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苦手な方はご注意ください。

ドラフト外宣告を受けた固定魔法で異世界を生き抜く

作者: 伏(龍)

思い付きで初めての短編を書いてみました。


短編が思いのほか難しく、ただのプロローグのダイジェストみたいな感じになってしまいましたが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

「第壱回、勇者候補選択会議。宮廷魔術師団、一位指名【宮田 かなえ】」

「第一騎士団、一位指名【日乃本(ひのもと) (ゆう)】」

「第二騎士団、一位指名【日乃本 勇】」

「第三騎士団、一位指名【日乃本 勇】」

「神聖騎士団、一位指名【碧山(あおやま) 美沙緒】」

「戦略研究師団、一位指名【加山 未来(みく)】」


 クラスメイトの名前が読み上げられるたびに室内がどよめく。それを眺める俺たちは、猿ぐつわをされたうえに、手首足首と体を縛られた状態で転がされていた。


 十月の第三金曜日、昼食後。穏やかな日の五時間目の授業中。一週間の疲れが出てくるこの時間に気怠い雰囲気のなか、俺たちはクラスごと突如異世界へと召喚された。


 クラス転移のテンプレならそこで詳しい事情説明があってしかるべきなのだが、俺たちはなにも聞かされぬままに、あっという間に召喚した人たちに拘束された。

 そのまま怪しげな水晶板の魔道具でステータスをひとりひとり強制的に調べられた俺たちは、そのあとぞろぞろと集まってきた偉そうな奴らに、勝手にドラフトにかけられていた。



「戦略研究師団、五位指名【清田 繁】。五位の競合はありませんので無抽選とします。以上で五巡目を終了いたします。最後にひとり残っている勇者候補を指名する団はありますか?」


 会場は五巡目が終わった時点で解散ムードになりつつあり、すでに席を立つ者すらいる。だが、俺のクラスは三十一名。プラス、授業中だったため、筋肉教師なのになぜか古文を教えている海東を合わせて三十二名がいたが……海東はすでにこの世にいない。召喚直後、拘束に抵抗し反抗的だった海東は、隷属を強いる首輪の効果を俺たちに見せつけるための生贄として、跡形もなく消し飛んでしまっていた。

 そのため残っているのは、あとひとり。そう、俺だ。


「そんな奴はいらん。この、くそ高い『魂縛の円環』の費用は団持ちなのに、そんな使えない奴を指名する団なんてあるわけないだろう」


 カイゼル髭の第一騎士団長が髭をつまみながら、俺を見おろしてくる。


「まさしくその通りですね。ま、これだけいればひとつくらい不良品が混じるのもせんなきこと。僅かな金を持たせて城下に放り出せばよいのでは?」


 血が沁みこんだような赤黒いローブを来た宮廷魔術師団長が臭いものを追い払うかのように鼻をつまんで手を振る。


「なるほど……おっしゃる通りですね。やっと片付けたのに、また汚すのも嫌ですから、そうしましょう。爆散した人間ひとり分の掃除は意外と大変なんです」


 ドラフトを進行していた小柄な女が、うんうんと頷く。その女が出した指示で金貨一枚だけを渡された俺が、城下町に放り出されたのは召喚されたその日のうちのことだった。


◇ ◇ ◇


「お~い、タクマ。今度はこれを頼む」

「はい、親方。荷台と固定でいいですか?」

「ああ、今回は貴族街への荷物だからな。内門を抜ける時間も考えて、一時間もたせてくれ」

「了解っす」


 筋肉むきむきの親方が押さえている荷台の荷物が、倒れたりしないようにするのが俺の仕事で、そのために俺は自分が唯一使うことができる【固定魔法】を使う。この【固定魔法】はその名の通り、いろんなものを固定するという魔法だ。こいつがなんでも固定できる魔法だったらチート魔法だったが、残念ながら生き物や動いている物体には使えない魔法だった。


 一度に固定できる範囲も最大で一辺十センチメートルの立方体程度とあっては、活用できる場所はほとんどない。唯一価値を認められて求人があったのは、運送業界だった。地球のように運送用の自動車がないこの世界では、馬車や荷車で荷物を運ぶ。勿論ゴムタイヤやサスペンションもないし、道も舗装してあるとはいい難い道がほとんどだ。

 だから運送する場合は、運転に気を付けたり、縄でしっかりと固定したりして運ぶ。だが、どんなに気を使っても振動は抑えきれないし、縄が緩むこともある。

 そんなときこそ【固定魔法】の出番だ。荷台と荷物、荷物と荷物をうまく固定すれば、絶対に崩れない荷車が出来上がる。そうすれば荷物を縄で固定する時間が省略されるし、荷崩れを心配してことさらゆっくり移動することもない。

