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第七話 必殺技

 アホみたいに低い攻撃力に、普通に高い防御力。不釣り合いなほど高い敏捷、涙が出るほど低いHP。そして、極め付けに無駄に高いレベル。


 どう見ても経験値ですねご馳走様です。


 逃げられる前に速攻で仕留めてやる。とはいえ、強すぎる攻撃はさすがに要らないだろうし、ここは下級魔法で様子を見ておくか。


「焼き尽くせ。【ファイア・ボール】!」


 前方に向けて開いた俺の手のひらから、バレーボールくらいの大きさの火球が……。


 …………。


 アレ? 火球がどんどん大きくなってるんだけど。バレーボールっつうか、これ一軒家くらいの大きさじゃね?


 おい、おいおいおいおい。ちょっと待て、これを放ったら——


 全身の汗がブワッと出てくるのを感じる。せ、制御だ。制御しろ。これは決して放ってはいけない。


 必死に炎を消そうと試みる。


 だが。


 健闘は空しく。


 俺の意思とは無関係に更に成長した、まるで小型の太陽のようですらある極熱の球は、虹色の小さなスライムに向かって飛んでいってしまった。


 ボンッという爆発音とともに、前方に森を覆うほどの煙が……。


 それが晴れた跡を見てみると、木々が消滅していた。前方向にあった森が完全に消滅していた。


 いや、どういうことだよ。森の半分消えたんだけど。


 燃え尽きろって詠唱したら、本当に燃え尽きちゃったんだけど。


「今の魔法は神級火魔法の【プロミネンス・エクスプロージョン】でしょうか?」


「……いや、【ファイア・ボール】だ」


 二人揃って呆然としながら、顔を見合わせて会話する。


 いや、こう答えたけど、これ本当に【ファイア・ボール】だよね? 実はもっと上位の魔法だったりしないよね?


《はい。使用したのは【ファイア・ボール】です》


 うん、じゃあ何でこんな滅茶苦茶な威力?


 今の俺の能力値は王級なんだから、普通に考えてこんなことにはならないはずだけど。


《魔法使用時に威力強化系のスキルを全て発動しました。内訳は【魔法神】【魔法帝】【火魔帝】【火魔王】——》


 あ、いや、そこまででいいです。だいたい分かったんで……。


 うん、俺が指示するまで勝手にスキルを使うの禁止で。


《了解しました》


【叡智神】に軽く呆れながら、ふとアリスの方を見ると何故か頬を赤く染めていた。


「さすがですっ! あのスライムは眷属になる前の私と互角くらいでしたが、その程度の存在は貴方様にとっては蟻同然なのですね」


「ああ、うん。まあそうだね」」


 否定はできない。でもさ、アリスちゃん。君、遠回しに眷属になる前の自分のことを虫同然ってディスってない?


「さて、いつまでも森の跡を見てても仕方ないし、逆側に行こう」


「分かりました」


 俺達は、まだ森が残っている東側の探索を始めた。


 しばらく雑談しながら歩くと、またクリスタルスライムが出現した。


 こいつ、この森ではエンカウント率高いのかな。もしかして、さっきのクリスタルスライムのレベルが異常に高かったのは、湧きまくってる同族を倒し続けたからなのか?


 よし、じゃあ今度こそ普通に倒す。


「水流よ、鉄をも穿て。【アクエリアス・レーザー】!」


 今回使ったのは上級水魔法だ。指先からレーザーっぽい圧縮された水が放たれる。イメージとしては、ウォーターカッターだな。


 その水流はスライムに直撃し、狙い通りに、今度は一撃で倒すことが出来た。


 今度はスキルの補正がないし、スライムの抵抗力は地味に高かったから上級魔法にしたんだけど、完全にオーバーキルだったっぽいな。


 っていうか、なんでさっき火魔法なんて使ったんだろ。森の中で使っちゃいけない属性ナンバーワンじゃねえか。

 

 そうそう。この世界ではモンスターを倒すと、何かしらのアイテムを残して消えていく。ゲームかよっ! と思ったが、結構便利だ。


 さっきの大破壊ではドロップも焼滅してしまっているので、回収することはできない。残念だ。俺のせいだけど。


「スライムからとれるドロップは……魔石か。虹色だな」


「綺麗ですね」


 宝石のような輝きを放っている。正直使い道ないしどうしようか……。


 うっとりと魔石を見つめているアリスを見て、あることを思いつく。


 これこそプレゼントするべきものなんじゃないか? 眷属化なんてしてる暇あったら普通にこういうのあげてればよかったんじゃ。


「アリス。これ、よかったら貰ってくれ。出会いの記念にな」


「よ、よろしいのですか!? ありがとうございます、家宝にしますっ!」


「お、おう……」


 そこまでしなくても。結構簡単に手に入るものだし。


 あ、そういえば、俺のレベルってどうなっているんだろう。さっき森半分吹き飛ばしたし、大分上がってるんじゃないか?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


