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【109】隊長、レオニードの過去を知る

 閣下の総資産を想像して心中ガクガクしていたら、キース中将とヴェルナー大佐に「どうした?」と聞かれ、正直に答えたら笑われた。


「お前らしいな、クローヴィス」

「気にならねーのか? 普通気にするもんだろ?」


 二人とも、わたしが閣下の総資産を知っていると思っていたとのこと。


「聞く気がないなら、一生聞かなくてもいいだろう」

「あの大実業家(リリエンタール)は下手を打つこともねーしな」


 二人が知らなくても問題ないって言ったから、知らないで通す。


「そうですよね。欲しいものは自分で稼いで買えばいいわけですから、相手の懐なんて気にする必要ありませんし」


 結婚後も軍に残れるようになるのですから、欲しいものは自分で稼いで買う。


「…………」

「…………」


 二人は今までわたしが見たことのない「はぁ?」って感じの表情になった後、爆笑しました。

 二人の笑いどころが分かりませんが、わたしを馬鹿にしているような笑いではなく、心から楽しそうなので、そのまま放っておくことにしました。


 そして説明会が再開されまして、


「クローヴィス大尉。イーナ・ヴァン・フロゲッセルを五名の貴公子が取り囲んでいたのを見たといったな」


 早々に閣下から記憶を取り戻した時のスチル……じゃなくて状況について尋ねられた。


「理事長室から見える庭のガゼボで、貴公子五名と令嬢一名が会話を楽しまれているのを見ました」

「そうか。クローヴィス大尉には、貴公子とフロゲッセルは親密に見えたか?」


 う、うわああ。あの時は「スチル!」と気付いて、頭に血が上っていたし、スチルだから親密だと勝手に思い込み……いや、あの時の気持ちを正直に答えよう。

 変に取り繕っても、最終的には丸裸にされてしまうからね!


「はい。親密に見えました。ただ言い訳をさせていただけるのでしたら、一つだけ発言したいことが」

「構わぬぞ、クローヴィス大尉」

「ありがとうございます、リリエンタール閣下。先ほどの証言ですが、あくまでも平民である小官から見て、親密に見えただけであり、貴族の方々にとっては普通だったのかも知れません。その辺りの判断は小官にはできません」


 あくまでも庶民目線であって、貴族の方々の態度として見たらどうなのか? ほら、夜会の最中に意気投合したら、小部屋で一夜のお楽しみとかが普通の貴族業界ですから。

 ゲーム的な目線では、もう溺愛ですがね。なにせ逆ハーレムルート突入スチルですからね。


「ふむ。ではガイドリクス、イーナ・ヴァン・フロゲッセルと接触して、どのような情報を得た?」


 閣下に問われた陛下はイーナとの出会いから語り始め……る前に、イーナとセイクリッドがどのようにして知り合ったのか? について「知らない」と証言した。


「そこがもっとも重要だろうと考え、元第一副官(ヘルツェンバイン)に調べさせたのだが、二人が接触した経緯については分からなかった。リリエンタールは掴んでいるのか?」

「知りたくば、あとでフランシスに聞け」


 円卓についている室長が、にっこりと陛下に笑いかけた。含みはないのだろうが、室長の笑顔は裏がありそうというか、なんというか。


「そうか。ではわたしとイーナ・ヴァン・フロゲッセルについて話をしよう。イーナは叔母の二女、オリガ第二皇女の娘だと名乗った。オリガは家臣の手により処刑から逃げおおせ、ルース国外へ脱出した。父親はルースの国土を南下した先の出身で、異教徒だそうだ。異教徒の血を引いているので、聖教の枢機卿でもあるリリエンタールには会いたくないと」


 ルース帝国、現共産連邦の南側は異教の国家と国境を接している。わたしの脳内では、勝手にアラブ諸国を連想している。そして南方は人種が完全に違うらしい。


「異教徒を女王に添えることはできまい」

「洗礼は受けていると言っていた、ただ父親が異教徒なのだと」

「見た目は?」

「見た目? 亜麻色の髪で、夕暮れを思わせる瞳の色の持ち主だったが」

「南方の異教徒の血は見て取れたか?」

「わたしには判別がつかなかった。リリエンタールならば、混血であろうとも、部族を見極めることはできるであろうが、わたしには無理だ」

「必死にリリエンタール閣下から逃れつつ、陛下にまとわりついていたとは。哀れですな」


 ヒースコート准将が、そう言うと皆さん笑いをこぼした。

 うん、そうですね。閣下と出会ったら親の部族までばれてしまうとか、絶対に回避しなくてはなりませんね。


「そうか、少し待てガイドリクス。プリンシラ(ウィルバシー)、お前はイーナ・ヴァン・フロゲッセルに異郷の血を感じたか?」


 部屋の端に立っているスタルッカ(ウィルバシー)は、閣下からの質問に、力強く答えた。


「はい」

「断言するか」

「はい、リリエンタール閣下。別れた妻はレスブリ人を片親に持っているのではないかと申しておりました」


 レスブリって……何処?

