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第五話 アリスの願い

 小鳥の鳴く声が聞こえる。部屋にある窓からは心地よい日光が差してきた。爽やかな朝だ。


 朝、ということは、俺は途中で結局寝てしまったのだろう。


 よかった。俺はおまわりさんの厄介にならなくて済んだようだ。


 っていうか、よく考えたらベッドの周りに即死結界張るって尋常じゃなく危ないよね。ベッドの端まで寝返りしたらピチュンだぜ。


 そういえば、アリスはどうなったんだろう。大分酷い状態だったし、後遺症とか残ってないよな?


 そう思って隣を見てみると。


 一人の天使、いや女神と見間違うような美少女が跪き、俺に祈りを捧げていた。


 …………。


 うん。……うん?


「え、えーと、アリスちゃん? 何して——」


「か、神よっ! 私如きの名をご存知でいらっしゃるのですか!?」


「えっ? あ、うん」


「なんという、望外の幸せ! 身に余る光栄! 私が生きてきたのは、きっとこの日のためだった……!」


 なんか予想外にヤバイのが来たんだけど。


 目が異常なほど輝いており、顔は蕩けてヘブン状態。可愛いはずなのに、全くエロさを感じないこの雰囲気。


 アリスちゃん、発してるオーラが狂信者とかその類な件。


 え、マジで? こんな感じなの?


 って、待て。そうだ。アリスのセリフにおかしなものが含まれてなかったか?


「何で俺のことを神だと思ったんだ?」


「死者の蘇生は神にのみ許されし奇跡です。それを難なくこなした我が君は、間違いなくその座に連なる方であると愚考いたしました」


「お、おう。そうか。まあ、確かに俺は神だ」


 うん。何だこれ。『俺は神』って、人生でこんな言葉を使う機会があるとはな。


「そういえば、何で俺が【リザレクション】を使ったって分かったんだ?」


「不甲斐ないながら、死している最中のことは覚えていません。ですが、貴方様が私の魂を導いてくださったことだけは、本能のようなもので理解しています」


 そうなのか。何となくわかるもんなんだな。


「えーと、それで、今何をしてたんだ?」


「我が偉大なる神に祈りを捧げておりました」


 …………。


 ……何言ってんの?


 一瞬言葉に詰まったんだけど、いや、確かに。よく考えてみると、だ。


 多分、これは決して変なことではないのだろう。


 少なくとも、この世界のこの俺は確実に『神』と呼ばれる存在であり、その奇跡の力を行使し彼女を救った。それは、確かに崇められるに値することなのかもしれない。


 想像していたよりも、この力が持つ影響は遥かに大きいようだ。


 前世今世合わせて、宗教とは遠いところにいた俺が、まさかこんなことになろうとはな。


「ちなみにその祈りはどのくらいの時間やっていたんだ?」


「正確には測っておりませんでしたが、約五時間程度かと」


「ファッ!?」


 長すぎるだろ!? 五時間て、多分俺が寝た直後くらいから始めてるよね。


 その状態じゃあ、そもそも襲うも何もなかったんじゃ……。


 いや、逆に考えろ。これなら、土下座しなくとも確実にヤれる!……いや、しないけども。それって権力を笠に着るのと似たようなものだしな。


「と、とりあえず、自己紹介をしようぜ。お前は俺のことを知らないだろうし、俺もそこまでお前のことを知っているとは言えないからな」


「そんな、私如きに……。畏れ多いです」


「いいからいいから。そんなかしこまらなくてもいいから。もうちょい楽にしようぜ」


 そう言ってみたのだが、依然跪いたままで態度を崩そうとしない。


 まあ、神相手なのだからそんなもんかもしれないけど。人にそういった態度を取られるのは貴族生活で慣れてるし。


「俺の名前はフェイト・ウィアートル。公爵家の次男で、現在家訓に従い旅をしている途中。神級スキルをいくつか所持している十五歳で、現在彼女募集中。よろしくな」


 よし、さりげない金持ちアピールにさりげない同世代アピールにさりげない彼女欲しいアピール。最高の自己紹介だ。……さりげないって何だろう。


「十五歳……。それに、俗世の貴族……。もしや、貴方様は転生者なのでしょうか?」


 何故わかった!?


 いや、多分本当の意味で完全にわかってるわけじゃないと思うけど。


「その反応、やはり。この腐った世を正すために人の身に転生したのですね! 貴族というのも、わかりやすく権威を示すためですか」


 勝手にふむふむと一人で納得している。


 やっぱりわかってなかった。っていうか、こっちが意味わかんねえ。自分の意思で転生なんてするわけないだろ。


 言葉から推察するに、アリスの脳内で壮大な世直しストーリーが展開されているようだ。


 何? 印籠使って悪人脅すの?


