タイトル:未完成
未来の自分に出逢った。
夢の中だった。
背は少し伸びていて、鏡の中の自分よりどことなく大人びていた。
そいつは口を開いて、言葉を発しようとしたが、音は出なかった。 代わりに、まるでRPGのダイアローグのような、ドットの細かいセリフ文がそいつの頭上にぽんと浮かんだ。
それは言葉。 今の自分を写し、映し、省みるための言葉。
『何か、悩んでるの? 』
わからない。モヤモヤはする。それが"悩み" かと聞かれると、違う気もしてくる。
『出すと楽になるよ』
わかってる。それが出来てたら苦労してない。自分でも解ってない自分の気持ちを言葉にするなんて、すんなり出来たら困るヤツはいない。
『なら、少しヒントを出すよ』
『将来のことかな? 』
…。
ああ、それもある。
周りは確固たる未来像を描いているのに、自分はまだ漠然とした線すら決まってないんだ。焦ってるんだ。
『キミは、不特定多数の"みんな" じゃないでしょ? 違っててもいいんじゃない? 』
…。
周りはみんなそう言うんだ。「皆違って皆良い」って。
…俺が良くないんだよ。 なんで、"みんな" と同じように出来ないんだって。 焦るんだよ。
『なにが、キミをそんなに苦しめてるの? 』
…。
なんだろうな。 強いて言うなら、"何も出来ない自分" とか、じゃねーの。
『でも、頑張ってるんでしょ? 』
頑張って、ないんだよ。
周りはもっと、もっともっと頑張ってるんだ。 俺だけいつも、楽な方 楽な方へ逃げてるんだよ。
俺は、、頑張って、ない。
『周りが頑張ってたって、それはキミの頑張りを否定する理由にはならないよ』
うるさいな。 わかってるよ。
でも結果として出来てないんだから。
結果を残せなかったら、頑張ってるとは言えないだろ。
『自分が頑張ってること、自分で認めてあげようよ。』
…認めらんねーよ。頑張ってないし、出来てないんだから。
『それなら、僕が認めてあげる。 キミは頑張ってるよ。 よく頑張ってるさ。 だから、僕の認めるキミを 否定しないでくれ。』
何様だよ。
その言葉を言いかけて、外には出せなかった。
『まだ、何か引っかかる?』
当たり前だ。 初めてあったお前の言葉なんて、信じきれるわけないだろ。
『でも、僕はキミを信じてる』
…。
…うるさい。
そんな台詞が欲しいわけじゃない。
『…不安かい? キミが、不安になるのは、きっと、夜がそうさせるんだ。 そんな時もある。 大丈夫だよ。 』
胸の辺りがぎゅっと熱くなる。
そんな時もある、か。
途端、ドットが粗くなる。 読むのに差し支えはないが、ただ少し気にはなった。
…、。
"そんな時"ばっかりなんですけどね。
まだ、決定打には足りない。
『不安になっちゃう気持ちもわかるよ。 大丈夫。 』
…お前に、お前に何がわかるんだよ。
てきとーなこと吐かすなよ。
本当はわかってる。 そろそろ反発しても意味が無いことぐらい。 自分の気持ちも、影は消えかけている。
『何も出来ない自分が嫌になったり、思うように頑張れない自分にうんざりしたり。 でも、裏も表も含めて自分なんだし、さ。 自分が頑張ってることは 自分が一番よく知ってるはずだよ。 もっと自分をいたわってあげてもいいと思うよ。 』
『きっとキミは理想が高いんだ。 自分は、それだけ出来るって、思えてる証拠だろ? それだけちゃんと自分を信じてあげられてるってことじゃないかな。 』
『泣いたって良いんだよ。 涙のあとには絶対笑える。 明けない夜はないんだよ。 』
俺は、自分の目から涙が流れてるのに、止めることが出来なかった。 あいつの言葉、普段なら絶対聞き流してしまうような言葉が、今は心の奥に深々と刻みこまれた。
自分が涙を止めれずにいる間も、そいつは何か言葉を発しようとしていたが、大きくなるドットがそれを妨げた。
口を動かくたび、バグのようにドットが大きくなる。
じりじり、じわじわと肥大化していき、それはついに吹き出しを覆う"黒" となった。
そいつも自分の言葉に違和感を持ったのか、ふと自分の頭上に目をやる。
頭上に揺れる大きな"黒" に、一言、二言、さらに続けて言葉を紡ぐ。
そいつが口を止めたとき、"黒" の塊は光に包まれ、さらさらと昇華されていった。
そいつはしばらく上を眺め、そしてゆっくりと俺を向き、何かを伝えようとした。
俺はそれを視ることも、聴くことも出来なかった。
そいつは黙って、ふっ と微笑んだ。
今度は自分の視界が白く、淡く、光って-。
♣♥♠♦♣
(…眩し…。 )
カーテンを突き抜ける陽射しに、起こされた。
嫌な気は、しない。
なんだか変な夢を見てた気がする。
(きっと、大丈夫。)
ふと、頭をよぎる言葉に涙を誘われる。
すんでのところで泣きはしなかったが。
不思議と晴れやかな気分だ。
なんでも、なんとかなりそうな気がしてる。
大丈夫。 きっと。
うまくいくから。