 親方の店のように配達物の量と届ける速さをうり(・・)にしているところには、意外と重宝される魔法。それが俺の【固定魔法】という不遇魔法だった。


「親方、今日で最後ですし、その配達に俺も同行しますよ。それなら俺が解除できますから。届け先は貴族街ですよね、変ないちゃもん付けられてもつまらないですから」

「おお! そうか、そいつは助かる。悪いな、もう上がりの時間なのに」


 固定の解除にはふたつの方法がある、ひとつは込めた魔力が尽きて自然に解除される場合。もうひとつは術者が任意に解除した場合だ。だから配達に俺が同行できないときは、到着までの時間を計算して魔力をこめる。王都配達のベテランである親方たちの見立てが大きく間違うことは滅多にないが、たまに早く着きすぎてしまうと荷物が下せなくなったりすることもあるし、遅くなってしまうと荷崩れの危険を避けるために、縄を使って固定し直さなくてはならなくなるので、配達が大幅に遅れるということにもなる。


「問題ないです。三カ月前、城から放り出されて路頭に迷っていた俺を拾ってくれた親方には恩がありますから」

「いや、こっちもお前がいてくれて助かったぜ。だが、タクマ。本当にお前に狩猟者(ハンター)なんかやれるのか? そんな細っこい体で、スキルも【固定魔法】しかないのに」


 親方が心配してくれているのはわかる。俺が使えるアクティブ(・・・・・)スキルは【固定魔法】だけ、そしてこの魔法はこの世界での評価が低い。この世界にクラスごと召喚された刀根阪高校弐年ろ組の中で唯一いらない子として放逐されるくらいには。


「心配してくれてありがとう、親方。でも、せっかく異世界に来たんだからいろんなところを回って、いろんなものを見たい。それにもとの世界に帰る方法も見つけておきたいしね。そのためには、狩猟者になるのが一番都合がいいから」

「……そうか、そうだな。よし、わかった! 男が一度決めたことだ、俺は応援するぜ!」

「ありがとう、親方」


 この強面(こわもて)なのに男気があって優しい親方がいなければ……たぶん俺は死んでいた。一般常識すらわからないまま街の中に放り出された俺は、唯一持たされた金貨一枚も僅か数十分後にだまし取られた。途方に暮れ、空腹と絶望のなか、路地裏で無気力にうずくまっていた俺を救ってくれたのが親方だ。

 本当なら、なにも考えずにこのまま親方のところで働いていたかった。


 でも、俺でも戦えると気が付いてしまった。そうしたら、この世界を見て回りたいという想いが抑え切れなかった。そして、もとの世界に帰りたいと泣きながら死んでいった女の子()いた(・・)。親友を助けるために死んでしまった、その子の想いと親友だけでも俺はもとの世界に帰してあげたいと思った。

 だが、この城の奴らは俺たちを元の世界に戻す方法を知らない。それなら自分たちで探しに行くまでだ。


◇ ◇ ◇


「よく頑張ってくれたな。ほら、最後の給料だ」

「ありがとうございます! ……あれ?」


 親方と最後の配達を終えて、事務所に戻ったときにはすでに周囲は真っ暗だった。ここが王都であっても、この世界には街灯なんてものはなく、家々から漏れる灯りと月明りだけが光源というのが常識。だが今日は月も新月のうえに、煌めく星々すら空を覆う雲に隠されているため、いつにもまして闇が深い。事務所ではランプがひとつ灯っているが、ランプだけではとても薄暗い。


 そんな状況で俺は親方から給料を手渡された。いつも豪快な親方は袋なんてものに入れずに、現物を手のひらの上に支給する。だが今日はその重みがいつもとは違った。不思議に思った俺は、自分の手のひらの上に視線を落として目を凝らす。


「親方! これ、いつもの倍もありますよ! いつも通りの仕事しかしてないのに、こんなにもらえないです」

「気にすんな、狩猟者になるとなれば武器や防具もいるだろうし、そのほかにも物入りだろう。この程度じゃたし(・・)にもならんだろうが、俺からの餞別だ。持っていけ」

「お……やか……た」


 握りしめた硬貨が重い……熱くなった目頭から視界が歪んでいく。でも、親方には涙は見せたくない!


「親方! 本当にありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」


 顔を隠すように深く頭を下げ、声が震えないように大きな声を出す。


「おう! 忘れんじゃねぇぞ! そしていつかいろんな話を聞かせに来い」

「はい!」


 親方の声にも湿っぽいものが混じっている気がするが、俺も親方の顔は見ない。そのまま後ろを振り返ると一目散に走った。


 親方の視線を背中に感じながら、いつも泊まっていた安宿のほうへ向かってしばらく走ったあと、親方の店が見えなくなったころに立ち止まって乱れた息を整える。すでに安宿は引き払っていて、夜だということを考えなければいつでも王都を出られる。だが、この王都を出る前に、まだやらなきゃならないことがある。