「よし、とりあえず俺のはオッケー。アリスの自己紹介は?」


「全知全能たる貴方様にわざわざお聞かせするほどのことではないと思いますが……」


 誰がいつ全知全能と言った。……いや、【叡智神】と【帝級神】のことを考えると、あながち間違いでもないか。


「私はアリス。貴方様の奴隷にして、全てを捧げる者です。水・氷魔法しか使えない木偶ですが、ご用命とあらばどんなことでも致します」


 何この娘、重い。


 っていうか。


「もうお前は奴隷じゃねえよ?」


「それは……どういうことでしょう? 卑賤なる我が身には、貴方様の言葉を理解することが叶いません」


「いや。そのままの意味で、お前の状態から『隷属』が消えてるんだよ」


 アリスは「?」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような顔をした。


 そして、怪訝な顔をしながらもステータスを開いたようで、三秒後に帰ってきたのは驚きの声であった。


「ほ、本当に消えています……。もしや、貴方様のお力で……?」


「いや、まあ、俺も間接的に関わってはいるけど、多分消えたのは生き返ったせいだと思うぞ」


 死んだ時には既に消えてたし。


「そ、そうですか。いえ、奴隷でなくなったとしても、私が貴方様の下僕であることには変わりありません。むしろ今からでも再び奴隷契約を——」


「さすがにそれは無い。っていうか、それよりもお前は親の元に戻らなくていいのか?」


 魔王の娘ってことは、普通に王女のはずだ。それが人族の一貴族に仕えるっていうのは地味にマズイんじゃ。


「問題ありません。自由にしろと言われましたので。それに親はもう……」


 え、何? 親死んでるの? まさかすごい重い事情抱えてるの?


《西の魔王『レザンテ・エピロード』は生命活動を停止してはいません。しかし——」


 ああ、いや、そこまででいいよ。生きてるんならモーマンタイ。


【叡智神】、おまえもいい加減個人のプライバシーを学べよ。


《……………………》


 まったく、やれやれだぜ。


「可能であれば貴方様の下で働きたいのですが。いえ、しかし、私如きの存在、足手纏いにも程が……」


 まあ、若干面倒そうな性格をしているだけで、別に大した問題はないだろうからいいんだけど。


 …………。


 ……なあ、【叡智神】。ちょっと気になったんだけど。


 ここで俺が見捨てた場合、この子が自殺する可能性って何%くらいある?


《断り方による行動パターンの変化を予測——96、12311%の確率で自害します》


「よっし、じゃあアリスこれからよろしくな」


「貴方様の御慈悲に感謝の念が堪えません」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ、狂信者(この娘)マジヤバイ。


 すっごいキラキラギラギラとした目で感謝してくるんだけど。


 まあでも、こんな美少女がそばにいてくれるんなら嬉しい。


 性格に難はあるけども、それでもプラマイプラスだろう。ワンチャン求婚してみようかな。


 いや、性格に難がありすぎるか。せめてあの態度をもうちょっとなんとかできればなぁ。


 女の子との距離を近づける方法……やはり、プレゼントか? やったことないけど。創作物だと大体そんな感じだし、多分いいんじゃないかな。


 あ、でも、アリスって王女なんだよな。それだと並のプレゼントじゃダメだ。


 それなら。


「願いを一つ言ってくれ。どんなものでも叶えてやるよ。記念にな」


「よろしいのですか!?」


 目を輝かせるアリス。


 うん、これくらいでいいだろう。さすがにギャルのパンティせがまれたら、叶えるかは悩むけれど。


 この反応、俺にしては珍しく正解なんじゃないだろうか。前世ではそもそも、女子とまともに話す機会ほとんどなかったけど。


「誠に分不相応な願いであり、お気に触るようであれば却下していただいて構わないのですが……」


「おう、何でも言ってみろ」


「で、では……」


 と、アリスはもう一度躊躇ってから、思い切って告げる。


「私を眷属にしてくださいっ!」


 ……はい?


「ご、ごめん。もう一回言ってもらっていい?」


「私を、貴方様の眷属にして頂きたいのです」


 え、え? あ、あー、はいはい。


 眷属ね、眷属。わかったわかった。


 りょーかいっすよ。余裕余裕。超余裕。


 …………。


 …………。


 ……助けて【叡智神】。


《【眷属化】【能力付与:帝】の使用を推奨——発動しました》


 おい。オイてめえ。推奨って言ったあと俺の意見聞かずに実行しやがったな。まあ、助けてって言ったのが悪いんだと思うけど。


 っていうか、その二つのスキルはいつ作ったんだよ。【帝級神】使った覚えなんてねえぞ。


《推奨した時点で作成しておりました》


 つまり報告なしで勝手に俺のスキル使えるんだね、君。地味に恐いんだけどそれ。


《個体名:アリス・エピロードの同意を確認》


 お、おう……。まあ、それが望みだったもんな。発動したらどうなるのか知らないけど。


《個体名:アリス・エピロードの完全隷属化を確認しました》


 隷属になっちゃったよ。え? 奴隷ってこと?


《『眷属』とは、分かりやすく言うと『奴隷』の上位互換のようなものです。繋がりがより強くなった分、上下関係もさらに絶対な物となりました》


「こ、これは……力が溢れてきます。ここまでとは! 今ならば奴も」


 アリスが禁断の力に溺れて暴走してしまう仲間みたいになっている。アリスって結構厨二だよね。むしろそれの塊か。


 って、ん? 何というか、俺の方にも力が来ているような……。


《眷属化によって魔力の交換を行い、個体名:アリス・エピロードの魔力の一部が流れ込んで来たためです》


 へえ、俺の一部がアリスになって、アリスの一部が俺になったのか。なんか倒錯的な興奮が……。


 いや、これただの変態だな。


《【能力付与:帝】により、【水魔帝】【魔力操作:帝】【魔力回復:帝】【森羅万象】【瞬間移動】を付与しました》


 なあ、それ全部帝級スキルだよな。確かに、【帝級神】でいくらでも作り出せるから俺には損害ないかもしれないけど、さすがにあげすぎなんじゃないのか?


 あ、いや、でも、下手にケチってアリスに怪我でもされたら嫌だな。【叡智神】よくやった。


《眷属の魔族:アリス・エピロードの帝級スキル獲得を確認。帝級スキル【魔族化】を神級スキル【神魔化】に進化——成功しました》


 ……え、神級スキル?

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