フェイト・ウィアートル 人族 15歳


状態:通常

称号:一般人(いっぱんピーポー)

レベル:6215/∞

HP:∞/∞

MP:∞/∞


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 四桁になってるんですけど。まあ、能力値は上がってないみたいだから、あんまり嬉しくないけど。


 いや、上がってたら上がってたで微妙か。


「じゃあ、次に出たモンスターはアリスが倒してくれ」


「はい。微力を尽くします」


 少し歩くと、またクリスタルスライムが出てきた。エンカウント率高いな。もしかして、この森コイツしかいないんじゃねえの?


 アリスは、緊張気味にぎこちない動きで、杖を構えた。


「水流よ、鉄をも穿て。【アクエリアス・レーザー】!!」


 アリスが選択したのは俺と同じ魔術。これなら大破壊にはならないか。……でもちょっと怖いから、後ろ向いとこ。


――ズガンッ! ドガッ! バシャアアッ!!


 おい。今絶対に上級魔法如きでしていい音じゃない物が聞こえたんだが。


 恐る恐る前を見てみると、反対側、俺が燃やし尽くした方と同じような光景が広がっていた。違うのはせいぜい大地が水浸しになっていることぐらいか。


【叡智神】、何で同じ魔法なのにこんな差があるの?


《……基礎能力値に大きな、大きな、大きな差があるからです》


 特に大事でもないのに三回言わないで。俺が気づかなかったのが馬鹿みたいじゃん。


 ……すみません。馬鹿です。


 確かに、魔法力も水魔法適性も王級である俺と、魔法力帝級、水魔法適性神級で様々なスキルの恩恵もあるアリスとでは相当の差が出るか。


 ふと隣を見てみると、アリスがマネキンのように動かなくなっていた。目の焦点は合っておらず、呆然としている。


 ああ、うん。まあそうだよね。さっきの俺もそんな気持ちだったよ。


「……アリス、帰ろっか」


「…………」


「……アリス?」


 俺の呼びかけにも答えず、ずっと固まったままのアリス。大丈夫かこれ。


「……はっ! す、すみません。少し自分を見失っていました」


「……そうか、何か本当にごめんな」


 急に意味のわからない力を持たせちゃって。


 いや、アリスが望んだからやったんだけどな。しかも実行犯は【叡智神】。


「い、いえ。私が制御出来なかったのが悪いんです。あ、レベルが上がって……」


 またアリスがマネキンになってるんだけど。マネキンでも可愛いな。って、そうじゃない。いったい何が?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


アリス・エピロード 魔族 15歳


状態:通常

称号:運命の眷属

レベル:8792/∞

HP:100%

MP:99%



能力値


攻撃力:将級

防御力:王級

敏捷力:帝級

魔法力:神級

抵抗力:神級



魔法適性


火:王級

水:神級

土:王級

雷:王級

風:王級

光:王級

闇:王級

無:王級



スキル


神級

【神之氷】【魔力操作:神】【魔力回復:神】【神魔化】


帝級

【森羅万象】【瞬間移動】【魔力感知:帝】【魔力強化:帝】


将級

【杖武将】



クレスト


【運命の寵愛】


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あ、神になってる。すごい。


 ……今まで驚きすぎて感覚が麻痺してるけど、これヤバいんじゃねえの? あんまりありがたみを感じねえけど。


「なるほど、ここで私が神になることさえも見越しての行動だったのですね。さすがは貴方様です」


 ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない。


「じゃあ、帰るか。【瞬間移ど——」


「グラアアアアアッッ!!」


「何だ!?」


 突如響き渡る、獣の咆哮。


 叫び声が聞こえた方向を見ると、七色に輝くドラゴンがいた。


「あ、あれはまさか、レインボードラゴン!? 父でも瞬殺される……とい……う……」


 語尾が小さくなっている。まあ、ぶっちゃけ俺らからしたら、雑魚だよな。


 今も、最強クラスモンスターの威厳も何も感じないし。神二人に抗えるほど強いわけがない。


「私がやりましょうか?」


「いや、俺に任せてくれ。やってみたいことがあるんだ」


 やってみたいこと。


 さっき、【ファイア・ボール】を使った時に気になったことがあったんだ。


 それは、制限を全て取り払って、スキルも何もかもを使った状態で放てる最強の一撃が一体どんなものなのか、という疑問。チートの権化のような存在であるこの俺が、一切の自重を捨て去ったらどうなるのか。