 俺は振り返って親方の店のあった方角にもう一度頭を下げると、目尻を乱暴に袖で拭って、握りしめていた給料をボードに入れる。


 ボードというのは、いわゆるステータスボードのことで自分のものは自在に出し入れできるが、他人には見えないという、この世界の誰もが使える不思議な能力だ。このボード、自分のレベルやスキルなどの情報が見えるほかに、地球の|ロールプレイングゲーム《RPG》のように、装備ウィンドウと財布ウィンドウと道具ウィンドウが付属している。


 これは使い方によってはアイテムボックスのように流用ができる便利な能力だ。たとえば装備ウィンドウは、体に装備した武具に【解装】のコールをすればウィンドウに仕舞えて、【装着】のコールをすれば装備状態で呼び出せる。財布についてはコールすら必要なく、考えるだけで出し入れができるし、道具ウィンドウは任意で好きなものを保管できる。ただし、数にして8個まで、しかも総重量や総体積の縛りもあるため大きいもの、重いもの、たくさんのものは持ち歩けないのが難点だ。


 俺は歩く先を安宿から貴族街の方向に変えると、小さな声で装着のコールをする。そのコールと同時に俺の体は皮のベスト、革の籠手、革のブーツ、黒いフード付きのマントに覆われる。さらに左腰には鞘付きの小剣が一本。俺が親方のところで働いて貯めたお金で買った一張羅だ。小剣だけはドロップ品だが。

 無意識に撫でていた小剣の位置を調節するとフードで顔を隠し、街の暗闇を選んで走る。これから俺は縛られたまま、僅か数時間だけ滞在した王城区へ忍び込む。本当ならもっと深夜のほうがいいのかも知れないが、ここ数日の偵察で、深夜のほうが逆に警備が厳しいことがわかっている。


 この王都は三枚の円形城壁に守られている。一枚目は約五メートルの高さの第一城壁、街の外と城下町と呼ばれる平民街を隔てる壁だ。二枚目は第二城壁、平民街と貴族街を隔てる壁で約十メートル。そして、三枚目は王壁。貴族街と王城区を隔てる壁で高さがなんと十五メートルもあり、さらに厚みもある王壁は壁の中を兵士が歩くこともできるらしい。その王壁の中に王城や六師団の詰所などがある王城区があり、普通ならとても忍び込めるような場所じゃない。


 王城を追い出されて以降、運送の仕事で何度か貴族街までは入ることができたが、王壁を抜けられるのは限られた人間だけ。平民街で下働きをしていた俺なんかでは、高位の貴族が住む王壁の周辺にすら立ち入ることはできなかった。


 だが、いまの俺なら。


 第二城壁に辿りついた俺は、四方にひとつずつある内門の近くを避けて移動すると闇の深い場所から空中(・・)を駆け上る。


 これは、俺が見つけた【固定魔法】の使い方で、ベタだけど<空歩>と名付けた。その正体は、固定した空間を足場にして階段のように駆け上っているだけ。ただ、一回の【固定魔法】で固定できる範囲の絶対量は変わらないため、俺が踏んでいるのは十センチ四方ほどの足場だ。

 術者は固定した力場が見えるので、場所がわからなくて足を踏み外すことはないが、高所ゆえの恐怖や、純粋な身体能力の問題で落下する危険はある。その問題を解決するために俺は【固定魔法】の熟練度を上げ、人目を避けながらレベル上げに励んできた。

 

 次の新月の日に迎えに行く。そう約束した日から一カ月、焦燥に灼かれながらも必死に頑張ってきた。本音を言えばまだ不安は残るけど、今日を逃せばこの世界の新月はまた一カ月後になってしまう。そこまで待たせるわけにはいかなかった。


 足場をどんどん更新して、高く、高く上った俺は第二城壁どころか王壁すら眼下に見下ろせるほどに高い位置まで達すると、今度は足場を同じ高さへと次々と生み出し、空を歩いて王城区へと向かう。おそらく現在地は地上五十メートル近い。この闇夜のなか、そんな上空を警戒している兵士はいないだろうし、月も星もない今夜は見上げても、黒いマントを纏った俺の視認は難しいはずだ。


「碧山さんの部屋は確か、神聖騎士団の宿舎になっている北側の塔……その十階。新月の日は窓を開けておいてくれる約束だけど」


 王城はその周囲を六本の塔に囲まれている。これは俺たちをドラフトしていた六つの師団の幹部が、それぞれ宿舎として使用している塔だ。クラスメイトたちは各師団でそれぞれ魂縛の円環を首に付けられ、各塔で管理されているという話だが、実際にどこにいるかはわからない。

 本当なら皆を助けて逃げ出したいが、俺ひとりの力ではとても無理だ。だが、奴らにとってもせっかく召喚した勇者候補の異世界人、早々に使い捨てにするつもりはないと思いたい。


 そんなことを祈るように考えているうちに、やっと北の塔を見下ろせる場所まで辿り着く。この王都で最大の建物である王城に、迂闊に近付きすぎて見られる危険を避けるために、遠回りをしたので思ったより時間がかかってしまった。


