第四話 神の奇蹟
奴隷商店から出て、すぐに俺はアリスのステータスを確認した。
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アリス 魔族 15歳
状態:隷属、衰弱
称号:絶望の淵
レベル:135/1000000
HP:13/27375
MP:59926/59926
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残りHP13!? 思ったよりも遥かにヤバいな。
【叡智神】、このままだとどのくらい先にHP0になる?
《五分二十六秒後と推測されます》
本当に死にかけだあぁぁぁ!!
どどどどうしよう!
て、転移だ! 【叡智神】、行先は俺の泊まっている部屋で瞬間移動をしてくれ!
《了解しました。帝級スキル【瞬間移動】作成——成功しました。続けて、【瞬間移動】発動——成功しました》
次の瞬間、俺は宿屋の部屋の中にいた。
着いてからまず俺はアリスをベッドに寝かせる。
その後彼女のステータスをもう一度見てみた。すると……。
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アリス 魔族 15歳
状態:死亡
称号:絶望
レベル:135/1000000
HP:0/27375
MP:59926/59926
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残りHP0になっていた。これって……。
《十七時三分三十四秒――ご臨終です》
えええええええええええええええ!!
「死んだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
おい、どういうことだ【叡智神】! まだ時間があるはずじゃなかったのかよ。
《瞬間移動のエネルギーに瀕死の彼女の体が耐えられなかった、と推測します》
転移が仇になったのか。
ハァ、これどうすればいいの? 回復魔法じゃもう駄目だろうし。
《神級光属性魔法【リザレクション】を使用することを推奨します》
死者蘇生出来るんかい!!
マジで俺人外だな。これが神の力か。
「無へと回帰する魂よ。神なる者の名によって命ずる。此方の依り代に帰還せよ。【リザレクション】!!」
命を蘇らせる、禁断にして夢の魔法。神にのみ許された奇跡。
アリスの周りに、虹色に彩られた神秘的な魔法陣が展開した。
次の瞬間彼女に生気が戻る。だが、ボロボロな見た目はあまり変わっていない。ステータスはどうなっているのだろうか。
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アリス・エピロード 魔族 15歳
状態:衰弱
称号:生還者
レベル:135/1000000
HP:1/27375
MP:59926/59926
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……1しか回復してねーじゃねえか!!
ファイナルファ◯タジーかよ!
そうそう、あのゲームの初代の蘇生には嫌な思い出がある。当時ルールをよく知らなかった俺は、あろうことか教会に行く前に宿屋に行ってしまったのだ。そのため、HP1で復活したヒーラーを回復するためにわざわざもう一回宿屋に行かなくてはならなくなってしまった。
って、そんな現実逃避してる場合じゃねえ。
幸い【リザレクション】発動直後はHPが減らないらしく、1から変化する様子は無い。それじゃあ、回復魔法をかけますか。
「聖なる息吹を此の者に。我望む、故に光よ来たれ。【アルティメット・ブレス】」
帝級光属性魔法だ。さっきの【リザレクション】を除けば、最上位の回復魔法である。
今度は白色の魔法陣が展開して、彼女の傷を癒していった。
体の欠損が無くなった彼女はとても美しかった。
少女の面影を残しつつ大人へと近づいている絶妙な顔立ちに、輝いているかのような髪。その華奢な体は今にも折れてしまいそうで、それがまた庇護欲を感じさせる。
魔族特有の、頭に生えた二対の小さなツノもチャーミングでよろしい。
THE超絶美少女だ。
彼女の体は完全に生命活動を開始して、心臓の鼓動を鳴らし始めた。少ししてから寝息を立てているのに気づき、俺は安心してベッドから離れた。
……大丈夫だよな? またここで何か状態異常にかかってたりしないよな?
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アリス 魔族 15歳
状態:睡眠
称号:生還者
レベル:135/1000000
HP:27375/27375
MP:59926/59926
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よし、寝てるだけっぽいし、これなら大丈夫かな。
って、そういえばさっきは気づかなかったけど、状態から隷属が消えている。もう奴隷じゃなくなったということか。
まあ、そもそも別に奴隷にこだわっていたわけではないからいいんだけど。
仲間に奴隷を選んだ理由って、手っ取り早く強者を探せそうだったからだし。
さて、現在は午後の六時。ここから何をするべきだろう?