 え? お前知らんのか? 知らないなー。レスブリ人なんて民族自体しらないわー。今日初めて聞いたわ!

 共産連邦の一角をなす県名で、南方にあることしか分からない。あ、でもたしかスタルッカ(ウィルバシー)の奥さんは、かなり遠い南の国にして海洋国家ルシタニアから嫁いできたわけだから、船員としてルシタニアにやってきたレスブリ人を見たことがあるのかもしれない。


「レスブリか」


 閣下は一人頷かれた。全容を理解している閣下にとっては、ピースの欠片ですらない情報なのかも知れない。


主席宰相(リリエンタール)閣下。正直申しまして、陛下や軍曹の証言などどうでもいい。あなたが知っている真実を教えていただきたい」


 キース中将が単身、中央突破(早く言え)を試みました。

 わたしとしては攻略対象関連は気になりますがキース中将にとって、また国防的にはどうでもいい話ですもんね。そう言いたくなるのも分かります。


「相変わらず短気だな、キースよ」

「わたしが短気なのは知っておいででしょう?」

「分かった、分かった。では教えてやろう、キース。プリンシラ(ウィルバシー)ガルデオ公爵子息(セイクリッド)前宰相の甥(ロルバス)前財務長官の息子(アルバンタイン)が王立学習院にて親密にしていたイーナ・ヴァン・フロゲッセルの名はツェツィーリア・マチュヒナだ」


 ツェツィーリア・マチュヒナ……え、誰ですか?


「ガイドリクス、エクロース(ウィルバシー父)が会っていたイーナ・ヴァン・フロゲッセルはエリーゼ・ヴァン・フロゲッセルだ」


 あ、やっぱり、イーナじゃなくてエリーゼだったんだ。

 フロゲッセル男爵がなぜ「イーナ」という架空の存在を登録し、存在するかのように振る舞っていた理由は分かりませんが、エリーゼだったんですね。

 キース中将はしっかりとまとめている、アッシュブロンドの頭髪を乱暴に掻きむしり ―― ちょっと御髪が乱れましたよ、キース中将。

 この場で櫛を渡すわけにはいかないしなー。でも気になるなあ。


「フロゲッセルのほうは、なんとなく(・・・・・)分かりますが、ツェツィーリア・マチュヒナとは? 名前からしてルース人……でよろしいのですかな? 主席宰相(リリエンタール)閣下」

「ルース人というかどうか。半分ルースで、半分はレスブリだな」


 円卓についている方々がざわざわしだした。もちろん室長の表情は変わらず ―― きっと全部知ってるんだろうなあ。


スタルッカ(ウィルバシー)の妻の証言は正しかったということですか」

「見ていないので”そうだ”と言い切れぬが、わたしを極端に避けていた辺りから考えて、国家保安省の狗候補とみて間違いなかろう」


 室内に緊張感が走った。

 やばい、円卓についている方々は閣下が仰る”国家保安省の狗”がなんなのかご存じのようだが、わたしは何のことか、まるで分からない!

 いや、まあ護衛なのだから、説明内容分からなくてもいいんですよ。


「陛下を避けていたのも、そのためですかな?」

「ヒースコート?」

「陛下は以前、叔母上を訪ねたことがあったでしょう。その際、ウラジミール宮殿にてリリエンタール閣下とお会いしたとも聞いております」

「ああ、確かにあったな」

「レイモンド、当たりだ。わたしはあの時、(いぬ)を選んでいたのだ」


 (いぬ)? 国家保安省ってスパイの大元みたいなところですよね? なので人間のことを言っているのは分かるのですが……ん? (いぬ)を選ぶ。ウラジミール宮殿で? きっとその(いぬ)って、庶民ですよね。

 ウラジミール宮殿に庶民……そして閣下が選ぶって、もしかして!


「わたしは並べられた子供の中から4104ことレオニード・ピヴォヴァロフを(いぬ)に選んだのだが、そこにツェツィーリア・マチュヒナもいた」




【ああ。わたしが幼い頃、まだルース帝国は健在でね。

ウラジミール宮殿にお越しになった、

ツェサレーヴィチ・アントン殿下に頭を撫でられたことがあったんだ。

そして”よく仕えよ”とお声を掛けてもらったことがあるのだよ。

結局仕えることはできなかったのだけれど、

あの幼い頃に刻まれた記憶の所為で、

ツェサレーヴィチ・アントン殿下を尊く思う気持ちはあるのだよ】




 レオニード言ってた! たしかにそう言ってた!

 あれは大勢の中から閣下に選ばれたってことだったのか。

 レオニードは閣下が即位していたら、側近みたいな立場になっていたんだ!


「会ったことがあると」

「そうだな」

「そりゃ逃げるでしょうな。リリエンタール閣下の視界の端にでも入ったら、すぐに正体を見破られてしまう」

「であろうな」


 ヒースコート准将の言葉を閣下は否定なさらなかった。

 二十年以上前に一瞬だけ見た子供のこと、そこまでしっかりと覚えているとか……閣下凄い。


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