 塔の屋上に誰もいないのを確認して、今度はゆっくりと高度を下げていく。


「碧山さんの部屋は……いた!」


 塔からある程度の距離を保って、塔を中心に一周するように空を歩いていると、窓が開いていて薄明かりが漏れてくる部屋のひとつに、碧山さんの後ろ姿を見つけた。あの長くて綺麗な黒髪は間違いない。そのまま碧山さんの部屋の周りを確認するが、幸いその部屋の近くに窓が開いている部屋はないから、脱出が発覚する危険性は低そうだ。

 新月、曇り空に続いてここまで好条件が揃うなんて、思い切って決行してよかった。あとは、空を覆う雲が晴れてしまったり、雨に変わったりする前に碧山さんを連れて王都を抜け出せばいい。


 ここにきてつまらない失敗をしないように、慎重に足場を設置しながら窓に近づいていく。


「……てください」

「…………しくしないか」


 ん? 誰かいる? こんな時間に女の子の部屋に? クラスメイトの誰か……いや、違う。碧山さんは夜間、部屋を出ることは禁止されているって言っていた。

 足場を調節して窓のすぐ隣に背中を付けると中の様子を窺う。


「やめてください! 神聖騎士団では姦淫を禁じているはずです! それを団長であるあなたが破ろうとするなんて!」

「ああ、そうだ。欲に塗れた姦淫は神への冒涜。だが、異教徒を改心させるためならばあらゆる手段が肯定される」

「そんなの詭弁です!」

「いいからおとなしくしていろ。明日の朝には自分から改宗させてくださいと頼むようになる。忌々しいことに、第二位で指名した女はひと月責め立てても改宗しなかったがな」

「……え? ちょっと待って、あなた美奈に、なにを……し……たの?」


 碧山さんの声が震えている。神聖騎士団が二位指名したのは……高木美奈。碧山さんの親友、ひと月前にダンジョンで命を落とした僕たちのクラスメイト。僕と碧山さんに王都脱出を決意させ、必ず碧山さんを日本に帰すと約束した相手。


「あの女が強情だったせいで、ほかの奴らに布教活動ができなかったんだ。さすがに成果の出ていない方法をほかの者に使うのは理屈が通らなくてな。しかも、あの程度のダンジョンであっさり死にやがって……お陰でこっちは管理責任を問われて一カ月も巡察を命じられちまった」

「な、なんてこと……私は、私たちは美奈に守られていたってことじゃない……あぁ! 美奈! 美奈!」


 碧山さんが泣き崩れる音がする。それは……そうだろう。たまたま最初に神聖騎士団長に目を付けられた高木さんが、こいつに最後まで抵抗していたからこそ、ほかのクラスメイトたちが毒牙にかけられずに済んだ。そして……高木さんがダンジョンで勇敢に戦い、碧山さんを守って命を投げ出したから、巡察を命じられた一カ月間、団長による次の犠牲者が出なかった。

 碧山さんは高木さんに命だけではなく、女性としての貞操も、人間としての尊厳までも守られていたんだ。そんな親友を失ってしまった碧山さんの悲しみはいかほどだろう。普通のクラスメイトだっただけの俺ですら、胸が張り裂けそうな悲しみとはらわたが煮えくり返るような怒りを感じているのに。

 

「やっと田舎臭い街から帰ってこられたんだ。さいわい田舎娘で実績を残したことだし、そろそろ黒髪の戦乙女というメインディッシュに再び手を出してもいいだろう」

「いや! 来ないで! 【装着】」


 碧山さんが装備を呼び出したみたいだけど、相手は神聖騎士団の団長だ。それに……


「そんな勇ましい格好をしたところで魂縛の円環があるお前は、俺に危害を加えることはできない。それに、どんなに騒いで暴れたところで、今日は誰もこの部屋に入るなと厳命してある。泣いても騒いでも誰も来ないぞ」

「く!」


 よし! 俺が聞きたかったことをこいつがぺらぺらと話してくれた。これで乱入できる。俺はすぐに足場を増設すると小剣を抜きながら、窓から飛び込む。ベッドに押し倒されるような体勢になっていた碧山さんは、すぐに俺に気が付いて喜びの表情を浮かべた。この状況だったら無理もないが、そのせいで俺に背を向けていた団長も何かが起きたことに気が付いてしまった。そのあとの行動も、碧山さんに未練を残さずに、すぐに飛びのいたのはさすがだ。

 お陰で不意を突いた俺の渾身の突きが直前でかわされてしまった。


「拓真くん!」


 団長が離れたことで自由になった碧山さんが、団長と向き合っている俺の後ろに隠れる。


「誰だ? お前は……いや、それよりもどうやってこんなところまで……【装着】」


 当然だが、こいつらは俺の顔なんて覚えてやしない。城にいたのは、たった数時間。しかもこいつらはステータスの内容ばかり見ていて、俺たちの顔なんて見てもいなかった。それでも王壁の中に侵入して来ている俺に、危険なものを感じたのだろう。すぐに装着をコールし、煌びやかな具足を身に着けている。


