 アリシアおばさんが大きめなバスケットに詰め込んでくれた料理だが、下は十八、上は四十歳の男十人の前には、前菜にすらならなかった。

 さて五人一部屋の彼等、まずは一部屋二人、計四人を食堂車に向かわせ空腹を満たさせ、各一部屋に一人待機。残り四名とともに、見張りをさせている怪しい男の尋問をするとしよう。


「俺の名はノア・オルソン。アミドレーネ出版の記者兼副社長だ」

「アミドレーネ出版? 聞いたことはないが」

「零細の雑誌社だ」

「ふむ。それで、イーナ・ヴァン・フロゲッセルのことを聞き回っていた理由は?」


 零細出版社の兼業記者ノアは、少し俯き加減になる。


「あんたらは、陸軍だな?」

「そうだ。わたしは陸軍司令本部所属、他は参謀本部所属」

「鞄を開けたい」

「駄目だ。鞄から物を取り出したい場合は、曹長が代わりに行う」


 鞄の中に小銃や手榴弾なんかが詰まってると困るから。


「わかった。側で指示を出していいか」

「許可する」


 アレリード曹長がノアの鞄を開けて、指示通りに取り出したのは、かなり激しい性的暴行を受けたあげくに、腹を割かれて殺害された女性の写真だった。


「この写真がどうした?」

「被害者の名はセシリア・プルック。我が社の記者だった」

「……」


 セシリア・プルックが殺害された? それもかなり悲惨な殺され方だ。

 逆ハールートやアレクセイルートに進むと、いつのまにかフェードアウトしてるキャラクターだけど、殺害されるって……。

 この写真とヒロインがどう繋がるんだ?


「隊長、写真をこちらへ」


 写真の内容にショックを受けていると判断した曹長が、さっと取り上げて他の兵士に回す。いや、そんなにショックは……いやショックか。


「話を続けろ、ノア・オルソン」

「少尉殿。まず俺の目的だが、セシリア・プルックの死の真相の解明と、セシリアが記者になった目的でもある弟イクセルの行方を探ることだ。セシリアはレニーグラス地方の北の果てインタバーグの出身。フロゲッセル男爵家が治めている場所だ」


 いつのまにかわたしの着替え鞄の中に突っ込まれていた、ヒロインの経歴書にも、たしかにそう(・・)書かれている。


「インタバーグは鉄道こそ通っているが辺境の地。フロゲッセル男爵一族は、その地で平民と混じって暮らしていた。フロゲッセル男爵夫妻には、エリーゼという一人娘がいた」

「エリーゼ? イーナではなくて?」


 ヒロインに姉妹がいるなんて、聞いてない。


「エリーゼだ。エリーゼという男爵令嬢があの家にはいる。貴族名鑑を調べたら、たしかに名前が載っていた」

「エリーゼは幾つだ?」

「セシリアと同い年だから、今年で三十二歳になる」


 たしかにセシリア「アラサー女記者」と名乗っていたな。


「セシリアには弟がいた。名をイクセルといい、セシリアとは五つほど離れている」


 ということは、その弟はいま二十七歳か。


「二十二年前、イクセルは男爵令嬢エリーゼと、他遊び仲間三人と共に出かけ、エリーゼ以外行方不明となった」

「十歳の令嬢と五歳の弟、他三人の年齢は?」

「鞄から手帳を取ってもらいたい。年季が入っている黒革のやつだ」


 曹長が手に取った手帳を渡し、ノアがページを捲る。


「テレサが六歳、エルメスが八歳、ルツカは五歳」


 女の子二人に、男の子一人か。生きていたら二十七から三十歳か。……生きていて欲しいものだが、厳しいよな。


「捜索は?」

「村人総出で行ったが、四人とも見つからなかった。いなくなったのは平民の子供だったこともあり、中央に届けは出していない」

「一人帰ってきたエリーゼはなんと?」

「黙して語らず。その行方不明事件以来、エリーゼは邸から一歩も外へは出なくなった」

「それで?」

「その日セシリアも一緒に出かける予定だったのだが、当日熱を出して行けなかった」

「難を逃れた、というわけか」

「そうだ。その日セシリアは、エリーゼが見つけた”金色(こんじき)の草原”に連れていってもらうはずだったそうだ」

「セシリアはエリーゼにその場所を聞こうとしたが聞けず、弟の行方も分からず……ということか」

「その通りです、少尉殿」

「セシリアは弟の行方を知りたいがために、エリーゼの妹イーナに接触を図ったのだな」


 攻略対象の予定や好きな物や、複雑な人間関係などをヒロインに教えてくれるセシリア・プルック。ゲーム内での対価は、様々なスクープだったけれど――セシリアの真の目的はイーナ攻略だったのか。

 そして攻略は失敗に終わり殺害された……いや、待て。攻略に成功して、知ってはならないなにかを知ってしまったとかはないか?


「はい。セシリアは秘密主義でもあり、詳しい進捗状況は教えてもらえなかったが、なにかを掴んでいるようだった。そして立憲君主宣言の前日、海軍司令本部に行き、そう(・・)なった」


 全員がセシリアの遺体写真を見終え、ノアに手渡す。


「海軍司令本部に向かった理由は?」

「それも分からない」

「心当たりは?」

「ウィルバシー中将だろう」


 でしょうね。それには同意だが、海軍長官の息子だなんて、証拠があっても手なんて出せない相手だよなあ。


「さきほどお前が我々の所属を確認したのは、セシリア・プルックの殺害に関与しているのが海軍だと考えているからだな」

「俺個人の考えじゃない! 事実だ!」

 

 ノアがいきり立ち――アレリード曹長による腹パンターイム。

 

「ノア・オルソン、お前は尋問されている最中なんだ。突然立ち上がって大声を出したら、制圧されるものだ。分かったな」


 床の上で悶えてるノアの首根っこを掴んで、部下が連れ出した。


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