って、待て。まだアリスの分の宿泊費払ってなくね? ヤバいヤバい、早めにやっとかないとな。
階段を下りて、カウンターを見ると受付のおばさんが立っていた。
「お戻りになっていらしたのですか」
「ああ。えーと、さっきもう一人部屋に泊めることになったから、その分の追加料金を……」
「一人分の追加ですね。それでは五十万ルルを」
俺はもう一度大銀貨を5枚支払った。
さて、この後は……その辺を適当に回ろうかな。
宿から出て、街を少し歩いていると冒険者ギルドを見つけた。明日アリスと一緒に来て登録しよう。
鍛冶屋や雑貨屋などを適当に見ていたら、結構時間が経ってたし宿に戻ろうかな。
部屋に着いた。ベッドでは美少女がすやすやと寝息を立てている。あの分なら問題なさそうだな。
さてと、じゃあ夕飯食べるか。
ベルを鳴らすとすぐに従業員の人が来た。
「何か御用でしょうか?」
「夕食を。一人分頼む」
「分かりました」
どんな料理かな? 長い貴族生活で俺の舌は肥えてるし、そうそう美味しい料理には出会えないだろうな。
「失礼します。夕食をお持ちしました」
メニューはカレーだった。無茶苦茶美味しかった。もうとにかく美味しかった。凄く美味しかった。
美味しすぎてボキャブラリーがとんでもないことになるくらい美味しかった。
五分で完食しました。ありがとうございます。
その後俺は風呂に入り、ベッドに座った。
あ、いや、ベッドって言っても、この部屋はツインだからアリスが寝てるのとは別のやつだぞ。
さて、寝る前にやっておきたいことがある。まあ、そんな大したことじゃなく、明日の準備をしておこうっていう話なのだが。
とは言っても、俺については全く必要ない。重要なのはアリスだ。
恐らく、明日は冒険者ギルドに登録後、何かしらの依頼を受けるだろう。
完全な採取系であればいいんだが、戦闘系の場合もあるだろうし、彼女の武器を作っておくべきだと思うのだ。
アリスは純魔法使い系であるし、杖でいいかなっと。
いつも通り、【叡智神】さんお願いしまーす。
《…………。【物質創造:帝】発動——オリハルコンを作成しました》
待って。ちょっと待って。何、今の間。もしかして【叡智神】機嫌悪い?
やっぱ酷使しすぎだったかな。有給とかあげなきゃマズイよなぁ、って、スキルに休暇って何だよ。
《【武器作成:帝】発動——オリハルコンを消費し、帝級武器『氷精杖コキュートス』を作成しました》
青を基調にした棒状のロッドで、水色の氷のような装飾が至るところにつけられている。幻想的で神秘的な杖だ。
うん、完璧。いい仕事したなぁ、俺。
《……………………》
何か、意思を持つはずがないものから不満を感じたんだが、気のせいか。
作った杖を机の上に置いてから、気になったのでアリスの様子を見てみた。
そこにはなんと、天使のような寝顔の美少女がいた。いや、もう天使そのものと言っても過言ではないだろう。
可愛いなぁ、可愛いなぁ。
襲っちゃおうかなぁ。明日求婚してみようかなぁ。……あ、マズイ。このままだと俺が変態という評価を受けそうな気がする。
でもさあ、これはしょうがないって。隣に天使が居たら目を奪われるだろう?
っていうかさ、アレだよね。女子って、私服を着てると数割り増しで可愛く見える法則のハイエンド版。
ヤバい。え、待って。俺、この隣で寝るの?
ドキがムネムネしてきたんだけど。
これ本気で自制効くかな。冗談抜きで襲いそうなんだけど俺。
前世からの通算年齢=彼女いない歴の童貞には刺激が強すぎる。
もしこれで我慢できずに襲ったら……襲ってしまったら……アレ? あんまり何も起きなくね?
だって、アリスって俺の奴隷だよね。正確には今は違うけど命救った恩あるし、それくらいは……。
待て待て待て待て。思考が大分邪な方向にいってるぞ。何だこの踏み台転生者みたいな考え方。アウトに決まってるだろ。
っていうか、そもそも、そういうことを考えたとしても実行する度胸なんてないんだけどな。
いや、だとしても用心に越したことはないだろう。俺だって男だ。もしかしたら襲ってしまうかもしれない。
よし、結界を張ろう。自分の寝ているベッドの周りに結界を展開したらさすがに大丈夫なはず。
自分の意思一つで解除できてしまうが、その時点でヤバイことしてると気がついて止まると思う。思いたい。
【叡智神】、最高硬度の結界をベッドの周りに頼む。
《【帝級神】発動——帝級スキル【多重結界】を作成しました》
《【多重結界】発動——『守護結界』『断空結界』『封印結界』『睡眠結界』『即死結界』を展開しました》
うん、ちょっと待て。
オイてめえ、明らかに最後のおかしいだろ。『即死』ってなんだ即死って。殺す気? 俺のこと殺す気なの? そんなに俺嫌い?
まあいいか、出なきゃいいんだろ出なきゃ。
さっさと寝よ。
俺は掛け布団をかぶり、目を閉じた。
……寝付けないなこれ。