「碧山さん、遅れてごめん。人を呼ばれたくなかったから、ぎりぎりまで様子をみるつもりだったんだ」

「ううん、いいの、わかっているから。こんなところまで来てくれただけで、とても大変だったはずだって」

「一応、魂縛の円環は無効化しておくけど……確証はないから碧山さんは下がっていて」

「でも! …………わかった。拓真くんを信じる」 

 

 碧山さんの手が俺の背中から離れる。その際に彼女の円環にちょっとした細工をしておく。たぶんこれでなにをしても爆破することはないはず。


「随分とうちの一位指名と親し気だな。他の団が獲得した、一緒に来た奴らとは接触させていないし、うちの団で獲得した奴らとも違う……まさか城内の誰かと密通したのか? こいつは是が非でも聞き出す必要があるな」


 団長が白い輝きを放つサーベルを抜き放つ。きっと剣も鎧も凄い武具なんだろう……革装備ばかりの粗末な装備と不遇魔法だけで、俺は勝てるのか? 本当ならこっそりと連れ出して逃げるだけだったのに……勝てるわけが……。


「拓真くん! 美奈の……ううん、ごめんなさい。なんでも……ない」


 そうか……そうだった。高木さんはこいつに殺されたようなもの、こいつは(かたき)だ。それに……高木さんが守ってくれたものを無駄にするわけにはいかない。もし、ここで俺と碧山さんだけが逃げたら……ここにはまだ二名の女子がいる。今度はそのふたりがこいつの毒牙にかかることになる。


「俺も、お前は生かしておくわけにはいかない」

 

 覚悟を決めた俺は、小剣を団長へと向けながら宣言する。


「ふん、口だけは達者のようだが、構えだけを見ても、お前が俺より強いことはありえない」


 一国の騎士団の長になるような人物が、【剣術】スキルもなければ、剣術を習ったこともない日本の男子高校生に負けるはずがない、と思うのは当然だ。俺の後ろにいる碧山さんのように、聖騎士の称号を持ち【神聖剣】スキルと【聖魔法】スキルを持つチートにならわからないが。

 

「そうだろうな。だが、死ぬのはお前だ」

「……安心しろ、ここは神聖騎士団の宿舎だ。手足を切り落とされても死なずにすむぞ。もっとも、すぐに死なせてくれと哀願するようになるだろうがな」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに団長が、斬りかかってくる。そのスピードはやはり騎士団長。おそらくレベルも高いのだろう。なんとか目では追えても、反応できるレベルではない。だが。


「ぐあ!」


 一直線に俺に向かって来ようとした団長が、急に顔をのけぞらせて体勢を崩す。俺はそうなるのがわかっていたかのように、体勢を崩した団長の首を狙って小剣を振る。


「く」


 だが団長はのけ反った状態からでも、俺の小剣をかろうじて剣で受け止めて後ろへ跳ぶ。しかし、その跳躍は団長が想定していたよりも短いものとなり、壁にぶつかったかのように不自然に動きを止めた団長に俺の追撃の一振りが襲う。


「ぐはっ、な、なんだこれは! くそ!」


 不可解な現象で、立て続けに二度も体勢を崩されては、さすがの団長も俺の攻撃に反応し切れなかったらしい。なんとか剣を持っていない左手を上げて喉を守ろうとしたが、俺は構わずに小剣を振り抜き、その左腕の肘から先を籠手ごと斬り飛ばした。


「がぁぁぁ!」


 腕を斬り落とされた痛みに、獣のような声をあげながらもまだ戦意を失わない団長の右手の長剣が俺に向かってくるのを見て、いったん間合いを取り直す。


「くそ……いったい何がどうなってやがる。俺はなににぶつかった? 俺の腕を籠手ごと斬り裂いたその剣はなんだ? く……『ヒール』」


 じりじりと俺と距離を取りながらも、自分で腕に回復の聖魔法をかけて出血を止めた団長の顔は、痛みと俺に対する怒りで醜く歪んでいる。


「なんなんだお前は! こんな効果のスキルは聞いたことがない」

「あなたがたは……俺のスキルを知っているし、俺の持っているアクティブスキルはそのひとつだけだ」


 こんなことをこいつに説明してやる必要など何処にもない。すぐに殺して碧山さんと逃げればそれでいい。だけど……不用品だと扱われ、放逐された俺のことはまだいい。怖いこともあったけど、優しい親方たちに出会えてよかったと思えるから。でも、平和な日本から勝手に連れてこられて、奴隷のように扱われているクラスメイトたち、殺されてしまった海東、そして……皆のためにこいつの凌辱に耐え、放り込まれた暗く冷たいダンジョンで、碧山さんを守るために死んでしまった高木さん。