 恐怖も感じるっちゃあ感じるが、【叡智神】が何かやらかしても大丈夫だと太鼓判を押したこの場所なら、多分何とかなるかな。


 そういえば、この森霊族が全くいないみたいなんだけど、何でだろう。観光名所にも経験値稼ぎにもなりそうなのにな。


 ま、それはともかく。【叡智神】さん、限界までお願いします。


《了承しました。スキル全起動。演算開始——》


 ドキドキワクワク。っていうか、さっさとしてね? さすがに手間かけてるとレインボードラゴンが来ちゃうからね?


《演算終了。アビリティ【神罰(エクスキューション)】を獲得しました》


 アビリティ!?


 アビリティとは、一種の到達者のみが手に入れることができる必殺技のようなもの。単純な魔法やスキルとは一線を画す、使用者オリジナルの特殊能力だ。


《【神罰(エクスキューション)】を『天剣パニッシュメント』に付与——成功しました》


 俺の腰元に差してあった剣が、神々しさを感じさせる純白の光に包まれた。


 分かる。この力はとんでもない。まさしく最強の名に相応しい絶対的な破壊力。


 俺は煌めいている剣を構えて、ドラゴンのさらに上空に飛び上がる。


 そして。


 勢いよく、全力で振り下ろす。


「畏怖せよ。懺悔せよ。刮目せよ。我に刃向かった己の愚かさを知れ。【神罰(エクスキューション)】!!」


 その大いなる白き光の奔流は、レインボードラゴンの鱗を容易く切り裂き全身を両断し——勢いのまま地面をも真っ二つに切断した。


 ん?……んん?


 って、おい。


 え、マジで?


 待って、地面が完全に二つに分かれちゃってるんですけど。


 ちょ、マジで大陸切れた?


 ど、どういうことだってばよ!?


「さすがです。愚か者には、それを生み出した大地ごと制裁を加えるということですね」


 いや、そんな大それたことは考えてないけど。


「じゃあ、今度こそ帰ろぐぼゔぇらっ!?」


【瞬間移動】を使おうと準備してタイミングで、何かが俺の頭に降ってきた。


 王級の防御力で割と痛いって、何が降って来たんだよ。


「卵……ですね」


「みたいだな」


 頭をさすりながら落下物を確認すると、直径1メートル程ある、大きな白い卵だった。ナニコレ?


《レインボードラゴンからのドロップです。MPを注ぐとドラゴンが孵化します。生まれるドラゴンの強さは、注ぐMP量によって変化します。MPを注いだ者を親として認識し、眷属になります》


 へえ、面白そうだな。今度孵化させてみるか。


 アイテムボックスに、巨大な卵を収納する。


「貴方様に危害を加えるとは、傲慢無礼な卵ですね。消しますか?」


「消さねえよ!? まだ意思なんて生まれてないんだから! 悪意ねえから!」


 戦慄。いや、常人だったら死んでるまである威力だったし、イラつきはしたけども。


 本当の本当に今度こそ、アリスの方に手を置き。


「【瞬間移動】発動」




◆◆◆◆




 宿の部屋に帰ってきた。


 なんとなく安心からか、二人同時にため息をついた。


「数時間しか経っていないのに、とても長い時間を過ごしたような気がします」


「そうだな。森を消したり、ドラゴンを瞬殺したり、大陸を切断したりしただけなのにな」


「はい。一つ一つの行動から、貴方様の偉大さを身にしみて感じました。それと同時に、私がどれだけ矮小な世界で生きて来たのかも実感できました」


 あ、ああ、そう?


「私の理解を促すために、貴重な時間を割いていただいたことを心から感謝致します」


「ど、どういたしまして」


 何言ってんのこの子?


 ま、まあいいや。多分、実害はないし。


【叡智神】もお疲れ。これからも強くなれるよう、頑張ってな。


 なんてな。そもそもすでに極まっているから、ここから強くなんてならないだろうし、これ以上強くなってどうするんだとも思――


《了承しました》


 ……えっ?

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