 こいつらにみんなの後悔と絶望と苦痛の一部だけでも思い知らせてやりたい。俺はゆっくりとフードを後ろに落とす。


「……なんだ? 黒……髪? だと? いったいどこの団の……いや、魂縛の円環がない。俺たちが召喚した異世界人の中で円環がないのは……あ」


 俺の髪を見て、ぶつぶつと呟いていた団長が答えにたどり着いたらしく驚愕の表情を浮かべる。


「ば、馬鹿な……お前は、確か【固定魔法】しか持たないハズレのはず……」

「そうだ、そのハズレの【固定魔法】にお前は、追いつめられて死ぬんだ」

「う、嘘を言うな! この部屋にあるものを固定したところで、さっきのようなことは起こらない!」

「嘘じゃない。俺のアクティブスキルは【固定魔法】だけだ。だが、パッシブスキルには【魔力極大】【魔力超回復】がある」


 団長は剣を構えて俺へと向けているが、じりじりと後退している。隙を見て部屋の外へ逃げ出すつもりなのかも知れないが、扉はすでにガッチガチに固定してある。絶対に開かない。壊そうと思っても、クラスメイトを逃がさないようにと、頑丈に作りすぎた扉が邪魔をするだろう。


「そうだ! それを見たときお前を第一指名しようと考えた団は多かった! だが、お前は! お前の称号は……」

「そう、俺は称号は【生涯一路】。こいつのせいで新たなアクティブスキルが増えることはない。無限に近い魔力を持ちながら、使える魔法は役にも立たない【固有魔法】だけ、そう考えたお前たちに俺は捨てられたんだ」

「……そのお前がなぜだ!」

「【固定魔法】は生きているものや、動いているものを固定することはできないし、固定できる範囲も小さい。でも、ある程度の魔力と想像力があれば、空気を固定することができるんだよ」


 俺が空中を歩けた理由がそれだ。空気を固定するとその範囲は動かなくなる。俺はそれを足場にして、悠々と空へと上り、第二城壁、貴族街、そして王壁までもを越えてきた。

 さっき、団長の動きがおかしかったのも、団長が踏み込む先、頭が通過するであろう位置の空気を固定してあったから。バックステップが途中でキャンセルされたのも、奴の後ろの空気を一カ所、固定してあっただけ。

 だが、こと戦闘においてはこれが『だけ』に済まなくなる。【固定魔法】が固定している場所は術者じゃなければ見えない。高速で動き回る戦闘で予期せぬところに無防備でぶつかることが、どれだけ危険かは考えなくてもわかるだろう。しかも固定するときに込めた魔力が多ければ多いほど、固定した力も強くなる。魔力が桁外れな俺が全力で作った固定力場ならほぼ不壊に近い。予期せぬ力場にぶつかって、体勢を崩し、動きが鈍った相手になら、俺でも勝てる。


「仮にそうだったとしてもだ! お前に俺の腕を、この籠手ごと斬り飛ばす技量はない!」

「ああ……それはね。この小剣のお陰なんだ」


 扉を背にし、後ろ手に扉を開けようとしている団長に俺は、剣身の黒い小剣を見せる。


「これは……高木さんが僕たちのために残してくれたものだ。魔力を込めると斬れ味が天井知らずに増す。これがどういうことかわかるよね」

「なんだと! そんなもの、魔力が多い貴様が使えば……っく、なんてことだ! あの不感症の腐れ(ピ――――)女が! だが、あいつがそんなものを手に入れられるわけが……ダンジョンだって浅い層にしか行っていないはずだ!」

「……お前がこれ以上、高木さんを侮辱することは許さない」


 この期に及んでまだ高木さんを辱めようとする団長に俺の怒りも限界に近付いていた。絶対にこいつは殺す。


「これは、高木さんが俺に託した想いだ。俺が使えばなんでも斬れるだろうこの剣でお前たちを斬って欲しいという願いが込められているんだ!」

「はん、なにを馬鹿な! 武器はあくまで武器だろう」

「……この小剣は、高木さんのドロップアイテム(・・・・・・・・)だ」

「な! ……ん、だと?」


 地球から召喚されてこの世界にやってきた俺たちは、この世界の人間とは根本的に違う生き物、どちらかと言えば魔物と変わりがないらしい。ダンジョンで死ねば魔石(・・)とアイテムを残して消え去る。そして、高木さんが死んだあとに残ったのが、この小剣だった。通常時は攻撃力1以下と言ってもいいくらいになにも斬れないが、魔力を込めれば込めただけ斬れ味がどこまでも上がる小剣。

 誰にでも優しくて、しかも不条理を絶対に許さない強さを持っていた高木さん、その高木さんそのもののような武器だった。


「もういいや、そろそろ死んでくれ。大丈夫、お仲間もいずれお前のいる地獄へ届けてやるから、すぐに寂しくなくなる。あ、それと、その扉は俺が【固定魔法】で固定してある。なにをしても開かないから」


 部屋から脱出しようとしていた団長に、その行動が無駄だと知らせてやった。それを聞いて扉がびくともしない理由がわかった団長は、苛立たし気に扉を蹴とばすと憎悪に満ちた目を向けてくる。お前がそんな目で俺たちを見るのは明らかに筋違いだ。


「殺してやる!」


 部屋からの脱出を諦め、俺たちに斬りかかろうとした団長の動きが止まる。


「な……なんだ、これは?」

「ただ憂さ晴らしのためだけに、お前と話をしていたわけじゃない」


 俺の【固定魔法】は単発だ。ひとつを固定し終われば次を作れるが、複数を同時には固定できない。力場をブロックのように重ねて一瞬で盾を作り出したり、相手を取り囲んで閉じ込めることは不可能だ。だから俺は相手と対峙している間に、こそこそと力場を作って罠を張る。

 相手がぶつかりそうな場所、つまづきそうな場所、回避しそうな場所……それは時間が経てば経つほど増えていく。だから俺は、こいつが部屋から逃げ出そうと無駄なあがきをしている間もずっと固定し続けていた。


「う、動けん……」


 そしていまも、団長の近くの空間を次々に固定している。もうこいつは剣を振り下ろすことも、殴りかかることも、座り込むことすらできない。固定された空気の檻に捕らわれ、俺の処刑を待つだけのただの罪人だ。

 固定した力場は、俺が込めた魔力以上の負荷をかけると壊れる。だから、団長の動きを阻害している力場以上の魔力を込めれば、俺の小剣は固定の力場を突き抜けて団長へと届く。


「や、やめろ……やめてくれ」


 ただならぬ気配を放つ、俺の小剣を見て団長もそれに気が付いたのだろう。いままでの強気の態度は鳴りを潜める。

 俺は小剣を団長の喉へと向け、少しずつその距離を詰めていく。


「やめ! やめてくれ! あぁ! いや、やめてください!」


 その声を無視してさらに距離を詰める。あと二十センチ……。


「待て! 待ってくれ! そうだ、か、金をやる! 一生遊んで暮らせるだけの金だ。欲しいなら女も用意する!」 


 話にならない。そんなものをもらっても、高木さんは戻ってこない。俺の小剣の切っ先が力場のひとつを破壊する。あと十センチ。


「そ、そうだ! 俺を見逃せば、他の奴らを解放する!」


 ちょっと、心が動かされるが……約束が守られる保証はない。むしろひとり死なせただけで一カ月も懲罰的な行動を取らされているのに、五人も逃がせば結局こいつは無事では済まないはずだ。だからこの言葉も嘘。なんとかこの場を切り抜けるためだけの方便。


 とうとう俺の小剣が奴の喉に触れ、赤いものが首から流れ落ちる。


「た、助け……く……お、俺を殺せば、国が黙っていない……ぞ」


 俺は……初めて、人を、殺す。こいつらを殺すことに躊躇いはない……はずだったのに、どうしても、あと数センチが押し込めない。だが、残されるクラスメイトのためにも、ここでこいつを見逃すという選択肢はない。そのためにわざわざ俺の能力の秘密をぺらぺらと明かし、殺すしかない状況にしたのに。

 

「拓真くん」

 

 ほんの少し震える声で呼ばれた名前とともに、動きが止まっていた俺の小剣を握る手が温かいものに包まれる。


「碧山さん……」

「一緒にやろう。これは、私たちが避けては通れない道だと思うから。私たちはこれから、私たちの命を便利な道具としか思っていない人たちと戦うの。なのに私たちだけが殺すことを躊躇していたら戦えない。私たちはそんなに強くない」


 碧山さんの言う通りだ。この一突きは、俺たちがこの世界で戦っていくための覚悟の一突き。


「ありがとう、せーので突くよ」

「はい」


 目の前で団長が目を血走らせ、泡を噴いてなにかを叫んでいるが、もう俺たちの耳には入ってこない。ただ静かなる覚悟とともに……


「「せーの」」


◇ ◇ ◇ 


「碧山さん、絶対に動かないでね」

「は、はい」


 碧山さんの首にある魂縛の円環を、俺は【固定魔法】で固定していた。精神的に余裕がなくて忘れていたが、この固定がうまくいってなければ、俺と一緒に団長に止めを刺した碧山さんは弾け飛んで死んでいたかも知れない。

 固定の力場は原則立方体だが、消費魔力を考えなければ固定する形をある程度変形させることができる。直方体を曲げた形のいくつかの力場を使って、すっぽりと固定していた円環。その力場と力場の接続部分をゆっくりと小剣で斬り、斬ると同時に切断面も固定していく。固定しているうちは状態は保存されるので、爆破されるシステムが起動していたとしても爆発することはない。


「できた、もう動いていいよ」

「ありがとう、拓真くん。……やっと、あの首輪が外れたのね」


 自分の首になにもないことを何度も撫でて確かめながら、碧山さんの目には涙が浮かんでいる。円環が嵌まっていた部分が日焼けせずに、白くなってしまうほどに三カ月間苦しめられてきたものが外れたというのは、やはり嬉しいことなのだろう。


「碧山さん、すぐに王都を離れたいから偽装を手伝ってくれる?」

「あ、ごめんなさい。勿論手伝うわ、なにをすればいい?」


 俺はまず、道具ウィンドウに入っていたゴブリンの死体を取り出すと、碧山さんの首に嵌まっていた魂縛の円環を、ゴブリンの首に固定する。


「きゃ……これって、ゴブリンでしょ? どうするの?」

「ちょっと、身代わりになってもらおうと思って持ってきたんだ。俺の道具ウィンドウは他の人よりもちょっと大容量だからね」

「でも、さすがにゴブリンと私を見間違うことはないと思うんだけど……」


 不快そうに眉を顰める碧山さんの気持ちはわかる。


「うん、だけどこの円環が爆発すれば原形はほとんど残らないからね」

「あ、なるほど」

「それに、予想外だったけど、こいつがいてくれたお陰でストーリーも組みあがった」

「ストーリー?」


 つまり、迫ってきた団長を碧山さんが拒絶しているうちに、窓際でもみ合って団長を殺害。そのまま窓からふたりとも落下。地面に叩きつけられた団長と、円環が反応して爆散した碧山さん。そういう筋書きだ。


「ベタだけど、有りえなくもない……かしら?」

「最初は投身自殺を考えていたんだけど、円環で自殺は禁じられているんだよね?」

「そうね、私たちは自分で死ぬことすら許されなかった」 

「うん……あ、ごめん、運ぶの手伝って」

「え? あ、はい」


 しんみりしそうな碧山さんと、協力してゴブリンと団長の死体を窓際に運び窓の外に設置した力場の上に置く。力場を解除した途端に落ちるように調整すると、俺は黒マントを脱いで碧山さんへと渡す。


「逃げるから俺のマントを着ておぶさってくれる?」

「……やっぱりそれしかないのよね?」


 碧山さんが胸元を押さえて顔を赤くする。同年代の女子に比べてやや大ぶりなものをお持ちなので、気持ちはわかるけど……非常時なので、そこは我慢してもらうしかない。


「足場が見えない空中に足を踏み出す勇気、ある?」

「……ない、わ」

「申し訳ないけど、少しでも負担を減らしたいから装備も解装でね」

「……はい」


 装備を解除した碧山さんが、覚悟を決めて背中に覆いかぶさってくる。

……これはいいものをお持ちで……なんて邪念を持っている暇はない。


「いくよ、しっかり掴まっててね」

「は、はい」


 碧山さんの返事を待って、窓から虚空へと踏み出す。踏み出す瞬間に碧山さんの腕に、きゅっと力が入るが、俺が構わずにどんどんと歩いて高度を上げていくと、やがて慣れてきたらしく、顔を上げて周囲を見回しているような挙動が伝わってくる。


「凄い……本当に空を歩いている。暗くてほとんど見えないけど、下のほうにぽつぽつと見える灯りが王都?」

「そうだよ、いつか皆を助けにくる場所だ」

「……はい」

「いくよ、俺たちからの宣戦布告だ」


 俺は団長を支えている力場を解除、一拍おいてゴブリンの力場を解除、さらに一拍おいて魂縛の円環の力場を解除。


「あ……爆発音」

「うまく逃げだしたことの偽装になるといいんだけど」


 王都の人たちは王壁を越えて侵入者があったことも、王壁を越えて脱走されることもたぶん考えない。その場にある状況証拠だけで自分たちに都合のいいシナリオを考えてくれるはずだ。


「拓真くん……私たちはこれからどうするの?」

「まずはレベル上げをして強くならないと危なくてなにもできないかな。ある程度強くなれたら……帰る方法を捜す。いまある情報は、この国が召喚の術式を盗んだのが隣国からだってこと。この世界には『全知』と呼ばれる賢者がいること……帰る方法を捜すならまずはこのふたつからかな」

「うん……わかった、頑張ろうね。……拓真くんも追い出されて大変だったはずなのに、本当にありがとう」

「……」


 碧山さんが背中から抱き付いて来て、小刻みに震えている。王都を離れることになって、この三カ月間のことや、残してきたクラスメイト、日本のことを思い出し、そして……高木さんのことを想って涙があふれてしまったんだと思う。


 俺はそんな碧山さんに気が付かないふりをしながら、薄らと明るくなり始めた東の空に向かう。


 これからどうなるのか、まったくわからないけど……この【固定魔法】でこの世界を生き抜いてやる。


                                    完


連載版が読みたい人がたくさんいれば、書くかもです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きが気になる^_^ [気になる点] 【固定魔法】が盛り上がったところで【固有魔法】になってる箇所が数カ所あってドン引きした。
[一言] 連載版読みたいです!
[一言] 是非とも続きが読みたいです。
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